輪廻

YUKI

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流される

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天井が見える
見慣れた天井、自分の部屋。
今も頭の中に甦ってくる悲痛な叫び。
初めての経験、声とともに飛び込んできた映像
今も鮮明に浮かんでくる男の表情
狂気に彩られた人であって人でないもの

「シオン・・・どこ?」
シ~ンと静まり返る部屋、不安が押し寄せてくる。
「シオン・・・どこなの?どこ?返事して!!」
僕は、シオンを求め捜す。
シオンの気配を電波を飛ばすように
「これは何?」
僕の頭に浮かんでくる映像。
大きな木、そしてその幹に鉄線で縛られた小さな生き物・・・
でも、その姿は矢で首を貫かれ、腹は十字に切り開かれ、体から零れ落ちそうな内臓、それをかろうじて身体にとどめているのが、身体に食い込む鉄線とその棘。
眩暈と吐き気で枕に顔をうずめる。

「シオン、これは何?助けて・・・シオン・・・どこなの?」
酷いな・・・・これは・・・・見上げるシオンの瞳に写る光景は、祐樹の見た映像そのものだった。
「お前も来てたのか?」
俺の後ろで、木に背中を預け面白がる声で問いかける。
「来る事は解っていたって聞こえるんだが?」


男が俺の声を聞く事が出来る人間なのか、一か八かの賭けに出たつもりだった。なのに、そんなこと当然だというように、
「そうだな!来るだろうとは思っていたな」
やっぱり、この男、思考が読める。
「今更じゃないか?最初からちゃんとお前に話していたんだがな~、それよりさっきから、坊やがお前を探して泣いてるぜ!」

俺は、男の言葉にハッとして、祐樹の意識を捜した。
「シオン・・・どこ?」
「祐樹、どうした?目が覚めたのか?すぐ帰るから待ってろ!」

「シオン、あれ何?僕、吐きそうだよ・・・何なの、あれは?」

「祐樹・・・・」
その場を離れようとした俺に男は、
「坊やは見えてるのか、これを?」
この男、俺達の会話を・・・
「お前は何者だ!」
「さ~てね、敵か見方か、また会うだろうしその時まで、お・あ・ず・け!今は坊やの所に行った方がいんじゃないか?ん?」

くそっ!!男の言うとおりだ。今は祐樹だ。
走り出した俺に、
「明日にでも坊やの見舞いにでも行くよ~~」
と、木に背中を預けたまま手まで振っている。
気に入らない!!明日来るだと!!見舞いだ~~!!ふざけやがって!!!くそっ!!腹が立つ!!!
俺は、男にぶつけるように罵りながら祐樹の下に走った。男の筋書きに無理やり乗せられた感じがする。このまま男の思惑に流される予感がひしひしと押し寄せてくる。
そして、祐樹がその事で傷つきそうな予感も・・・・
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