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「ジーク、お前、結婚しろ」
王城の私室にまで呼び出して言う台詞が、これか。
何度目になるか判らない言葉に、私は溜息を吐いた。
「…従兄上、何度も言いますが、私はもう、結婚は…」
「俺も何度でも言うぞ。お前は、ジークムント・アーベルバッハ。長き歴史を誇るアーベルバッハ公爵家の当主だ。そして、アーベルバッハ家には現在、お前以外の者がいない」
「…」
何度も言われずとも、判っている。
開国当初から、ダーレンドルフ王家を支えるアーベルバッハ公爵家。
建国王の弟が興した家として、度々、王族から降嫁され、私の母も現国王陛下の妹だった。
王家の真の臣である証に、アーベルバッハの名をこの先も、繋いでいかなくてはならない。
…それは、判っているけれど。
「…養子を取ります」
「別に、それでも構わん」
いざと言う時の為に、と温めていた考えを口にすると、意外にも従兄上――レオンハルト・ダーレンドルフ王太子殿下は、鷹揚に頷いた。
「え、よろしいのですか?」
「構わん。アーベルバッハを名乗れる者が、お前しかいないと言う話だからな。分家から、優秀な者を見繕って、きちんと公爵家としての教育を与えるのならば、それでもいい」
「でしたら、」
「だがな、ジーク」
言い掛けた私の言葉を遮って、従兄上はぐい、と身を乗り出す。
「忘れてはいないか。養子が取れるのは、結婚して一年以上経った夫婦のみだ、と」
「!」
…忘れて、いた。
貴族が、後継者に恵まれずに分家から養子を取る事は、良くある話だ。
だが、養子を取った後に実子が生まれ、結果として養子が虐げられたり、縁組解消して実家に戻されたりするケースもまた、少ない話ではなかった。
その為、翻弄される子供が出ないよう、どのような状況になっても養子を慈しんで責任を持って最後まで面倒を見ると心に決めてからでないと、養子縁組が認められない。
最低一年、推奨三年以上、夫婦間に実子を望めるか見定める期間が設けられているのだ。
まだ、どの家に養子を打診するか検討はしていなかったものの、私が望んでいるのは、ある程度、才能が判断出来るようになった十代の少年。
分家の子息には、優秀な者が多いと聞いている。
一人位は、手を挙げてくれるだろう、と考えていたのだが…。
「お前も判っている筈だ。あれから八年だぞ。傷心を理由に独り身を貫くには、余りにもアーベルバッハの名は大き過ぎる。…俺としても、ディーの代わりに、可愛い従弟のお前の好きなように生きさせてやりたい、と言う思いがないわけではないのだがな?王家の一員としては、そうも言っておれん」
従兄上の顔に、苦いものが浮かぶ。
兄のディートリヒが亡くなって、八年。
そして…愛しい婚約者イルザが亡くなって、八年。
両親を亡くしてからずっと、支え続けてくれた兄の死に茫然自失した私は、想定外にアーベルバッハ家の爵位を受け継ぐ事となった。
懸命に日々を乗り越え、前を向こうとした矢先に届いた、最愛のイルザの訃報。
愛する人々の死に、私は半狂乱となった。
だが、公爵領の仕事も、兄から引き継いだ王宮の仕事も、待ってはくれない。
辛い現実を忘れるかのように、ただ我武者羅になって打ち込んだ。
そして、多忙だったからこそ、悲しみに圧し潰されずにいられたのだろうと、今なら判る。
忌が明けてからも、私が如何にイルザを愛しているか知っていた人々は、そっとしておいてくれた。
けれど、確かに、ここ三年程は、持ち込まれる縁談が増えていたのだ。
兄の婚約者だったご令嬢も、既に六年前に嫁いで子を儲けているし、世間では『過去の事』なのだろう。
「…私は…イルザ以外の女性を、愛せません」
「お前がそう言うだろう事は、判っている。だがな、これは王命だ。そして、お前の相手は、もう決まっている」
「決まっている?」
政略結婚と言う事か。
いや、そもそも、イルザを喪った私に、政略以外で結婚する理由はない。
当初、隣国の男爵家に生まれたイルザとは、家格の違いを理由に結婚する事を認められなかった。
兄も、従兄上も、数少ない友人達も、何度も諦めるよう説得してきた。
けれど、これは、一生一度の恋。
彼女以外の女性を娶る位なら、生涯独身でいる、と言い切った私に降参した兄は、最終的には、アーベルバッハ家の内務に関わらず、自分で仕事を見つける事を条件に、二人の婚約を認めてくれた。
身分を乗り越えた恋。
真実の愛。
そんな言葉で、社交界の注目を浴びたのは、もうあんなにも前なのか。
イルザ。
君が隣にいた日々は、私の中でこんなにも鮮明なのに。
「…王命とあらば、お受けするしかありませんね。しかし…結婚したとしても、真の夫婦にはなれません」
「養子を取ればいい」
「お相手のご令嬢は、受け入れてくださいますか」
幾ら政略と言えども、子を生す事こそが政略結婚の第一義。
例え愛がなく、お飾りの妻であろうと、子を生さねば正妻の面子が立たないだろう。
「受け入れるだろうな。そもそも、相手の令嬢には他に、行く当てもない」
「行く当てがない?」
何とも不穏な言葉だ。
「ジーク。お前の相手は、レニ・バーデンホスト嬢。バーデンホスト侯爵家の娘だ」
「バーデンホスト…」
余り、夜会は好きではない。
イルザがいた時には、華やかな場が似合う彼女をエスコートする為と、私達の恋を認めて貰う為に度々足を運んだが、今では、最低限しか、出席していない。
一人で出席すると、ここぞとばかりに未婚のご令嬢達に取り囲まれる事に、疲れた。
彼女達は、『アーベルバッハ』の家名にしか、興味がないように見える。
私を見ているようでいて、その視線の先にあるのは私ではなく、公爵家の権力と財産だ。
貴族の結婚など、そんなものだと言われればそれまでだし、私に爵位以外の魅力がないのだと言われればその通りだが、一度、愛し、愛される人の手を取った事を思うと、割り切って接する事は出来なかった。
その為、当主や子息はともかく、仕事で関わる機会のない令嬢となると、余り情報がないのだが…。
バーデンホスト、と聞いて脳裏に浮かぶのは、華やかな赤毛に勝気そうな緑の瞳のご令嬢。
確か、今年、社交界デビューしたばかりだった筈だ。
「赤毛のご令嬢でしたね…嫁に出しても、よいのですか?」
最後に出席した夜会で、バーデンホスト侯爵が嬉々として紹介して来たのを思い出した。
「お前が言っているのは、次女だろう。レニ嬢は、長女だ」
「長女?」
バーデンホスト侯爵は、
「一人娘の社交界デビューですから、いやはや、私も気合が入りまして」
と言っていたのだが。
「お幾つのご令嬢ですか」
「二十一だ」
三年前にデビューしているご令嬢ならば、紹介されていたのだろうか。
貴族の子女が初めて社交界に足を踏み入れる夜会には、各家の当主の参加が義務付けられている。
三年前ならば、参加した、が。
「申し訳ありません。覚えがないのですが」
「だろうな。俺も、会った事がない。何しろ、レニ嬢は、社交界に一度も顔を出していない」
二十一、と言う年齢だけで考えれば、行き遅れと言われ始める年代だ。
婚約者のいないご令嬢であれば、夜会に積極的に参加して、縁を探すのが一般的だろう。
私も従兄上も顔を知らないと言う事は、社交に耐えられない位に病弱と言う事なのだろうか?
バーデンホスト侯爵は、次女の社交界デビューで、あれだけ精力的に売り込んでいたのだから、長女の時にはそう出来ない事情があったと考えるのが自然だ。
しかし、バーデンホスト家は侯爵家。
女性側の働きかけがなくとも、縁談は引きも切らないと思うが、何故、二十一まで独身なのだろう。
「レニ嬢は、バーデンホスト候の亡くなった先妻の娘、そして、お前の記憶にある次女のリアーヌ嬢は、元の妾で後妻となった夫人が生んだ娘だ」
「!」
単なる後妻ではなく、妾であった、と周知されているとは、どう言う事なのか。
貴族で妾を持つ者は、少なくない。
だが、その存在を大っぴらにする者は、決して多くはない。
「…お前が、社交界の噂にとんと疎い事を忘れていた」
従兄上は、ふぅ、と溜息を吐くと、額に手をやった。
「噂は、所詮噂です。真実ではない」
「あぁ、判っている。だがな、世間では、扇情的な噂が、さも、事実かのように語られる事も判っているだろう?」
ぴくり、と思わず口の端が動いた。
噂に踊らされた人々を、知っているから。
「そして、一見、ただの誹謗中傷に過ぎずとも、真実が混ざり込んでいる事もまた、少ない話ではない。真実を知りたければ、実際に何が起きたのか、お前自身で調べてみるがいい。今、此処で俺が何を言おうと、どうせ、お前は裏付けを取るのだろうからな、レニ嬢について、これ以上の情報は控えよう。ともあれ。お前の婚約者は、レニ・バーデンホスト嬢だ。――…先日、結婚直前の婚約者が亡くなっている」
「!!」
そうか。
彼女も、そうなのか。
愛する人を失い、けれど、貴族の家に生まれたからには、結婚せねばならない。
その葛藤を、婚姻誓約書一枚で、互いに解消する事が出来る結婚なのか。
結婚して一年経てば、アーベルバッハの家を任せられる養子を取ればいい。
彼女が望むのならば、静かな領地の屋敷で過ごしてくれてもいいし、王都から離れたくなければ、王都の屋敷で共同生活をしてもいい。
屋敷は、私一人には広いのだ。
住人が増えた所で、使用人の負担も大差ないだろう。
私に愛を求めないのならば、何をしても構わない。
少々の贅沢も、愛を求めない見返りとしてならば、許容出来る。
これで、私は後継を憂える事も、持ち込まれる縁談を煩わしく思う事もなく、仕事に専念出来ると言う事か。
「レニ・バーデンホスト嬢ですね。この縁談、謹んでお受けいたします」
王城の私室にまで呼び出して言う台詞が、これか。
何度目になるか判らない言葉に、私は溜息を吐いた。
「…従兄上、何度も言いますが、私はもう、結婚は…」
「俺も何度でも言うぞ。お前は、ジークムント・アーベルバッハ。長き歴史を誇るアーベルバッハ公爵家の当主だ。そして、アーベルバッハ家には現在、お前以外の者がいない」
「…」
何度も言われずとも、判っている。
開国当初から、ダーレンドルフ王家を支えるアーベルバッハ公爵家。
建国王の弟が興した家として、度々、王族から降嫁され、私の母も現国王陛下の妹だった。
王家の真の臣である証に、アーベルバッハの名をこの先も、繋いでいかなくてはならない。
…それは、判っているけれど。
「…養子を取ります」
「別に、それでも構わん」
いざと言う時の為に、と温めていた考えを口にすると、意外にも従兄上――レオンハルト・ダーレンドルフ王太子殿下は、鷹揚に頷いた。
「え、よろしいのですか?」
「構わん。アーベルバッハを名乗れる者が、お前しかいないと言う話だからな。分家から、優秀な者を見繕って、きちんと公爵家としての教育を与えるのならば、それでもいい」
「でしたら、」
「だがな、ジーク」
言い掛けた私の言葉を遮って、従兄上はぐい、と身を乗り出す。
「忘れてはいないか。養子が取れるのは、結婚して一年以上経った夫婦のみだ、と」
「!」
…忘れて、いた。
貴族が、後継者に恵まれずに分家から養子を取る事は、良くある話だ。
だが、養子を取った後に実子が生まれ、結果として養子が虐げられたり、縁組解消して実家に戻されたりするケースもまた、少ない話ではなかった。
その為、翻弄される子供が出ないよう、どのような状況になっても養子を慈しんで責任を持って最後まで面倒を見ると心に決めてからでないと、養子縁組が認められない。
最低一年、推奨三年以上、夫婦間に実子を望めるか見定める期間が設けられているのだ。
まだ、どの家に養子を打診するか検討はしていなかったものの、私が望んでいるのは、ある程度、才能が判断出来るようになった十代の少年。
分家の子息には、優秀な者が多いと聞いている。
一人位は、手を挙げてくれるだろう、と考えていたのだが…。
「お前も判っている筈だ。あれから八年だぞ。傷心を理由に独り身を貫くには、余りにもアーベルバッハの名は大き過ぎる。…俺としても、ディーの代わりに、可愛い従弟のお前の好きなように生きさせてやりたい、と言う思いがないわけではないのだがな?王家の一員としては、そうも言っておれん」
従兄上の顔に、苦いものが浮かぶ。
兄のディートリヒが亡くなって、八年。
そして…愛しい婚約者イルザが亡くなって、八年。
両親を亡くしてからずっと、支え続けてくれた兄の死に茫然自失した私は、想定外にアーベルバッハ家の爵位を受け継ぐ事となった。
懸命に日々を乗り越え、前を向こうとした矢先に届いた、最愛のイルザの訃報。
愛する人々の死に、私は半狂乱となった。
だが、公爵領の仕事も、兄から引き継いだ王宮の仕事も、待ってはくれない。
辛い現実を忘れるかのように、ただ我武者羅になって打ち込んだ。
そして、多忙だったからこそ、悲しみに圧し潰されずにいられたのだろうと、今なら判る。
忌が明けてからも、私が如何にイルザを愛しているか知っていた人々は、そっとしておいてくれた。
けれど、確かに、ここ三年程は、持ち込まれる縁談が増えていたのだ。
兄の婚約者だったご令嬢も、既に六年前に嫁いで子を儲けているし、世間では『過去の事』なのだろう。
「…私は…イルザ以外の女性を、愛せません」
「お前がそう言うだろう事は、判っている。だがな、これは王命だ。そして、お前の相手は、もう決まっている」
「決まっている?」
政略結婚と言う事か。
いや、そもそも、イルザを喪った私に、政略以外で結婚する理由はない。
当初、隣国の男爵家に生まれたイルザとは、家格の違いを理由に結婚する事を認められなかった。
兄も、従兄上も、数少ない友人達も、何度も諦めるよう説得してきた。
けれど、これは、一生一度の恋。
彼女以外の女性を娶る位なら、生涯独身でいる、と言い切った私に降参した兄は、最終的には、アーベルバッハ家の内務に関わらず、自分で仕事を見つける事を条件に、二人の婚約を認めてくれた。
身分を乗り越えた恋。
真実の愛。
そんな言葉で、社交界の注目を浴びたのは、もうあんなにも前なのか。
イルザ。
君が隣にいた日々は、私の中でこんなにも鮮明なのに。
「…王命とあらば、お受けするしかありませんね。しかし…結婚したとしても、真の夫婦にはなれません」
「養子を取ればいい」
「お相手のご令嬢は、受け入れてくださいますか」
幾ら政略と言えども、子を生す事こそが政略結婚の第一義。
例え愛がなく、お飾りの妻であろうと、子を生さねば正妻の面子が立たないだろう。
「受け入れるだろうな。そもそも、相手の令嬢には他に、行く当てもない」
「行く当てがない?」
何とも不穏な言葉だ。
「ジーク。お前の相手は、レニ・バーデンホスト嬢。バーデンホスト侯爵家の娘だ」
「バーデンホスト…」
余り、夜会は好きではない。
イルザがいた時には、華やかな場が似合う彼女をエスコートする為と、私達の恋を認めて貰う為に度々足を運んだが、今では、最低限しか、出席していない。
一人で出席すると、ここぞとばかりに未婚のご令嬢達に取り囲まれる事に、疲れた。
彼女達は、『アーベルバッハ』の家名にしか、興味がないように見える。
私を見ているようでいて、その視線の先にあるのは私ではなく、公爵家の権力と財産だ。
貴族の結婚など、そんなものだと言われればそれまでだし、私に爵位以外の魅力がないのだと言われればその通りだが、一度、愛し、愛される人の手を取った事を思うと、割り切って接する事は出来なかった。
その為、当主や子息はともかく、仕事で関わる機会のない令嬢となると、余り情報がないのだが…。
バーデンホスト、と聞いて脳裏に浮かぶのは、華やかな赤毛に勝気そうな緑の瞳のご令嬢。
確か、今年、社交界デビューしたばかりだった筈だ。
「赤毛のご令嬢でしたね…嫁に出しても、よいのですか?」
最後に出席した夜会で、バーデンホスト侯爵が嬉々として紹介して来たのを思い出した。
「お前が言っているのは、次女だろう。レニ嬢は、長女だ」
「長女?」
バーデンホスト侯爵は、
「一人娘の社交界デビューですから、いやはや、私も気合が入りまして」
と言っていたのだが。
「お幾つのご令嬢ですか」
「二十一だ」
三年前にデビューしているご令嬢ならば、紹介されていたのだろうか。
貴族の子女が初めて社交界に足を踏み入れる夜会には、各家の当主の参加が義務付けられている。
三年前ならば、参加した、が。
「申し訳ありません。覚えがないのですが」
「だろうな。俺も、会った事がない。何しろ、レニ嬢は、社交界に一度も顔を出していない」
二十一、と言う年齢だけで考えれば、行き遅れと言われ始める年代だ。
婚約者のいないご令嬢であれば、夜会に積極的に参加して、縁を探すのが一般的だろう。
私も従兄上も顔を知らないと言う事は、社交に耐えられない位に病弱と言う事なのだろうか?
バーデンホスト侯爵は、次女の社交界デビューで、あれだけ精力的に売り込んでいたのだから、長女の時にはそう出来ない事情があったと考えるのが自然だ。
しかし、バーデンホスト家は侯爵家。
女性側の働きかけがなくとも、縁談は引きも切らないと思うが、何故、二十一まで独身なのだろう。
「レニ嬢は、バーデンホスト候の亡くなった先妻の娘、そして、お前の記憶にある次女のリアーヌ嬢は、元の妾で後妻となった夫人が生んだ娘だ」
「!」
単なる後妻ではなく、妾であった、と周知されているとは、どう言う事なのか。
貴族で妾を持つ者は、少なくない。
だが、その存在を大っぴらにする者は、決して多くはない。
「…お前が、社交界の噂にとんと疎い事を忘れていた」
従兄上は、ふぅ、と溜息を吐くと、額に手をやった。
「噂は、所詮噂です。真実ではない」
「あぁ、判っている。だがな、世間では、扇情的な噂が、さも、事実かのように語られる事も判っているだろう?」
ぴくり、と思わず口の端が動いた。
噂に踊らされた人々を、知っているから。
「そして、一見、ただの誹謗中傷に過ぎずとも、真実が混ざり込んでいる事もまた、少ない話ではない。真実を知りたければ、実際に何が起きたのか、お前自身で調べてみるがいい。今、此処で俺が何を言おうと、どうせ、お前は裏付けを取るのだろうからな、レニ嬢について、これ以上の情報は控えよう。ともあれ。お前の婚約者は、レニ・バーデンホスト嬢だ。――…先日、結婚直前の婚約者が亡くなっている」
「!!」
そうか。
彼女も、そうなのか。
愛する人を失い、けれど、貴族の家に生まれたからには、結婚せねばならない。
その葛藤を、婚姻誓約書一枚で、互いに解消する事が出来る結婚なのか。
結婚して一年経てば、アーベルバッハの家を任せられる養子を取ればいい。
彼女が望むのならば、静かな領地の屋敷で過ごしてくれてもいいし、王都から離れたくなければ、王都の屋敷で共同生活をしてもいい。
屋敷は、私一人には広いのだ。
住人が増えた所で、使用人の負担も大差ないだろう。
私に愛を求めないのならば、何をしても構わない。
少々の贅沢も、愛を求めない見返りとしてならば、許容出来る。
これで、私は後継を憂える事も、持ち込まれる縁談を煩わしく思う事もなく、仕事に専念出来ると言う事か。
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