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マチルダが、ミナドの薬が完成した、と持ってきたのは、カーラとロベルトが応接間を辞した後だった。
ノーハンには宿もない上、二人は今後、領主館で勤める予定の為、領主館の使用人部屋へと案内している。
カーラは、シャーロットの傍に控える事を希望したが、衝撃的な姿を見せるのは忍びなく、シャーロットを無事に救出してから、と、説得した。
「では、あの棘はミナドで間違いない、と」
「そう言う事だね。あの子が摘む薬草は、他のものよりも薬効成分が濃いんだが、今回も例に漏れず、ってとこだ」
マチルダが持ってきたのは、バケツ一杯の薄緑色の液体だった。
「…随分と多いな」
「あんだけ大きな繭なんだから、これ位はいるだろうよ」
「シャーロットに使用するのか」
「失恋に効く薬、ってのを気にしてんのかい?別に、失恋に限らない、心の傷を癒す薬、って言っただろうが。今回の件は、あの子が深く傷ついて、それを哀れんだ精霊が、外界を遮断してる、と考えるのが自然だと思うけどね。だったら、一番手っ取り早いのは、あの子の心の傷を癒す事だろ」
「…なるほど。では、これを、どう使用すればいい?」
「ふん…通常は、お茶に溶かし込んで飲んだりするんだけどねぇ…今のあの子の顔が、何処にあるのかも不明だし…」
マチルダは、顎に手を当てて考え込む。
「まだまだ薬は作れるし、取り敢えず、繭の下の地面に撒いてみるかい?直接、繭に掛けるのは、ちと怖い」
「そうだな」
マチルダの手からバケツを受け取って、ヴィンセントは立ち上がった。
「協力、感謝する」
「あたしは薬師だからね。それに…あの子の事は、何だか放っとけないんだよ」
ヴィンセントは、静かに一つ頷く事で、返事に代える。
「必ず、救い出す」
ヴィンセントは、シャーロットの繭がある天幕へと、戻って来た。
見張りをしていたコリンとジェラルドに目顔で合図を送って、中へと入る。
繭から少し離した所に、カンテラを置くと、辺りがボゥッとオレンジに染まった。
マチルダから受け取ったミナドの薬を、バケツから柄杓で掬って、丁寧に繭の下へと撒いていく。
薄緑の液体は、じわじわと地面に浸み込んでいった。
マチルダも話していたが、シャーロットの体に直接触れる事のないように配慮した方がいいだろう。
バケツ一杯分の薬を撒いても、特に繭の動きに変化はない。
それを確認した後、繭の隣に敷布を敷いて、大きな体を横たえる。
未だ、刺の生えて来ない棘に手を伸ばし、抱き寄せるように腕を回した。
「シャーロット…聞いて下さいますか。私が、貴女に出会うまでの話を」
勿論、返事はない。
繭はぴくりとも動かず、昨日の攻撃的な様子は何だったのかと疑問に思う位だ。
それが、一層、ヴィンセントを不安にさせる。
彼女は、繭の中でどうしているのか。もしや、息を…。
だが、不安を押し隠して、ヴィンセントは穏やかな声を意識して、言葉を続ける。
「私は、獣人貴族の父と、人族の母の間に生まれました」
仲睦まじい両親だった事。
半獣人の為、獣人族の外見的特徴は控えめだが、内在する能力では引けを取らないと思っている事。
父が、番に出会った事。
番を選ばなかった父の選択で、家族と領民が、バラバラになった事。
そんな時、王宮でシャーロットに出会った事。
「初めてシャーロットに出会った時、私の世界は、一変しました。貴女だけが色鮮やかに見えて、自分の世界がこれまで色褪せていた事に、初めて気が付いたのです。心の奥底から、『この人だ』と叫び出したい衝動が沸き起こり、絶対に幸せにする、と誓ったのですよ」
そっと、棘の表面を撫でた。
シャーロットの頬を、撫でる時のように優しく。
「貴女を傷つけた者達を、許せなかった。貴女が縋るように抱き締める、くまのぬいぐるみになりたかった。貴女の傍で、貴女を癒して、貴女を幸せにしたかった。あの日から、私の心の中にはいつも、貴女がいます」
うっすらと、微笑む。
「半獣人である私に、番を察知出来る本能があるのか、判りません。シャーロットは人族ですから、番と言われても困惑するでしょう。当時十五になる所だった私が、ただ、三歳の少女に、一目惚れしただけなのかもしれない。だから、番でも何でも、もうどうでもいい。ただ私は、貴女を幸せにしたい。自分よりも周囲の事を思う貴女に、優しい貴女に、幸せに、なって欲しいのです。その想いは、十五年の間、変わらなかった」
棘にそっと、口づける。
青臭い匂いがするかと思ったが、シャーロットを抱き上げた時のように、甘やかな優しい花の匂いがする。
これまでに、ヴィンセントはシャーロットの足の甲に、一度だけ、口づけていた。
再会の喜びを押さえ切れなかった、獣人族の本能の発露だったが、それ以降は意識して、彼女に口づけをしないよう、自制していた。
シャーロットがヴィンセントと歩む以外の未来が、選択肢として脳内をちらついていたからだ。
忠誠を誓う口づけなら、臣下としてのものだ、と、言い訳が出来る。
だが、もしも、彼女の頬に、額に、髪に、一度でも唇が触れてしまえば、自分の欲を抑える自信が全くなかった。
「シャーロット…貴女がいなければ、私の世界は色褪せたままだった。領主としての責務に誇りを持っていますが、それも全て、貴女の隣に立つに相応しい男になりたかったから。貴女に求婚する権利を得たかったからです」
身勝手ですね、と、自嘲する。
「私の世界の中心は、貴女です。貴女がいてくれる事で、私は前に進んでいける。貴女はただ、生きてくれているだけでいい。ですが…願わくば、私の隣で、私と共に、歩んで下さいませんか。シャーロット…愛しています」
最後の言葉は、震える声で、囁くように。
ヴィンセントの眦から、涙が一筋、零れ落ちる。
判っていた。
この告白が、どれ程、辺境伯の地位にある者として、相応しくないものか。
一人の女性と、多くの領民とを、天秤にかけるようなものだ。
シャーロットのこの先の人生と、領民の賛同と、両方を取ろうとして選んだのが、純血の獣人族であり番の子であるウィルヘルムとシャーロットの結婚だった。
だが、結果として、シャーロットを深く傷つけた。
そうなってから、自分にとって、シャーロットを傷つける事の方が重大な問題だと、漸く理解出来た。
遅きに失するのかもしれない。
けれど、もう、何も告げずに身を引く事は出来なかった。
シャーロットの愛を乞う。
何度でも。
何度でも。
問題は、何一つ片付いてはいない。
獣人族達は、半獣人のヴィンセントが辺境伯として人族のシャーロットと結婚する事を、認めないだろう。
辺境伯とその妻と言う地位がなければ、シャーロットの身の安全は十分に図れないだろう。
けれど、柵に囚われた結果、肝心のシャーロットを失うのでは、意味がない。
ヴィンセントにとって、シャーロットの幸福こそが、生きる意味なのだから。
「…愛しています」
何度でも。
何度でも。
想いを込めて、再度、棘に口づける。
「シャーロット」
愛しい気持ちが、伝わるように。
その時だった。
地面から滲み出るように、ふわり、と、薄緑の光が繭を照らしたかと思うと、シュルシュルと音を立てて、棘が萎んでいく。
「なに…っ、シャーロット?!」
横たわっていた地面から起き上がり、慌てて声を上げるヴィンセントの大声に反応して、天幕の外を守っていたジェラルドとコリンが、中に入って来た。
「御屋形様?!何が…っ」
彼等の目の前で、一層強く、閃光が閃く。
「シャーロット…!」
目を眩ませる強い光の中、左腕で目を庇いながら、ヴィンセントは必死に右手を伸ばした。
指先に何か柔らかなものが触れて、逃さないように掴み、グッと引き寄せる。
厚い胸板に勢いよく接触したのが、シャーロットの体だと確信して、光から守るように抱き込むと、光は急速に収束して、辺りを照らすものは再び、カンテラのオレンジの光だけとなった。
「シャーロット!」
ヴィンセントは、胸に凭れるように俯くシャーロットの頬に手を掛け、顔を上向かせる。
だが、シャーロットは固く目を閉じており、ヴィンセントの声掛けに反応しない。
焦るヴィンセントをよそに動いたのは、ジェラルドだった。
「御屋形様、領主館にお連れしましょう」
冷静なジェラルドの声に促され、ヴィンセントはシャーロットの体を抱き上げる。
失うかもしれない恐怖から、膝が震えた。
何度も戦場に立ったと言うのに、領民の命が危ぶまれる場面もあったのに、そのいずれの時よりも今の方が、恐ろしくて仕方がない。
それでも、シャーロットを決して落とさぬように、しっかりと抱きかかえると、ジェラルドに先導されて、領主館のシャーロットに与えた部屋へと向かう。
そっと寝台に下ろして全身を検分した所、シャーロットは、顔色が多少青く見える位で、目に見える傷はないようだった。
鋭い刺に覆われた棘に囲われていた為、その点が心配だったのだが、精霊が干渉しているせいだろう、シャーロットに傷一つつけさせない、と言う意思を感じる。
細い体を横たえると、薄い胸が上下している事がよく判る。
呼吸が正常である事を確認して、ヴィンセントの肩から漸く力が抜けた。
真夜中だと言うのに、繭が解けた、と聞いたマチルダとウィルヘルムは、直ぐに駆けつけた。
「何て顔してんだい。シャーロットより、あんたの方が先にへばっちまいそうな顔をしてるよ」
マチルダに言われて、ヴィンセントは大きな右手で自分の顔を一撫でする。
自分でも、焦燥と恐怖から、酷い顔色であろう自覚はある。
ざら、と、伸びた無精髭が、掌に当たった。
「俺の事はどうでもいい。シャーロットは、」
「兄さん、どうでもいいなんて言っちゃダメだ。兄さんに何かあったら、シャーロットが悲しむ」
ウィルヘルムに厳しい声音で切り捨てられ、ヴィンセントは口を噤む。
今回の一件で、これまでヴィンセントに何処か遠慮のあったウィルヘルムが、対等な立場になったように感じる。
「…すまない。とにかく、シャーロットは…」
マチルダは、シャーロットの手首で脈を測り、呼吸を見て、体の何か所かに手を当てると、一つ、大きく頷いた。
「大丈夫、寝てるだけだ」
「寝ている、だけ…」
「ただ、いつ目覚めるかは何とも言えない。人族の、もとい、この子の体力のなさは、あんたも十分、理解してるだろ。この所、ちゃんと寝れてないようだからね。心だけじゃなくて、体が回復するにも睡眠が必要なのさ。それにしても、思ったよりも、効果が出るのが早かったね」
「ミナドの薬は、棘ではなく、繭の下の地面に撒いた。それから暫く話し掛けていたのだが、突如、強烈な光と共に、繭が消滅した」
ヴィンセントは、マチルダに何が起きたのか説明する。
「ふん…」
マチルダは腕を組むと、考えるように目を閉じた。
「精霊のやる事だから、推測の範疇を出ないが、シャーロットの心が癒された…少なくとも、棘で囲って守らなくてはならない状況は脱した、って事なんだろうね」
あんたの声が、ちゃんとこの子に届いてる、って事だよ。
そう、マチルダに言われて、ヴィンセントは少し頬を染める。
愛していると告げた言葉に嘘はない。
だが、本当ならば、シャーロットの反応をつぶさに見ながら、告げたかった想いだ。
シャーロットは、照れて目を伏せるだろうか。
喜んで見つめ返してくれるだろうか。
機会を逸したのは、自分のせいだと、納得するしかない。
一通り、シャーロットの状態を確認した後、明朝、様子を見に来る、と言い残して、マチルダとウィルヘルムは部屋を去った。
入れ替わるようにして、ヘンリクに案内されたカーラが、部屋を訪れる。
「姫様…っ」
安堵したように、寝台の脇に崩れ落ちたカーラは、ブランケットの上に投げ出されたシャーロットの細い手を、思い切ったように握り締めた。
「やっと…心置きなく、お世話させて頂けます」
カーラの目に、涙が浮かぶ。
王宮と言う柵を離れて、漸く、主と定めた人に仕える事が出来る。
カーラは、シャーロットのこれまでの苦悩を、傍で見ていながら何もする事が出来なかったと、深く悔いていた。
シャーロットに仕える事は、カーラの救済でもある。
「カーラ殿」
ヴィンセントは、シャーロットの手を握りしめたまま、シャーロットの顔を見つめるカーラに声を掛けた。
「すまないが、今夜はシャーロットの見守りを私に譲ってくれないだろうか。明日からは、貴女がつけるように手配するから」
「!はい、承知致しました」
婚約者とは言え、夜にヴィンセントとシャーロットを二人きりにする事に、思う所がないわけではない。
だが、カーラは頷くと、頭を下げて部屋を辞す。
まだ、正式に雇用されているわけではない自分が、この場に呼ばれた事も、十分な心配りだと理解していた。
最後まで部屋に残ったのは、ヴィンセントと見張りのジェラルド、コリンの三人のみ。
ロビンは、ノーハンを近々訪れると思われる王妹子息フェルディナンドを警戒して、領境の見張りを固めている所だ。
「ンじゃぁ、御屋形様、俺とコリンは、扉の前にいますンで」
ジェラルドが、いつもの気の抜けた声で告げると、コリンもまた、ぺこりと頭を下げて部屋を辞す。
二人の顔に、ホッと安堵の色が浮かんでいるのは、気のせいではないだろう。
彼等は、近習の中でも、シャーロットと接する時間が長かった。
シャーロットに対する思い入れもひとしおだろう、と、ヴィンセントは思う。
ヴィンセントは、寝台の脇に膝立ちになって、シャーロットの寝顔を見守った。
少しずつ赤味が戻りつつある頬に、ほつれたチョコレート色の巻き毛が絡んでいるのを見て、そっと指で梳いて直す。
柔らかな頬を、大きな掌で、何度も何度も、繰り返し、撫でた。
瞼は固く閉じられており、長い睫毛が頬に濃い影を落としている。
ペリドットの輝く瞳に、再び、己の顔を映してほしい。
そう願いながら、シャーロットの小さな手を両手で握り締めて、祈るように額に押し当てる。
「貴女が…生きていてくれて、本当に良かった…」
失うかもしれない。
この十五年に、何度も思った事だった筈だ。
だが、ヴィンセントは実際には、判っていなかったのだ。
シャーロットのいない人生が、ヴィンセントにとって、どのようなものなのか。
瞳を閉じたまま、力なくぐったりと凭れかかって来たシャーロットを見て、戦慄した。
このまま、彼女の命が掌をすり抜けて零れ落ちてしまうのではないか、と想像した瞬間、ぞわりと背筋を震えが走り、何も考えられなくなった。
頭の中を嵐が吹き抜け、思考がまとまらない。
何処かで幸せに暮らしていてくれさえすればいい、と思っていたが、自分の手で幸せにする以外に、彼女の幸福の保証等、何処にもないではないか。
今となっては、何故、彼女を手離す選択肢があったのか、疑問に思う程だ。
「…申し訳ありません。貴女が何と仰ろうと、私はもう、貴女を手離す事は出来ません」
小さく、懺悔する。
己の弱さを、自覚した。
もう、シャーロットなしでは、生きていけない。
シャーロットの意思を尊重する余裕は、何処にも、ない。
「それでも…貴女を、愛しているのです」
このような昏い想いを、受け止めてくれるのか。
不安になりながらも、吐露せずにはいられない。
「愛しています…」
ノーハンには宿もない上、二人は今後、領主館で勤める予定の為、領主館の使用人部屋へと案内している。
カーラは、シャーロットの傍に控える事を希望したが、衝撃的な姿を見せるのは忍びなく、シャーロットを無事に救出してから、と、説得した。
「では、あの棘はミナドで間違いない、と」
「そう言う事だね。あの子が摘む薬草は、他のものよりも薬効成分が濃いんだが、今回も例に漏れず、ってとこだ」
マチルダが持ってきたのは、バケツ一杯の薄緑色の液体だった。
「…随分と多いな」
「あんだけ大きな繭なんだから、これ位はいるだろうよ」
「シャーロットに使用するのか」
「失恋に効く薬、ってのを気にしてんのかい?別に、失恋に限らない、心の傷を癒す薬、って言っただろうが。今回の件は、あの子が深く傷ついて、それを哀れんだ精霊が、外界を遮断してる、と考えるのが自然だと思うけどね。だったら、一番手っ取り早いのは、あの子の心の傷を癒す事だろ」
「…なるほど。では、これを、どう使用すればいい?」
「ふん…通常は、お茶に溶かし込んで飲んだりするんだけどねぇ…今のあの子の顔が、何処にあるのかも不明だし…」
マチルダは、顎に手を当てて考え込む。
「まだまだ薬は作れるし、取り敢えず、繭の下の地面に撒いてみるかい?直接、繭に掛けるのは、ちと怖い」
「そうだな」
マチルダの手からバケツを受け取って、ヴィンセントは立ち上がった。
「協力、感謝する」
「あたしは薬師だからね。それに…あの子の事は、何だか放っとけないんだよ」
ヴィンセントは、静かに一つ頷く事で、返事に代える。
「必ず、救い出す」
ヴィンセントは、シャーロットの繭がある天幕へと、戻って来た。
見張りをしていたコリンとジェラルドに目顔で合図を送って、中へと入る。
繭から少し離した所に、カンテラを置くと、辺りがボゥッとオレンジに染まった。
マチルダから受け取ったミナドの薬を、バケツから柄杓で掬って、丁寧に繭の下へと撒いていく。
薄緑の液体は、じわじわと地面に浸み込んでいった。
マチルダも話していたが、シャーロットの体に直接触れる事のないように配慮した方がいいだろう。
バケツ一杯分の薬を撒いても、特に繭の動きに変化はない。
それを確認した後、繭の隣に敷布を敷いて、大きな体を横たえる。
未だ、刺の生えて来ない棘に手を伸ばし、抱き寄せるように腕を回した。
「シャーロット…聞いて下さいますか。私が、貴女に出会うまでの話を」
勿論、返事はない。
繭はぴくりとも動かず、昨日の攻撃的な様子は何だったのかと疑問に思う位だ。
それが、一層、ヴィンセントを不安にさせる。
彼女は、繭の中でどうしているのか。もしや、息を…。
だが、不安を押し隠して、ヴィンセントは穏やかな声を意識して、言葉を続ける。
「私は、獣人貴族の父と、人族の母の間に生まれました」
仲睦まじい両親だった事。
半獣人の為、獣人族の外見的特徴は控えめだが、内在する能力では引けを取らないと思っている事。
父が、番に出会った事。
番を選ばなかった父の選択で、家族と領民が、バラバラになった事。
そんな時、王宮でシャーロットに出会った事。
「初めてシャーロットに出会った時、私の世界は、一変しました。貴女だけが色鮮やかに見えて、自分の世界がこれまで色褪せていた事に、初めて気が付いたのです。心の奥底から、『この人だ』と叫び出したい衝動が沸き起こり、絶対に幸せにする、と誓ったのですよ」
そっと、棘の表面を撫でた。
シャーロットの頬を、撫でる時のように優しく。
「貴女を傷つけた者達を、許せなかった。貴女が縋るように抱き締める、くまのぬいぐるみになりたかった。貴女の傍で、貴女を癒して、貴女を幸せにしたかった。あの日から、私の心の中にはいつも、貴女がいます」
うっすらと、微笑む。
「半獣人である私に、番を察知出来る本能があるのか、判りません。シャーロットは人族ですから、番と言われても困惑するでしょう。当時十五になる所だった私が、ただ、三歳の少女に、一目惚れしただけなのかもしれない。だから、番でも何でも、もうどうでもいい。ただ私は、貴女を幸せにしたい。自分よりも周囲の事を思う貴女に、優しい貴女に、幸せに、なって欲しいのです。その想いは、十五年の間、変わらなかった」
棘にそっと、口づける。
青臭い匂いがするかと思ったが、シャーロットを抱き上げた時のように、甘やかな優しい花の匂いがする。
これまでに、ヴィンセントはシャーロットの足の甲に、一度だけ、口づけていた。
再会の喜びを押さえ切れなかった、獣人族の本能の発露だったが、それ以降は意識して、彼女に口づけをしないよう、自制していた。
シャーロットがヴィンセントと歩む以外の未来が、選択肢として脳内をちらついていたからだ。
忠誠を誓う口づけなら、臣下としてのものだ、と、言い訳が出来る。
だが、もしも、彼女の頬に、額に、髪に、一度でも唇が触れてしまえば、自分の欲を抑える自信が全くなかった。
「シャーロット…貴女がいなければ、私の世界は色褪せたままだった。領主としての責務に誇りを持っていますが、それも全て、貴女の隣に立つに相応しい男になりたかったから。貴女に求婚する権利を得たかったからです」
身勝手ですね、と、自嘲する。
「私の世界の中心は、貴女です。貴女がいてくれる事で、私は前に進んでいける。貴女はただ、生きてくれているだけでいい。ですが…願わくば、私の隣で、私と共に、歩んで下さいませんか。シャーロット…愛しています」
最後の言葉は、震える声で、囁くように。
ヴィンセントの眦から、涙が一筋、零れ落ちる。
判っていた。
この告白が、どれ程、辺境伯の地位にある者として、相応しくないものか。
一人の女性と、多くの領民とを、天秤にかけるようなものだ。
シャーロットのこの先の人生と、領民の賛同と、両方を取ろうとして選んだのが、純血の獣人族であり番の子であるウィルヘルムとシャーロットの結婚だった。
だが、結果として、シャーロットを深く傷つけた。
そうなってから、自分にとって、シャーロットを傷つける事の方が重大な問題だと、漸く理解出来た。
遅きに失するのかもしれない。
けれど、もう、何も告げずに身を引く事は出来なかった。
シャーロットの愛を乞う。
何度でも。
何度でも。
問題は、何一つ片付いてはいない。
獣人族達は、半獣人のヴィンセントが辺境伯として人族のシャーロットと結婚する事を、認めないだろう。
辺境伯とその妻と言う地位がなければ、シャーロットの身の安全は十分に図れないだろう。
けれど、柵に囚われた結果、肝心のシャーロットを失うのでは、意味がない。
ヴィンセントにとって、シャーロットの幸福こそが、生きる意味なのだから。
「…愛しています」
何度でも。
何度でも。
想いを込めて、再度、棘に口づける。
「シャーロット」
愛しい気持ちが、伝わるように。
その時だった。
地面から滲み出るように、ふわり、と、薄緑の光が繭を照らしたかと思うと、シュルシュルと音を立てて、棘が萎んでいく。
「なに…っ、シャーロット?!」
横たわっていた地面から起き上がり、慌てて声を上げるヴィンセントの大声に反応して、天幕の外を守っていたジェラルドとコリンが、中に入って来た。
「御屋形様?!何が…っ」
彼等の目の前で、一層強く、閃光が閃く。
「シャーロット…!」
目を眩ませる強い光の中、左腕で目を庇いながら、ヴィンセントは必死に右手を伸ばした。
指先に何か柔らかなものが触れて、逃さないように掴み、グッと引き寄せる。
厚い胸板に勢いよく接触したのが、シャーロットの体だと確信して、光から守るように抱き込むと、光は急速に収束して、辺りを照らすものは再び、カンテラのオレンジの光だけとなった。
「シャーロット!」
ヴィンセントは、胸に凭れるように俯くシャーロットの頬に手を掛け、顔を上向かせる。
だが、シャーロットは固く目を閉じており、ヴィンセントの声掛けに反応しない。
焦るヴィンセントをよそに動いたのは、ジェラルドだった。
「御屋形様、領主館にお連れしましょう」
冷静なジェラルドの声に促され、ヴィンセントはシャーロットの体を抱き上げる。
失うかもしれない恐怖から、膝が震えた。
何度も戦場に立ったと言うのに、領民の命が危ぶまれる場面もあったのに、そのいずれの時よりも今の方が、恐ろしくて仕方がない。
それでも、シャーロットを決して落とさぬように、しっかりと抱きかかえると、ジェラルドに先導されて、領主館のシャーロットに与えた部屋へと向かう。
そっと寝台に下ろして全身を検分した所、シャーロットは、顔色が多少青く見える位で、目に見える傷はないようだった。
鋭い刺に覆われた棘に囲われていた為、その点が心配だったのだが、精霊が干渉しているせいだろう、シャーロットに傷一つつけさせない、と言う意思を感じる。
細い体を横たえると、薄い胸が上下している事がよく判る。
呼吸が正常である事を確認して、ヴィンセントの肩から漸く力が抜けた。
真夜中だと言うのに、繭が解けた、と聞いたマチルダとウィルヘルムは、直ぐに駆けつけた。
「何て顔してんだい。シャーロットより、あんたの方が先にへばっちまいそうな顔をしてるよ」
マチルダに言われて、ヴィンセントは大きな右手で自分の顔を一撫でする。
自分でも、焦燥と恐怖から、酷い顔色であろう自覚はある。
ざら、と、伸びた無精髭が、掌に当たった。
「俺の事はどうでもいい。シャーロットは、」
「兄さん、どうでもいいなんて言っちゃダメだ。兄さんに何かあったら、シャーロットが悲しむ」
ウィルヘルムに厳しい声音で切り捨てられ、ヴィンセントは口を噤む。
今回の一件で、これまでヴィンセントに何処か遠慮のあったウィルヘルムが、対等な立場になったように感じる。
「…すまない。とにかく、シャーロットは…」
マチルダは、シャーロットの手首で脈を測り、呼吸を見て、体の何か所かに手を当てると、一つ、大きく頷いた。
「大丈夫、寝てるだけだ」
「寝ている、だけ…」
「ただ、いつ目覚めるかは何とも言えない。人族の、もとい、この子の体力のなさは、あんたも十分、理解してるだろ。この所、ちゃんと寝れてないようだからね。心だけじゃなくて、体が回復するにも睡眠が必要なのさ。それにしても、思ったよりも、効果が出るのが早かったね」
「ミナドの薬は、棘ではなく、繭の下の地面に撒いた。それから暫く話し掛けていたのだが、突如、強烈な光と共に、繭が消滅した」
ヴィンセントは、マチルダに何が起きたのか説明する。
「ふん…」
マチルダは腕を組むと、考えるように目を閉じた。
「精霊のやる事だから、推測の範疇を出ないが、シャーロットの心が癒された…少なくとも、棘で囲って守らなくてはならない状況は脱した、って事なんだろうね」
あんたの声が、ちゃんとこの子に届いてる、って事だよ。
そう、マチルダに言われて、ヴィンセントは少し頬を染める。
愛していると告げた言葉に嘘はない。
だが、本当ならば、シャーロットの反応をつぶさに見ながら、告げたかった想いだ。
シャーロットは、照れて目を伏せるだろうか。
喜んで見つめ返してくれるだろうか。
機会を逸したのは、自分のせいだと、納得するしかない。
一通り、シャーロットの状態を確認した後、明朝、様子を見に来る、と言い残して、マチルダとウィルヘルムは部屋を去った。
入れ替わるようにして、ヘンリクに案内されたカーラが、部屋を訪れる。
「姫様…っ」
安堵したように、寝台の脇に崩れ落ちたカーラは、ブランケットの上に投げ出されたシャーロットの細い手を、思い切ったように握り締めた。
「やっと…心置きなく、お世話させて頂けます」
カーラの目に、涙が浮かぶ。
王宮と言う柵を離れて、漸く、主と定めた人に仕える事が出来る。
カーラは、シャーロットのこれまでの苦悩を、傍で見ていながら何もする事が出来なかったと、深く悔いていた。
シャーロットに仕える事は、カーラの救済でもある。
「カーラ殿」
ヴィンセントは、シャーロットの手を握りしめたまま、シャーロットの顔を見つめるカーラに声を掛けた。
「すまないが、今夜はシャーロットの見守りを私に譲ってくれないだろうか。明日からは、貴女がつけるように手配するから」
「!はい、承知致しました」
婚約者とは言え、夜にヴィンセントとシャーロットを二人きりにする事に、思う所がないわけではない。
だが、カーラは頷くと、頭を下げて部屋を辞す。
まだ、正式に雇用されているわけではない自分が、この場に呼ばれた事も、十分な心配りだと理解していた。
最後まで部屋に残ったのは、ヴィンセントと見張りのジェラルド、コリンの三人のみ。
ロビンは、ノーハンを近々訪れると思われる王妹子息フェルディナンドを警戒して、領境の見張りを固めている所だ。
「ンじゃぁ、御屋形様、俺とコリンは、扉の前にいますンで」
ジェラルドが、いつもの気の抜けた声で告げると、コリンもまた、ぺこりと頭を下げて部屋を辞す。
二人の顔に、ホッと安堵の色が浮かんでいるのは、気のせいではないだろう。
彼等は、近習の中でも、シャーロットと接する時間が長かった。
シャーロットに対する思い入れもひとしおだろう、と、ヴィンセントは思う。
ヴィンセントは、寝台の脇に膝立ちになって、シャーロットの寝顔を見守った。
少しずつ赤味が戻りつつある頬に、ほつれたチョコレート色の巻き毛が絡んでいるのを見て、そっと指で梳いて直す。
柔らかな頬を、大きな掌で、何度も何度も、繰り返し、撫でた。
瞼は固く閉じられており、長い睫毛が頬に濃い影を落としている。
ペリドットの輝く瞳に、再び、己の顔を映してほしい。
そう願いながら、シャーロットの小さな手を両手で握り締めて、祈るように額に押し当てる。
「貴女が…生きていてくれて、本当に良かった…」
失うかもしれない。
この十五年に、何度も思った事だった筈だ。
だが、ヴィンセントは実際には、判っていなかったのだ。
シャーロットのいない人生が、ヴィンセントにとって、どのようなものなのか。
瞳を閉じたまま、力なくぐったりと凭れかかって来たシャーロットを見て、戦慄した。
このまま、彼女の命が掌をすり抜けて零れ落ちてしまうのではないか、と想像した瞬間、ぞわりと背筋を震えが走り、何も考えられなくなった。
頭の中を嵐が吹き抜け、思考がまとまらない。
何処かで幸せに暮らしていてくれさえすればいい、と思っていたが、自分の手で幸せにする以外に、彼女の幸福の保証等、何処にもないではないか。
今となっては、何故、彼女を手離す選択肢があったのか、疑問に思う程だ。
「…申し訳ありません。貴女が何と仰ろうと、私はもう、貴女を手離す事は出来ません」
小さく、懺悔する。
己の弱さを、自覚した。
もう、シャーロットなしでは、生きていけない。
シャーロットの意思を尊重する余裕は、何処にも、ない。
「それでも…貴女を、愛しているのです」
このような昏い想いを、受け止めてくれるのか。
不安になりながらも、吐露せずにはいられない。
「愛しています…」
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