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冒険者生活

ルルと一緒に

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 ナーゴの宿屋の食堂で、向かい合って座るアマタとルル。

 今日は、依頼も受けず、修行もしない1日。
 いつもよりもゆっくり起きた2人は、遅めの朝食を取っていた。

 アマタは、バターを塗ったトーストに、目玉焼きとサラダ。そしてコーヒー。
 ルルは、ふわふわのロールパンに、カリカリに焼いたベーコンと、スクランブルエッグを挟み、一生懸命頬張っている。
 飲み物はホットミルク。コーヒーは苦くて飲めないのだ。

 現在も、アマタとルルは、同じ宿を利用している。
 最初に泊まっていた安宿は引き払い、今は、街の外から来た人間が泊まるような、街の中では最も程度の良い宿屋を利用している。

 美味しいものを食べる事。
 落ち着いた環境で体を休める事。

 これらは、パーティを組む際に、2人で話し合って作った、月明かりの約束、と言う、パーティルールの一部である。

 特にこの2つに関しては、アマタとしては譲れないものであった。

 ルルが居るからだ。

 アマタ1人であれば、最悪、雨風を凌げ、空腹を埋められたら、それで問題は無い。

 しかし、ルルは女の子である。そんな生活をさせたくは無かった。
 また、これまで過酷な日々を送ってきたルルには、少しでも居心地の良い生活をして欲しい、そんな気持ちが強かった。

 質の良い睡眠や食事は、心身のバランスを整え、思考も健全にするために、必要な事の一つである。

 自分1人で冒険する訳では無い。
 アマタの中で、ルルにとっての快適な生活は、何よりも優先する事に確定された。

 そんな2人のパーティ生活に、1つの不安要素が紛れ込んだ。

『蛇』、の存在である。

 国内でも悪名高い組織が、自分たちを狙って来る可能性がある。
 先手で潰す事も考えたアマタであったが、予想以上に組織が大きい事を知り、それは得策で無いと判断した。

 アマタには、考える事が沢山あった。その全ては、ルルの身を守るために、と言う事に直結している。

 まず考えたのは、宿屋暮らしを辞める事。
 どれだけしっかりとした宿でも、不特定の人間が出入りする場所である。自分たちを狙う人間が、利用者を装い襲撃してくる恐れもある。
 また、同じ宿ではあるが、部屋は別々である。何か起きた時に初動が遅れる環境も、アマタとしては排除したかった。

(やっぱり……家を借りる、か。)

 1つの家を借りてしまう事で、これらの事は解決出来る。
 レイラにも、安全対策として、パーティで同じ家に住む事を勧められていた。

 実際、この世界では、1つの家をパーティメンバーでシェアする事は多い。そのパーティが男女混成だとしても、取り立てて珍しい事では無かった。

(同じ家……かぁ。)

 ここが、アマタにとっては引っかかる所であった。この世界では当然の事、と言われても、どうしても、元の世界での感覚がストップをかける。

 自分より1つ歳下の女の子に、同じ家で暮らそう、と提案する。
 これまでのアマタに、そんな経験は無い。
 元の世界では、常に1人暮らし。むしろ、自分の居住地を知られないように、極力注意を払っていた程である。

 誰かと一緒に暮らすなど、考えた事も無かった。

 何と言って話そうか。そう考えても何も思い浮かばない。
 こういう時、普段のアマタなら、思考を辞め、直感に従って行動するのであるが、今回は違った。
 堂々巡りする思考に頭を使い過ぎ、いよいよ限界を迎える。

「あー! もう!」

 アマタは大声を上げ、部屋のベッドに倒れ込む。

(そもそも、何にこんな悩んでるんだ?)
 
 大きく伸びをし目を瞑ると、1つ1つ順を追って、思考を整理していく。

(あぁ……そうか……)

 パッ、とアマタは目を開ける。

(俺、断られるのが怖いんだ。)

 元々、ルルの身の安全について考えていたはずなのに。
 いつの間にか、ルルに断られたらどうしよう、そんな思考にズレていた。

(俺もそんな事を思うのか? ……いや……)

 自分の中のこの不思議な感覚は、ルルをパーティに誘った時に感じたものと同じである事に、アマタは気付いていく。

 アマタは身を起こすと、両手で自分の頬を思い切り叩いた。


 ナーゴの宿屋の食堂。パンを食べ終えたルルは、幸せそうな顔で、ホットミルクを飲んでいる。

 アマタは、その表情を見つめる。
 何だか息苦しいのに、晴れやかな気持ちに、心が満たされて行く。

「なあ、ルル。」

 うん? と、マグカップに口をつけたまま、ルルはアマタを見る。

 晴れやかな気持ちは一瞬で身を隠した。
 代わりに現れた逃げ出しそうな気持ちを、アマタは何度も蹴り上げる。

「これからは、家を借りて、そこで一緒に暮らさないか??」

 頭の中が真っ白になる。

 真っ白なのに、感情の追いつかない言葉が、頭の中をグルグルと回る。
 
 体がプルプルと震えている。そんな気もして、震えを抑えようとするが、どうしたら止められるかが分からない。

 まるで永遠のように感じる時間の中で、アマタは自分がどこに居るのかさえ、見失っていた。

 不意に、コトン、と音が聞こえ、アマタは現実へと引き戻される。

 視界に映るルル。

 マグカップをテーブルに置いたルルが、アマタを見つめ、ゆっくりと口を開く。

「良いよ! アマタくんとなら!!」

 満面の笑みを浮かべたルル。

 アマタには、ドクン、と、自分の胸が高鳴る音が、確かに聞こえた。

 そして、アマタの頭は、再び真っ白になった。
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