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冒険者生活

2人の家

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 街の中心部から、少し歩いた場所にある小高い丘。そこに建てられた、2階建ての白い家。

 ギルドのレイラに物件を紹介され、アマタとルルは、この家に住む事に決めた。
 多少古い家ではあるが、定期的に手入れがされているのか、劣化も少なかった。

 街から離れている事は重要なポイントである。何か起きても、近隣を巻き込む可能性が減らせるのだ。

 また、この家に向かうには、街の中を通る必要があった。丘の周りを囲む竹林密集地は、人が通れる道では無い。ましてや大人数で通ろうとすれば、それなりの労力が必要となる。
 敵襲対策が取りやすい事も、大きな決め手となった。

 アマタたちは、家の中を片付ける。
 ちなみに、外観の汚れと家の中の掃除は、アマタの浄化魔法クリアで、あっという間に綺麗になった。

「ありえないって……」

 引き渡しの立ち会いに来ていたレイラは、その光景を見て、ポソっ、と呟いていた。

 頼んでいた家具を運び込む家具屋に、ルルはテキパキと置き場所を指示している。
 今回、家具の最終選定は、ルルにお願いしてあった。
 一緒に家具屋に行き、お互いの好みを話しながら見て回り、それを元に、最終的には、ルルが購入品を選んだのだ。

 ルルが張り切って業者に指示を出している間、アマタは、外に出て、家の周りを歩く。
 もちろん契約前にも、入念に下調べはした。
 自分たちを襲う者がいたら、どの経路を使い、どんな手を使うのか。
 そして、それに対しての防御策は? 迎撃方法は? 
 ありとあらゆる事を想定した。

 念を入れるに越した事は無い。そう思い、アマタは周囲を見回る。
 問題無さそうだと判断したアマタは、次いで、水魔法ウォーターを発動させる。これには、同時に発動させた、拒絶魔法リジェクト、が混ぜ込んである。

 これを薄く大きく、膜状に広げ、家の周りを覆っていく。

 水魔法ウォーターは、基本的にはただの水である。ただ水の膜を張ったところで、それを通り抜けるのは容易い。濡れるだけなのだ。
 しかしそこに、悪意を跳ね除ける効果を持つ、拒絶魔法リジェクトを混ぜ込む事で、ただの水の膜だったものは、アマタたちに対して悪意を持つ存在を弾くシールドに変わる。
 
 アマタは、この世界に来て、かなり早い段階で、拒絶魔法リジェクトを作り出した。

 誰が敵だか分からない、からである。

 全く知らない世界で、無防備なままでいる事は死に等しい。アマタはそう考える。
 元の世界でも、無防備になった瞬間に、自分の命は尽きたのだ。

 冒険者、ギルドの人間、街の住人、誰がこちらに悪意を向けて来るかは分からない。それを感知出来るだけで、対応の幅が広がる。
 また、こちらに悪意を抱いたとしても、その理由を知れば、納得する事も、変えて行く事も出来るかも知れない。
 何も、悪意を抱かれたからと言って、それを全て駆逐する訳ではないのだ。

 自分の命を守るための先制的防衛。ここに関して、アマタは完全に割り切っていた。
 
 唯一、ルルにだけは、この魔法は発動していない。初めて出会った時から、何故だか使おうとは思えなかったのだ。

 防護膜を貼り終え、家の中に入ると、家具の配置は終わっていた。
 ルルは、細々としたものを片付けていたが、アマタに気付くと、子犬のように駆け寄って来る。
 得意気な顔をして、家具について説明するルル。

 その後2人で片付けを終わらせると、外は薄暗くなっていた。

 2人は、“備え付けのキッチンでご飯を作ろう計画”、は明日から、と言う事にして、肉の煉瓦亭へと向かった。

 この店は、アマタとルルが、初めて一緒に行った店である。
 今ではルルのお気に入りであり、何かとこの店に行きたがる。

 いつものミートチョップの変わらぬ美味しさに舌鼓を打ち、心ゆくまで食事と酒を楽しんだ2人は、ゆっくりと家に向かって歩く。

 今までは、夕食後は、2人で宿屋へ向かって歩いた。でも今は、真逆の方向に進んでいる。
 その違いに、アマタは何となく、不思議な気分になる。

 ふとルルに目を向けると、ルルは空を見上げていた。

 そんなルルに、アマタはついつい見とれてしまう。

 アマタの視線に気付くと、ルルはニコッと笑う。
 そんな不意打ちに、無防備だったアマタの鼓動は急速に高鳴り始める。

「ねえアマタくん。」

 ルルが口を開く。

「これからは同じ家に住むんだね。」

 分かりきっていた事なのに。ルルの言葉を聞いて、アマタの中で、より実感が湧いてくる。

「あぁ。そうだな。」

(誰かと同じ家で暮らすなんて……いつ以来だろう。)

「不思議だね。」

 先程のルルと同じように、アマタも空を見上げる。

「あぁ……不思議だな。」

 本当にそうだな、とアマタは思う。
 1度命を落とし、新しい世界にやってきた。
 そこで新たな命が始まった。
 本当に、人生は何が起こるか分からない。

 空を見上げ、思いに耽るアマタの横顔を、今度はルルが見つめていた。

 それから2人は、たわいも無い話をしながら歩いた。

 家が見えてくると、急にルルが駆け始める。その姿を微笑ましく思いながら、アマタは歩いて追っていく。

 家の前に着いたルルは、ピョン、と飛び跳ね玄関の前に着地する。

 そして、遅れて追いついたアマタを迎えるように、ドアを開ける。

「お帰りなさい!」

 言ってみたくて。
 そう言い、顔を赤くしてはにかむルル。

「ただいま!」

 そんなルルの行動に、きっと俺の顔も赤くなっている、アマタはそう思った。

「お帰り!」

 今度はアマタがルルに言う。やられっぱなしは性に合わない。

「ただいまっ!」

 満面の笑みで、元気に答えるルル。
 
 どちらからともなく、2人は声を出して笑った。

 新しい家。アマタとルルの新しい生活。

 そして、新しい夜がやって来る。

 笑い合う2人の声を、どこか強張った空気が包んでいた。
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