17 / 32
冒険者生活
2人の家
しおりを挟む
街の中心部から、少し歩いた場所にある小高い丘。そこに建てられた、2階建ての白い家。
ギルドのレイラに物件を紹介され、アマタとルルは、この家に住む事に決めた。
多少古い家ではあるが、定期的に手入れがされているのか、劣化も少なかった。
街から離れている事は重要なポイントである。何か起きても、近隣を巻き込む可能性が減らせるのだ。
また、この家に向かうには、街の中を通る必要があった。丘の周りを囲む竹林密集地は、人が通れる道では無い。ましてや大人数で通ろうとすれば、それなりの労力が必要となる。
敵襲対策が取りやすい事も、大きな決め手となった。
アマタたちは、家の中を片付ける。
ちなみに、外観の汚れと家の中の掃除は、アマタの浄化魔法で、あっという間に綺麗になった。
「ありえないって……」
引き渡しの立ち会いに来ていたレイラは、その光景を見て、ポソっ、と呟いていた。
頼んでいた家具を運び込む家具屋に、ルルはテキパキと置き場所を指示している。
今回、家具の最終選定は、ルルにお願いしてあった。
一緒に家具屋に行き、お互いの好みを話しながら見て回り、それを元に、最終的には、ルルが購入品を選んだのだ。
ルルが張り切って業者に指示を出している間、アマタは、外に出て、家の周りを歩く。
もちろん契約前にも、入念に下調べはした。
自分たちを襲う者がいたら、どの経路を使い、どんな手を使うのか。
そして、それに対しての防御策は? 迎撃方法は?
ありとあらゆる事を想定した。
念を入れるに越した事は無い。そう思い、アマタは周囲を見回る。
問題無さそうだと判断したアマタは、次いで、水魔法を発動させる。これには、同時に発動させた、拒絶魔法、が混ぜ込んである。
これを薄く大きく、膜状に広げ、家の周りを覆っていく。
水魔法は、基本的にはただの水である。ただ水の膜を張ったところで、それを通り抜けるのは容易い。濡れるだけなのだ。
しかしそこに、悪意を跳ね除ける効果を持つ、拒絶魔法を混ぜ込む事で、ただの水の膜だったものは、アマタたちに対して悪意を持つ存在を弾くシールドに変わる。
アマタは、この世界に来て、かなり早い段階で、拒絶魔法を作り出した。
誰が敵だか分からない、からである。
全く知らない世界で、無防備なままでいる事は死に等しい。アマタはそう考える。
元の世界でも、無防備になった瞬間に、自分の命は尽きたのだ。
冒険者、ギルドの人間、街の住人、誰がこちらに悪意を向けて来るかは分からない。それを感知出来るだけで、対応の幅が広がる。
また、こちらに悪意を抱いたとしても、その理由を知れば、納得する事も、変えて行く事も出来るかも知れない。
何も、悪意を抱かれたからと言って、それを全て駆逐する訳ではないのだ。
自分の命を守るための先制的防衛。ここに関して、アマタは完全に割り切っていた。
唯一、ルルにだけは、この魔法は発動していない。初めて出会った時から、何故だか使おうとは思えなかったのだ。
防護膜を貼り終え、家の中に入ると、家具の配置は終わっていた。
ルルは、細々としたものを片付けていたが、アマタに気付くと、子犬のように駆け寄って来る。
得意気な顔をして、家具について説明するルル。
その後2人で片付けを終わらせると、外は薄暗くなっていた。
2人は、“備え付けのキッチンでご飯を作ろう計画”、は明日から、と言う事にして、肉の煉瓦亭へと向かった。
この店は、アマタとルルが、初めて一緒に行った店である。
今ではルルのお気に入りであり、何かとこの店に行きたがる。
いつものミートチョップの変わらぬ美味しさに舌鼓を打ち、心ゆくまで食事と酒を楽しんだ2人は、ゆっくりと家に向かって歩く。
今までは、夕食後は、2人で宿屋へ向かって歩いた。でも今は、真逆の方向に進んでいる。
その違いに、アマタは何となく、不思議な気分になる。
ふとルルに目を向けると、ルルは空を見上げていた。
そんなルルに、アマタはついつい見とれてしまう。
アマタの視線に気付くと、ルルはニコッと笑う。
そんな不意打ちに、無防備だったアマタの鼓動は急速に高鳴り始める。
「ねえアマタくん。」
ルルが口を開く。
「これからは同じ家に住むんだね。」
分かりきっていた事なのに。ルルの言葉を聞いて、アマタの中で、より実感が湧いてくる。
「あぁ。そうだな。」
(誰かと同じ家で暮らすなんて……いつ以来だろう。)
「不思議だね。」
先程のルルと同じように、アマタも空を見上げる。
「あぁ……不思議だな。」
本当にそうだな、とアマタは思う。
1度命を落とし、新しい世界にやってきた。
そこで新たな命が始まった。
本当に、人生は何が起こるか分からない。
空を見上げ、思いに耽るアマタの横顔を、今度はルルが見つめていた。
それから2人は、たわいも無い話をしながら歩いた。
家が見えてくると、急にルルが駆け始める。その姿を微笑ましく思いながら、アマタは歩いて追っていく。
家の前に着いたルルは、ピョン、と飛び跳ね玄関の前に着地する。
そして、遅れて追いついたアマタを迎えるように、ドアを開ける。
「お帰りなさい!」
言ってみたくて。
そう言い、顔を赤くしてはにかむルル。
「ただいま!」
そんなルルの行動に、きっと俺の顔も赤くなっている、アマタはそう思った。
「お帰り!」
今度はアマタがルルに言う。やられっぱなしは性に合わない。
「ただいまっ!」
満面の笑みで、元気に答えるルル。
どちらからともなく、2人は声を出して笑った。
新しい家。アマタとルルの新しい生活。
そして、新しい夜がやって来る。
笑い合う2人の声を、どこか強張った空気が包んでいた。
ギルドのレイラに物件を紹介され、アマタとルルは、この家に住む事に決めた。
多少古い家ではあるが、定期的に手入れがされているのか、劣化も少なかった。
街から離れている事は重要なポイントである。何か起きても、近隣を巻き込む可能性が減らせるのだ。
また、この家に向かうには、街の中を通る必要があった。丘の周りを囲む竹林密集地は、人が通れる道では無い。ましてや大人数で通ろうとすれば、それなりの労力が必要となる。
敵襲対策が取りやすい事も、大きな決め手となった。
アマタたちは、家の中を片付ける。
ちなみに、外観の汚れと家の中の掃除は、アマタの浄化魔法で、あっという間に綺麗になった。
「ありえないって……」
引き渡しの立ち会いに来ていたレイラは、その光景を見て、ポソっ、と呟いていた。
頼んでいた家具を運び込む家具屋に、ルルはテキパキと置き場所を指示している。
今回、家具の最終選定は、ルルにお願いしてあった。
一緒に家具屋に行き、お互いの好みを話しながら見て回り、それを元に、最終的には、ルルが購入品を選んだのだ。
ルルが張り切って業者に指示を出している間、アマタは、外に出て、家の周りを歩く。
もちろん契約前にも、入念に下調べはした。
自分たちを襲う者がいたら、どの経路を使い、どんな手を使うのか。
そして、それに対しての防御策は? 迎撃方法は?
ありとあらゆる事を想定した。
念を入れるに越した事は無い。そう思い、アマタは周囲を見回る。
問題無さそうだと判断したアマタは、次いで、水魔法を発動させる。これには、同時に発動させた、拒絶魔法、が混ぜ込んである。
これを薄く大きく、膜状に広げ、家の周りを覆っていく。
水魔法は、基本的にはただの水である。ただ水の膜を張ったところで、それを通り抜けるのは容易い。濡れるだけなのだ。
しかしそこに、悪意を跳ね除ける効果を持つ、拒絶魔法を混ぜ込む事で、ただの水の膜だったものは、アマタたちに対して悪意を持つ存在を弾くシールドに変わる。
アマタは、この世界に来て、かなり早い段階で、拒絶魔法を作り出した。
誰が敵だか分からない、からである。
全く知らない世界で、無防備なままでいる事は死に等しい。アマタはそう考える。
元の世界でも、無防備になった瞬間に、自分の命は尽きたのだ。
冒険者、ギルドの人間、街の住人、誰がこちらに悪意を向けて来るかは分からない。それを感知出来るだけで、対応の幅が広がる。
また、こちらに悪意を抱いたとしても、その理由を知れば、納得する事も、変えて行く事も出来るかも知れない。
何も、悪意を抱かれたからと言って、それを全て駆逐する訳ではないのだ。
自分の命を守るための先制的防衛。ここに関して、アマタは完全に割り切っていた。
唯一、ルルにだけは、この魔法は発動していない。初めて出会った時から、何故だか使おうとは思えなかったのだ。
防護膜を貼り終え、家の中に入ると、家具の配置は終わっていた。
ルルは、細々としたものを片付けていたが、アマタに気付くと、子犬のように駆け寄って来る。
得意気な顔をして、家具について説明するルル。
その後2人で片付けを終わらせると、外は薄暗くなっていた。
2人は、“備え付けのキッチンでご飯を作ろう計画”、は明日から、と言う事にして、肉の煉瓦亭へと向かった。
この店は、アマタとルルが、初めて一緒に行った店である。
今ではルルのお気に入りであり、何かとこの店に行きたがる。
いつものミートチョップの変わらぬ美味しさに舌鼓を打ち、心ゆくまで食事と酒を楽しんだ2人は、ゆっくりと家に向かって歩く。
今までは、夕食後は、2人で宿屋へ向かって歩いた。でも今は、真逆の方向に進んでいる。
その違いに、アマタは何となく、不思議な気分になる。
ふとルルに目を向けると、ルルは空を見上げていた。
そんなルルに、アマタはついつい見とれてしまう。
アマタの視線に気付くと、ルルはニコッと笑う。
そんな不意打ちに、無防備だったアマタの鼓動は急速に高鳴り始める。
「ねえアマタくん。」
ルルが口を開く。
「これからは同じ家に住むんだね。」
分かりきっていた事なのに。ルルの言葉を聞いて、アマタの中で、より実感が湧いてくる。
「あぁ。そうだな。」
(誰かと同じ家で暮らすなんて……いつ以来だろう。)
「不思議だね。」
先程のルルと同じように、アマタも空を見上げる。
「あぁ……不思議だな。」
本当にそうだな、とアマタは思う。
1度命を落とし、新しい世界にやってきた。
そこで新たな命が始まった。
本当に、人生は何が起こるか分からない。
空を見上げ、思いに耽るアマタの横顔を、今度はルルが見つめていた。
それから2人は、たわいも無い話をしながら歩いた。
家が見えてくると、急にルルが駆け始める。その姿を微笑ましく思いながら、アマタは歩いて追っていく。
家の前に着いたルルは、ピョン、と飛び跳ね玄関の前に着地する。
そして、遅れて追いついたアマタを迎えるように、ドアを開ける。
「お帰りなさい!」
言ってみたくて。
そう言い、顔を赤くしてはにかむルル。
「ただいま!」
そんなルルの行動に、きっと俺の顔も赤くなっている、アマタはそう思った。
「お帰り!」
今度はアマタがルルに言う。やられっぱなしは性に合わない。
「ただいまっ!」
満面の笑みで、元気に答えるルル。
どちらからともなく、2人は声を出して笑った。
新しい家。アマタとルルの新しい生活。
そして、新しい夜がやって来る。
笑い合う2人の声を、どこか強張った空気が包んでいた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
165
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる