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沈む意識に差す光(2)
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彼は決して気の合う相手ではなかったが、同じ筆頭騎士としてそれなりの敬意を払い、実力も認めていた。
しかし、今、目の前にいる男は気高い騎士などではない。
敵国に寝返り、目的のためにレナエルたちを利用しようとしている、ただの悪党だ。
「いいだろう。受けて立つ」
馬を降りたジュールは、ギュスターヴと向かい合うと剣を抜いた。
「ギュスターヴ様!」
馬車の後ろからついてきていた男が、剣を抜いて駆け寄ってきた。
「手出しするな!」
ギュスターヴはその男を一喝すると、すらりと腰の長剣を抜いた。
身体の右前に剣を立てた、正攻法の構えを見せる。
対するジュールは、剣を右頬の横に掲げ、突きの姿勢に構えた。
互いに、じりじりと間合いを詰めながら、相手の隙を探る。
最初に動いたのはジュール。そこから、凄まじい攻防戦に転じていく。
高い金属音が、絶え間なくあたりに響く。
騎士団での立場が同じ二人は、力強さと俊敏さを併せ持つ、同じタイプの戦い方をする。
その実力は全くの互角と言えた。
何度か激しく打ち合い、互いに広い間合いを取った時、道の向こうから一頭の馬が駆け寄ってきた。
「ジュール!」
その声にちらりと視線を向けると、馬上に従騎士のダヴィドが確認できた。
「一体……何が……」
少し離れた場所に馬を止めた従騎士は、この国の一二を争う騎士たちが剣を構えて睨み合う光景に、呆然となった。
前日から今までの経緯を知らない彼に、何が起こっているのか理解できないのは無理もない。
「ダヴィド! ジネットは見つかったか?」
視線を正面に戻しながらのジュールの声に、ダヴィドがはっと我に返る。
「は、はい。オクタヴィアン家の別荘に!」
その答えに、ギュスターヴが忌々しげに舌打ちした。
「ダヴィド、こっちは手出し無用だ! 他の奴らを押さえろ!」
ジュールはそう叫ぶと、相手に鋭く斬り込んでいった。
どちらも一歩も引かない凄烈な戦いぶりだ。
しかし、ギュスターヴは奇妙な違和感を感じ始めていた。
少しずつ、相手の剣とのタイミングが合わなくなってきているのだ。
剣を弾き返すつもりが、僅かに押し込まれる。
余裕でかわしたつもりが、剣の軌跡が身体のギリギリを通っていく。
ギュスターヴの顔に、疲労と焦りの色が浮かんできた。
彼は、ジュールが硬軟を自在に扱える騎士であることを知らなかった。
ギュスターヴほどの剣の使い手であれば、相手が曲線を描く剣を僅かに交えていることに、途中で気付いてもおかしくはない。
しかし、自分と同じタイプだとの思い込みと、この国一の騎士と賞賛される男を力でねじ伏せたいという強い欲望が、目を曇らせていた。
「くそっ!」
重心がぶれたまま、苦し紛れに繰り出された剣を、ジュールが優雅な動きで手首を返し、裏刃で受けた。
銀色の細い刃の上を、力任せの剣が滑り落ちて行くその技は、王太子シルヴェストルと同じ。
そのことにギュスターヴが気付いた時には、もう遅かった。
バランスを崩されて落ちた切っ先を、ジュールの剣が下から大きくすくいあげるように、弾き飛ばした。
「終わりだ。ギュスターヴ・ルコント」
弾いた剣が地面に落ちる音が聞こえるより先に、ギュスターヴの目の前に、鋭い切っ先がぴたりと突きつけられた。
しかし、今、目の前にいる男は気高い騎士などではない。
敵国に寝返り、目的のためにレナエルたちを利用しようとしている、ただの悪党だ。
「いいだろう。受けて立つ」
馬を降りたジュールは、ギュスターヴと向かい合うと剣を抜いた。
「ギュスターヴ様!」
馬車の後ろからついてきていた男が、剣を抜いて駆け寄ってきた。
「手出しするな!」
ギュスターヴはその男を一喝すると、すらりと腰の長剣を抜いた。
身体の右前に剣を立てた、正攻法の構えを見せる。
対するジュールは、剣を右頬の横に掲げ、突きの姿勢に構えた。
互いに、じりじりと間合いを詰めながら、相手の隙を探る。
最初に動いたのはジュール。そこから、凄まじい攻防戦に転じていく。
高い金属音が、絶え間なくあたりに響く。
騎士団での立場が同じ二人は、力強さと俊敏さを併せ持つ、同じタイプの戦い方をする。
その実力は全くの互角と言えた。
何度か激しく打ち合い、互いに広い間合いを取った時、道の向こうから一頭の馬が駆け寄ってきた。
「ジュール!」
その声にちらりと視線を向けると、馬上に従騎士のダヴィドが確認できた。
「一体……何が……」
少し離れた場所に馬を止めた従騎士は、この国の一二を争う騎士たちが剣を構えて睨み合う光景に、呆然となった。
前日から今までの経緯を知らない彼に、何が起こっているのか理解できないのは無理もない。
「ダヴィド! ジネットは見つかったか?」
視線を正面に戻しながらのジュールの声に、ダヴィドがはっと我に返る。
「は、はい。オクタヴィアン家の別荘に!」
その答えに、ギュスターヴが忌々しげに舌打ちした。
「ダヴィド、こっちは手出し無用だ! 他の奴らを押さえろ!」
ジュールはそう叫ぶと、相手に鋭く斬り込んでいった。
どちらも一歩も引かない凄烈な戦いぶりだ。
しかし、ギュスターヴは奇妙な違和感を感じ始めていた。
少しずつ、相手の剣とのタイミングが合わなくなってきているのだ。
剣を弾き返すつもりが、僅かに押し込まれる。
余裕でかわしたつもりが、剣の軌跡が身体のギリギリを通っていく。
ギュスターヴの顔に、疲労と焦りの色が浮かんできた。
彼は、ジュールが硬軟を自在に扱える騎士であることを知らなかった。
ギュスターヴほどの剣の使い手であれば、相手が曲線を描く剣を僅かに交えていることに、途中で気付いてもおかしくはない。
しかし、自分と同じタイプだとの思い込みと、この国一の騎士と賞賛される男を力でねじ伏せたいという強い欲望が、目を曇らせていた。
「くそっ!」
重心がぶれたまま、苦し紛れに繰り出された剣を、ジュールが優雅な動きで手首を返し、裏刃で受けた。
銀色の細い刃の上を、力任せの剣が滑り落ちて行くその技は、王太子シルヴェストルと同じ。
そのことにギュスターヴが気付いた時には、もう遅かった。
バランスを崩されて落ちた切っ先を、ジュールの剣が下から大きくすくいあげるように、弾き飛ばした。
「終わりだ。ギュスターヴ・ルコント」
弾いた剣が地面に落ちる音が聞こえるより先に、ギュスターヴの目の前に、鋭い切っ先がぴたりと突きつけられた。
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