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第4章 禍々しい招待状
ラヴェラルタ家の選択(1)
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まだ日の暮れる前。
マルクは団長に呼び出されたという理由をつけて、早々に訓練を切り上げた。
鍛錬場の南側の空き地では、ヴィルジールが連れて来た騎士らが野営の準備を始めていた。
彼らはラヴェラルタ騎士団の宿舎や設備は使わず、訓練の一環として食と住を野営ですべて賄うのだという。
隊の実質的な指揮官はジョエルが務めているらしく、てきぱきと指示を出す様子が見える。
ヴィルジールは彼の隣で、作業の様子を監督していた。
「これなら、大丈夫だな」
彼らの注意が自分に向いていないことを確認して、鍛錬場から屋敷の裏口に回り、大急ぎで自分の部屋に向かった。
ドアを開けると、そこには母親と侍女数名が待ち構えていた。
「さあ、マティ。急ぐのよ!」
「お母さま……」
そのままドアを閉めて鍛錬場に引き返したい思いに駆られたが、殺気だった侍女たちが駆け寄って来て、部屋の中に引き摺り込まれた。
そのまま浴槽に放り込まれそうになる。
「待って、待って! せめて何か飲み物をちょうだい!」
訓練上がりにそのまま自室に戻って来たから、喉がからからだった。
本当は小腹も空いていたのだが、この臨戦態勢ではおやつにはありつけそうにない。
ソファーに腰を下ろし、コラリーが持って来てくれたグラスの水を一気に飲み干す。
「もう一杯ちょうだい」とグラスを返した時、ふと、テーブルの上に山盛りにされた赤い色に気がついた。
令嬢らしくない殺風景な自分の部屋にそぐわない色だったから、一瞬、何が置かれているのか理解できなかった。
目をこらすとそれは、大きな真紅の薔薇の花束だった。
「ヴィルジール殿下からよ。素敵よねぇ」
そんな言葉を言いつつも、母親のジョルジーヌの顔はなぜか不安げにこわばっている。
「ええっ? なんで? こんなものもらう理由はないわよ」
そう言いながら花束を持ち上げると、ずっしりと重い。
大輪の薔薇ばかり、五十本ほどある。
花束など、兄以外からはもらったことはないし、これほど大きく豪華なものも初めてだ。
今は騎士団の制服を着て砂埃にまみれた少年の姿をしているが、一応は女の子。
誰かから花束をもらうのは、それが単なる儀礼的なものだとしても単純に嬉しい。
薔薇の甘い香りについ頬が緩む。
しかし、その花の中に白い封筒が紛れ込んでいることに気づいて背筋がぞくりとなった。
「ひっ!」
母親はすでに存在に気づいていたらしく、花束の中を指差してこそっと耳打ちする。
「それ、何が書かれているの?」
「やだっ! 見たくない。もう、嫌な予感しかしないんだもの!」
マルティーヌは拒絶するように首を激しく横に振った。
「でも、見なきゃいけないわ。対策を考えないといけないでしょ?」
そう説得され、汚いものに触れるように、親指と人差し指の爪の先でつまんで封筒を引っ張り出した。
封筒は重ねられて二通あった。
一通は表の四辺を囲むように金色の凝った模様が描かれており、もう一通は白無地。
どちらも表書きはマルティーヌ宛となっており、裏には赤い封蝋に違った印璽が押されていた。
「もう……無理。お母さま、代わりに見て!」
マルティーヌは禍々しさしか感じない封筒を、二通とも母親に押し付けた。
「あなたにとっても、この家にとっても、良いものではなさそうね。特に、この金色の方……」
そう言いながら、母親が意を決して封を切った。
そして「あぁ……」と絶望的な声をあげた。
マルクは団長に呼び出されたという理由をつけて、早々に訓練を切り上げた。
鍛錬場の南側の空き地では、ヴィルジールが連れて来た騎士らが野営の準備を始めていた。
彼らはラヴェラルタ騎士団の宿舎や設備は使わず、訓練の一環として食と住を野営ですべて賄うのだという。
隊の実質的な指揮官はジョエルが務めているらしく、てきぱきと指示を出す様子が見える。
ヴィルジールは彼の隣で、作業の様子を監督していた。
「これなら、大丈夫だな」
彼らの注意が自分に向いていないことを確認して、鍛錬場から屋敷の裏口に回り、大急ぎで自分の部屋に向かった。
ドアを開けると、そこには母親と侍女数名が待ち構えていた。
「さあ、マティ。急ぐのよ!」
「お母さま……」
そのままドアを閉めて鍛錬場に引き返したい思いに駆られたが、殺気だった侍女たちが駆け寄って来て、部屋の中に引き摺り込まれた。
そのまま浴槽に放り込まれそうになる。
「待って、待って! せめて何か飲み物をちょうだい!」
訓練上がりにそのまま自室に戻って来たから、喉がからからだった。
本当は小腹も空いていたのだが、この臨戦態勢ではおやつにはありつけそうにない。
ソファーに腰を下ろし、コラリーが持って来てくれたグラスの水を一気に飲み干す。
「もう一杯ちょうだい」とグラスを返した時、ふと、テーブルの上に山盛りにされた赤い色に気がついた。
令嬢らしくない殺風景な自分の部屋にそぐわない色だったから、一瞬、何が置かれているのか理解できなかった。
目をこらすとそれは、大きな真紅の薔薇の花束だった。
「ヴィルジール殿下からよ。素敵よねぇ」
そんな言葉を言いつつも、母親のジョルジーヌの顔はなぜか不安げにこわばっている。
「ええっ? なんで? こんなものもらう理由はないわよ」
そう言いながら花束を持ち上げると、ずっしりと重い。
大輪の薔薇ばかり、五十本ほどある。
花束など、兄以外からはもらったことはないし、これほど大きく豪華なものも初めてだ。
今は騎士団の制服を着て砂埃にまみれた少年の姿をしているが、一応は女の子。
誰かから花束をもらうのは、それが単なる儀礼的なものだとしても単純に嬉しい。
薔薇の甘い香りについ頬が緩む。
しかし、その花の中に白い封筒が紛れ込んでいることに気づいて背筋がぞくりとなった。
「ひっ!」
母親はすでに存在に気づいていたらしく、花束の中を指差してこそっと耳打ちする。
「それ、何が書かれているの?」
「やだっ! 見たくない。もう、嫌な予感しかしないんだもの!」
マルティーヌは拒絶するように首を激しく横に振った。
「でも、見なきゃいけないわ。対策を考えないといけないでしょ?」
そう説得され、汚いものに触れるように、親指と人差し指の爪の先でつまんで封筒を引っ張り出した。
封筒は重ねられて二通あった。
一通は表の四辺を囲むように金色の凝った模様が描かれており、もう一通は白無地。
どちらも表書きはマルティーヌ宛となっており、裏には赤い封蝋に違った印璽が押されていた。
「もう……無理。お母さま、代わりに見て!」
マルティーヌは禍々しさしか感じない封筒を、二通とも母親に押し付けた。
「あなたにとっても、この家にとっても、良いものではなさそうね。特に、この金色の方……」
そう言いながら、母親が意を決して封を切った。
そして「あぁ……」と絶望的な声をあげた。
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