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第4章 禍々しい招待状
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「すごいな……。ヴィルジール殿下は本当に王族なのか?」
アロイスが感嘆の声を上げる。
マルクもまた、ヴィルジールの戦いぶりに衝撃を受けた。
ラヴェラルタ騎士団と隣国のハイドリヒ騎士団の騎士以外で、このような戦い方をする者を見たことがなかった。
その中でも、腕前はかなり上位に思える。
「そっか。そういえば彼は、赤魔狼を何頭も倒したはず。こんな腕がなければ、不可能だよな」
昨日の兄との模擬試合で見せた真っ当な剣筋では、敏捷でどう猛な赤魔狼を複数同時に相手にすることはできない。
そう、今彼が見せているような戦い方でなければ。
ヴィルジールとは旧知のオリヴィエも首をひねった。
「殿下がこんな戦い方をするのを初めて見たよ。一体どこで学んだんだろう。まるでうちの団員のような動きじゃないか」
「騎士学校じゃないの?」
マルクが不思議そうに問う。
オリヴィエとヴィルジールは同じ騎士学校で学んでいたから、同時ではなくとも、同じ訓練を受けたはずだ。
「いや、魔獣討伐剣術は教科としてはあるんだが、粗野で下品な剣とされているから王族や高位貴族は決して取らないんだよ。だから殿下も、騎士学校では学んでいないはずなんだ」
「へぇ、そうなん……だ」
自分たちが命がけで取り組んでいる剣が、騎士学校という公式な場でも蔑まれていることが悔しい。
この国を魔獣の脅威から守っている、誇り高き剣だというのに——。
その思いが伝わったのか、オリヴィエに背中をぽんと叩かれた。
最初は互角の戦いをしていた二人だったが、徐々にヴィルジールに疲れが見えてきた。
毎日厳しい鍛錬を積んでいるロランほどの体力はないのだろう。
魔力量も劣っているはずだ。
「団長、もう止めさせましょう。このまま、王子殿下に土をつける訳にはいきませんよ」
「そうだな」
アロイスの進言で、オリヴィエが「打ち合い止め!」と声を張り上げた。
剣を下ろしたヴィルジールは、しばらく肩で荒い息をしてから、ぱっと顔を上げた。
「ははははっ! やはりラヴェラルタは、若者でも強いな。とても敵わない!」
こんな風に声を上げて、心底楽しそうに笑う彼を見たのは初めてだったから、マルクは目を瞬かせた。
マルティーヌとして接したときは、お上品に造り上げた微笑か、何を考えているのか分からない胡散臭い笑顔だった。
昨日も、上に立つ者特有の、人を見下したような口元だけの傲慢な笑みだった。
けれど今は、騎士団の普通の若者と変わらない清々しい笑顔を浮かべながら、顎を伝う汗をぬぐっている。
「い、いえ……。殿下こそお強かったです」
「ありがとう、楽しかった」
王子に親しげに肩を叩かれて、いつも強気なロランも、さすがに恐縮したような様子を見せた。
そんな二人にオリヴィエが近づいていく。
「すばらしかったです、ヴィルジール殿下。驚きましたよ。我々と同じ、魔獣討伐の戦闘スタイルに見えましたが、どこで学ばれたのですか?」
さっきオリヴィエ自身が言ったように、王族の彼は騎士学校では学んでいないはずなのだ。
となると、学校以外の機会で身につけたことになるが、彼の立場ではそれも難しいように思う。
「いや、学んだことはない。見よう見まねだ」
「ええっ? 見よう見まねとは、とても思えませんでしたよ!」
オリヴィエが驚くと、ヴィルジールが「そうか」とまた嬉しそうに笑った。
そして、遠くを見るように目を細める。
「昔、とある剣士の戦い方に魅了されてね。ずっとあんな風に、自由に剣を振るってみたかったんだ。君たちと同じ剣に見えたのなら嬉しいよ」
「その、とある剣士って誰?」
マルクは、思わず話に食いついた。
アロイスが感嘆の声を上げる。
マルクもまた、ヴィルジールの戦いぶりに衝撃を受けた。
ラヴェラルタ騎士団と隣国のハイドリヒ騎士団の騎士以外で、このような戦い方をする者を見たことがなかった。
その中でも、腕前はかなり上位に思える。
「そっか。そういえば彼は、赤魔狼を何頭も倒したはず。こんな腕がなければ、不可能だよな」
昨日の兄との模擬試合で見せた真っ当な剣筋では、敏捷でどう猛な赤魔狼を複数同時に相手にすることはできない。
そう、今彼が見せているような戦い方でなければ。
ヴィルジールとは旧知のオリヴィエも首をひねった。
「殿下がこんな戦い方をするのを初めて見たよ。一体どこで学んだんだろう。まるでうちの団員のような動きじゃないか」
「騎士学校じゃないの?」
マルクが不思議そうに問う。
オリヴィエとヴィルジールは同じ騎士学校で学んでいたから、同時ではなくとも、同じ訓練を受けたはずだ。
「いや、魔獣討伐剣術は教科としてはあるんだが、粗野で下品な剣とされているから王族や高位貴族は決して取らないんだよ。だから殿下も、騎士学校では学んでいないはずなんだ」
「へぇ、そうなん……だ」
自分たちが命がけで取り組んでいる剣が、騎士学校という公式な場でも蔑まれていることが悔しい。
この国を魔獣の脅威から守っている、誇り高き剣だというのに——。
その思いが伝わったのか、オリヴィエに背中をぽんと叩かれた。
最初は互角の戦いをしていた二人だったが、徐々にヴィルジールに疲れが見えてきた。
毎日厳しい鍛錬を積んでいるロランほどの体力はないのだろう。
魔力量も劣っているはずだ。
「団長、もう止めさせましょう。このまま、王子殿下に土をつける訳にはいきませんよ」
「そうだな」
アロイスの進言で、オリヴィエが「打ち合い止め!」と声を張り上げた。
剣を下ろしたヴィルジールは、しばらく肩で荒い息をしてから、ぱっと顔を上げた。
「ははははっ! やはりラヴェラルタは、若者でも強いな。とても敵わない!」
こんな風に声を上げて、心底楽しそうに笑う彼を見たのは初めてだったから、マルクは目を瞬かせた。
マルティーヌとして接したときは、お上品に造り上げた微笑か、何を考えているのか分からない胡散臭い笑顔だった。
昨日も、上に立つ者特有の、人を見下したような口元だけの傲慢な笑みだった。
けれど今は、騎士団の普通の若者と変わらない清々しい笑顔を浮かべながら、顎を伝う汗をぬぐっている。
「い、いえ……。殿下こそお強かったです」
「ありがとう、楽しかった」
王子に親しげに肩を叩かれて、いつも強気なロランも、さすがに恐縮したような様子を見せた。
そんな二人にオリヴィエが近づいていく。
「すばらしかったです、ヴィルジール殿下。驚きましたよ。我々と同じ、魔獣討伐の戦闘スタイルに見えましたが、どこで学ばれたのですか?」
さっきオリヴィエ自身が言ったように、王族の彼は騎士学校では学んでいないはずなのだ。
となると、学校以外の機会で身につけたことになるが、彼の立場ではそれも難しいように思う。
「いや、学んだことはない。見よう見まねだ」
「ええっ? 見よう見まねとは、とても思えませんでしたよ!」
オリヴィエが驚くと、ヴィルジールが「そうか」とまた嬉しそうに笑った。
そして、遠くを見るように目を細める。
「昔、とある剣士の戦い方に魅了されてね。ずっとあんな風に、自由に剣を振るってみたかったんだ。君たちと同じ剣に見えたのなら嬉しいよ」
「その、とある剣士って誰?」
マルクは、思わず話に食いついた。
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