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第4章 禍々しい招待状
甘いお菓子の罠(1)
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約束の時間ちょうどに、ヴィルジールとジョエルが蔓薔薇のアーチをくぐった。
午後の彼は軍服ではなく、淡いグレーの丈の長い上着の内側に黒のベスト、黒のスラックス。
何重になっているのか分からないほど重ねられた白いタイが華やかだ。
前髪はすっきりと上げ、形の良い額を見せていた。
その装いだけで、今日は正式なお茶会スタイルでいくのだと分かる。
だとすると、紳士的な態度でいてくれるだろうから、遊び人風の彼よりは接しやすいだろう。
でも、油断は禁物。
敵はどんな手を使ってくるか分からないんだから。
気を引き締めたマルティーヌは、白いレースの手袋でローズピンクのドレスの裾をつまみ、淑女教育の教科書通りの丁寧な礼で彼を出迎えた。
「ごきげんよう、マルティーヌ嬢。しばらくだね。今日はお招きありがとう。また君に会えて嬉しいよ」
定型通りの挨拶に、『自分で仕込んでおいてよく言うわ』と、白々しく思いながらも、マルティーヌも心にもない挨拶を返す。
「ご機嫌麗しゅう存じます、ヴィルジール殿下。また殿下にお目にかかれて、光栄にございます」
マルティーヌからすると、久しぶりでもなんでもない。
彼はついさっきまで、丸太魔獣の訓練を監督するマルクに執拗につきまとっていた。
服装を整え、良い香水の香りをまとい、王子様らしい上品な笑顔を見せていても、この顔を見るのはもううんざりだ。
今すぐ王都に帰って欲しかった。
ヴィルジールがちらりと背後に視線を向けると、金色のリボンがかけられた赤い箱を両手で捧げ持ったジョエルが前に進み出てくる。
「オリヴィエに伝言を頼んだから聞いていると思うけど、君のために、王都で有名な職人にチョコレートを作らせたんだ。ぜひ味わってほしいと思ってね。チョコレートはお好きだろうか」
「えぇ。もちろんですわ」
この流れは、先日の二回目のお茶会と同じだ。
箱を受け取ったコラリーがリボンを解く。
中には、色や形、飾り付けが様々な、きらびやかな一口大のチョコレートが三十個ほど、びっしりと並べられていた。
箱の深さから考えると、三段ほど積み重ねられているようだ。
つまり、百個近くある。
一国の王子が手配しただけあって、品質も量も申し分なくすばらしい。
あんなにたくさんのチョコが、全部わたしのものに?
マルティーヌの胸は高鳴るが、前回、この段階で失敗しかけたことを思い出し、興奮を抑えて上品な微笑を浮かべる。
「まぁ。なんて素敵なのでしょう。ヴィルジール殿下のご厚意に感謝申し上げます」
「たくさんあるから、好きなだけ食べるといい」
ヴィルジールがそう勧めたが、前回大きなチョコレート菓子を三個盛り付けたコラリーは、昨晩の打ち合わせ通り、小さなチョコレートを三粒だけ皿の中央に置いた。
マルティーヌとしては、たった三粒なんて全然物足りないが、今はぐっと我慢だ。
「おや、それだけでいいのかい?」
怪訝そうに問う彼に、すました顔で答える。
「えぇ。それで充分ですわ」
「そうか。かわいそうに、マルティーヌ嬢は病弱だから、好きなものもあまり食べられないのだね」
彼が、ひっかかる物言いをしたが聞こえないふりをする。
「君、悪いが、私の皿にはもう二つほど追加してくれないか?」
「かしこまりました」
コラリーが、もうひとつの皿に五粒のチョコレートを盛り付けた。
「ヴィルジール殿下は甘いものがお好きなのですか?」
自分より多いチョコレートを羨ましく思いながら聞くと、「いや、全然」と謎の答えが返ってくる。
だったら、わたしのチョコ、食べないでよ!
箱の中のチョコレートが無駄に減ることを腹立たしく思いながら、それを顔に出さないよう、自分の目の前に置かれた皿を見つめた。
白い皿の中央に慎ましく置かれていたのは、薔薇の花を形取ったものと、金粉があしらわれたピンクの球状、白と茶のマーブル模様の木の葉型のチョコレート。
たくさんある中からコラリーが選び抜いた、マルティーヌ好みの華やかなチョコレートたちだ。
彼の皿は全体的に茶色に見えるから、シンプルなデザインのチョコレートが並んでいるようだ。
一通りの給仕が終わると、ヴィルジールが侍女に声をかけた。
午後の彼は軍服ではなく、淡いグレーの丈の長い上着の内側に黒のベスト、黒のスラックス。
何重になっているのか分からないほど重ねられた白いタイが華やかだ。
前髪はすっきりと上げ、形の良い額を見せていた。
その装いだけで、今日は正式なお茶会スタイルでいくのだと分かる。
だとすると、紳士的な態度でいてくれるだろうから、遊び人風の彼よりは接しやすいだろう。
でも、油断は禁物。
敵はどんな手を使ってくるか分からないんだから。
気を引き締めたマルティーヌは、白いレースの手袋でローズピンクのドレスの裾をつまみ、淑女教育の教科書通りの丁寧な礼で彼を出迎えた。
「ごきげんよう、マルティーヌ嬢。しばらくだね。今日はお招きありがとう。また君に会えて嬉しいよ」
定型通りの挨拶に、『自分で仕込んでおいてよく言うわ』と、白々しく思いながらも、マルティーヌも心にもない挨拶を返す。
「ご機嫌麗しゅう存じます、ヴィルジール殿下。また殿下にお目にかかれて、光栄にございます」
マルティーヌからすると、久しぶりでもなんでもない。
彼はついさっきまで、丸太魔獣の訓練を監督するマルクに執拗につきまとっていた。
服装を整え、良い香水の香りをまとい、王子様らしい上品な笑顔を見せていても、この顔を見るのはもううんざりだ。
今すぐ王都に帰って欲しかった。
ヴィルジールがちらりと背後に視線を向けると、金色のリボンがかけられた赤い箱を両手で捧げ持ったジョエルが前に進み出てくる。
「オリヴィエに伝言を頼んだから聞いていると思うけど、君のために、王都で有名な職人にチョコレートを作らせたんだ。ぜひ味わってほしいと思ってね。チョコレートはお好きだろうか」
「えぇ。もちろんですわ」
この流れは、先日の二回目のお茶会と同じだ。
箱を受け取ったコラリーがリボンを解く。
中には、色や形、飾り付けが様々な、きらびやかな一口大のチョコレートが三十個ほど、びっしりと並べられていた。
箱の深さから考えると、三段ほど積み重ねられているようだ。
つまり、百個近くある。
一国の王子が手配しただけあって、品質も量も申し分なくすばらしい。
あんなにたくさんのチョコが、全部わたしのものに?
マルティーヌの胸は高鳴るが、前回、この段階で失敗しかけたことを思い出し、興奮を抑えて上品な微笑を浮かべる。
「まぁ。なんて素敵なのでしょう。ヴィルジール殿下のご厚意に感謝申し上げます」
「たくさんあるから、好きなだけ食べるといい」
ヴィルジールがそう勧めたが、前回大きなチョコレート菓子を三個盛り付けたコラリーは、昨晩の打ち合わせ通り、小さなチョコレートを三粒だけ皿の中央に置いた。
マルティーヌとしては、たった三粒なんて全然物足りないが、今はぐっと我慢だ。
「おや、それだけでいいのかい?」
怪訝そうに問う彼に、すました顔で答える。
「えぇ。それで充分ですわ」
「そうか。かわいそうに、マルティーヌ嬢は病弱だから、好きなものもあまり食べられないのだね」
彼が、ひっかかる物言いをしたが聞こえないふりをする。
「君、悪いが、私の皿にはもう二つほど追加してくれないか?」
「かしこまりました」
コラリーが、もうひとつの皿に五粒のチョコレートを盛り付けた。
「ヴィルジール殿下は甘いものがお好きなのですか?」
自分より多いチョコレートを羨ましく思いながら聞くと、「いや、全然」と謎の答えが返ってくる。
だったら、わたしのチョコ、食べないでよ!
箱の中のチョコレートが無駄に減ることを腹立たしく思いながら、それを顔に出さないよう、自分の目の前に置かれた皿を見つめた。
白い皿の中央に慎ましく置かれていたのは、薔薇の花を形取ったものと、金粉があしらわれたピンクの球状、白と茶のマーブル模様の木の葉型のチョコレート。
たくさんある中からコラリーが選び抜いた、マルティーヌ好みの華やかなチョコレートたちだ。
彼の皿は全体的に茶色に見えるから、シンプルなデザインのチョコレートが並んでいるようだ。
一通りの給仕が終わると、ヴィルジールが侍女に声をかけた。
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