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しおりを挟む「……このままでは、“無かったこと”にされる」
魔力測定という“記録の儀式”が、事実を葬るための道具に化けたあの日から、アニカ=フォン=ヴァレンティナは決意を新たにしていた。
目的はただ一つ
真実を、沈黙の中から暴き出すこと。
そのために、まずすべきは“観測対象の絞り込み”。
学院記録庫の隅、出納台帳の古い棚に、アニカは透明化して潜り込んだ。
そこには、魔道具の貸出記録、測定装置の保守履歴、香材搬入の申請書が時系列で並んでいた。
一つひとつ、慎重に写し取る。
とくに気になったのは、あの測定室で使われていた晶盤の“異常交換履歴”。
記録された交換理由は「魔素過剰の疑いによる安全措置」けれど、それは後日修正された痕跡があった。
(……書き換えられてる。しかも、香材搬入記録と日付が一致している)
その“香”と“測定”をつなぐ線に、アニカの目が細まる。
*
同時刻、学院講師棟の奥。
臨時に設けられた審問官イザークの執務室にて、別の“観測”が行われていた。
「複数の人物が、“断罪”を制度として利用している。……そう仮定すれば、辻褄が合う」
彼は魔道具の操作記録、神託の発生時間と“香殿”の使用記録を突き合わせ、ある結論にたどり着いていた。
その頃、アニカが記録庫で得た情報と、イザークの調査結果は
奇しくも、同じ三つの名を浮かび上がらせていた。
ヴィルヘルム=グラッセ
──記録操作と断罪による利権配分
レオポルト=アルセリオ王太子
──王権強化と信仰の演出による正統性保持
セレナ=ファルミナ(王都香調師)
──神託香の調香と供給を担う影の調整者
三者の立場は異なれど、その目的はただ一つ。
“神託と断罪を制御可能な道具とすること”。
アニカは写本を閉じ、ふっと息をついた。
まだ足りない。証拠も、確証も、感情すらも。
けれど、見えてきた。
「――断罪を可能にした三角構造」
それが崩れれば、“正義”という名の舞台も共に崩れる。
アニカは静かに囁く。
「真実を語る者は、裁かれない。
ならば私は、沈黙の中で最も雄弁にならなければならない。
透明であっても、声なき記録者として」
その瞳には、観測者の冷静と、告発者の炎が共に宿っていた。
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