地味悪役令嬢、破滅回避のために全力で透明になります

黒瀬ユカ

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王太子レオポルトとの邂逅から一夜明けた朝、学院内に一通の通達が貼り出された。

《アニカ=フォン=ヴァレンティナ殿へ告ぐ。  
本日午後、魔力安定性の再測定を行うことを命じる》

理由は曖昧だった。  
“断罪騒動における魔力量の記録再確認”。  
断れる空気は、なかった。

(……わたくしの魔力を“測る”? 今さら何のために?)

胸の奥に、嫌な予感が走る。



魔力測定室
魔具と晶盤が並ぶ無機質な空間に、アニカは一人で立たされていた。

周囲には観測官数名と、見慣れぬ監査役が配置されている。  
「はい、では標準術式をお使いください」と、事務的な声。

(わたくしの魔法は、形式に適さない。  
けれど……やるしかない)

アニカは呼吸を整え、最も安定した透明化の基本式を静かに発動した。

晶盤に光が走り、魔力の数値が示される。

《魔力量:0.024 評価:極小》

ざわり、と室内に波が立つ。

「これでは、魔法と呼ぶにはあまりにも……」

「存在しないに等しいな」

聞こえてきたのは、誰かの冷笑。

(……想定通り。これは、“否定”のための測定)

魔力量が“極端に低い”という記録は、“危険性はない”という免罪符にされる一方、  
“魔法そのものが存在しなかった”という印象操作へと転化される。

アニカの魔法、その“透明”は、記録上、消されかけていた。



その夜、ジュリオの私室。

「やっぱり、細工されてたよ。  
出力減衰の符が、測定晶盤の魔回路に貼られた痕跡があった」

ジュリオは無言で差し出した符片の痕跡写しを机に置いた。

「記録を書き換える魔法じゃない。ただ、“出力を測れなくする”だけ。  
合法ぎりぎりの、狡猾なやり口だ」

アニカはそれを一瞥し、ため息一つ。

「記録を操ることで、真実を塗りつぶすのですね」

透明なまま存在してきたはずの彼女が、  
“透明すら存在しなかった”ことにされかけていた記録という檻の中で。

けれどアニカの目には、怒りではなく、静かな決意が宿っていた。

「沈黙が真実を消せるのなら、  わたくしの魔法で、その沈黙ごと暴いてみせましょう」

今や彼女の目的は、ただの“証明”ではない。  
真実を奪おうとする“仕組み”そのものを、観測し、記録し、崩すこと。

もはや、事実では戦えない。  
ならば、事実を超える証拠を“沈黙の中”から編み出してみせるのだ。
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