さよならを抱きしめて

ゆらゆま。

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さよならを抱きしめて〜第2章

不器用な会話

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入学式のざわめきがようやく落ち着き、新しいクラスでの自己紹介が終わった。
名前を呼ばれる声、笑い声、緊張を隠すような拍手――。
教室の窓から差し込む春の光はやけにまぶしくて、悠真は無意識に視線をそらした。

そして、隣の席に座る少女を見て、胸が跳ねる。
――桜の下で出会ったあの子。

彼女は静かに教科書を揃えながら、うつむきがちに微笑んでいた。
やはり、あのときの印象と同じ。
どこか影を宿した笑顔が、どうしようもなく心を揺らす。

勇気を振り絞って、悠真は声をかけた。

「……あの、今朝は校門で……」

彼女が顔を上げる。
長いまつげの奥で、淡い瞳が揺れている。

「うん。覚えてるよ。……おはよう」

短い返事だった。
でも、その声が自分に向けられたという事実だけで、胸が熱くなる。

沈黙が訪れる。
次の言葉が浮かばない。
友達のように軽く話せればいいのに、口の中が乾いて、ただ時間だけが過ぎていく。

「えっと……」と美桜が口を開いた。
「席、隣みたいだね。よろしく」

その笑顔に、悠真はやっと笑い返せた。
ぎこちない、たどたどしい会話。
それでも、ほんの少しずつ距離が縮まっていくのを感じた。

窓の外では、春風に揺れる桜がまだ散らずに残っていた。
その花びらが、まるで二人を祝福するかのように光の中で舞っていた。
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