軽四駆 × 異世界疾風録   season2 〜今度は家族全員で異世界へ! ランエボ乗りの妻がジムニーで無双する件〜

タキ マサト

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第一章 家族で異世界へ

2話 再訪 ( 一 )

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「きゃあああー!!!」
 視界が闇に完全に塞がれた。
 十二年前のあの災難を思い出し、心臓が縮み上がる。

「マジかッ!!」
 ブレーキを踏み込む田崎だったが、アスファルトから変わった地面はぬかるんだ草地で、タイヤが滑るようにして止まった。

 黒い霧が晴れる。

「……は? 何が起こったの……?」
 助手席の未来が田崎の腕にしがみつく。
 田崎はハンドルを握りしめて青ざめていた。
「わんわんわん!」
 リーが吠えた。そのリーの頭を抱え、碧は目を閉じて震えている。

「GPS信号を受信できません」
 ナビの画面には地図は表示されず、ピンが白い画面に立っていた。

「パパ……ママ……ここ……どこ……?」
 碧が目を開けて不安そうに言った時、田崎は見覚えのある風景だと気がついた。
 あの聖戒の陣があった、あの草原だった。

「碧、大丈夫だよ、ここは安全だ……」
 振り返ると闇の森が背後に、黒く枯れ果てていた。倒木と火災の跡が生々しく、生物の気配が絶えているような気がした。
「と思う……」
 田崎の胸の奥に懐かしさより先に苦い過去がよみがえり、ごくりと息を飲んだ。

「……ひいじいちゃんち……ここから近い?」
「……近いと言えば……近いかな」
 未来と碧の不安が手に取るように伝わってきた。
 未来は助手席で固まっていた。

 さっきまで見ていた雪道が消え、目の前には見たことのない草原が広がっている。
 空気の匂いも、光の質も、何もかもが違う。

「これは夢よね? 圭一から聞いたあの馬鹿げた夢の続きでしょ?」
 強がりを言った未来が田崎を見た。よほど酷い顔色をしていたに違いない。
 未来の顔もみるみる強ばった。
「ここって……パパが言ってた、あの……」
 碧の顔も蒼白になっている。そしてリーの頭にしがみついた。

「『ここは安全』ってどういうこと……?」
 未来の声がうわずる。
「それは……」
 なんと説明しようか答えに詰まったそのとき、

 ギャギャギャッという、ガラスに指で引っ掻くような聞き覚えのある叫び声が響いた。

「パパ! なにあれ!!」
 碧が悲鳴のような声を上げた。

 黒い不気味な影が上空を舞っていた。
 その黒い影は、猿の顔に巨大な蝙蝠のような翼、猛禽類のような鉤爪を備えたその姿は悪夢そのものだった。禍々しい重量感を漂わせながら滑空している。血走った赤い目が、獲物を定めるように地上を睨みつけていた。

 リーが唸り声を上げ、碧がその体にしがみつく手の力がさらに強くなった。

「嘘だろ……」
 田崎は反射的に低速四駆にギアを入れ替える。
 心臓が縮みあがり、十二年前の悪夢が脳裏を駆け巡った。

「圭一? あれ……なに?」
 未来が口に手を当てる。その手は小刻みに揺れていた。

「気づくなよ……気づくなよ……」
 ハンドルを握る手が汗ばむ。

 さらに耳障りな鳴き声が、大きくなったように感じた。

「あれって、まさか……」

 バサバサッ!!と複数の羽音が耳に届く。

「パパが言ってた……」

 そのとき、
 
 枯れた森から羽ばたきの音とともに、いっせいに羽を持つ猿が飛び立った。

 翼を翻し、ジムニーに向かって飛んでくる。

「は、羽猿……」
 田崎は呆然とつぶやいた。

「に、逃げろおお!!!」
 叫ぶと同時に、慌ててアクセルを全開に踏み込む。

 ジムニーの回転数が一気に上がり爆音が響いた。湿った草地にタイヤが空転し、泥を激しく巻き上げた。

「きゃああああああ!!!」
 未来と碧が悲鳴を上げたとき、ジムニーは勢いよく飛びだした。
 前方で翼を翻した羽猿の一匹が、フロントガラスに向かって飛来する。

「つかまってろよッ!!」
 田崎は叫ぶと、ハンドルを思い切り右に切った。
「きゃあああああ!!!」
 ジムニーは草地をすべるように右側のタイヤを浮かし、右に急旋回する。
 羽猿は方向転換できず、地面に激突した。

「わんわんわん!!」

「どっちに行けばいいんだッ?!」
 ナビをしてくれる小人はいない。
 小人の里はここから近いはず。
 しかし小人がいなければ、結界は開かない。

 右へ左へとハンドルを切る。
 ジムニーはその度に大きく跳ね上がった。

「きゃああああ!!」
 急降下してきた羽猿がルーフに激突するベコンという音とともに、衝撃でジムニーが揺れた。
「上に何かいるッ!」
 碧が叫んだ。
 ルーフにしがみついた羽猿の醜悪な顔がフロントから現れた。
「いやああああ!!」
 未来が叫び、田崎が思わず急ブレーキをかけると羽猿は、はずみで前に投げ出される。

「圭一ッ! 『安全』って言ったでしょおお!!」
 未来が真っ青な顔をして叫ぶ。
「パパ、家に帰りたいよ……」
 碧はリーにしがみつき、怯えて泣いていた。

 羽猿の群れは、ジムニーを敵と捉えたのか、上空に集まってきていた。

 けたたましい羽猿の叫び声が草原に轟く。

——これだけの羽猿に追われたら、どこに逃げてもすぐに囲まれる。

「さ、最悪だあああああ!!!」

 田崎の絶叫が草原に響き渡った。
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