軽四駆 × 異世界疾風録   season2 〜今度は家族全員で異世界へ! ランエボ乗りの妻がジムニーで無双する件〜

タキ マサト

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第六章 集結   

46話 開戦

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 その日の午後。

 ヴォルノ隊二百騎は、臨戦態勢を整え終わっていた。
 闇の森、巌窟寺院を目の前に臨む結界の中。

 ヴォルノは、懐の封印と背中に背負った白銀の錫杖の感触を確かめる。

『これをイリナ様に……』
 ホーガイに託された、あまりにも重い聖戒国の象徴。
 
 片方でも失われれば、光の管理者としての聖戒国の存在意義そのものが揺らぐ。

『イリナ様は、まだ鉄の車の中、意識が戻っていない』
 マオルカがヴォルノの鞍上で、不安げにつぶやいた。

 ヴォルノは悲観的な思考を振り払うように、視線を鋭く前に向けた。

『……鉄騎軍の主力が来る前に全てを終わらせる』
『鉄騎軍は、使い手に操られている可能性が高い』
『あの、影の呪縛を受けた武器だな……』
『闇を受け入れなければ、あの武具は使えない……』
 マオルカが目を閉じて首を振った。

 ヴォルノの脳裏に、法王の光に焼かれ、なお剣を振り上げた鉄騎軍の姿がよぎった。
 あれは、生きた兵ではなかった。

『あれは、持ち手と相手の生命力を奪い取る……』
 メガネがぼそっと言った。

『闇の呪いだね。使い手を倒せば、無力化できるかも……』
『それに、賭けるしかないか』

 そして今、目の前の巌窟寺院にいるのは『死兵』と報告を受けていた。

 昨晩の不吉な予感が、現実味を帯びてきた。

 その頃、グラン隊はナヴィとともに結界の中に潜んでいた。

『チョーローがもうすぐ、光の術を使う。それが作戦の合図』
『チョーローの光があれば、心強い』
 ナヴィとグランが頷き合った。

 ヴォルノ隊、グラン隊ともに息を潜めて、その瞬間を待っていた。




   *




「あー、緊張するわね」
 未来が汗ばんだ手をシャツで拭いた。

『ミク殿、必ず、ケイとアオを救う。鉄の車の御者をお頼み申す』
 リューシャが持つ小弓は微動だにしない。
 紋様は赤く脈打ったままだった。

「まかせなさい!」
 未来は再びハンドルに手をかけた。

「リューシャ? この剣は俺が持っててもいいのか?」
『問題ない。 ……敵の剣を奪う』
 リューシャはふっと笑って、未来をチラリと見た。
『本当は、あの鉄のスコップの方が良いのだろうけど……』
「仕方ないでしょ! あんな重いの。普通、家に置いとくわよ」
 モーイの訳を聞いた未来が、頬を膨らませた。

 その時、未来の目が小弓を持つリューシャの左手の紋様を捉えた。

「リューシャさん? そのう、その紋様 ……痛みはないの?」
「未来…… それは……」
『痛みはない。ただ時々、苦しくなる』
 リューシャは前を見つめたまま答えた。
 その整った横顔に一瞬、陰が差した。
「そう……」

『……』
「……」

 二人の女は何を思うのか。
 田崎は剣の柄を握りしめる事しか出来なかった。

 そのとき——

「光った! チョーローの光の術だ!」

 モーイが叫んだ。車内に緊張が走った。
 モーイの結界内からは、外の様子は分からない。

 その頃、結界の外ではグラン隊が寺院の前にいる鉄騎軍に突撃をかけていた。

『う……ん?』

 イリナがチョーローの光に反応したように、微かに呻き声を上げた。

「イリナ?」
 田崎が声をかけた。だが、目を開けることはない。
 イリナは再び、深い眠りに落ちたようだった。

「くそ……」

——碧の光が必要だ。早く、碧と合流しないと……

『チョーローの光としては、弱い…… 力を抑えてる?』
 モーイのつぶやきは誰にも届かずに消えた。

 はっと何かに気付かされたように、モーイは顔を上げた。

「今だ! ミクッ! 合図が来たッ!」
 モーイが慌てて叫んで杖を向けた。

「了解ッ!」
 エンジンキーをひねる。
 エンジンが唸りを上げた。
 左手は低速四駆に叩き込み、左足はクラッチへ。
 右足でアクセルを踏み込むと、ジムニーは結界を飛び出した。

 目の前は、戦場だった。
 
 鉄騎軍と騎士団の怒号と馬蹄の音、剣戟が鳴り響く。
 チョーローの光の術で鉄騎軍の騎士が持つ武具は燃え上がり、焦げていた。

 ジムニーは坂道を速度を上げて、転がり落ちるように下り始める。

 三方を崖で囲まれたボウル状の底に巌窟寺院は鎮座していた。

 巌窟寺院の石畳の広場。

 その正面を、数百の鉄騎軍が固めていた。

 グラン隊が正面から、ヴォルノ隊が側面から——二方向の挟撃。
 そして、その只中を切り裂くように、ジムニーが突進する。

 プワアアアン!! ヴォン! ガガガガッ!!

「どけどけッ! どけええ!!」 
 未来はクラクションを鳴らし続け、アクセルを床まで踏み抜いた。

 未来はモーイの杖の指すほうに強引にハンドルを切る。
 サスペンションが限界を超え、車体が跳ねるたびにフレームが悲鳴を上げる。
 暴れるハンドルを腕力でねじ伏せる。
 ジムニーのタイヤが砂利を巻き上げ、横滑りする。

「碧ッ! 待ってなさいッ!!」
 ジムニーは暴れる獣のように、戦場の只中を突き進んだ。
 接触した鉄騎軍の馬がいななき、騎士を振り落とす。

 リューシャは激しく揺れる窓から身を乗り出し、矢を次々と放っていった。

『グラン隊!! 寺院の正面の道を切り開く!!』
 グランが吠えた。
『いくわよ!!』
 ハンクの鉄槌が火を噴いた。鉄騎軍が弾けるように飛んでいく。

 その開かれた道を、ジムニーが突っ込んでいく。

『タサキ!! 頼んだ!!』
 グランは砂煙を上げて跳ね飛んでくるジムニーに、親指を立てた。

『ヴォルノ隊! グラン隊の援護を!!』
 側面からヴォルノ隊が雪崩れ込み、切り掛かった。

 だが、鉄騎軍の騎士は斬られても、馬で蹴られても、折れた剣を持ってゆらりと立ち上がった。

 ありえない角度で曲がった関節、獣に噛まれた生々しい傷跡。
 それでも動き続けていた。
 痛みを感じぬ亡者のように、次々と騎士団に襲いかかる。

 その表情は無機質で、すべての感情を失っているようだった。

『死兵か……!』
『闇に取り込まれてる……』
『……使い手! 許せん!』
 ヴォルノは憤怒の形相で怒号を上げた。

『死兵など! 恐るに足らん!!』

 ヴォルノは白銀の光を帯びた剣を掲げた。

『ヴォルノ隊! グラン隊に遅れを取るな!! 突撃ぃ!!』
『ウオオオオオ!!!』

 騎士団の気迫が、鉄騎軍を押し込んでいく。

「ミクッ! あそこだ! 突っ込め!!」
 モーイが杖を指す先に、巌窟寺院の入り口が暗い門を開けていた。

「了ッ! 解ッ!」

 未来はハンドルを切ると、立ち塞がる一人の騎士を跳ね飛ばし、そのまま門の中へ飛び込んだ。

 ジムニーは暗闇の中に飲み込まれ、消えていく。

——その時だった。

 ゴ ォ ォ ォ ォ オ ォ ォ !!!

 古竜猿の特大な咆哮が、巌窟寺院の広場に轟き渡った。

 それはすべてを飲み込み、地上の存在すべての希望を打ち砕くような、絶望的な響きだった。


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