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第六章 集結
47話 集結
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巌窟寺院に響き渡った咆哮。
その少し前、その主はまだ闇の森の奥に潜んでいた。
オムカと碧とケイは羽ピーの首の付け根にまたがっていた。
結界の中でそのときを今かと待ち受けていた。
碧の紋様の光が、羽ピーの体を包んでいる。
少し前まで体を痛めつけていた光が、今は金色の鱗に反射し、神々しさえ放っている。
羽ピーはもう、あの羽猿ではなくなっていた。
ケイの紋様からの影も、絶え間なく羽ピーに注がれ続けている。
羽ピーの変貌は、すでに不可逆的なところまで進んでいた。
その力強い鼓動が、ケイの足元から直に伝わってくる。
『ハネピー…… ごめん…… 僕のせいで』
『グアッ!』
羽ピーは太くなった首を巡らせ、ケイを見た。
ケイの顔が曇る。
だが、その瞳はまだ、あの優しい羽ピーのままだった。
ケイの胸が締め付けられる。
その様子を見ていたオムカがつぶやいた。
『結界を出たら、ケイの膨大な影が、あの竜猿を目覚めさせる……』
『でも、行かないと……』
「早く、パパとママのところに行こうよ!」
「モウ、チョット、マッテ」
オムカは柔和に笑うが、その目は笑ってはいなかった。
その頃、巌窟寺院では、騎士団と鉄騎軍の戦端が切って落とされていた。
ジリジリとした時間が流れる。
『早すぎても、古竜猿が来たら、すべてを目茶苦茶にする……』
かといって遅すぎたら、使い手は止められない。
『チョーローからの合図がまだ来ていない……』
チョーローは魔の森の魔女とどうやったのか分からないが、同盟を結んだらしい。
『ババ様が助けてくれる……?』
ケイは知っていた。
ババ様と長時間過ごして無事に済んでいた理由が、この紋様の影と碧の光だったということを。
「ババ様? あの人、怖いけど、良い人だよね?」
碧のその呑気な声に、ケイは苦笑するしかなかった。
生身でいたら、ものの数分で命を吸い尽くされてしまう相手だ。
『チョーローから連絡が来たッ!』
オムカが叫んだ。
『ハネピー! 飛べ!』
ケイが号令をかける。
『グアアアッ!!』
羽ピーが巨大な翼を広げ、力強く羽ばたく。
つむじ風が舞い、羽ピーの目が金色に鋭く光った。
羽ピーは三人を乗せたまま一気に空へ舞い上がると、結界を突き破って飛び出した。
遅い午後の日差しが、羽ピーの金色の鱗を眩しく染め上げた。
剣戟の音、怒号が闇の森の上空に響き渡る。
血と臓物の腐臭が上空にまで漂っていた。
『グアァ……』
羽ピーがその不穏な空気に反応したかのように低く鳴いた。
しかし、
『グワアアァァ……アアアァァ!!!』
その羽ピーの鳴き声は、後から続いた竜猿の咆哮に、たちまちにかき消された。
大気が震える。
離れた戦場で、騎士も鉄騎軍も動きを止めた。
戦場のすべての音が、凍りついたように止んだ。
振り返ったケイの視界の端に、絶望が映った。
闇の森の木々が、まるで波が引くように一斉に薙ぎ倒された。
土煙が爆発的に舞い上がる。
その中から、山のように黒い巨体が姿を現した。
『……早すぎる』
『待ち受けていた……?』
オムカとケイの顔が緊張に包まれた。
「ドラゴンモンキーッ?! 羽ピー!! 逃げてえッ!」
『グアッ! グアッ!』
羽ピーは必死に翼を羽ばたかせた。
その背後に、あまりにも重い圧が迫る。
羽ピーとその背中に乗る三人の空気が押し潰されるようだった。
古竜猿が翼を広げ、大気を叩きつけるように飛び立つ。
その風圧で木々が倒れ、土煙が舞う。
『グゥワア…… アアァァ!!』
古竜猿は一気に高度を上げ、獲物を見据える。
『ハネピー!! あそこだ!!』
オムカの目が巌窟寺院を捉えた。
闇の森の窪地に隠れるように佇む、巌窟寺院に杖を向ける。
『竜猿も一緒に来ちゃう! ダメだよ!』
『二人は巌窟寺院で降りて!! タサキが中で待ってる!!』
羽ピーは滑空しつつ降下体勢に入る。
眼下に激しくぶつかり合う騎士団と鉄騎軍の姿が一瞬、見えた。
『ハネピーとぼくで竜猿の注意を引く!』
『オムカさん!!』
「きゃっ!」
Gに耐えきれず、碧とケイが悲鳴を上げる。
『グアワアアア!!』
そのとき、古竜猿の巨大な影が、羽ピーの上に覆いかぶさった。
*
『グラン!!』
『団長!! よく無事で!』
グラン隊とヴォルノ隊は二方向から鉄騎軍を挟撃し、制圧しつつあった。
鉄騎軍は昨夜のスタンピードの被害が甚大だったようだ。
チョーローの光で焼けただれた武具は、もはや脅威にもならない。
騎士団の組織的な戦いの前に、次々と切り伏せられていく。
だが、闇の呪いで倒れても起き上がり、次々と数で押し寄せる。
骨が突き出たまま、臓物をぶら下げ、無表情なまま、折れた剣を振りかざす。
それでも、彼らは動いていた。
『ええい! 厄介な!』
『もう、やつらは人ではない! せめて光に返してやれ!』
確実に首を刎ね、その呪われた動きを止めていく。
そんな乱戦の最中、ヴォルノは斥候からの絶望的な報告を受け取っていた。
『鉄騎軍の…… 本隊が来る……』
馬を寄せてきたヴォルノのその一言に、グランは言葉に詰まった。
目の前の敵を制圧しつつあるとはいえ、グラン隊も満身創痍だった。
悪いことは続く。
戦場の上空に、さらに竜猿の咆哮が轟いた。
『時間がない……』
ヴォルノは空を見上げた。
『グラン! お前しかいない。これをイリナ様に……』
ヴォルノは懐から封印を出し、背負っていた錫杖とともにグランの手に託した。
『団長……?』
『武勇はお前の方が上だが、組織的な用兵ならば俺の方が上だ』
ヴォルノはにやりと笑った。その目には諦観と、後を託す希望の光が揺らいでいた。
『俺が鉄騎軍の本隊を食い止める』
『ヴォルノ団長…… それは……』
『イリナ様を頼む、グラン』
グランは唇を噛みしめた。
『……グラン。命令だ』
グランは深く息を吸い込んだ。
『グラン隊ッ! 全員、よく聞けッ!!』
グランは喉が裂けんばかりに声を張り上げる。
『グラン隊はこれよりヴォルノ団長の指揮下に入れ!!』
『はっ!!』
『ナヴィは偵察を続けろ! 鉄騎軍本隊の動きを逐一報告せよ!』
『了解!』
『絶対に死ぬな!!』
『ハッ!!』
続いて叫ぶ。
『ハーンクッ!! ついてこいッ!!』
『任せなさい!』
グランとハンクの二騎は、死兵の群れの中に切り込んでいく。
目指すは巌窟寺院。
二騎は一陣の風となり、戦場を駆け抜けていった。
*
巌窟寺院からほど近い闇の森の奥。
そこに闇と冷気に包まれたドーム状の黒い塊があった。
『そろそろじゃの、もし』
ババ様は闇の中で目をギョロリと開けた。
『古竜猿も来ておるわいな、もし』
黒い塊から出る影が、その体へと収束していく。
魔の森の民は、地下広場から逃げ出した百五十人程から三十人弱までに数を減らしていた。だが、残ったのは精鋭たちだ。
『なんとかしないと、わしらも全滅じゃの、もし』
『それは困るだな、もし』
ババ様一行はそれぞれの羽猿にしがみついた。
『まずは、あの月の輩との決着をつけなければのう、もし』
『皆のものッ!! 巌窟寺院に突撃じゃあ、もしい!!』
ババ様を先頭にした羽猿の群れは、闇の森の木々の間を黒い風のようにすり抜け、巌窟寺院へと一直線に向かった。
その少し前、その主はまだ闇の森の奥に潜んでいた。
オムカと碧とケイは羽ピーの首の付け根にまたがっていた。
結界の中でそのときを今かと待ち受けていた。
碧の紋様の光が、羽ピーの体を包んでいる。
少し前まで体を痛めつけていた光が、今は金色の鱗に反射し、神々しさえ放っている。
羽ピーはもう、あの羽猿ではなくなっていた。
ケイの紋様からの影も、絶え間なく羽ピーに注がれ続けている。
羽ピーの変貌は、すでに不可逆的なところまで進んでいた。
その力強い鼓動が、ケイの足元から直に伝わってくる。
『ハネピー…… ごめん…… 僕のせいで』
『グアッ!』
羽ピーは太くなった首を巡らせ、ケイを見た。
ケイの顔が曇る。
だが、その瞳はまだ、あの優しい羽ピーのままだった。
ケイの胸が締め付けられる。
その様子を見ていたオムカがつぶやいた。
『結界を出たら、ケイの膨大な影が、あの竜猿を目覚めさせる……』
『でも、行かないと……』
「早く、パパとママのところに行こうよ!」
「モウ、チョット、マッテ」
オムカは柔和に笑うが、その目は笑ってはいなかった。
その頃、巌窟寺院では、騎士団と鉄騎軍の戦端が切って落とされていた。
ジリジリとした時間が流れる。
『早すぎても、古竜猿が来たら、すべてを目茶苦茶にする……』
かといって遅すぎたら、使い手は止められない。
『チョーローからの合図がまだ来ていない……』
チョーローは魔の森の魔女とどうやったのか分からないが、同盟を結んだらしい。
『ババ様が助けてくれる……?』
ケイは知っていた。
ババ様と長時間過ごして無事に済んでいた理由が、この紋様の影と碧の光だったということを。
「ババ様? あの人、怖いけど、良い人だよね?」
碧のその呑気な声に、ケイは苦笑するしかなかった。
生身でいたら、ものの数分で命を吸い尽くされてしまう相手だ。
『チョーローから連絡が来たッ!』
オムカが叫んだ。
『ハネピー! 飛べ!』
ケイが号令をかける。
『グアアアッ!!』
羽ピーが巨大な翼を広げ、力強く羽ばたく。
つむじ風が舞い、羽ピーの目が金色に鋭く光った。
羽ピーは三人を乗せたまま一気に空へ舞い上がると、結界を突き破って飛び出した。
遅い午後の日差しが、羽ピーの金色の鱗を眩しく染め上げた。
剣戟の音、怒号が闇の森の上空に響き渡る。
血と臓物の腐臭が上空にまで漂っていた。
『グアァ……』
羽ピーがその不穏な空気に反応したかのように低く鳴いた。
しかし、
『グワアアァァ……アアアァァ!!!』
その羽ピーの鳴き声は、後から続いた竜猿の咆哮に、たちまちにかき消された。
大気が震える。
離れた戦場で、騎士も鉄騎軍も動きを止めた。
戦場のすべての音が、凍りついたように止んだ。
振り返ったケイの視界の端に、絶望が映った。
闇の森の木々が、まるで波が引くように一斉に薙ぎ倒された。
土煙が爆発的に舞い上がる。
その中から、山のように黒い巨体が姿を現した。
『……早すぎる』
『待ち受けていた……?』
オムカとケイの顔が緊張に包まれた。
「ドラゴンモンキーッ?! 羽ピー!! 逃げてえッ!」
『グアッ! グアッ!』
羽ピーは必死に翼を羽ばたかせた。
その背後に、あまりにも重い圧が迫る。
羽ピーとその背中に乗る三人の空気が押し潰されるようだった。
古竜猿が翼を広げ、大気を叩きつけるように飛び立つ。
その風圧で木々が倒れ、土煙が舞う。
『グゥワア…… アアァァ!!』
古竜猿は一気に高度を上げ、獲物を見据える。
『ハネピー!! あそこだ!!』
オムカの目が巌窟寺院を捉えた。
闇の森の窪地に隠れるように佇む、巌窟寺院に杖を向ける。
『竜猿も一緒に来ちゃう! ダメだよ!』
『二人は巌窟寺院で降りて!! タサキが中で待ってる!!』
羽ピーは滑空しつつ降下体勢に入る。
眼下に激しくぶつかり合う騎士団と鉄騎軍の姿が一瞬、見えた。
『ハネピーとぼくで竜猿の注意を引く!』
『オムカさん!!』
「きゃっ!」
Gに耐えきれず、碧とケイが悲鳴を上げる。
『グアワアアア!!』
そのとき、古竜猿の巨大な影が、羽ピーの上に覆いかぶさった。
*
『グラン!!』
『団長!! よく無事で!』
グラン隊とヴォルノ隊は二方向から鉄騎軍を挟撃し、制圧しつつあった。
鉄騎軍は昨夜のスタンピードの被害が甚大だったようだ。
チョーローの光で焼けただれた武具は、もはや脅威にもならない。
騎士団の組織的な戦いの前に、次々と切り伏せられていく。
だが、闇の呪いで倒れても起き上がり、次々と数で押し寄せる。
骨が突き出たまま、臓物をぶら下げ、無表情なまま、折れた剣を振りかざす。
それでも、彼らは動いていた。
『ええい! 厄介な!』
『もう、やつらは人ではない! せめて光に返してやれ!』
確実に首を刎ね、その呪われた動きを止めていく。
そんな乱戦の最中、ヴォルノは斥候からの絶望的な報告を受け取っていた。
『鉄騎軍の…… 本隊が来る……』
馬を寄せてきたヴォルノのその一言に、グランは言葉に詰まった。
目の前の敵を制圧しつつあるとはいえ、グラン隊も満身創痍だった。
悪いことは続く。
戦場の上空に、さらに竜猿の咆哮が轟いた。
『時間がない……』
ヴォルノは空を見上げた。
『グラン! お前しかいない。これをイリナ様に……』
ヴォルノは懐から封印を出し、背負っていた錫杖とともにグランの手に託した。
『団長……?』
『武勇はお前の方が上だが、組織的な用兵ならば俺の方が上だ』
ヴォルノはにやりと笑った。その目には諦観と、後を託す希望の光が揺らいでいた。
『俺が鉄騎軍の本隊を食い止める』
『ヴォルノ団長…… それは……』
『イリナ様を頼む、グラン』
グランは唇を噛みしめた。
『……グラン。命令だ』
グランは深く息を吸い込んだ。
『グラン隊ッ! 全員、よく聞けッ!!』
グランは喉が裂けんばかりに声を張り上げる。
『グラン隊はこれよりヴォルノ団長の指揮下に入れ!!』
『はっ!!』
『ナヴィは偵察を続けろ! 鉄騎軍本隊の動きを逐一報告せよ!』
『了解!』
『絶対に死ぬな!!』
『ハッ!!』
続いて叫ぶ。
『ハーンクッ!! ついてこいッ!!』
『任せなさい!』
グランとハンクの二騎は、死兵の群れの中に切り込んでいく。
目指すは巌窟寺院。
二騎は一陣の風となり、戦場を駆け抜けていった。
*
巌窟寺院からほど近い闇の森の奥。
そこに闇と冷気に包まれたドーム状の黒い塊があった。
『そろそろじゃの、もし』
ババ様は闇の中で目をギョロリと開けた。
『古竜猿も来ておるわいな、もし』
黒い塊から出る影が、その体へと収束していく。
魔の森の民は、地下広場から逃げ出した百五十人程から三十人弱までに数を減らしていた。だが、残ったのは精鋭たちだ。
『なんとかしないと、わしらも全滅じゃの、もし』
『それは困るだな、もし』
ババ様一行はそれぞれの羽猿にしがみついた。
『まずは、あの月の輩との決着をつけなければのう、もし』
『皆のものッ!! 巌窟寺院に突撃じゃあ、もしい!!』
ババ様を先頭にした羽猿の群れは、闇の森の木々の間を黒い風のようにすり抜け、巌窟寺院へと一直線に向かった。
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