婚約破棄〜さようなら、あなたのしあわせな未来【完結】

春の小径

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口は禍の角

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女性簒奪者はヒジとヒザで切断された、人工授精による代替母。
ひたすら妊娠と出産を繰り返す国の道具。
4~5ヶ月の胎児を子宮内にいれ半年で出産。
投薬により2ヶ月はかかる子宮の収縮が一週で落ち着くと再び胎児を育てる揺り籠となる。
休みなく繰り返す出産は代替母の精神を壊していく。
子宮によっては、女性から取り出されて人工子宮として機械に繋がれる。
機械より子宮で育てたいというのが研究者たちの願いであり、子宮の提供者が罪人なら罪の意識はない……マッドサイエンティストではない。

「終身刑や死刑になるくらいなら子宮をちょうだい。もう使う場所がないんだからいいでしょ。子宮が必要な子たちがいるのよ」


では男性の簒奪者は?
そちらは労働で罪を償わされる。
ただしそれに異を唱えたら口は禍の角……自業自得である。

「差別だ!!!」
「じゃあ、人工子宮を詰めてやりましょうか?」

こうして妊夫にんぷとして貸し腹となる。
もちろん女性たちと同じ、休みなく延々と繰り返される。

「あら? 本当の子宮じゃないからで済むなんて楽ね。出産後に新しい子宮を詰めて縫うだけだから身体の負担もないわあ」

大事なことなのでもう一度いおう…………自業自得である。


フェスタは知らされただろうか。
クローンだった恋人たちは、顔を変えても記憶を消されても心は残っている。
そして罪人に落ちた恋人の身の回りの世話は……感情をなくしたブレイド、ヴァレッセ、ケイレン、コルフ。
彼らクローンたちの仕事。
彼らに機械的に世話をされ、医学の知識を植えつけられた彼らの手で出産させられ、新たな胎児を子宮に入れられる。

手足を失ったルベッカもまた、クローンたちの世話を受ける。
整形された彼女たちの顔は……ルベッカ自身だ。
ルベッカは双子だった。
彼女が殺したとは思っていない、が……階段で遊んでいた双子の姉は『手すりの隙間から落ちた』という。
目撃をした侍女の話では、ルベッカが手すりの間から下を覗いていた。
その後ろから手を伸ばした双子の姉は、ルベッカがしゃがんだため『前のめりになって落ちていった』という。
事故と処理された。
ルベッカがしゃがんだのは、靴についていた水玉模様に目がいったからだ。
小さな頃、靴や服の水玉などの模様を指でひとつずつ触る子がいる。
ルベッカもしゃがんで靴の水玉模様を楽しそうに押していたら、姉が階段から落ちたのだ。

「子供は無邪気だ。背中を押そうとしたのだろう。殺そうとしたとは思わないがイタズラで押そうとしたのは確かだろう」

当時はそんな話があった。
ルベッカたちは罪人の卵子提供で体外受精された……実験体だった。
後継者がすでにいた伯爵が精子提供となった。

「結局、が遺伝して増えていきましたね。まともな家族の中で育てたらどうなるか。幸せになれるかどうか知りたかったのに」
「ああ。ルベッカの提供された卵子で生まれた子たちが幸せになれるならこのままにするつもりだったが」
「いまは見守りましょう。愛情豊かに育った彼らが正しく生きられれば……」

ばら撒かれた卵子で生まれた子供と孫はあわせて183人。
そのうち、罪を犯したのは12人。
うち2人が今回のフェスタとルドアンだったが、果たして多いと見るか。
ただ、友だちの物を拝借したパクった窃盗や、ケンカで突き飛ばしたなどで大きな怪我はさせていない。

「どれも子供時代で、大人になってから問題を起こしたのは彼ら以外にはいない」

2人が何もしなければ、せめてブレイドがフェスタと共に生きていきたいと正式な婚約解消ができていれば、『子供ができないが幸せな未来』が待っていただろう。


クローン技術で知られていない重大な問題がひとつ。
クローンは『現在のオリジナル』をもとに作られる。
平均寿命が80代の現代。
オリジナルが50代ならクローンの寿命は30年もない。
オリジナルの寿命が60代だったら……
本当にのために作られた、間に合わせの存在でしかないのだった。
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