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無知から生まれた悲劇
しおりを挟むクローンは必ず完璧な状態で生み出されるわけではない。
一度の誕生に最低でも5体は受精させる。
ブレイドは三度目の受精で成功した、正式コード『ザイコック27』。
彼は作られた32体の27番目で唯一の成功品だった。
労働者となった31体と違い、彼は使用人としてどこかの家で仕えることができたはずだ。
その顔は整形で変えられ、髪は綺麗に刈りとられて男性用のボンネットかキャスケットをかぶる。
そのことは学園で習っている。
屋敷にそんなクローンを雇っている貴族もいる。
クローンは無償労働だ。
ブレイドたちのように、自分がそんなクローンだと知らない子息令嬢は多い。
将来正式な戸籍が与えられる場合もあるため、人間とクローンの教育に差はない。
その配慮が今回の罪を生み出した。
「やはり……クローンは人と分けた方が良いだろうか」
「それではのちに戸籍を手に入れたときに不具合がでてしまう」
再び始まった議論。
何か問題が起きるたびに始まる当主会。
「カルシア侯爵、いかがお考えかな?」
「私ですか? 若輩者の稚拙な考えでよろしければお耳汚しとなりますがお時間を頂戴いたします」
このときの私の意見は認められた。
『クローンの学校をわける』
勉強内容は同じだが、クローンにはクローンの教養が必要だ。
「人と見た目が同じだということが問題なら、わけてしまえばいいのです。クローンには人間の常識が足りないように存じます」
「確かに人としての倫理のなさが問題だ。失礼だが此度の一件はノイド男爵家以外がクローンという事実も問題だ」
「ノイド男爵家のルドアン様も知らなかったとはいえ……」
「その度は申し訳ございません」
「ルドアン様は借金奴隷となられ、今は労働に励んでおられるとか」
「はい。カルシア侯爵のご配慮で、借金が完済したら男爵家に戻ることが許されました」
「ですが、蟄居を命じます」
「はい。彼以外に後継者はおりませぬ。そのため精子提供者という形で活かすこととしました」
後継者が誕生したらルドアンも簒奪者の1人として罰を受ける。
彼も借金奴隷や蟄居で終わりではないのだ。
すでに死んだものとしてクローンたち同様、使い捨ての存在になったのだ。
フェスタは伯爵家で出産する予定で預けられたが……
屋敷を抜け出したことで『反省の色なし』と判断された。
そして彼女はルベッカ同様、女性簒奪者として国に身体を差し出すこととなった。
お腹の中の子は、屋敷を抜け出したときに流れてしまった。
「なんで⁉︎ 子供ができたら必ず生まれるのではないの!!! 投げ飛ばされたときは何ともなかったじゃない!」
「あれは手加減したのと絨毯の毛が長くクッションになったからだ。侯爵が『生まれる子の罪は問わない』と仰られたから生まれるまで伯爵家に……このまま子供は養子として育てるはずだったのに」
「いやあああああああああああああああ…………」
無知から生まれた悲劇だった。
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