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第三章
有能な人材を見極めて自国に引っ張り込む
しおりを挟む「以上をもちまして調印式は終了となります」
進行を請け負ってくれたドゥヴェール帝国の宰相の宣言で、緊張感とそれ以上の殺気で張り詰めていた会場内に拍手と安堵の気配が広がっていく。
アノール国を相手にサフェール国とドゥヴェール帝国が代表となって抗議した結果、今日の調印式が行われた。
そう、私たちはアノール国に抗議をした各国の代表。
アノール国に突きつけた抗議文書にはドゥヴェール帝国の友好国が名を連ねていた。
それとは別に、各国からドゥヴェール帝国に届けられた信書も使者は携えてきていた。
あのとき、ドゥヴェール帝国からの使者が手にした信書……抗議文書の数々を文字通り頭から浴びせられたアノール国国王は、この世の終わりという表情を見せていた。
そのすべては表向きは抗議文だが、裏を返せば『お前ら、絶対許さねえ』という恨みと憎しみと怒りが多分に込められて、呪詛というパウダーをふんだんに振りかけられている。
赦しを乞うために当事者や関係者の身柄を各国に一人ずつ引き渡したら、そのまま行方不明となるだろう。
「引き渡された者たちの身柄は、我が帝国がいただいてもよろしいですか?」
「どのような処罰をお考えなのか伺ってもよろしくて?」
「もちろんです。我が帝国には複数の鉱山を有しており、その中には最大地下四階層まで達している鉱山もあります。彼らはその最深部に送ります」
「確かに最深部に配置すれば、簡単に逃げだすこともできませんな」
「我が帝国の鉱山は重罰刑に使われております。そのため、入ったら二度と出られない鉱山も多くあります。そのほとんどの坑道には途中で簡易宿泊所があります。休憩や宿泊はそこで済ますため、わざわざ坑道から出てくる必要がありません」
「一度に八人の永久雇用とは羨ましいものだ」
抗議に連名した各国から代表がやってきて合同会議が行われた。
同席させられたアノール国王と宰相は針の筵だっただろう。
すでに国の存続は許されず、罪の在処を照らし合わせているのだから。
彼らはこの会議で何とかして交渉をして王家の存続を望んでいたようだが……各国の代表たちがそれを許さなかった。
被害国であるサフェール国とドゥヴェール帝国は代表を送ったにもかかわらず、各国は国王が乗り込んで来ていたのだ。
ある意味、世界会議なのだ。
彼らに被告である自分たちが申し開きなどできはしなかった。
さらに口が挟めないよう先制パンチを繰り出しておいた。
「あなた方は何故『他国の少女に聖女の資格があるのか』に気付きませんでしたか?」
その言葉に目をそらす宰相と考える素振りを見せる国王。
宰相はその理由に仮定をもうけているのだろう。
「この国では、聖女候補が国外へ逃げ出した過去がありますね」
「何故それを……」
「────── やはり、そうだったのですね」
国王と宰相の反応が面白いほど違う。
各国の代表もその反応を面白そうに見守っている。
すでにこの国は消滅を前提になっている。
だったら、有能な人材を見極めて自国に引っ張り込む。
そのために、各国は国王と宰相たち側近を連れ乗り込んできた。
「私たち王家の先祖に、この国から逃げた聖女候補が嫁いでいます」
「それでは、あなた方サフェール国は聖女候補だった方の……」
「聖女候補を奪った国だということか!」
「いえ、違いますね。無理矢理召し上げられた聖女候補はすでにサフェール国の王太子と成婚していました。そんな王太子妃を当時の国王が懸想し、聖女候補として王城内の神殿に奪いました。それをサフェール国から正式に抗議を受け王太子妃の返還を求められると、国王は使者を一刀してそれを返答としました。その結果はこの国でも伝えられているようですね。そして国王は聖女候補に二度と逃げられぬよう、聖女候補の家族を殺害する法を追加した」
「それは我々サフェール国と長く国交のある各国では有名な話です。当時は国境で追手を討ち払い逃がすことに成功しました」
「あのとき、この国を滅ぼしていればこのような悲劇は起きなかった」
「お前たちにはあのときの罪も償ってもらう。そのために我々はここまで来たんだ」
各国の代表たちから憎しみの視線を向けられて国王は黙る。
彼らの視線で殺されれば楽になれただろう。
現実には指一本も動かしたら生命を奪われるような緊張下の中で話を聞かされることとなった。
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