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1巻
1-3
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確かにあの時、ルードヴィヒは意外にも赤面していたと思い出す。
「ただの布であるにも拘らず、女体の美しさを存分に引き立てる存在。それがパンティーなのです。イザベル嬢の白い清楚なレースパンティーと同じものを購入したのですが、やはり布だけでは昂らず……パンティーは女性が身に纏って初めて完成する至高の品だと気がつきました! よって今の俺は、君が穿いているところを想像しないと、愚息に血が通わない状態でして……」
「待っ……! この数日間で、買ったのですか!? 同じものを!?」
「はい! 買いました!」
「っ!?」
元気いっぱいに返事をしてきて、思わず脱力する。
なぜだろう。変態な発言しかしていないのに、美形だし声もよいから、いっそ爽やかだ。
あの時のパンツは、貴族学院の近くの店で買った新品で、確かに手に入りやすかっただろうけれど……いくら昂ったからって、こんなに高貴な方が自ら女性用の下着を買う?
「ど、どうしてそこまで……」
すると、先ほどまでキラキラとご褒美を待つ大型犬のような眼差しだったルードヴィヒが、ややシュンとした表情になる。
「周りに結婚を急かされていまして、二ヶ月後に王太子がセッティングしたお見合いがあるのです。できればそれまでに子を成せるように訓練したく……」
なるほど。いざ婚約すると、娼館での訓練は不貞行為になってしまうから、彼も必死なんだ。
誠実なのか、不誠実なのか分からないが、彼の切実な想いだけは伝わってきた。
(結婚初夜を迎えても、子作りできなかったら……夫婦にとって辛いことだものね)
男としてのプライドを投げ捨て、藁にも縋る思いで私を頼ってきてくれた人を、新人娼婦として無下にすることなどできない。
それにもうバッドエンドに突入したのだし、たった二ヶ月の間ここでルードヴィヒと逢おうとも、攻略キャラが干渉してくることはなかろう。
深入りしなければ問題ないと思うと、彼の頼みは断れなかった。
これも、仕事のうちだ。
「状況は理解しました! これから一緒に頑張りましょうね」
「イザベル嬢……! ありがとう、恩に着る」
――うっ、やっぱり眩しい……!
ルードヴィヒは、そこまで表情を動かしているわけじゃないのに瞳がきらきら輝いていて、喜んでいるのが伝わってくる。後光まで見えるほどだ。
私はソファから降りて、彼の前に立つ。
こういうのは、勢いよくやったほうがいい。
あの日のように勇気を振り絞って、シュミーズドレスの裾を掴む。
「それでは、まずご所望通り……ど、どうぞご覧くださいませ……っ!」
魔法を使うまでもなく、スカートの裾を掴み、私は思い切り捲った。
太腿にすうっとした空気が触れ、目の前にいるルードヴィヒの双眼がパンツを映す。
彼の喉仏がごくりと鳴るのが聞こえて、羞恥でスカートの裾を持つ手が震える。
私は耐えきれず、ぎゅっと目を瞑った。
「な、薔薇の刺繍が入ったパンティーだと……っ!?」
あまりの衝撃を受けた様子に驚き、そっと薄目を開けてルードヴィヒの様子を窺う。
すると案の定、彼は目を見開き、赤面していた。
しかしその瞳には、先ほどまではなかった激しい情欲が宿っていて、思わず背筋がぞくりと震えた。
「もはやパンティーは、美術品だというのか……っ!」
ルードヴィヒはうわごとのように呟くと、ソファに座ったまま下衣を寛げ始めた。
いつまでパンツを見せていればよいのだろうと、彼の動きを目で追っていたら、寛げた下衣から立派な昂りが飛び出てきた。
「ひっ」
思わず息を呑み、その昂りを凝視したのち、我に返って目を逸らす。
――ど、どうして突然逸物を取り出して……!?
初めて見る男根は勃起しているのか、血管が浮き出ていて、想像を遥かに超える大きさだった。臍のほうまで反り返っていたことに驚きを隠せない。
(私を見て、こんなふうになってくれるだなんて……)
恥ずかしさと、女性としての悦びが交じりあって、彼の熱が移ったように体温が上がっていく。
けれども、私は娼婦になったのだ。いつまでもふわふわとした心地ではいられない。
パンツを見せたままだけど、必死に心を沈め、平静を装って問いかける。
「あの、昂りをお慰めいたしましょうか……っ」
「――いや、この昂りは自分で鎮めるッ」
(え?)
ルードヴィヒはいい声で言うなり、自らの逸物を握って、力強く扱き始めた。
「……っ、は……イザベル嬢…………」
「いやあ、その手を止めてください……! ここは娼館ですから、私が……っ!」
男根を扱くたび、卑猥な水音と、彼の息遣いが部屋中に響き渡る。
目の前で繰り広げられる、あまりに淫靡な行為に、私の顔は燃えるように熱くなった。
「……っく、ぁ……君は、そのまま……パンティーを見せてくれ……」
私は首を縦に振り、スカートの裾を持つ手を、強く握り締めることしかできない。
ルードヴィヒの熱い視線が、私の肌に纏わりついて離れようとしなかった。
ただ彼に見られているだけでお腹の奥が熱くなって、速まる鼓動とともに呼吸が浅くなる。
まるで時間が止まったように、彼の淫らな姿から目を離せられなくなった。
すると、低い唸り声が聞こえて――
「……イザベル嬢、っ、……出る……」
切なげに名前を呼ばれ、ドキリと胸が跳ねた瞬間、ルードヴィヒの身体が大きく震え、扱く手つきが強まる。
そしてぎゅっと絞り出すように、男根を強く擦ると――激しい熱液が噴出した。
「……は、ぁ……素晴らしいパンティーを見せてくれてありがとう、イザベル嬢……」
吐息混じりの蕩けた声色でお礼を言われ、どうしてか胸が締めつけられる心地がした。
あまりの出来事に呆然としていると、彼は素早く自身を清め、下衣を直した。
「ああ、俺の予想は当たっていた」
言いながらルードヴィヒは立ち上がり、こちらに歩み寄る。
接近する彼に驚いて、持っていたスカートの裾を思わず離すと、剥き出しの足はシュミーズドレスの中に隠れた。
まるでエスコートするようにソファへ座らせられ、ルードヴィヒは再び私の足元に跪く。
そして、あろうことか私の左足を持ち上げて、爪先に口づけたのだ。
「俺はあの日、君のパンティーを見て天啓を授かりました……やはり、イザベル嬢じゃないと、ダメみたいだ……」
「っ!?」
「――頼む。どうかこの俺を、君の素晴らしきパンティーの力で救ってくれないか……!」
あの乙女ゲームに出てくるキャラの中で、唯一のまとも枠だと思っていたのに。
(ま、まさか私が、性癖を開花させてしまうなんて……!?)
とんでもない責任を感じ、私は思わず項垂れた。
逃げたい。逃げたいけれども……これは言い逃れなどできやしない。
私は、全てを諦めながら重い口を開いた。
「……パンツを穿いている女性なら、他にもいますが……本当に私でいいのですか?」
「はい! イザベル嬢でないと、血が集まらないんだ……!」
眉を下げ、必死に縋る健気なルードヴィヒを見た瞬間、心が揺らいだ。
(あれ……私、なんか変だ……)
相手は乙女ゲームの登場キャラで、あまり深入りし過ぎないほうがいい。
なのに、どうして胸がざわついて、こんなに目が離せないの?
画面越しではない生身の男性が、ここまで求めてくれる状況に酔ったのだろうか。
戸惑う中、心臓が早鐘を打つように激しく鳴る。
漠然と、私の中の足りないものが補われ、ようやく歯車が噛み合ったような感覚に陥った。
「では、先ほども申し上げましたが、一緒に頑張りましょうね」
さっきも言った台詞なのに、自分の声に艶が滲んでいるのが分かる。
その証拠に、ルードヴィヒは、再び飢えた獣のような表情に変わった。
(彼と関わるのは短い間だけ。それなら、少しくらい踏み込んでも……許される、よね……?)
熱い視線に欲望をまざまざと感じる。
そんな顔をされると、どうしようもなく劣情が駆り立てられてしまう。
気づけば自然と手が伸び、騎士なのにシミ一つない、きめ細かい頬を撫でた。
「普段ご自身でする時は、今のように気持ちよく達せるのですよね」
「……ええ」
恥ずかしそうに視線を逸らされて、私の口角が上がっていく。
「参考までに、普段どのようにご自身を慰めているかお伺いしても?」
耳どころか、首まで真っ赤に染めたルードヴィヒは、太腿の上で大きな手をぎゅっと握り締め、上擦った声で言う。
「さ、先ほどのように手で扱いたり、床に擦りつけたりしています……」
「なるほど。頻度はどのくらいなのですか?」
「……っ、毎日、だ……」
かあっと照れて、握り拳を顔に当てるルードヴィヒを見て思う。
彼が、こんなにも可愛らしい人だったなんて……
余裕がなくなると敬語が崩れるところにも、キュンキュンしてしまう。
「ルードヴィヒさま。お悩みごとを解消するために、私の言うことを聞いていただけますか?」
「勿論です」
忠犬のような表情で断言するルードヴィヒを見て、私はくすりと微笑んだ。
「でしたら、明日からは自慰をしないでください」
「っ! なぜですか……?」
彼は驚きのあまり瞳を揺らしている。可哀想だけれど、これにはきちんと訳がある。
「先ほど見た限りになりますが、陰部に対してとても強い刺激を与えているように見受けます。女性の中で達せるようになるには、弱い力でも快感を拾うことに慣れたほうがいい気がして……」
前世の知識ではあるけれど、少しは効果があると思うのだ。
「代わりと言ってはなんですが……せっかく私の二ヶ月間を買ってくださったので、逢いに来てくださった時には優しくお慰めします」
その様子を想像したであろうルードヴィヒの喉が鳴る。
まさかと思って、不躾にも下腹部を一瞥すると、何やら存在感が増していた。
先ほど吐精したばかりなのにもう元気だなんて、彼は本当に不能なのだろうか……
若干疑いの眼差しで見てみると、ルードヴィヒは慌てて弁解した。
「こ、これは……! 申し訳ありません。イザベル嬢とこうして話しているのが夢みたいで……」
「え? 私のことを前からご存じだったのですか?」
「……秘密です」
そう言われると、余計に気になってしまう。
貴族学院では目立たないよう徹底したはずなのに、いつの間に存在を認識されていたのだろう。
どうにも引っかかるが、私は本来の仕事を思い出してコホンと咳払いした。
「既に私のことは知っているのかもしれませんが、今日は自己紹介も兼ねて、手を繋いだり抱きしめあったりしてみませんか?」
「はい! 喜んで!」
今度はぶんぶん尻尾を振っている幻覚が見える……
私の一言で一喜一憂するルードヴィヒを前にして、今まで踏み潰されてきた自尊心が満たされていく感覚がした。
「お手をどうぞ、ルードヴィヒさま」
またしても、床に膝をついたままだった彼に手を差し出すと、おやつを前にした大型犬が素早くお手をするように、大きな手が置かれた。
もう片方の手で、ルードヴィヒの大きな手を包む。自分の手とは全く違うゴツゴツとした感触で、剣を扱うためか皮膚が分厚く、立派な剣だこがあった。
「この大きな手が、日々この王国を護ってくださっているのですね」
両手でルードヴィヒの大きな手を握ったまま、ふと思ったことを口に出すと、彼は目を見開いた。
そんな彼を引っ張って、ソファへと促す。
私も先ほどよりも近づいて隣に座ると、今度は指と指を絡めるように手を繋いだ。
「イザベル嬢……」
あまりにも悩ましげな声で、私は笑みを深める。
「ルードヴィヒさま、あなたのことをもっと教えてください」
「俺の話をしても、なんの面白味もありませんが……」
「ふふ、それでは順番に質問し合いませんか?」
ルードヴィヒは、素直にこくりと頷いてくれた。
娼婦のスキルはまだ習得できていないけれど、初めてのお客さまの情報を引き出して話題が尽きないようにしなくては! と謎の使命感で燃えてきた。だけど、どんな質問がいいか悩んでしまう。
繋いだ手をぎゅっと握り、咄嗟に思いついたものを問いかける。
「ええと、ご、ご趣味はなんですか!」
「剣の手入れです」
「ご年齢は?」
「イザベル嬢の二つ上の二十歳です。今年二十一歳になります」
「休日はどのように過ごされて?」
「鍛錬のため、剣を振っています」
――お見合いかっ!
我ながら質問力がなさすぎて、若干落ち込む……
けれども、本当に剣一筋なのだなぁと尊敬の念を抱いた。
「俺からもいいですか?」
「はい、どうぞ!」
顎に指を当てて、真剣に質問を考えるルードヴィヒの怜悧な横顔を見ていたら、ふと我に返った。
――今私、こんな美形相手に、平然と自分から手を繋いでしまった!?
途端に繋いでいる手を意識してしまい、汗が滲んでしまわないかと心配になってくる。
気恥ずかしさと居た堪れない気持ちで質問を待っていると、ようやっと彼が口を開いた。
「いつもいい匂いがするのですが、香水の銘柄を教えていただきたいです……!」
「え!? 匂いますか!? 特に何もつけてはいないのですが……」
「何もつけていなくてこの花のような芳しい香りがっ!?」
驚愕しているルードヴィヒに苦笑いする。
自分でも匂いを嗅いてみるが何も感じない。まさかヒロイン特性なのだろうか……?
「では好きな宝石はなんですか」
「ほ、宝石!? うーん、実母がよく身につけていたサファイアですかね」
「好きな食べ物は?」
「腐敗していたり、カビが生えていたり、砂などが入っていない食べ物なら、なんでも好きです!」
あああ、予想外の質問の連続で、元令嬢の風上にも置けない回答をしてしまった……!
彼もちょっと不思議そうな顔をしているし、絶対変な人だと思われた。
もっと他にいい答えがあったはずなのに、どうして私は……ッ!
内心頭を抱えつつも、咄嗟に思いついた質問をぶつける。
「ルードヴィヒさまは、どんな色が好きですか?」
「以前イザベル嬢が穿いていた、白いレースのパンティー色です!」
「っ!?」
――ヤメテ! そんな色は存在しないから!
もっとこう今後に役立ちそうなことを引き出さなくちゃ。
「そうだ。どんな女性が好みですか?」
「特にありません。王太子殿下に群がる女性たちに散々酷い目に遭わされたので、イザベル嬢以外の女性には触れられるのも受けつけないのです……」
「あ……」
もしかして自慰でしか達せないのは、何か複雑な理由があって……?
だとすれば、なんて無神経な質問をしてしまったんだろう。
……それに私も、ヨシュカ王太子に群がったうちの一人だ。
「ごめんなさい。私もあのお方の前で大胆なことをしてしまいましたので、嫌悪の対象ですよね」
「イザベル嬢は違います! あの日の君は、死地に向かう覚悟をした騎士のような面持ちでした。それに王太子殿下を慕う類の眼差しではなかったので、きっとやむを得ぬ事情があったのでしょう」
――どうして、そこまで私のことを理解してくれているのだろう。
彼は私を安心させるように繋いだ手をぎゅっと握り、真剣な眼差しで告げた。
「大丈夫です。王太子殿下も、あの程度で咎めはしません」
目的のために自分がやったことに後悔はない。
けれど、ルードヴィヒを前にすると、どうにも後ろめたい気持ちが湧いてくる。
そんな私の感情すらも理解しているかのように、彼は口を開いた。
「イザベル嬢、君さえよければ……」
途中で言葉を飲み込み、彼は口を噤んだ。
そして誤魔化すように、不器用な微笑みを浮かべ、言葉を紡ぐ。
「いいえ、なんでもありません……それよりも。質問、俺の番ですよね?」
私がこくりと頷くと、繋いだ手を軽く引かれた。
「……抱きしめてもよろしいですか?」
「っ!」
耳元で囁く彼の硬質な低い声に、どきりと心臓が跳ねる。
ルードヴィヒは、ソファの座面に手をつき、隣にいる私に向きあうように徐々に近づいてくる。
間近に迫る端整な顔に、思わず現実逃避した瞬間――
壊れものを触るが如く、そっと背中に手が回され、気づけば分厚い胸板が目の前にあった。
こんなふうに抱きしめられるなんて、両親が亡くなってからは初めてだ。
(あたたかい……)
今まで忘れていた人の温もりに触れて、泣きそうな気持ちになる。
「俺に抱きしめられても嫌じゃないですか?」
呟いた声はあまりに小さく、ルードヴィヒの自信のなさが滲んでいた。
「……嫌な気持ちなんて、一切ないです……とっても温かくて……なんだか、安心します……」
強張っていた身体が徐々に解れていく。なぜか彼の体温に縋りつきたくなるほど切なくなって、私も背中に腕を回してしなだれかかった。
すると、優しく持ち上げられ、ルードヴィヒの膝の上に降ろされる。
彼との距離が近くなり、急に唇から目が離せなくなった。
この甘い空気に呑まれるように、私は掠れた声でそっと強請った。
「キス、してもいいですか……?」
渇望の眼差しで見つめられ、ぞくりと背筋が震える。
返事代わりに、綺麗な顔が近づいてきて……
――瞬く間に、彼との距離がゼロになった。
ルードヴィヒの唇は、想像以上に柔らかく甘美で、胸の奥がじんわりと熱を帯びる。
唇を重ねるだけの行為なのに、これほど高揚するのはどうしてだろう。
触れるだけのくちづけを、角度を変えながら何度も受け止める。
前世と合わせても初めてのキスで、呼吸が整わないまま浅く息をしていると、私の下腹に大きくて硬いモノが当たったのに気がついた。
そのまま、私のお腹に擦りつけようとするルードヴィヒに気づき、我に返って声を絞り出す。
「ルードヴィヒさま――まっ、待て、です!」
咄嗟の声かけだったが、彼はぴたりと動きを止めてくれた。
お願いを聞いてくれたルードヴィヒにお礼をするように頬を撫でると、熱い眼差しが返ってくる。
その期待に応えるように、私は彼の耳元で囁いた。
「明日から我慢していただくので、今だけは無理なさらなくてもいいですよ」
私の一言で、ルードヴィヒはすぐさま大きくなった男根を取り出した。
けれども、扱こうとしている彼の手を掴み、私は続けて呟く。
「ただし、私の手で慰めさせてください」
「っ、ああ……可憐な雰囲気なのに、艶やかで……今までイザベル嬢に触れてきた男を八つ裂きにしてやりたいくらいです」
もしかして、私が殿方に慣れていると思っているのだろうか。
だとすれば、ちょっと複雑だ。
「あの……私のファーストキスは、さっき……ルードヴィヒさまと、です……!」
「――……!?」
「……私、学院であんな破廉恥なことをしましたが……殿方と触れあうのは、ルードヴィヒさまが初めてなんです……あなたのお悩みが解決するように頑張るので……私にも殿方のことを勉強させてください……っ」
もし手慣れた女性のほうがよかったとしたら? 期待外れだとがっかりされたらどうしよう。
嫌な考えが頭を過り、指先が震える。
けれども、ルードヴィヒは私の不安を包み込むように、優しく言葉を紡いだ。
「俺がイザベル嬢の初めてなんて、そんな名誉をいただけるとは夢のようだ……! 俺にできることはなんでも言ってください。誠心誠意尽くす覚悟です」
真摯な眼差しで寄り添ってくれる彼のことを、信じたいと願ってしまうのはなぜだろう。
パンツフェチだし、未だ下半身が昂っているし、すぐに信用してしまうのは時期尚早だと思う。
それでも、ルードヴィヒとはいい関係を築けるだろうと、私の直感が働くのだ。
「こんな私を受け入れてくださって、ありがとうございます」
「っ」
久しぶりに思い切り笑った私は、頬の筋肉が引き攣ってしまったが悪い気分じゃなかった。むしろこの頬の痛みすら、懐かしいと思える日が来るのではないかと期待してしまうのだ。
「ルードヴィヒさま、失礼しますね」
これから触れることを伝えるように肩に手を置くと、また彼は赤面をしていた。
私は悪戯っぽく笑い、先ほどの彼のように質問した。
「私が触れるのは、嫌じゃないですか?」
「ご褒美です……!」
「なら、何よりです」
私は彼の頬にキスを落とした後、その膝の上から降り、内腿を指先でゆっくりとなぞる。
そのまま輪郭を確かめるように男根へと指を滑らせると、彼の身体が大きく跳ねた。
――実際に触れると、熱くて、硬くて、より大きく感じる。
こんなにも長くて太いものが、本当に女性の中に入るのだろうか……?
改めてまじまじと見つめると、ルードヴィヒはもどかしそうに自らの拳を握りしめた。
きっと期待しているのだろう。私の視線だけで、切っ先から透明な液が滲み出てくる。
我慢してお利口に待つ彼の熱望が直に伝わり、私はその透明な液を手の平に纏わせ昂りを覆った。
だが、すぐには動かさない。焦らしていると、彼の腰に力が入る。
動かしたいのを必死に堪えているようだ。
「……く、イザベル嬢……」
物欲しげな眼差しを向けられると、私の心が愉悦に震える。
「動かしてほしいですか?」
「はい……っ、お願いします……」
高貴な身分の彼が、年下の新人娼婦の言いなりになってくれるだなんて……本当に可愛い人だ。
透明な液を潤滑剤代わりにして、優しく上下に扱いてやるだけで、淫らな音が立つ。
同時に、ルードヴィヒは呼吸を荒くして、苦しげに喘いだ。
「もっと、もっと強く……」
私が強く握ったとて、彼が普段しているような強い刺激には及ばないだろう。
弱い力でも達せるように練習するには、まだ早いと判断して、ルードヴィヒの願いを叶えるべく、めいっぱい握りしめた。
「……っ、気持ちいい、です……」
吐息と共に漏れた声色が恍惚に染まっていて、期待に応えられたのだとホッとする。
ただ扱くだけではつまらないので、戯れつくように先端を握って、試しに捻るように回してみたところ、裏筋の部分の反応がよかった。
それから執拗に裏筋を擦ると、ルードヴィヒは歓喜の声を上げた。
「っく、手を握っても……?」
私が頷くと、扱いている手の上に、彼の大きな手が覆いかぶさってきた。
男根を包む私の手ごと、ぎゅっと掴まれ、堪らないとばかりに彼の腰が動き始める。
「あ、っ……ルードヴィヒ、さま……!?」
ルードヴィヒを攻めていたはずなのに、今度は私の手が彼に犯されているような感覚に陥る。
目の前には、あまりに淫靡な光景が広がっていた。
手のひらに激しく擦れる男根の感触に煽られ、私は思わず熱い息を吐く。
「イザベル嬢、もう……」
「はい……どうぞ、達して……」
手のひらを、突き上げられ、揺さぶられて……こんなにも淫らな擬似性交をされてしまったら、いつか彼と本当に交わる時のことを意識してしまう。
ルードヴィヒの恍惚とした表情に見惚れていると、彼は次第に柳眉を顰めていった。
そして一層力強く突き上げると、男根が大きく震え、白濁した液が勢いよく噴出した。
気がつくと私の呼吸は乱れていて、部屋に二人の速い息遣いだけが響いていた。
ふいに二人の視線が交差し、無言で見つめあう。
蕩けるような表情を浮かべているルードヴィヒから目が離せない。
――今の私。どんな顔をしているんだろう……
私たちは互いに求めあうように手を繋ぎ直し、時間が許す限り、触れるだけのキスを何度も交わした。
やがて陽が暮れると、彼は週に一度は必ず来ると言い残し、娼館エリュシオンを去った。
私は熱の余韻が残ったまま、与えられた自室に戻ってベッドに寝転がる。
そして緊張の糸が切れたのか、そのまま眠ってしまったのだった。
「ただの布であるにも拘らず、女体の美しさを存分に引き立てる存在。それがパンティーなのです。イザベル嬢の白い清楚なレースパンティーと同じものを購入したのですが、やはり布だけでは昂らず……パンティーは女性が身に纏って初めて完成する至高の品だと気がつきました! よって今の俺は、君が穿いているところを想像しないと、愚息に血が通わない状態でして……」
「待っ……! この数日間で、買ったのですか!? 同じものを!?」
「はい! 買いました!」
「っ!?」
元気いっぱいに返事をしてきて、思わず脱力する。
なぜだろう。変態な発言しかしていないのに、美形だし声もよいから、いっそ爽やかだ。
あの時のパンツは、貴族学院の近くの店で買った新品で、確かに手に入りやすかっただろうけれど……いくら昂ったからって、こんなに高貴な方が自ら女性用の下着を買う?
「ど、どうしてそこまで……」
すると、先ほどまでキラキラとご褒美を待つ大型犬のような眼差しだったルードヴィヒが、ややシュンとした表情になる。
「周りに結婚を急かされていまして、二ヶ月後に王太子がセッティングしたお見合いがあるのです。できればそれまでに子を成せるように訓練したく……」
なるほど。いざ婚約すると、娼館での訓練は不貞行為になってしまうから、彼も必死なんだ。
誠実なのか、不誠実なのか分からないが、彼の切実な想いだけは伝わってきた。
(結婚初夜を迎えても、子作りできなかったら……夫婦にとって辛いことだものね)
男としてのプライドを投げ捨て、藁にも縋る思いで私を頼ってきてくれた人を、新人娼婦として無下にすることなどできない。
それにもうバッドエンドに突入したのだし、たった二ヶ月の間ここでルードヴィヒと逢おうとも、攻略キャラが干渉してくることはなかろう。
深入りしなければ問題ないと思うと、彼の頼みは断れなかった。
これも、仕事のうちだ。
「状況は理解しました! これから一緒に頑張りましょうね」
「イザベル嬢……! ありがとう、恩に着る」
――うっ、やっぱり眩しい……!
ルードヴィヒは、そこまで表情を動かしているわけじゃないのに瞳がきらきら輝いていて、喜んでいるのが伝わってくる。後光まで見えるほどだ。
私はソファから降りて、彼の前に立つ。
こういうのは、勢いよくやったほうがいい。
あの日のように勇気を振り絞って、シュミーズドレスの裾を掴む。
「それでは、まずご所望通り……ど、どうぞご覧くださいませ……っ!」
魔法を使うまでもなく、スカートの裾を掴み、私は思い切り捲った。
太腿にすうっとした空気が触れ、目の前にいるルードヴィヒの双眼がパンツを映す。
彼の喉仏がごくりと鳴るのが聞こえて、羞恥でスカートの裾を持つ手が震える。
私は耐えきれず、ぎゅっと目を瞑った。
「な、薔薇の刺繍が入ったパンティーだと……っ!?」
あまりの衝撃を受けた様子に驚き、そっと薄目を開けてルードヴィヒの様子を窺う。
すると案の定、彼は目を見開き、赤面していた。
しかしその瞳には、先ほどまではなかった激しい情欲が宿っていて、思わず背筋がぞくりと震えた。
「もはやパンティーは、美術品だというのか……っ!」
ルードヴィヒはうわごとのように呟くと、ソファに座ったまま下衣を寛げ始めた。
いつまでパンツを見せていればよいのだろうと、彼の動きを目で追っていたら、寛げた下衣から立派な昂りが飛び出てきた。
「ひっ」
思わず息を呑み、その昂りを凝視したのち、我に返って目を逸らす。
――ど、どうして突然逸物を取り出して……!?
初めて見る男根は勃起しているのか、血管が浮き出ていて、想像を遥かに超える大きさだった。臍のほうまで反り返っていたことに驚きを隠せない。
(私を見て、こんなふうになってくれるだなんて……)
恥ずかしさと、女性としての悦びが交じりあって、彼の熱が移ったように体温が上がっていく。
けれども、私は娼婦になったのだ。いつまでもふわふわとした心地ではいられない。
パンツを見せたままだけど、必死に心を沈め、平静を装って問いかける。
「あの、昂りをお慰めいたしましょうか……っ」
「――いや、この昂りは自分で鎮めるッ」
(え?)
ルードヴィヒはいい声で言うなり、自らの逸物を握って、力強く扱き始めた。
「……っ、は……イザベル嬢…………」
「いやあ、その手を止めてください……! ここは娼館ですから、私が……っ!」
男根を扱くたび、卑猥な水音と、彼の息遣いが部屋中に響き渡る。
目の前で繰り広げられる、あまりに淫靡な行為に、私の顔は燃えるように熱くなった。
「……っく、ぁ……君は、そのまま……パンティーを見せてくれ……」
私は首を縦に振り、スカートの裾を持つ手を、強く握り締めることしかできない。
ルードヴィヒの熱い視線が、私の肌に纏わりついて離れようとしなかった。
ただ彼に見られているだけでお腹の奥が熱くなって、速まる鼓動とともに呼吸が浅くなる。
まるで時間が止まったように、彼の淫らな姿から目を離せられなくなった。
すると、低い唸り声が聞こえて――
「……イザベル嬢、っ、……出る……」
切なげに名前を呼ばれ、ドキリと胸が跳ねた瞬間、ルードヴィヒの身体が大きく震え、扱く手つきが強まる。
そしてぎゅっと絞り出すように、男根を強く擦ると――激しい熱液が噴出した。
「……は、ぁ……素晴らしいパンティーを見せてくれてありがとう、イザベル嬢……」
吐息混じりの蕩けた声色でお礼を言われ、どうしてか胸が締めつけられる心地がした。
あまりの出来事に呆然としていると、彼は素早く自身を清め、下衣を直した。
「ああ、俺の予想は当たっていた」
言いながらルードヴィヒは立ち上がり、こちらに歩み寄る。
接近する彼に驚いて、持っていたスカートの裾を思わず離すと、剥き出しの足はシュミーズドレスの中に隠れた。
まるでエスコートするようにソファへ座らせられ、ルードヴィヒは再び私の足元に跪く。
そして、あろうことか私の左足を持ち上げて、爪先に口づけたのだ。
「俺はあの日、君のパンティーを見て天啓を授かりました……やはり、イザベル嬢じゃないと、ダメみたいだ……」
「っ!?」
「――頼む。どうかこの俺を、君の素晴らしきパンティーの力で救ってくれないか……!」
あの乙女ゲームに出てくるキャラの中で、唯一のまとも枠だと思っていたのに。
(ま、まさか私が、性癖を開花させてしまうなんて……!?)
とんでもない責任を感じ、私は思わず項垂れた。
逃げたい。逃げたいけれども……これは言い逃れなどできやしない。
私は、全てを諦めながら重い口を開いた。
「……パンツを穿いている女性なら、他にもいますが……本当に私でいいのですか?」
「はい! イザベル嬢でないと、血が集まらないんだ……!」
眉を下げ、必死に縋る健気なルードヴィヒを見た瞬間、心が揺らいだ。
(あれ……私、なんか変だ……)
相手は乙女ゲームの登場キャラで、あまり深入りし過ぎないほうがいい。
なのに、どうして胸がざわついて、こんなに目が離せないの?
画面越しではない生身の男性が、ここまで求めてくれる状況に酔ったのだろうか。
戸惑う中、心臓が早鐘を打つように激しく鳴る。
漠然と、私の中の足りないものが補われ、ようやく歯車が噛み合ったような感覚に陥った。
「では、先ほども申し上げましたが、一緒に頑張りましょうね」
さっきも言った台詞なのに、自分の声に艶が滲んでいるのが分かる。
その証拠に、ルードヴィヒは、再び飢えた獣のような表情に変わった。
(彼と関わるのは短い間だけ。それなら、少しくらい踏み込んでも……許される、よね……?)
熱い視線に欲望をまざまざと感じる。
そんな顔をされると、どうしようもなく劣情が駆り立てられてしまう。
気づけば自然と手が伸び、騎士なのにシミ一つない、きめ細かい頬を撫でた。
「普段ご自身でする時は、今のように気持ちよく達せるのですよね」
「……ええ」
恥ずかしそうに視線を逸らされて、私の口角が上がっていく。
「参考までに、普段どのようにご自身を慰めているかお伺いしても?」
耳どころか、首まで真っ赤に染めたルードヴィヒは、太腿の上で大きな手をぎゅっと握り締め、上擦った声で言う。
「さ、先ほどのように手で扱いたり、床に擦りつけたりしています……」
「なるほど。頻度はどのくらいなのですか?」
「……っ、毎日、だ……」
かあっと照れて、握り拳を顔に当てるルードヴィヒを見て思う。
彼が、こんなにも可愛らしい人だったなんて……
余裕がなくなると敬語が崩れるところにも、キュンキュンしてしまう。
「ルードヴィヒさま。お悩みごとを解消するために、私の言うことを聞いていただけますか?」
「勿論です」
忠犬のような表情で断言するルードヴィヒを見て、私はくすりと微笑んだ。
「でしたら、明日からは自慰をしないでください」
「っ! なぜですか……?」
彼は驚きのあまり瞳を揺らしている。可哀想だけれど、これにはきちんと訳がある。
「先ほど見た限りになりますが、陰部に対してとても強い刺激を与えているように見受けます。女性の中で達せるようになるには、弱い力でも快感を拾うことに慣れたほうがいい気がして……」
前世の知識ではあるけれど、少しは効果があると思うのだ。
「代わりと言ってはなんですが……せっかく私の二ヶ月間を買ってくださったので、逢いに来てくださった時には優しくお慰めします」
その様子を想像したであろうルードヴィヒの喉が鳴る。
まさかと思って、不躾にも下腹部を一瞥すると、何やら存在感が増していた。
先ほど吐精したばかりなのにもう元気だなんて、彼は本当に不能なのだろうか……
若干疑いの眼差しで見てみると、ルードヴィヒは慌てて弁解した。
「こ、これは……! 申し訳ありません。イザベル嬢とこうして話しているのが夢みたいで……」
「え? 私のことを前からご存じだったのですか?」
「……秘密です」
そう言われると、余計に気になってしまう。
貴族学院では目立たないよう徹底したはずなのに、いつの間に存在を認識されていたのだろう。
どうにも引っかかるが、私は本来の仕事を思い出してコホンと咳払いした。
「既に私のことは知っているのかもしれませんが、今日は自己紹介も兼ねて、手を繋いだり抱きしめあったりしてみませんか?」
「はい! 喜んで!」
今度はぶんぶん尻尾を振っている幻覚が見える……
私の一言で一喜一憂するルードヴィヒを前にして、今まで踏み潰されてきた自尊心が満たされていく感覚がした。
「お手をどうぞ、ルードヴィヒさま」
またしても、床に膝をついたままだった彼に手を差し出すと、おやつを前にした大型犬が素早くお手をするように、大きな手が置かれた。
もう片方の手で、ルードヴィヒの大きな手を包む。自分の手とは全く違うゴツゴツとした感触で、剣を扱うためか皮膚が分厚く、立派な剣だこがあった。
「この大きな手が、日々この王国を護ってくださっているのですね」
両手でルードヴィヒの大きな手を握ったまま、ふと思ったことを口に出すと、彼は目を見開いた。
そんな彼を引っ張って、ソファへと促す。
私も先ほどよりも近づいて隣に座ると、今度は指と指を絡めるように手を繋いだ。
「イザベル嬢……」
あまりにも悩ましげな声で、私は笑みを深める。
「ルードヴィヒさま、あなたのことをもっと教えてください」
「俺の話をしても、なんの面白味もありませんが……」
「ふふ、それでは順番に質問し合いませんか?」
ルードヴィヒは、素直にこくりと頷いてくれた。
娼婦のスキルはまだ習得できていないけれど、初めてのお客さまの情報を引き出して話題が尽きないようにしなくては! と謎の使命感で燃えてきた。だけど、どんな質問がいいか悩んでしまう。
繋いだ手をぎゅっと握り、咄嗟に思いついたものを問いかける。
「ええと、ご、ご趣味はなんですか!」
「剣の手入れです」
「ご年齢は?」
「イザベル嬢の二つ上の二十歳です。今年二十一歳になります」
「休日はどのように過ごされて?」
「鍛錬のため、剣を振っています」
――お見合いかっ!
我ながら質問力がなさすぎて、若干落ち込む……
けれども、本当に剣一筋なのだなぁと尊敬の念を抱いた。
「俺からもいいですか?」
「はい、どうぞ!」
顎に指を当てて、真剣に質問を考えるルードヴィヒの怜悧な横顔を見ていたら、ふと我に返った。
――今私、こんな美形相手に、平然と自分から手を繋いでしまった!?
途端に繋いでいる手を意識してしまい、汗が滲んでしまわないかと心配になってくる。
気恥ずかしさと居た堪れない気持ちで質問を待っていると、ようやっと彼が口を開いた。
「いつもいい匂いがするのですが、香水の銘柄を教えていただきたいです……!」
「え!? 匂いますか!? 特に何もつけてはいないのですが……」
「何もつけていなくてこの花のような芳しい香りがっ!?」
驚愕しているルードヴィヒに苦笑いする。
自分でも匂いを嗅いてみるが何も感じない。まさかヒロイン特性なのだろうか……?
「では好きな宝石はなんですか」
「ほ、宝石!? うーん、実母がよく身につけていたサファイアですかね」
「好きな食べ物は?」
「腐敗していたり、カビが生えていたり、砂などが入っていない食べ物なら、なんでも好きです!」
あああ、予想外の質問の連続で、元令嬢の風上にも置けない回答をしてしまった……!
彼もちょっと不思議そうな顔をしているし、絶対変な人だと思われた。
もっと他にいい答えがあったはずなのに、どうして私は……ッ!
内心頭を抱えつつも、咄嗟に思いついた質問をぶつける。
「ルードヴィヒさまは、どんな色が好きですか?」
「以前イザベル嬢が穿いていた、白いレースのパンティー色です!」
「っ!?」
――ヤメテ! そんな色は存在しないから!
もっとこう今後に役立ちそうなことを引き出さなくちゃ。
「そうだ。どんな女性が好みですか?」
「特にありません。王太子殿下に群がる女性たちに散々酷い目に遭わされたので、イザベル嬢以外の女性には触れられるのも受けつけないのです……」
「あ……」
もしかして自慰でしか達せないのは、何か複雑な理由があって……?
だとすれば、なんて無神経な質問をしてしまったんだろう。
……それに私も、ヨシュカ王太子に群がったうちの一人だ。
「ごめんなさい。私もあのお方の前で大胆なことをしてしまいましたので、嫌悪の対象ですよね」
「イザベル嬢は違います! あの日の君は、死地に向かう覚悟をした騎士のような面持ちでした。それに王太子殿下を慕う類の眼差しではなかったので、きっとやむを得ぬ事情があったのでしょう」
――どうして、そこまで私のことを理解してくれているのだろう。
彼は私を安心させるように繋いだ手をぎゅっと握り、真剣な眼差しで告げた。
「大丈夫です。王太子殿下も、あの程度で咎めはしません」
目的のために自分がやったことに後悔はない。
けれど、ルードヴィヒを前にすると、どうにも後ろめたい気持ちが湧いてくる。
そんな私の感情すらも理解しているかのように、彼は口を開いた。
「イザベル嬢、君さえよければ……」
途中で言葉を飲み込み、彼は口を噤んだ。
そして誤魔化すように、不器用な微笑みを浮かべ、言葉を紡ぐ。
「いいえ、なんでもありません……それよりも。質問、俺の番ですよね?」
私がこくりと頷くと、繋いだ手を軽く引かれた。
「……抱きしめてもよろしいですか?」
「っ!」
耳元で囁く彼の硬質な低い声に、どきりと心臓が跳ねる。
ルードヴィヒは、ソファの座面に手をつき、隣にいる私に向きあうように徐々に近づいてくる。
間近に迫る端整な顔に、思わず現実逃避した瞬間――
壊れものを触るが如く、そっと背中に手が回され、気づけば分厚い胸板が目の前にあった。
こんなふうに抱きしめられるなんて、両親が亡くなってからは初めてだ。
(あたたかい……)
今まで忘れていた人の温もりに触れて、泣きそうな気持ちになる。
「俺に抱きしめられても嫌じゃないですか?」
呟いた声はあまりに小さく、ルードヴィヒの自信のなさが滲んでいた。
「……嫌な気持ちなんて、一切ないです……とっても温かくて……なんだか、安心します……」
強張っていた身体が徐々に解れていく。なぜか彼の体温に縋りつきたくなるほど切なくなって、私も背中に腕を回してしなだれかかった。
すると、優しく持ち上げられ、ルードヴィヒの膝の上に降ろされる。
彼との距離が近くなり、急に唇から目が離せなくなった。
この甘い空気に呑まれるように、私は掠れた声でそっと強請った。
「キス、してもいいですか……?」
渇望の眼差しで見つめられ、ぞくりと背筋が震える。
返事代わりに、綺麗な顔が近づいてきて……
――瞬く間に、彼との距離がゼロになった。
ルードヴィヒの唇は、想像以上に柔らかく甘美で、胸の奥がじんわりと熱を帯びる。
唇を重ねるだけの行為なのに、これほど高揚するのはどうしてだろう。
触れるだけのくちづけを、角度を変えながら何度も受け止める。
前世と合わせても初めてのキスで、呼吸が整わないまま浅く息をしていると、私の下腹に大きくて硬いモノが当たったのに気がついた。
そのまま、私のお腹に擦りつけようとするルードヴィヒに気づき、我に返って声を絞り出す。
「ルードヴィヒさま――まっ、待て、です!」
咄嗟の声かけだったが、彼はぴたりと動きを止めてくれた。
お願いを聞いてくれたルードヴィヒにお礼をするように頬を撫でると、熱い眼差しが返ってくる。
その期待に応えるように、私は彼の耳元で囁いた。
「明日から我慢していただくので、今だけは無理なさらなくてもいいですよ」
私の一言で、ルードヴィヒはすぐさま大きくなった男根を取り出した。
けれども、扱こうとしている彼の手を掴み、私は続けて呟く。
「ただし、私の手で慰めさせてください」
「っ、ああ……可憐な雰囲気なのに、艶やかで……今までイザベル嬢に触れてきた男を八つ裂きにしてやりたいくらいです」
もしかして、私が殿方に慣れていると思っているのだろうか。
だとすれば、ちょっと複雑だ。
「あの……私のファーストキスは、さっき……ルードヴィヒさまと、です……!」
「――……!?」
「……私、学院であんな破廉恥なことをしましたが……殿方と触れあうのは、ルードヴィヒさまが初めてなんです……あなたのお悩みが解決するように頑張るので……私にも殿方のことを勉強させてください……っ」
もし手慣れた女性のほうがよかったとしたら? 期待外れだとがっかりされたらどうしよう。
嫌な考えが頭を過り、指先が震える。
けれども、ルードヴィヒは私の不安を包み込むように、優しく言葉を紡いだ。
「俺がイザベル嬢の初めてなんて、そんな名誉をいただけるとは夢のようだ……! 俺にできることはなんでも言ってください。誠心誠意尽くす覚悟です」
真摯な眼差しで寄り添ってくれる彼のことを、信じたいと願ってしまうのはなぜだろう。
パンツフェチだし、未だ下半身が昂っているし、すぐに信用してしまうのは時期尚早だと思う。
それでも、ルードヴィヒとはいい関係を築けるだろうと、私の直感が働くのだ。
「こんな私を受け入れてくださって、ありがとうございます」
「っ」
久しぶりに思い切り笑った私は、頬の筋肉が引き攣ってしまったが悪い気分じゃなかった。むしろこの頬の痛みすら、懐かしいと思える日が来るのではないかと期待してしまうのだ。
「ルードヴィヒさま、失礼しますね」
これから触れることを伝えるように肩に手を置くと、また彼は赤面をしていた。
私は悪戯っぽく笑い、先ほどの彼のように質問した。
「私が触れるのは、嫌じゃないですか?」
「ご褒美です……!」
「なら、何よりです」
私は彼の頬にキスを落とした後、その膝の上から降り、内腿を指先でゆっくりとなぞる。
そのまま輪郭を確かめるように男根へと指を滑らせると、彼の身体が大きく跳ねた。
――実際に触れると、熱くて、硬くて、より大きく感じる。
こんなにも長くて太いものが、本当に女性の中に入るのだろうか……?
改めてまじまじと見つめると、ルードヴィヒはもどかしそうに自らの拳を握りしめた。
きっと期待しているのだろう。私の視線だけで、切っ先から透明な液が滲み出てくる。
我慢してお利口に待つ彼の熱望が直に伝わり、私はその透明な液を手の平に纏わせ昂りを覆った。
だが、すぐには動かさない。焦らしていると、彼の腰に力が入る。
動かしたいのを必死に堪えているようだ。
「……く、イザベル嬢……」
物欲しげな眼差しを向けられると、私の心が愉悦に震える。
「動かしてほしいですか?」
「はい……っ、お願いします……」
高貴な身分の彼が、年下の新人娼婦の言いなりになってくれるだなんて……本当に可愛い人だ。
透明な液を潤滑剤代わりにして、優しく上下に扱いてやるだけで、淫らな音が立つ。
同時に、ルードヴィヒは呼吸を荒くして、苦しげに喘いだ。
「もっと、もっと強く……」
私が強く握ったとて、彼が普段しているような強い刺激には及ばないだろう。
弱い力でも達せるように練習するには、まだ早いと判断して、ルードヴィヒの願いを叶えるべく、めいっぱい握りしめた。
「……っ、気持ちいい、です……」
吐息と共に漏れた声色が恍惚に染まっていて、期待に応えられたのだとホッとする。
ただ扱くだけではつまらないので、戯れつくように先端を握って、試しに捻るように回してみたところ、裏筋の部分の反応がよかった。
それから執拗に裏筋を擦ると、ルードヴィヒは歓喜の声を上げた。
「っく、手を握っても……?」
私が頷くと、扱いている手の上に、彼の大きな手が覆いかぶさってきた。
男根を包む私の手ごと、ぎゅっと掴まれ、堪らないとばかりに彼の腰が動き始める。
「あ、っ……ルードヴィヒ、さま……!?」
ルードヴィヒを攻めていたはずなのに、今度は私の手が彼に犯されているような感覚に陥る。
目の前には、あまりに淫靡な光景が広がっていた。
手のひらに激しく擦れる男根の感触に煽られ、私は思わず熱い息を吐く。
「イザベル嬢、もう……」
「はい……どうぞ、達して……」
手のひらを、突き上げられ、揺さぶられて……こんなにも淫らな擬似性交をされてしまったら、いつか彼と本当に交わる時のことを意識してしまう。
ルードヴィヒの恍惚とした表情に見惚れていると、彼は次第に柳眉を顰めていった。
そして一層力強く突き上げると、男根が大きく震え、白濁した液が勢いよく噴出した。
気がつくと私の呼吸は乱れていて、部屋に二人の速い息遣いだけが響いていた。
ふいに二人の視線が交差し、無言で見つめあう。
蕩けるような表情を浮かべているルードヴィヒから目が離せない。
――今の私。どんな顔をしているんだろう……
私たちは互いに求めあうように手を繋ぎ直し、時間が許す限り、触れるだけのキスを何度も交わした。
やがて陽が暮れると、彼は週に一度は必ず来ると言い残し、娼館エリュシオンを去った。
私は熱の余韻が残ったまま、与えられた自室に戻ってベッドに寝転がる。
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