短編集2(2025~)

星来香文子

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私のあこがれのあの人は今(2025.3.7)/ホラー

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 私があこがれていたあの人は、今、どうしているだろうか?
 ふとそう思い立った私は、久しぶりにあの人の名前で検索してみる。
 二年前に芸能活動を突然休止して、それから一切、表舞台に立っていないあの人。
 アイドルとして、たくさんのファンに笑顔と生きる活力を与えてくれたあの人は、噂によると悪質なストーカー被害にあっていたらしい。
 事務所が活動休止の報告をした文章の中には、体調不良のためとしか書かれてはいなかった。
 だけど、そのストーカーの存在は前からファンの間では有名で、みんな、本当の理由はそのストーカーのせいだと思っている。

 活動休止の発表の直後、私は病院のベッドで号泣した。
 その数日前に、交通事故にあってしまって、足の骨を折って入院していた時期だったからだ。
 私がショックのあまり精神的に参ってしまって、心配した母はしばらくスマホを触らせてくれなかった。
 芸能人のことより、自分の体を心配しなさいって。
 私が活動休止が信じられなくて、SNSで情報を色々情報を集めている様子が、普通じゃなかったらしい。
 自分ではそんな自覚はなかったんだけど……
 それからはしばらく、現実が受け入れられなくて一切、あの人についての情報を避けていた。

「ああ、やっぱり、まだ……」

 二年たつのに、あの人はまだ、復帰していない。
 まだファンクラブはなくなっていないし、復活する予定ではあることには違いない。
 もし復帰することになったら、きっと、あの人ならコンサートを開いてくれるだろう。
 懐かしさとさみしさで、私は久しぶりにあの人の公式チャンネルでMVでも見ようと思った。

「あれ……?」

 そこに、見たことのないMVがあった。
 公開された日付は、活動休止が発表される二日前。
 それまで、あの人の動画は全部見ていた私が、知らない曲。
 公開は二年前だけど、聞いたことがない私にとっては新曲だった。

 新しい曲が聞けるという嬉しさはあったけれど、推しの最新曲を知らずに過ごしていたのがファンとして少しだけ申し訳なく思った。
 思いたくはないけど、これがあの人の最後の作品になるんだ。

 あこがれのあの人は、画面の中でやっぱり輝いていた。
 やっぱり、二年経っても私はまだ、あの人のことが好きだなと、涙が出る。

 早く、帰ってきて欲しい。
 こんな素敵な人を、素晴らしい才能をもつあの人の心を、活動休止にまで追い込んだストーカーが許せない。

 そう思った私は、そのストーカーについて調べることにした。
 SNSに書かれている情報や、過去の掲示板のスレッドも読んで、徹底的に調べようと。
 そうしたら、あの人が活動休止を決断した決定的な瞬間は、このMVが公開される直前ではないか、と、言っているファンの投稿を見つけた。

 新曲の発表に合わせて、毎週放送していらラジオ番組の公開生放送がその日の夜行われてた。
 新曲のMVは、そのラジオの放送が終わった直後に予定されてていたのだが、その公開生放送の様子を観に、ファンが集まっていたらしい。

 それなら、私も何度か行ったことがある。
 観覧は抽選になるんだけど、まだここまで有名になる前だったから、結構な確率で当選できていた。

 私は毎回、必ず応募していたけれど、この日って、私、観に行ったんだっろうか?
 とても記憶があいまいで、ずっとしまい込んでいた推し活の記録をしてある日記帳を引き出しの奥から取り出して確認してみる。
 すると、やっぱりこの日、私はこの公開収録を観に行っていたことが分かった。

「行ってるのに、なんで、覚えてないんだろう?」

 記憶をたどっても、やっぱり何も思い出せない。
 その場にいたなら、そのストーカーを目撃していた可能性があるのに。
 もし、目撃していたら、警察に通報して逮捕してもらえばいい。
 そうすれば、あの人だって、安心して戻ってくることができる。
 そう思うのに、まったく、役に立たない脳みそだ。

「あ、でも、二日前の夜なら……」

 おそらく、私が交通事故にあった日だ。
 事故では足の骨折と、あとは事故前後の数時間前の記憶が飛んでる。
 そのせいで、ひき逃げにあったのだけど何も覚えていなくて……
 多分まだ、犯人も捕まっていない。

 事故にあった翌日の朝に目を覚まして、その日のうちに警察が来て事情聴取とかほかの検査とか色々あって、その次の日に、活動休止が発表された。
 私が覚えていないのは当たり前だ。

「えーと、それで……『公開収録が終わった直後、集まったファン達の方に挨拶をしに出てきたところ、前々から悪質なストーカーだとされていた女に押し倒されて――――』……押し倒された!? 何よこれ、最低!!」

 あり得ない行為だ。
 そんな目にあったら、怖いに決まっている。
 二年前にそんなことがあったなんて……

 怒りながらさらに続きを読むと、その女は逃げたらしい。
 警備のスタッフに追いかけられ、信号無視の車にはねられたのだとか。

「『――――救急車で運ばれたが、女の生死は不明』……なにこれ、これじゃぁ、生きてるかもしれないってこと!? 私からあの人を奪っておきながら!?」

 悪質なストーカーなんて、許せない!!
 その女のせいで、あの人は活動を休止したなんて――――!!

「許せない! どこの誰よ、その女!! こうなったら、徹底的に調べて、私が殺してやるわ!!」

 そうすれば、あこがれのあの人は、帰ってくる。
 そうでしょう?
 その為には、今、あの人がどこにいるのか調べなきゃ。

「二年前に住んでたマンションからは、引っ越しているだろうから……セキュリティのことを考えると……」

 あの人の居場所が分かれば、当時の状況がもっとはっきり理解できる。

 そうでしょう?


【おわり】





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