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全国一斉妖精検査(2025.3.10)/SF
しおりを挟む『この度、全国一斉妖精検査を実施することとなりました』
人口減少。
少子高齢化社会の真っただ中であった日本は、たった一人の若い革命家により、2045年4月1日に崩壊した。
日付が日付だったため、エイプリールフールかよと揶揄されていたが、今時、エイプリールフールだなんて、年寄しか知らない。
とっくの昔に死語となっている言葉であったため、そういった危機意識のない揶揄は、時代遅れの老害によるものがほとんどであった。
同年、4月2日、新政府による新たな日本の幕が上がる。
国名は、日本から大日本帝国……などと、時代に逆行することはせず、相変わらず日本のままであるがが、新政府は、旧政府が行ってきた制度、法律をすべて白紙に戻し、新たな視点から日本の立て直しを始める。
その立て直し計画の中に、全国一斉妖精検査があった。
全国一斉妖精検査というのは、新政府の少子化対策を任されている研究チームが偶然発見した特殊な力を持った細菌の保有者を見つける検査である。
この特殊な最近の名を「妖精」と呼ぶのにはいくつかの理由があるのだが、端的に言えば、検査で陽性反応が出た人には特別な力があり、子供ができやすい体質なのだそうだ。
それが、日本の人口を増加させるために重要な人材であるとされている。
つまり、その細菌を保有していると判明したら、政府からお金が貰えるらしい。
「国民全員参加って……」
「なんでも、日本人しかその妖精ってのを保有することができないらしいよ」
「日本人だけ? 中国人とか韓国人は?」
「遺伝子的に難しいらしいよ。何世代か前なら保有している可能性はあるけど、ハーフやクオーターだと確率めっちゃ低いんだってさ」
妖精検査は、全国民強制参加である。
「それにしても、さすが新政府。旧政府とやってることが真逆だな」
人口増加のため、旧政府が国際結婚し、子供が生まれた人数に応じて給付金が増えるキャンペーンを始めたのはまだ記憶に新しい。
一時的に人口は増えるだろうと思われていたが、あまり期待した効果が得られず、むしろこのキャンペーンのせいで旧政府への不信感が爆発し、革命が起こったとされているくらいである。
「妖精検査で陽性だったら、噂じゃ、子育てにかかる費用は全部政府が出すらしい。しかも、妖精を保有しているとわかれば、多夫多妻制にできるって話だ」
「え? そんなことして大丈夫なの?」
「まぁその代わり、ちゃんと申告しないと罰金らしいけどな」
巷では、この話題で持ちきりである。
なんだかよくわからないが、陽性反応が出ただけでお金が貰えるのなら、こんなラッキーなことはない……と。
新政府ができたばかりということもあって、多くの国民がお祭り気分で浮足立っていたのだ。
だが、本物の妖精である私は、たまったものじゃない。
それまでずっと、普通の人間として生活してきたのに。
これでは、ご先祖様たちが代々ひた隠しにしてきたのは、いったい何だったのか。
妖精となんともファンタジーのような、子供だましのようなネーミングをつけられているが、要するに、日本における妖精とは、妖怪のことだ。
河童や天狗などなど、実は様々な妖怪が人間に紛れて暮らしているこの日本で、今更、人口減少を止めるために手を借りようだなんて、本当に人間とは……身勝手な種族であると、私は思う。
それにしても、現代科学の登場により、存在自体を否定され、淘汰されてきた我々妖怪に、今更、子孫繁栄の力があることが判明するなんて……
私の家族が、ご先祖様が、過去にどれだけ酷い目にあってきたことか、何も知らないくせに。
その歴史を知っているからこそ、私は新政府に対しても不信感しかなかった。
「――――おめでとうございます! 妖精検査、陽性です!」
私の検査を担当した医師は、とてもうれしそうに、笑顔でそう言った。
大きな声で、興奮気味に。
そのせいで、待合室で待っている人間たちにも、私の結果は伝わってしまう。
まるで、ショッピングモールか何かのイベントの抽選で一等賞が出たかのような盛り上がりを見せ、看護師たちからも拍手を浴びる羽目になった。
最悪だ。
「では、こちらに書かれている住所まで向かってください。そちらで改めて、詳しい検査をしますので」
「はぁ……」
正直嫌だったが、私は日本から出ていくことができない。
私たち妖怪は……とくに、私の一族は、日本の土地から三日以上離れると死んでしまう。
そういう、特殊な体質を持っている。
だから、海外への移住も不可能だ。
指定された住所へ行くと、小さな会議室のような部屋に案内された。
そこにいたのは、新政府のトップ。
若い革命家。
今、この国で一番有名な男だった。
「新政府へようこそ。あなたが見つかって、本当に良かった」
一体、これから何が行われるのかと、不安でいっぱいだったが、男はにこにこと微笑みながら、私に握手を求める。
「もう、とっくに絶滅してしまったのかと、心配していたのですよ」
その手に触れた瞬間、私はすべてを理解した。
この男は、人間ではない。
私たちと同じ、妖怪だ。
「どうでしょう? 同じ、妖怪の仲間として、我々に協力してはいただけませんか?」
「……協力って、いったい、何をするつもりですか?」
「復讐ですよ。我々を存在しないものとして扱ってきた……いや、扱いすらしなかったバカな人間どもへのね」
これから淘汰されるのは、私たちじゃない。
人間だ。
【了】
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