短編集(2020~2024)

星来香文子

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直観ってなに?(2021.3.12)/ミステリー

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 今、目の前に、1つの謎がある。

 今月始まった、週に3回、発表されるとあるミステリー小説のお題の1つが、「直観」だった。
 自称名探偵である彼は、そのお題に小首を傾げつつ、まずは単語の意味を調べ始めた。

 インターネットの普及により、小さな端末1つで色々な知識を得ることができる現代の日本で、調べればすぐにその意味が理解できるのは自然なことである。
 分厚い辞書を引くより、検索ボタン1つ押せば、なんでも調べられる時代なのだ。
 とても便利。

 彼は今回、執筆のため自宅にある無駄に大きなデスクトップパソコンから、検索サイトでその検索結果を眺めていたのだが、それでもまだ、納得した表情も見せず、小首を傾げたまま、寧ろさらに険しい顔になった。

「どうしたの?」

 腕を組み、眉間にしわを寄せ、まるで難事件に遭遇した時のような彼の姿に、思わず声をかける。
 それと同時に彼が好きな砂糖が3つ入った甘い入れ立てのコーヒーが入ったマグカップを机の上に置いた。

「いやぁ……それが、まったく理解できないんだ」
「え? そんなわけないでしょ。 この時代に、単語の意味がわからないとか、そんなことあるの?」
「うーん……わからない。そもそも、なぜ直観なんだ? じゃないのか? 運営は何を考えているのか…………それが一番謎だ」
「まぁ、確かに、あまり使わない言葉……ていうか、聞いたことない言葉よね」

 私はあまりにも真剣に悩んでいる横顔を見て、彼がコーヒーを飲むのにキーボードとマウスから手を離したすきに、横からマウスとキーボードを奪うと、ふと、ひらめいた検索ワードを画面に入力する。

「おい、何するんだ……」
「まぁ、いいから、見ててよ。こういう時は、こうするのが一番じゃないかと思って」
「また何かひらめいたのか? 君のそのひらめき力を少し分けて欲しいよ。まぁ、名探偵の俺ほどではないけどな」

【直感と直観の違い】

 名探偵の彼より遅いタイピング速度で、そう入力して、検索ボタンをクリックした。
 そうして、調べた結果見つけた記事には、こう書いてあった。

『直観とはの事』

「おぉ……なるほど!」

 彼は私の見つけた記事を見て、やっと理解できたようで、空になったマグカップを興奮気味に机の上に置いた。

「ひらめき……そうか! ひらめきか!! これで謎は全て解けた!!」

 私は誇らしげに腰に手を当てて、

「どうよ! この私の直観力!!」

 と、言ってやった。

 最近テレビでよく見るひらめき問題も、自称名探偵の彼より、私の方が得意なのだ。

「たしかに、君の直観力はすごい!! ……でも、君も意味は知らなかったんだよな? 直観の……」
「知識だけでは、謎は解けないのだよ。自称名探偵くん」
「さすが、俺のワトソン君だ」
「ちょっと……! 私はアイリーンの方がいいんだけど!」


 こうして、謎が解けた彼は、その日のうちに、1話完結の短編を書き上げると、満足げに私の方を見て言った。

「ワトソン君、これでどうだい? 俺の直観力も、なかなかだろう?」
「どれどれ……」

 彼が書いた小説を読む。
 全て、先ほどまでのやりとりそのものだった。

「ねぇ、これ、ミステリー小説って言っていいの?」
「謎が解けたんだから、立派なミステリーだよ」


 そういうもの……なのかしら?
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