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祖母の遺言(2024.3.22)/ホラー
しおりを挟む「まぁ、真白ちゃん、アレが見えるのかい?」
「うん。あの人は、赤。あの人は黄色だよね」
小さい頃から、私には人のまわりに色のついた空気のようなものが見えていた。
それは、同じものが見えていた祖母いわく、オーラと呼ばれるものらしい。
母も叔父も、そのオーラを見ることはできなかったから、祖母は私が見えることが嬉しかったらしい。
オーラについて、色々なことを教えてくれたけど、その中でも私が今でも覚えているのは、ある色のオーラについて。
祖母は、私が小学生に上がってすぐに急な病で亡くなってしまったけど、私に遺した最後の言葉も、その色についてだった。
「紫の人には、近づいちゃいけないよ。逃げなさい」
祖母の話では、オーラには相性があるらしい。
自分で自分のオーラの色を見ることはできないけれど、祖母は私のオーラの色だと、紫の人とは相性が最悪なのだといっていた。
けれど、私は今まで一度も、紫の人に出会ったことはない。
そんな色の人が、本当にいるのか、その時は信じられなかった。
あれから、二十年。
友達の多くが、結婚して家庭を持ち始めたその頃。
別に焦っていたわけでも、結婚願望があったわけでもない私の前に、その人は現れた。
「紫の人……だ」
思わず心の声が外に漏れてしまった。
彼は、私の言葉に首を傾ける。
「紫……え? 俺が? 黒田だけど?」
イギリス支社から来た、黒田部長。
まだ三十代半ばなのに、部長。
私が働いているこの会社の、会長の孫らしい。
顔が芸能人並みにイケメンだと、女子社員の間で噂になっていた。
確かにイケメンだけど、紫の人だ。
そのオーラを見た瞬間、あの言葉が警告する。
————紫の人には、近づいちゃいけないよ。逃げなさい
逃げなければならない。
今すぐに。
紫の人には、近づいちゃいけない。
そう思っているのに、黒田部長はどんどん私に近づいてくる。
「どういう意味? 紫? なんで?」
「いえ……その……————」
逃げなければならないけれど、相手は部長。
近くにいた他の社員たちが、私と部長を凝視している。
逃げたいけれど、上司に失礼な態度は取れない。
みんなが見ている前で、オーラの話なんて、できっこなかった。
どう言い訳しようか慌てて考える。
「す、すみません、その……ネクタイが、紫に見えたので」
流石に苦しい言い訳だった。
黒田部長のネクタイは、濃い青にしか見えない。
けれど、黒田部長は私の答えに、にっこりと笑った。
「すごい、やっぱり、分かる人には分かるんだね! 俺も買った時は、青にしか見えなかったけど、商品名にパープルって入っていてさ……店員さんもそうだって」
「は、はぁ……」
紫の人だからと、私は身構えたけれど、黒田部長は何も怖い人ではなかった。
気さくで、いつも笑顔で、人当たりもいい。
仕事もできるし、部下からも上司からも信頼されているという感じだった。
初めて見た紫の人だったけれど、何も怖くない。
むしろ、好印象。
紫の人に近づいてはいけないという祖母の言葉は、一体何だったのかわからない。
逃げろと言われていたけど、黒田部長は優しくて、それでいて、たまに子供のようにあどけなく笑う人で、むしろ私は、彼に惹かれていった。
そして、気づけば私は、黒田部長と付き合うようになって、二年。
社員全員が見ている前でプロポーズをされた。
恥ずかしかったけれど、とても嬉しかった。
「おめでとう!」
「この、幸せ者!!」
「羨ましい!!」
みんなに祝福されて、二十九歳の時に私は寿退社。
お腹には新たな命も宿っている。
新居は会長夫妻が用意してくれた、超豪華なタワーマンション。
紫の人は、私の夫になった。
「近づいちゃいけないだなんて……きっと、おばあちゃんの勘違いね。こんなに幸せなんだもの」
もうすぐ生まれてくる我が子に話しかけながら、夫の帰りを待っていると、インターフォンが鳴った。
彼が帰ってくるには、まだ少し時間が早い。
カメラを確認すると、綺麗な女性が一人。
「どちらさまですか?」
『黒田さんの、知り合いの者です』
「え……? 主人の?」
『主人……? はい、そうです。もうすぐ帰ってくるので、先に家で待っていて欲しいと言われまして』
「わかりました」
中へ通すと、その女性も私のように大きなお腹をしていた。
「初めまして、赤井といいます」
「ど、どうも。とりあえず、こちらにどうぞ」
赤井さんがソファーに座り、何か飲み物でも出そうとキッチンに立つと、またインターフォンが鳴る。
カメラに映っていたのは、赤井さんとはまた違ったタイプの可愛らしい女性。
「はい、どちらさまですか?」
『黒田さんの、知り合いの者です』
「え……?」
『もうすぐ帰ってくるので、先に家で待っていて欲しいと言われまして』
「わ、わかりました」
赤井さんと同じことを言っている。
中へ通すと、その人も大きなお腹をしていた。
「初めまして、青木と申します」
「は、はじめまして。こちらへどうぞ、おかけください」
赤井さんと青木さんはお互いに知り合いなのか、軽く会釈をしていた。
二人も妊婦を呼んで、夫が何を考えているのかわからない。
もしかして、このマンションは近くに知り合いがあまり住んでいないから、今からママ友でも作らせようとしてくれた?
そんな風に考えていると、またインターフォンが鳴って、今度は赤ちゃんを抱きかかえた女性。
彼女も二人と同じことを言っていて、名前は緑川さん。
緑川さんが座ると、また、インターフォンが鳴った。
今度は、男子高校生だ。
『すみません、黒田さんの知り合いの者です。桃田と申します』
桃田くんも他の三人と同じく、夫に呼ばれて来たという。
何が起きているのかわからなかったけれど、まぁ、夫が帰ってくれば分かることだろうと、私はこの奇妙な状況でそう思っていた。
「————ただいま!」
そうこうしているうちに、夫が帰ってくる。
声がしたので、玄関で出迎えると、みんなが待っているというのに夫は私を強く抱きしめ、ただいまのキスをしようとしていた。
「ちょっと待って、今、お客さん来てるの」
「お客さん……? え? 誰?」
「あなたが呼んだんじゃないの?」
夫は、玄関に並んでいた靴を見て、四人も客人がいることにやっと気がついたようだった。
「いや、呼んでないけど……?」
「え? でも、みなさんあなたの知り合いだって……」
「え? 俺の知り合い? 名前は?」
「赤井さん、青木さん、緑川さん、桃田くん」
夫は彼女たちの名前を聞いた瞬間、血の気が引いたように顔色が悪くなった。
「そ、そうか……」
そして、声が裏返っている。
「どうしたの? あなた?」
「あ! おれ、会社に忘れ物してた! ちょっと取りに行ってくるよ、うん」
「え!?」
お客様がきているのに、逃げるように出て行った夫。
「————ああ、やっぱり、逃げたわね」
「奥さん、落ち着いて聞いてくれる?」
いつの間にか私の背後に立っていた緑川さんと桃田くんがそう言った。
「みんな、あの人に騙されたの。あなたもね……」
「え?」
「赤井さんと青木さんのお腹の子供、父親はあの人です」
「……は?」
「この子もね……」
緑川さんは、赤ちゃんの顔を私に見せながら続けた。
「私たちの他にも、わかっているだけであと三人いるわ。桃田くんみたいな、男の子にも手を出してる」
「はぁ!???」
夫は、黒田は、紫の人は、とんでもないクズだった。
————紫の人には、近づいちゃいけないよ。逃げなさい。
祖母の言っていたことは、本当だった。
《終》
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