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お泊まり 中編
しおりを挟む昔の私は今よりずっと輝いていた。歌を歌うことが好きで、毎日レッスンに通うほどだった。そんな私の夢はもちろん歌手になること。学校では人気者で、皆から希ちゃん希ちゃんと言われ慕われていた。
私は毎日が楽しくて、幸せだった。しかし、ある出来事をきっかけに私の幸せは音を立てて崩れ始めた。
小学六年生の時、突然お父さんが交通事故で亡くなってしまったのだ。
大好きだったお父さんの死をなかなか受け入れることが出来ず、私は学校へ行けなくなってしまった。しかし、お母さんは違った。愛する人が居なくなったにもかかわらず、以前よりも仕事の量を増やし悲しいそぶりを一切見せなかった。そんなお母さんに、私は少し腹が立っていた。
その時の私は、お母さんが夜な夜なお父さんの写真を見て泣いているのを知らなかったから……
ある日、私の家に一人の男の子が来た。どうやら、同じクラスの子らしい。そういえば、クラスの端で独りでいるのをよく見る気がする。
あまり会いたくなかったけど、家には私しかいないので仕方なくドアを開けた。
「これ、皆が書いた色紙」
そう言って男の子が差し出した色紙には、希ちゃんへという文字の周りにクラスメイトからのメッセージが書かれていた。悲しみに負けないでね。とか、学校に来たらそんな悲しみなんて忘れられるくらい楽しいから。とか、同じような言葉が並んでいる。
それを見た私は、嬉しい気持ちにはなれなかった。
「誰も私と同じ悲しみなんて味わったことないくせに、こんな色紙先生に書かされただけのくせに」
「ほんとそうだよな」
「え?」
そんな皮肉を聞いた男の子から返って来たのは予想外の言葉で、私は拍子抜けしてしまった。
「だって俺、じゃんけんで負けてここに来たんだぜ?普通仲がいい奴らが持っていくはずなのに、揃いも揃って用事があるって。ほんとありえねーよな」
私は驚いて固まってしまった。ここに男の子が来た時点で何となく察してはいたけれど、本当にそうだと言われると少し胸に来るものがあった。お父さんだけじゃなくて、他にも何か大切なものを失った気がした。
「そうなんだ……でもさ、普通それ本人の前で言う?」
「事実だし」
「私が悲しむとか思わないの?」
「後で知ったほうが悲しいだろ」
「そうだけど」
落ち込んでいた私だったが、この男の子と話していると何故だが気が抜けてしまい、気が付けば悲しい気持ちも少し軽くなっていた。
「それじゃ、俺は帰るから」
「待って!」
「ん?」
「明日も……来てくれる?」
「何でだよ」
「貴方と喋っているとなんだか気がまぎれる気がするの。ほら、人助けだと思って!」
「そう言われてもなあ……はあ、人助けなら仕方ないか」
その日から男の子は、毎日私の家に来てくれるようになった。日を重ねるごとに、私は男の子の優しさに引き込まれていった。
男の子は映画が大好きみたいで、いろんな映画の話をしてくれた。私の愚痴を聞いてくれることもあった。いつの間にか男の子と話す時間は、ずっと塞ぎ込んでいた私の心の支えとなっていた。
思えば、もうこの時から私は彼に心を奪われていたのかもしれない。
彼が家に来てくれるようになって一か月ほどが経ったある日。男の子は私にこんなことを言った。
「知ってる?映画では、主人公の大事な人が居なくなるってことはよくあるんだ。そして、そういう映画は終わり方も決まってる。絶対に、主人公は大事な人の分まで生きるって前を向くんだ」
その話を聞いた時、これは私のことを言っているんだろうと思った。
「主人公が前を向けないときはどうするの?」
「そういう時はね、まだ生きている大事な人のことを思うんだ。その人のために生きようと思ったら、自然と前を向けるんだよ」
「……」
「ま、俺が見てきた映画の知識に過ぎないんだけどな」
その夜私は、男の子が言った言葉の本当の意味を知ることとなった。
夜、目が覚めた私は、水を飲もうとリビングに向かった。すると、リビングの明かりはまだついていて、ドアの隙間から中を覗くと、部屋の端っこでお父さんの写真を見ながら何かを言っているお母さんが居た。
「私、貴方の分まで頑張るから。絶対、希のこと幸せにするから……」
お母さんは泣いていた。この時初めて私は、あの男の子の言葉は私のお母さんのことを言っていたのだと気づいた。
その光景を見た私は、このままではいけないと思った。そして私はようやくお父さんの死を受け入れることが出来た。
しかし、それだけで全てが上手くいくほど現実は甘くなかった。気が付けばもう三月になっていて、卒業の時期になっていたのだ。小学校は何とか卒業できたが、卒業式はもう終わっていて卒業証書だけを受け取った。
中学校へ入学した私は、完全に孤立してしまっていた。ずっと学校に行けていなかったので、人との接し方が分からず、人と話すのが怖いと思うようになっていた。だから私は、前髪を伸ばし、眼鏡をかけ、極力他の人が見えないようにした。
そんなことをしていたので、私はあの男の子が同じ中学に通っていて、しかも同じクラスだなんてことは知らなかった。
私がそのことを知ったのは、ある男子がその男の子のことについて話しているのを聞いたからだった。
「あいつの上履き捨ててやったわ」
「まじかよ」
それを聞いて、あの男の子が同じクラスで、しかもいじめられているということを知った。
私を救ってくれた男の子がいじめられていることを知って、私は助けたいと思った……でも、怖くて体が動かなかった。結局私は何もできず、見て見ぬふりをしているうちに、いじめは無くなっていった。
私は罪悪感に押しつぶされそうになった。彼は私のことを助けてくれたのに、私は何もできなかったのだ。それから少し経って、彼に謝る機会があった。彼は気にしてないようだったが、あの頃からは想像もできないほど冷たい目をしていた。
二年生になった私は、図書館で女の子と勉強をしている彼を見つけた。その時の彼は、あの頃と同じような優しい目をしていた。やっぱり彼は変わっていないと私は嬉しくなった。それと同時に、一緒に勉強をしている女の子に言いようのない劣等感を感じた。
これが、私が人生で初めて嫉妬という感情を感じた瞬間だった。
結局私は勇気が出ず、卒業まで彼に話しかけることは出来なかった。
だから、同じ高校に彼がいると知ったときは本当に嬉しかった。
でも、彼は私のことを覚えていないようだった。かなりショックだったけど、時間が経っているし仕方がないと自分に言い聞かせ、勇気を出して私は映画部に入ったのだ。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
お風呂とご飯を済ませた俺たちは、寝る準備に取り掛かっていた。
「じゃあ、神田さんは俺の部屋のベッドで寝て。俺はリビングでなるから」
「それは悪いよ!私がリビングで寝るから金城君がベッドで寝て!」
こんなやり取りが少しの間行われたが、俺が全く譲らなかったので渋々神田さんがベッドで寝ることになった。こうして、お互いの寝る場所が決まったとき、
ピカッ、ゴロゴロゴロ!
かなり大きめの雷鳴が響き渡った。
「きゃ!」
そして、その音に反応した神田さんが俺の腕にしがみついてきた。
(はい。今日何度目か分からないドキッ、頂きました)
「雷怖いの?」
「そんなことな……」
ゴロゴロゴロ
「きゃっ!」
神田さんは雷が怖いらしい。さっきからずっと俺の腕にしがみついて顔をうずめている。まあ俺としては、可愛らしいし、色々柔らかいし、悪い気はしないのだが。
ゴロゴロゴロ
ゴロゴロゴロ
雷は一向に鳴り止む気配がない。俺は神田さんに、鳴りやむ気配がないからもう寝てしまった方が良いのではないかと言った。
すると神田さんは、目をうるうるさせながらしがみつく腕の力を更に強くした。
「無理……一人じゃ寝れない。一緒に来て?」
俺の腕を離す気がないようだったので、俺は神田さんに付いていくことにした。もちろん、神田さんがベッドで俺が床だ。
(結局同じ部屋で寝ることになってしまった……こんな状況で寝れるわけねえだろー!)
夜はまだまだ終わらない。
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