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5 とってもジェラシット
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とにかく話をきちんとしようと、飛天たちは太陽に連れられ、別室へと移動した。狭い控室のテーブルに向かい合って座る。
「あの、中野さん? ヒロインって……」
太陽の目は、映理に釘付けだった。指で作った四角を前後させ、映理のことを吟味する。芸術家気取りの男がいかにもやりそうな行動だった。
目の前の男の視界の隅にも、自分は入っていない。飛天が話しかけようが、彼は一切の反応を見せないだろうことは、想像に難くない。
飛天はマスクの下で歯噛みして、太陽が正気に戻り、話し始めるのを待った。
「ああ、すまない。つい夢中になってしまった」
眼鏡を外してレンズを拭く仕草に、なぜか飛天はとてもイラっとした。
太陽は再度、「君を見ていたら、インスピレーションが湧いた。ぜひとも、ヒロインを演じてもらいたい」と、映理を勧誘する。
映理が思わず、身体ごと引いてしまうほどの押せ押せ感である。
大きな鞄の中から、太陽はダブルクリップで止めた紙の束を寄越した。映理の隣から覗き込む。
「十一月の学祭に向けての作品を、撮り始めたところでね。特撮部分は順調なんだが、ドラマパートは、なかなかイメージに合う女優がいなくて、困っていたんだ」
赤ペンでたくさんの書き込みをされたコピー用紙の束は、新作の脚本だった。先程の『怪獣ゲスギス』で太陽の作り出す世界のファンになった映理の目が、読み進めるにつれて輝き始める。
夢中になっている映理は、飛天が読み終えるのを待つという気遣いを忘れている。速読術でも身につけているのか、彼女は恐るべき速度で脚本を読み切り、しかもきちんと味わっていた。
「ステキなお話でした……!」
ぎゅっと紙の束を胸の前で抱き締めて、感動を態度で示してから、映理は太陽に脚本を返却した。
「それで、どうかな。この夏休み中に撮影は全部終わらせるから、大学の授業に影響はないよ。謝礼は払えないけれど、出来る限り君の都合に合わせよう」
両手を広げる動作が様になっている。今からでも、舞台役者に転身すればいいと、飛天は半ば自棄になって考えた。
「でも、私は演技なんて初めてで……」
「大丈夫。うちの連中だって、演技経験なんて最初はほとんどなかったんだから」
暗に、自分が演技指導したおかげだとでも言いたいのか。飛天はどんどん苛立ちを募らせて、こっそりと爪先で床を打ち鳴らす。
中野太陽という男の、何がそんなに癇に障るのか。
アイドル時代は、初対面のスタッフや共演者とも仕事をこなさなければならないため、なんとなく愛想笑いを浮かべて対応することに慣れていた。次の事務所に移ろうと、それは同じだった。
だからてっきり、自分は他人と関係を築くのが得意なのだと勘違いしていた。周りからどう思われているか、というのが怖くなかったのだ。
他人の目を気にするようになったからだろうか。太陽は唯我独尊、自分のやりたいことをやりたいように生きているのが、うらやましいのかもしれない。
「新しい自分になる、きっかけになるかもしれないよ」
誘い文句を巧みに使い、太陽は映理にどうしてもヒロインを演じさせようとする。男の視線に晒されて、横目で見る映理は、まんざらでもなさそうな表情をする。
違うな。
太陽がムカつくのは、映理の尊敬を一身に集めているからだ。
私のヒーロー、と言ったのと同じ口で、太陽の才能に賛辞を捧げる映理が、嫌だからだ。
どうしようもなく醜い嫉妬心に過ぎない。
「でも……」
受けるかどうか、映理は悩んでいる。ちらりとこちらを見て、映理は助言を望んでいる様子だった。
悩むくらいなら、受けるなよ。
本心を言えば、映理に太陽の映画になんて、出演してもらいたくない。
でも、飛天には彼女のやりたいことを制限する権利はない。あったとしても、それを易々と行使するような男にはなりたくなかった。
飛天は余裕ぶって、太陽に眼鏡の奥から挑戦的な視線を送る。
「映理さんがやりたいことを、俺が止める権利はないよ。自分で考えないと」
彼女は不意を突かれて、きょとんとした顔をした。飛天に突き放されるとは、思っていなかったのだろう。
映理はじっくりと考えた末に、答えを出した。
「私……やります。やってみたい、です」
その言葉に、飛天はゆっくりと細く、気づかれないように息を吐いた。そうか。やりたい、か。
太陽は飛天とは正反対で、満面の笑みを浮かべていた。すでにインスピレーションが湧いたのか、赤ペンを紙に走らせて、演出プランを変更している。
一段落するのを見届けてから、飛天たちは帰宅することにした。連絡先を交換する二人を、飛天は忸怩たる思いで見つめていた。
「それじゃあ、よろしく」
握手しよう差し出された太陽の手に、困りつつも映理が手を伸ばす。その前に、飛天は身体を割り込ませ、強く握った。
やましい気持ちがなかったとしても、飛天は映理に他の男が触れるのが、嫌だった。
まったく眼中になかった隣の男に太陽は驚きつつ、同じくらいの力で握り返してくる。
「君に出演してもらう予定は、今のところないけれどね」
よろしくするつもりは一切ない。
そんな強い意志を感じさせる目で、太陽は嫌味を言った。
「あの、中野さん? ヒロインって……」
太陽の目は、映理に釘付けだった。指で作った四角を前後させ、映理のことを吟味する。芸術家気取りの男がいかにもやりそうな行動だった。
目の前の男の視界の隅にも、自分は入っていない。飛天が話しかけようが、彼は一切の反応を見せないだろうことは、想像に難くない。
飛天はマスクの下で歯噛みして、太陽が正気に戻り、話し始めるのを待った。
「ああ、すまない。つい夢中になってしまった」
眼鏡を外してレンズを拭く仕草に、なぜか飛天はとてもイラっとした。
太陽は再度、「君を見ていたら、インスピレーションが湧いた。ぜひとも、ヒロインを演じてもらいたい」と、映理を勧誘する。
映理が思わず、身体ごと引いてしまうほどの押せ押せ感である。
大きな鞄の中から、太陽はダブルクリップで止めた紙の束を寄越した。映理の隣から覗き込む。
「十一月の学祭に向けての作品を、撮り始めたところでね。特撮部分は順調なんだが、ドラマパートは、なかなかイメージに合う女優がいなくて、困っていたんだ」
赤ペンでたくさんの書き込みをされたコピー用紙の束は、新作の脚本だった。先程の『怪獣ゲスギス』で太陽の作り出す世界のファンになった映理の目が、読み進めるにつれて輝き始める。
夢中になっている映理は、飛天が読み終えるのを待つという気遣いを忘れている。速読術でも身につけているのか、彼女は恐るべき速度で脚本を読み切り、しかもきちんと味わっていた。
「ステキなお話でした……!」
ぎゅっと紙の束を胸の前で抱き締めて、感動を態度で示してから、映理は太陽に脚本を返却した。
「それで、どうかな。この夏休み中に撮影は全部終わらせるから、大学の授業に影響はないよ。謝礼は払えないけれど、出来る限り君の都合に合わせよう」
両手を広げる動作が様になっている。今からでも、舞台役者に転身すればいいと、飛天は半ば自棄になって考えた。
「でも、私は演技なんて初めてで……」
「大丈夫。うちの連中だって、演技経験なんて最初はほとんどなかったんだから」
暗に、自分が演技指導したおかげだとでも言いたいのか。飛天はどんどん苛立ちを募らせて、こっそりと爪先で床を打ち鳴らす。
中野太陽という男の、何がそんなに癇に障るのか。
アイドル時代は、初対面のスタッフや共演者とも仕事をこなさなければならないため、なんとなく愛想笑いを浮かべて対応することに慣れていた。次の事務所に移ろうと、それは同じだった。
だからてっきり、自分は他人と関係を築くのが得意なのだと勘違いしていた。周りからどう思われているか、というのが怖くなかったのだ。
他人の目を気にするようになったからだろうか。太陽は唯我独尊、自分のやりたいことをやりたいように生きているのが、うらやましいのかもしれない。
「新しい自分になる、きっかけになるかもしれないよ」
誘い文句を巧みに使い、太陽は映理にどうしてもヒロインを演じさせようとする。男の視線に晒されて、横目で見る映理は、まんざらでもなさそうな表情をする。
違うな。
太陽がムカつくのは、映理の尊敬を一身に集めているからだ。
私のヒーロー、と言ったのと同じ口で、太陽の才能に賛辞を捧げる映理が、嫌だからだ。
どうしようもなく醜い嫉妬心に過ぎない。
「でも……」
受けるかどうか、映理は悩んでいる。ちらりとこちらを見て、映理は助言を望んでいる様子だった。
悩むくらいなら、受けるなよ。
本心を言えば、映理に太陽の映画になんて、出演してもらいたくない。
でも、飛天には彼女のやりたいことを制限する権利はない。あったとしても、それを易々と行使するような男にはなりたくなかった。
飛天は余裕ぶって、太陽に眼鏡の奥から挑戦的な視線を送る。
「映理さんがやりたいことを、俺が止める権利はないよ。自分で考えないと」
彼女は不意を突かれて、きょとんとした顔をした。飛天に突き放されるとは、思っていなかったのだろう。
映理はじっくりと考えた末に、答えを出した。
「私……やります。やってみたい、です」
その言葉に、飛天はゆっくりと細く、気づかれないように息を吐いた。そうか。やりたい、か。
太陽は飛天とは正反対で、満面の笑みを浮かべていた。すでにインスピレーションが湧いたのか、赤ペンを紙に走らせて、演出プランを変更している。
一段落するのを見届けてから、飛天たちは帰宅することにした。連絡先を交換する二人を、飛天は忸怩たる思いで見つめていた。
「それじゃあ、よろしく」
握手しよう差し出された太陽の手に、困りつつも映理が手を伸ばす。その前に、飛天は身体を割り込ませ、強く握った。
やましい気持ちがなかったとしても、飛天は映理に他の男が触れるのが、嫌だった。
まったく眼中になかった隣の男に太陽は驚きつつ、同じくらいの力で握り返してくる。
「君に出演してもらう予定は、今のところないけれどね」
よろしくするつもりは一切ない。
そんな強い意志を感じさせる目で、太陽は嫌味を言った。
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