44 / 45
11 ジャッジメントタイム
2
しおりを挟む
「十年近く前のことを言われても、と晒したアカウントを憎みました。大きな仕事が決まったのに、全部ダメにされた。その傲慢さをきっと、見透かされていたんだと思います。一部の特撮ファンからは、厳しい意見が続出しました。中傷ともいえる発言も多々ありました」
その結果、番組を降板し、事務所も辞めた。SNSのアカウントはすべて削除して、現実世界でもネットの界隈からも隔絶した生活が長かった。
そう告白しても、コメント欄が荒れるのは止まらない。
「最近になって、何人かの特撮ファンと、リアルで知り合いになりました。特撮が好きな人間は、イコール僕の敵だと思っていましたが、違ったんです」
飛天は語る。映理たちの名前は出さないが、彼らがどれほどの熱量で特撮を愛し、応援しているのかを。
番組やショーが、子供たちのための物であることを自覚し、大人がルールを破るのはいけないと、勇気を振り絞った映理。
見るだけではなく、作り手として特撮に関わり、新しい作品を生み出そうとする太陽たち、特技研のメンバー。
飛天は会社から借り、持ち出したヒーローの仮面を取り出す。次郎にお願いされて嫌々演じたそのキャラクターは、今はただのマスクだ。感情も、表情もそこにはない。
「今、僕はヒーローショーを行う会社で、スーツアクターとしてアルバイトをしています」
だから、自分は知っている。
「特撮を愛している人は、ネットの架空の存在じゃなくて、実在していて、ショーを見て笑ってくれる存在でもある……中に入っているのが僕だと知らないからかもしれませんが」
なぜか映理だけは、飛天がどんな姿でいようが、迷いなく何役だったかをあててくるが、あれは重度の特オタにしか使えない魔法なのだろう。
飛天はカメラに向かって微笑んだ。きっと映理も、太陽も、次郎も見てくれているはず。
「僕にとってのヒーローは、僕に特撮の面白さ、奥深さを教えてくれた友人たちです。ありがとう」
そして飛天は、自身の夢を語る。
「僕は四月から、アクション俳優の養成所に通うことに決めました。スーツアクターとしてだけではなく、顔出しでの役者としても、活動を再開したいと思っています」
絶対に許さない。そう思っている人間は、一部に過ぎない。炎上したときの飛天とは違う。支えてくれる人間がいることを、知っている。
「いつかまた、特撮ドラマのキャストとして呼んでもらえるように……頑張ります」
大きな損失を与えてしまったから、二度と選ばれることはないかもしれない。でも、目標にするくらいは許されるだろう。
飛天は再び大きく頭を下げて、録画を停止した。
どっと肩の荷が下りて、深く安堵の息をつく。あまり見る余裕のなかったコメント欄を、ぼんやりとチェックした。
荒れに荒れていたコメントだが、一部を除いて沈静化し始めている。動画の評価も「GOOD」が優勢になりつつあり、飛天は自分の誠意がなんとか伝わったことに、ホッとする。
再びコメントの流れが速くなったのは、「NAKANO‐Sun」というアカウントが、動画のURLのみをぺたりと貼りつけた後だった。
「中野サン」……中野太陽のアカウントだということは、すぐにわかった。彼とは上映会以来、顔を合わせていない。飛天を糾弾する内容かもしれない。震える指で、クリックする。
映ったのは、映理がヒロイン役を演じ、飛天が守護者の代役を務めた例の映画だった。
どうしてこれを?
飛天の疑問は、エンディングのテロップで判明した。
『サヤの守護者 品川飛天』
キャストとしてクレジットされた自分の名前を見て、飛天の目からは涙が落ちた。
太陽は、名前を載せないでくれという自分の事情を、あの日「品川飛天だ!」と名指しされ、逃げ出したことから理解したのだろう。
そして飛天の名前を掲げた動画をアップした。これは、「気にするなよ」という彼からのメッセージだ。そうに違いない。
それからもう一件。名前のないゲストユーザーからのコメントがある。こちらは飛天にしかわからないだろう。
『絶対に、報われる日が来るから。飛天の活躍を、祈ってる』
これは、敦だ。アイドル事務所はSNSをすべて禁止している。彼は真面目なので、律儀に守っているから、ゲストユーザーとして投稿したのだ。
「……そうだな」
彼が言うと、とても説得力があった。何せ、一度はデビューも絶望的だった男なのだから。
飛天は微笑み、涙を拭った。泣いている場合ではない。宣言した以上、動き出さなければならない。
スマートフォンの電源を再度入れると、映理からメッセージが届いていた。
『感動しました』
相変わらずスタンプや絵文字の一つもない。表面上は素っ気ない文面だが、映理の声で脳内再生されると、文字がいきいきとして見えてくるのだから、不思議である。
『飛天さんの動画を見て、決めました』
タイミングがよかったのか、リアルタイムでメッセージが届いたので、即座に「何を?」と返す。
『私も、私の夢を追うことにします!』
その結果、番組を降板し、事務所も辞めた。SNSのアカウントはすべて削除して、現実世界でもネットの界隈からも隔絶した生活が長かった。
そう告白しても、コメント欄が荒れるのは止まらない。
「最近になって、何人かの特撮ファンと、リアルで知り合いになりました。特撮が好きな人間は、イコール僕の敵だと思っていましたが、違ったんです」
飛天は語る。映理たちの名前は出さないが、彼らがどれほどの熱量で特撮を愛し、応援しているのかを。
番組やショーが、子供たちのための物であることを自覚し、大人がルールを破るのはいけないと、勇気を振り絞った映理。
見るだけではなく、作り手として特撮に関わり、新しい作品を生み出そうとする太陽たち、特技研のメンバー。
飛天は会社から借り、持ち出したヒーローの仮面を取り出す。次郎にお願いされて嫌々演じたそのキャラクターは、今はただのマスクだ。感情も、表情もそこにはない。
「今、僕はヒーローショーを行う会社で、スーツアクターとしてアルバイトをしています」
だから、自分は知っている。
「特撮を愛している人は、ネットの架空の存在じゃなくて、実在していて、ショーを見て笑ってくれる存在でもある……中に入っているのが僕だと知らないからかもしれませんが」
なぜか映理だけは、飛天がどんな姿でいようが、迷いなく何役だったかをあててくるが、あれは重度の特オタにしか使えない魔法なのだろう。
飛天はカメラに向かって微笑んだ。きっと映理も、太陽も、次郎も見てくれているはず。
「僕にとってのヒーローは、僕に特撮の面白さ、奥深さを教えてくれた友人たちです。ありがとう」
そして飛天は、自身の夢を語る。
「僕は四月から、アクション俳優の養成所に通うことに決めました。スーツアクターとしてだけではなく、顔出しでの役者としても、活動を再開したいと思っています」
絶対に許さない。そう思っている人間は、一部に過ぎない。炎上したときの飛天とは違う。支えてくれる人間がいることを、知っている。
「いつかまた、特撮ドラマのキャストとして呼んでもらえるように……頑張ります」
大きな損失を与えてしまったから、二度と選ばれることはないかもしれない。でも、目標にするくらいは許されるだろう。
飛天は再び大きく頭を下げて、録画を停止した。
どっと肩の荷が下りて、深く安堵の息をつく。あまり見る余裕のなかったコメント欄を、ぼんやりとチェックした。
荒れに荒れていたコメントだが、一部を除いて沈静化し始めている。動画の評価も「GOOD」が優勢になりつつあり、飛天は自分の誠意がなんとか伝わったことに、ホッとする。
再びコメントの流れが速くなったのは、「NAKANO‐Sun」というアカウントが、動画のURLのみをぺたりと貼りつけた後だった。
「中野サン」……中野太陽のアカウントだということは、すぐにわかった。彼とは上映会以来、顔を合わせていない。飛天を糾弾する内容かもしれない。震える指で、クリックする。
映ったのは、映理がヒロイン役を演じ、飛天が守護者の代役を務めた例の映画だった。
どうしてこれを?
飛天の疑問は、エンディングのテロップで判明した。
『サヤの守護者 品川飛天』
キャストとしてクレジットされた自分の名前を見て、飛天の目からは涙が落ちた。
太陽は、名前を載せないでくれという自分の事情を、あの日「品川飛天だ!」と名指しされ、逃げ出したことから理解したのだろう。
そして飛天の名前を掲げた動画をアップした。これは、「気にするなよ」という彼からのメッセージだ。そうに違いない。
それからもう一件。名前のないゲストユーザーからのコメントがある。こちらは飛天にしかわからないだろう。
『絶対に、報われる日が来るから。飛天の活躍を、祈ってる』
これは、敦だ。アイドル事務所はSNSをすべて禁止している。彼は真面目なので、律儀に守っているから、ゲストユーザーとして投稿したのだ。
「……そうだな」
彼が言うと、とても説得力があった。何せ、一度はデビューも絶望的だった男なのだから。
飛天は微笑み、涙を拭った。泣いている場合ではない。宣言した以上、動き出さなければならない。
スマートフォンの電源を再度入れると、映理からメッセージが届いていた。
『感動しました』
相変わらずスタンプや絵文字の一つもない。表面上は素っ気ない文面だが、映理の声で脳内再生されると、文字がいきいきとして見えてくるのだから、不思議である。
『飛天さんの動画を見て、決めました』
タイミングがよかったのか、リアルタイムでメッセージが届いたので、即座に「何を?」と返す。
『私も、私の夢を追うことにします!』
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
ハチミツ色の絵の具に溺れたい
桃本もも
青春
大学生になったばかりの梅若佐保には、ひとつだけ悔やんでも悔やみきれないことがあった。
高校で唯一仲良くしていた美術部の後輩、茜谷まほろが事故に遭うきっかけを作ってしまったことだ。
まほろは一命を取りとめたものの、意識不明がつづいている。
まほろがいない、無味乾燥な日々。
そんな佐保のもとに、入院しているはずのまほろが現れる。
「あたし、やりたいことがあって、先輩のところに来たんです」
意識だけの存在になったまほろとの、不思議なふたり暮らしがはじまる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる