好きって言えないっ!~呼び出したのは悪魔みたいな妖精でした~

葉咲透織

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3 前途多難

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 手帳のカレンダーをめくって、ハーッと盛大に溜息をつく。「三ヶ月ある」なのか「三ヶ月しかない」なのか。

 ポジティブ思考だったら、あんな変なおまじないに手を出すことがなかったわけで、私は当然、三ヶ月しかないのに、どうやって俊くんに告白してもらえばいいのよー! ということで、頭がいっぱいだ。

 昼休みの俊くんは、後輩に呼び出されてどこかへ行ってしまった。大会は途中で負けてしまったから、サッカー部の三年生はとっくに引退している。俊くんは副部長になり、後輩たちからいろいろと相談を受ける立場になった。

 先輩からも後輩からも信頼されている俊くんは、やっぱり素敵だと思う。同時に、そんな人がどうして私なんかを好きでいてくれるのか、不思議だ。

「私のこと、好き?」って聞くのは、妖精的にはアリなのかナシなのか。

『え~? どっちでもいいけど、オマエ、そんなこと聞けるのか~?』

 学校に連れてきていないのに、なぜかはっきりと脳内でそんな声が聞こえた。頭を振って追い出す。

 言えない。そんな小悪魔みたいなキャラじゃない。そういうセリフが似合う女の子って、例えばああいう子だよね。

 ちらりと私は、男子と楽しそうに喋っている彼女に視線を向けた。

「もうやだぁ。なにそれ~」

 甲高いきゃぴきゃぴした声に、間延びした語尾があざとい。ツインテールの毛先をくるくると指でもてあそんで、一緒にいる男子にさりげなくボディタッチを決める。男子は可愛い女の子に相手をしてもらって、ご満悦だ。

 ああいう子が、「あたしのこと、好き?」って上目遣いをすれば、その場で恋に落ちてしまうだろう、きっと。

 いいなあ。児玉こだまさんみたいな女の子になりたかった。

「もしもーし、茉由? どうかしたの、ぼんやりしちゃって」

 目の前で手をひらひらと振られ、私はハッとする。

「あっ、ちょっと暑くてぼーっとしちゃった」
「えー? 本当に大丈夫なの?」

 たまたま空いていた前の席に座った紗菜さなは、私のおでこに手を当てる。

「熱はないみたいね」
「だから、大丈夫だって」

 さりげなく彼女の手から逃れると、気にした様子もなく、紗菜は話を始める。

「夏休み、どっか遊びに行かない? 優美ゆうみも誘ってさ」

 夏、休み。

 紗菜の言葉を聞いて、私は自分の思い違いに気がついた。

 期限は三ヶ月じゃない。実質二ヶ月しかない。夏休みの約一ヶ月間、私は俊くんと顔を合わせることができない。

 直接会うことができないなら、スマホでメッセージのやりとりをすればいいじゃない、って?

 それができたら、今までもっと彼とコミュニケーションを取れている。私は彼の連絡先を知らないのだ。だから、登校して教室で挨拶をするのが、精一杯の交流だった。

 やばい。八月の一ヶ月間丸々、棒に振るわけにはいかない。二ヶ月で告白してもらえるようになるなんて、とてもじゃないが無理無理無理。

 夏休み前に、どうにかして連絡先を聞かなきゃ。

 黙って決意を固めた私をよそに、紗菜は指折り数えて夏休みのイベントを楽しみにしている。

「あ~、でもシンタとのデートが最優先だからね! あいつ、部活で忙しいしさ」

 てへへ、と頭を掻いた紗菜は、恋する乙女って感じでとても可愛い。が、誰も彼女の恋愛事情なんて聞いていない。部活が休みの日に合わせて遊びに行くんだ、と嬉しそうにしている紗菜の横顔を見て、ふと気づく。

 そっか。部活だ!

「ねぇ、紗菜。シンタくんって、サッカー部だったよね?」

 紗菜の彼氏の松川まつかわ信太郎しんたろうは、俊くんと同じサッカー部だ。寡黙なゴールキーパーで、お喋りな紗菜とは対照的だが、なかなか相性がいいらしく、小学校六年生のときからの付き合いである。必然的に、彼もまた私たちと同じ学校、すなわち俊くんとも、小学校からのサッカー仲間である。

「うん」

 それがどうかした?

 そんな目で私を見つめる紗菜に、協力を頼んでみたらどうだろうか。サッカー部への伝手も、私よりはよほど強固なものがある。紗菜を経由して、シンタくんにも手伝ってもらえたら。

「あー、うん。ちょっと確かめたかっただけ」

 へらりと笑う。この場で協力を頼めるなら、あんな妖精の力なんて借りなくても、とっくに告白している。

「あ、俊。おかえりー」

 きゃぴきゃぴした高い声に反応して、出入り口を見る。俊くんは、呼ばれた児玉さんのもとに近づいていってしまう。自分の席は真逆の方向にあるのに。

「カンナ。お前、この間の試合のノート取ってたよな?」

 呼び捨てに、お前呼び。誰にだって優しい彼だけど、そんな風に扱う女の子は児玉さんだけだった。

 ふたりはただ同じ小学校出身というだけじゃない。マンションで隣同士だと知ったのは、誰かに(私に、かもしれないし、そうじゃないかもしれない)見せつけるように自分たちの仲をアピールする、児玉さんが自ら言っていたからだった。

「ええ~? あたしの仕事じゃないから、知らないけど」

 サッカー部のマネージャーの仕事って、スコアノート取ったりとか、そういうことなんじゃないの?

 俊くんは溜息をついて、「もういい」と、自分の席へと戻っていく。

「あ、ちょっと待ってよ」

 児玉さんは、俊くんのあとを追った。今の今まで楽しげに話していた男子は急に突き放されて放置され、ぽつんと
している。

「なんか……すごいね?」

 何が、とは言わなかった紗菜だが、その気持ちはよくわかる。

「うん……」

 児玉さんの行動にもやもやするのは、私が俊くんのことを好きだから、というわけではないらしい。

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