好きって言えないっ!~呼び出したのは悪魔みたいな妖精でした~

葉咲透織

文字の大きさ
11 / 20

11 覚えていてくれた

しおりを挟む
 翌日、新学期。

 今日は始業式とホームルームくらいしかないけれど、夏休み中に持ち帰っていた辞典や資料集など、もうロッカーに置いてこようと詰め込んだら、リュックがすごく重くなった。

 よいしょ、よいしょ、と一歩一歩踏みしめながら階段を上がっていると――二年二組の教室は、三階にある――、ふっと背中が軽くなった。

 えっ、リュックの底抜けた?

 慌てて振り返るけど、それこそ背負ったリュックに阻まれて、後ろがよく見えない。

 あたふたする私の耳に、男の子のくすくすと控えめな笑い声が届く。

 私がその声を、間違えるわけがない。

「あ、綾瀬くん……?」
「おはよう、小坂さん。重そうだね。俺、持とうか?」

 リュックの底の部分を、俊くんが支えてくれている。ここで「大丈夫」と笑ったら、彼はきっと、「そっか」と、表情をまったく変えずに、階段を先に上っていってしまうかもしれない。

 私はほんの少しの勇気を出して、「ありがとう」と言った。すると、俊くんの微笑みが深くなった気がする。

 リュックを下ろして、俊くんに預ける。自分の荷物を背中に、私のをお腹に抱えた彼は、さすが運動部。私と違って、軽々と階段を上っていく。

「花火大会ぶりだね」

 あれ以来、夏休み中の図書室通いをやめてしまった理由を尋ねられるのでは、とひやひやした。けれど、教室までの道のりは、私が思うよりもずっと短くて、すぐに着いてしまう。

 もういいよ、と荷物を引き取ろうとしたけど、彼は首を横に振り、私の席までちゃんと運んでくれた。

「あ、ありがとう!」

 いつもより大きな声が出た。俊くんは、ぱちくりと目をまたたかせて、笑った。

「どういたしまして……ん?」

 そのまま離れていくと思ったら、彼は何かに気づいた様子。

「あの、どうかした?」

 ほんのちょっぴり期待をにじませながら、私はじっと、彼の反応の理由をうかがう。視線の先にあるのは、リュックのサイズ感にしては、やや大きめのぬいぐるみ。

 あんまりじっと見られると、実はこの子の中に得体の知れないなにものかが入り込んでいて、意志があるとバレてしまうかもしれない。絶対に喋らないようにきつく言ってあるから、大丈夫だと信じたい。

 俊くんの指が、ハートちゃんをつついで揺らす。

「これって、昔ノートに描いてた子?」
「う、うん!」

 やった! 覚えていてくれた!

「他の男子はみんな、ブサイクとかダサいとか言いたい放題だったけど、綾瀬くんが可愛いって言ってくれたの、嬉しくて」
「そっか……うん。ぬいぐるみになると、より可愛いね」

 にっこり笑って、ほっぺたをすりすり。くっ、中にいる妖精がうらやましい。

「ってことは、これ、オリジナルってことだよね? 小坂さんが作ったの?」
「うん。私、手芸が好きなの」
「そういえば、花火大会のときも、可愛いのつけてたっけね」

 この「可愛い」は、ハートちゃんではなくて、私自身に言ってくれたといっても、過言ではないだろう。ね? そうだよね? 私の髪を飾っていたんだから!

 本当はまだ喋っていたかったけれど、新学期、私が俊くんを独占していられるわけもない。

「綾瀬センパイ!」

 教室の外からサッカー部の後輩に声をかけられて、「それじゃ」と、彼は軽く私に手を振り、廊下へと出て行った。

「……ふー」

 好きになったその瞬間のことを思い出させるのは、ハートちゃんだ。俊くんも覚えていてくれた。

 好きだとか、そういうことはもちろん言えない。でも、自分の作ったキャラクターを、他の子からはからかわれるだけのこの子を、可愛いと言ってくれたことについて、ありがとうの気持ちを、やっと伝えられた。 まずはここから。

 そう思って、私はハートちゃんのぬいぐるみを学校に持って行くことに決めた。妖精が悲鳴を上げるのを無視して、ぶすりと針を刺して、組紐をストラップ代わりに、がっつりと縫いつけた。賭けだったけれど、成功してよかった。

 今月は、俊くんの誕生日がある。私の手芸テクニックを褒めてくれた彼にも、何か手作りのものを作ってプレゼントしたいな。

 今ももの言いたげに見えるハートちゃんを、指で弾きながら、どんなものを作ろうか、考える。

 マスコットをお守り代わりにしてみようかなあ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

『ラーメン屋の店主が異世界転生して最高の出汁探すってよ』

髙橋彼方
児童書・童話
一ノ瀬龍拓は新宿で行列の出来るラーメン屋『龍昇』を経営していた。 新たなラーメンを求めているある日、従業員に夢が叶うと有名な神社を教えてもらう。 龍拓は神頼みでもするかと神社に行くと、御祭神に異世界にある王国ロイアルワへ飛ばされてしまう。 果たして、ここには龍拓が求めるラーメンの食材はあるのだろうか……。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

処理中です...