好きって言えないっ!~呼び出したのは悪魔みたいな妖精でした~

葉咲透織

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13 立ち聞きなんてするもんじゃない

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 ハートちゃんが行方不明になったのが、月曜日。そして金曜の今日まで、見つからない。毎日職員室に聞きに行くけれど、先生は首を横に振るだけ。

 勉強にもプレゼント製作にも、イマイチ身が入らなかった。紗菜は「そんなに大切だったんだ」と言って、毎日一生懸命に、私を慰めた。

 今日も学校中を探し回ったけれど、手がかりは一切なし。諦めて帰宅する途中で、前を集団で歩いているのがサッカー部の人たちだということに気がついた。

 その中には俊くんもいて、私は話しかけようかな、どうしようかな、とちょっと悩む。

 彼がひとりだったら、「部活、お疲れ様」と声をかけるのも比較的簡単だけど、今日はたくさんの部員に囲まれている。うーん、やめた方がよさそう。

 私は歩みをゆっくりにして、彼らの後ろをついていくことにする。ストーカーじゃない。たまたま、私の家と同じ方角に歩いているだけ。次第に人数を減らしていき、同学年の四人が残っている。

 その中には俊くんだけじゃなくて、児玉さんもいた。

「そういえば俊、そろそろ誕生日だけど、今年は何がいい?」

 幼なじみだから、当たり前といえば当たり前だけど、毎年プレゼントのやりとりをしているのか。

 うらやましいな。

 いや、今年は私も、勇気を出して贈り物をするんだから! 

「別になんでもいい、っていうか、無理はしなくていいんだぞ。もう中学生だし」
「遠慮しないでよ~」

 彼らの話はそこから、もらって嬉しいプレゼントやいらないプレゼントについて発展する。

 ちょっと高い焼き菓子は誰からもらっても美味しい。旅行の土産は地域限定キャラクターのストラップばっかり買ってこられて困る、などなど。

 俊くんへのアプローチの参考になったらいいな、と、距離を保ちつつも聞き耳を立てていると、甲高い女の子の声が、ひときわ大きく響いた。

「でもあれよね。もらって一番困るのってさぁ……手作りのプレゼントだよね~」

 思わず、足を止めていた。児玉さんの言葉に、身に覚えがあったのか、男子たちが「ああ」と、うなずいている。

「マフラーもどきみたいなのもらったときは、どう反応すりゃいいかわからなかったな」
「手作りクッキー、ありゃ食えたもんじゃないわ」

 などなど、手作り品をけなして笑う。

 気になる俊くんはといえば、何も言わなかった。ただ、快も不快も感じ取らせない顔で、微笑んでいる。

「ね、俊。俊も、手作りは嫌だよね?」
「あ~……ん」

 微かに頷いた彼を、見逃さなかった。

 手作りの品物は、そんなに嫌? ハートちゃんのことは、ほめてくれたのに? 今もリュックの中に入っている、作りかけのぼーるくんは、あと少しで完成する。誕生日には余裕で間に合うと思っていたけれど、これをあげるのは、彼にとっては、迷惑以外のなにものでもないの?

 完全に足を止めて立ち尽くす私を、児玉さんは俊くんの背を叩きつつ、ちらりと振り返った。

 彼女の唇が、意地悪そうにつり上がった。

 もしかして、児玉さんは最初から、私が後ろを歩いていることに気がついていた?

 そして俊くんの今の反応を見せつけるために、こんな話を始めたのかもしれない。

 胸の中が真っ黒なものでうめつくされる。苦しい。吐き出したいのに、吐き出せないもやもやを、深呼吸でどうにかおさえるけれど、悲しくて仕方がない。

 彼らが遠く離れてしまってからも、私はなかなか動き出すことができなかった。のろのろと歩いていると、さっきの俊くんの姿を思い出してしまう。

 とぼとぼと帰った私は、そのまま自室に引きこもり、夕飯も「食欲がないの」と断って、ベッドの上でぼんやりしていた。

 ぼーるくんを作らなければならないのに、せっかく途中まで作ったものを、私は全部ほどいてしまった。もう作りたくないし、布は何かに再利用しようと思って。

 だって、彼に喜んでもらえないのなら、意味がないから。

 そのまま月曜になって、登校する。元気のない私を、紗菜は心配してくれるけれど、理由を話せば彼女は、俊くんに食ってかかる可能性があったので、何も言わずに首を振った。

 そして教室に入り、私は目をみはる。

「ハート、ちゃん……?」

 私の席の上に、ちょこんと座ったたたずまいは、ハートちゃん以外のなにものでもない。

 私は慌てて取り上げて、どこも汚れたり、ほつれたりしていないことを確認した。紐もしっかりとそのままだ。

 よかった。

 でも、誰が?

 私は教室内をぐるりと見回す。クラスメイトはすでに半分くらい登校している。運動部の子の中には、自主的に朝練をしている子がいるから、この場にはいなくても、朝早く、誰もいない時間に登校してきて……という可能性を考えたら、キリがなかった。

「よかったじゃん」

 言って、背中を叩く紗菜に、変な反応をしそうになって、どうにかごまかす。

 誰も彼もが疑わしい。家に帰ったら、妖精を問い詰めなければ。ハートちゃんを両手で掴み、私は自分の顔の真正面に持ってくる。刺繍された目は、一切動くことがないけれど、犯人を知っているのは、この妖精だけなのだ。

 そうこうしているうちに、チャイムが鳴る。ほぼ同時に、ぞろぞろとクラスメイトたちが教室へとなだれ込んできて、私はその全員に、疑いの目を向けた。

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