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エピローグ 恋の花開いて
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クラスどころか、学校公認カップルになった私と俊くんは、周りの気遣いもあって、模擬店のシフトを調整してもらい、一緒に文化祭を回れることになった。
「小坂さん、ほら」
手を出されたけれど、握り返してあげない。だって、
「小坂さん、じゃなくって」
心得たように彼は、「ああ」と苦笑して、やり直す。
「茉由。行こう」
満足して、私は彼と手を繋いだ。ついさっき、ステージ上で成立したカップルが廊下を練り歩くのを、みんなが冷やかし半分の、けれどあたたかい視線で見つめてくれている。
「俊!」
そこに唯一の不満そうな声。同時に振り返ると、私のことなんて眼中になく、児玉さんは俊くんに食ってかかった。
「なんで小坂さんなんかと……」
「カンナ」
驚くほど低い声と怖い顔。こんな俊くん、初めて見た。ごくりと息を飲んで、幼なじみふたりのやりとりを見守る。
「カンナは別に、俺のこと好きでもなんでもないだろ」
「そんなことないよ! あたし、俊とずっと付き合いたいって……」
「じゃあなんで、俺だけじゃなくて他の男子にもベタベタしてたんだよ」
結局カンナが好きなのは、俺じゃなくて、男子にちやほやされる自分だろ、と指摘した俊に、児玉さんは何度も首を横に振っている。
「残念だけど、俺は茉由のことが好きなんだ。ずっとずっと。カンナに恋をしていたことなんて、一度もないよ」
きっぱりと言い切った俊に、児玉さんはかんしゃくを起こして、「もういい!」と、地団駄を踏んで、どこかへ消えていく。嵐みたいな人だなあ、とぼんやり見送ると、「ごめんね」と、ちっとも悪くない俊くんから謝罪を受ける。
私は首を横に振った。
「でも、ずっと私のことが好きって……いつから?」
付き合い始めて、まだ一時間。できたてほやほやの彼氏と彼女、聞きたいことはたくさんある。私のどういうところを好きになってくれたのか、とか。私も彼をいつから好きで、どんなところが好きなのかを、まだ伝えていない。
俊くんは首のあたりまで赤くして、ふっと視線を外した。
「それはまぁ……おいおい?」
照れているのが可愛くて、ふふ、と私は思わず笑みをこぼす。
「そうだね、おいおい、ね」
今日はとにかく、初めての校内デートを楽しむことにする。
「あ!」
「どうしたの?」
忘れていたことを思い出して、私は一度、教室へと戻る。荷物の山の中から自分のリュックを引っ張り出して、私は中のものを取り出す。
今日この日のために丹精した、ぼーるくんだ。ラッピングするよりも、直接見て触って、手作りのよさに触れてもらいたくて、そのままだ。
「これ、誕生日には間に合わなかったけれど」
手渡すと、彼は目を丸くして、ぼーるくんの手触りや、顔のパッチワークの精巧さに感動した様子だった。
「ありがとう! 大切にする!」
喜んでもらえて、よかった。
それから私は、紗菜から返してもらったハートちゃんを見つめる。
最後に一度だけ、ギャハギャハ、という小さな笑い声が聞こえてきたけれど、これは気のせいだろう。
(終わり)
「小坂さん、ほら」
手を出されたけれど、握り返してあげない。だって、
「小坂さん、じゃなくって」
心得たように彼は、「ああ」と苦笑して、やり直す。
「茉由。行こう」
満足して、私は彼と手を繋いだ。ついさっき、ステージ上で成立したカップルが廊下を練り歩くのを、みんなが冷やかし半分の、けれどあたたかい視線で見つめてくれている。
「俊!」
そこに唯一の不満そうな声。同時に振り返ると、私のことなんて眼中になく、児玉さんは俊くんに食ってかかった。
「なんで小坂さんなんかと……」
「カンナ」
驚くほど低い声と怖い顔。こんな俊くん、初めて見た。ごくりと息を飲んで、幼なじみふたりのやりとりを見守る。
「カンナは別に、俺のこと好きでもなんでもないだろ」
「そんなことないよ! あたし、俊とずっと付き合いたいって……」
「じゃあなんで、俺だけじゃなくて他の男子にもベタベタしてたんだよ」
結局カンナが好きなのは、俺じゃなくて、男子にちやほやされる自分だろ、と指摘した俊に、児玉さんは何度も首を横に振っている。
「残念だけど、俺は茉由のことが好きなんだ。ずっとずっと。カンナに恋をしていたことなんて、一度もないよ」
きっぱりと言い切った俊に、児玉さんはかんしゃくを起こして、「もういい!」と、地団駄を踏んで、どこかへ消えていく。嵐みたいな人だなあ、とぼんやり見送ると、「ごめんね」と、ちっとも悪くない俊くんから謝罪を受ける。
私は首を横に振った。
「でも、ずっと私のことが好きって……いつから?」
付き合い始めて、まだ一時間。できたてほやほやの彼氏と彼女、聞きたいことはたくさんある。私のどういうところを好きになってくれたのか、とか。私も彼をいつから好きで、どんなところが好きなのかを、まだ伝えていない。
俊くんは首のあたりまで赤くして、ふっと視線を外した。
「それはまぁ……おいおい?」
照れているのが可愛くて、ふふ、と私は思わず笑みをこぼす。
「そうだね、おいおい、ね」
今日はとにかく、初めての校内デートを楽しむことにする。
「あ!」
「どうしたの?」
忘れていたことを思い出して、私は一度、教室へと戻る。荷物の山の中から自分のリュックを引っ張り出して、私は中のものを取り出す。
今日この日のために丹精した、ぼーるくんだ。ラッピングするよりも、直接見て触って、手作りのよさに触れてもらいたくて、そのままだ。
「これ、誕生日には間に合わなかったけれど」
手渡すと、彼は目を丸くして、ぼーるくんの手触りや、顔のパッチワークの精巧さに感動した様子だった。
「ありがとう! 大切にする!」
喜んでもらえて、よかった。
それから私は、紗菜から返してもらったハートちゃんを見つめる。
最後に一度だけ、ギャハギャハ、という小さな笑い声が聞こえてきたけれど、これは気のせいだろう。
(終わり)
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