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第四話 天空より降り立つこの世界の王を殺せ!
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私の名前はすでに決まっていた。
西の白虎(びゃっこ)地方のアイテム問屋(どんや)鬼怒川屋(きぬがわや)本店から転送装置テレポーターを使い、東の青竜(せいりゅう)地方の鬼怒川屋の支店に移動すると、性同一性障害で心が女で体が男ゆえ女になりたい私を人間の女性にもなれる鬼女に変え、その女性の姿を生涯維持したくば、この世の王(帝釈天[たいしゃくてん])黄河大地(こうが・だいち)を殺せと命じた鬼嫁様の配下の忍び「眼之影(めのかげ)」が待っていた。
私の秘書兼ボディガードになってくれるとのことだ。
その者によると私の鬼としての名前は「般若の導師(はんにゃのどうし)」と言うらしい。昔プレイした聖剣伝説3と言うスーパーファミコンのゲームに役職が本名みたいな敵キャラクターがいたなと思い出す。(その私の名に近い名前も…。)しかし、ふだんは人間態で過ごすため、般若の若を取って「お若(わか)」と呼ばれる。まぁ、体が完全に女になった今、呼び名などはどうでも良い。名前がなんであろうと私はもう私だ。
(私の本名の下の名前は、明らかな完全にダサい男性名の名前ではないが、ちょっとだけダサい微妙な名前だった。性同一性障害で女になりたい人は自身の男性名に悩むと言うが、私はその微妙なダサさの下の名前がまた一般の性同一性障害と違って特殊な状況を引き起こし、より問題を複雑にしている感じがしてつらかった。)
その後、鬼怒川屋の下働きで人間に変装(変化=へんげ)している戦闘員も兼ねる下忍(げにん)の小鬼(コボルト)忍者たちと引き合わされた。彼彼女らは私を「お若(わか)さま」と呼ぶ。
私は鬼たちに期待されているらしい。小鬼(コボルト)忍者たちは「お若さまは私たち邪魔(じゃま)一族の希望」とのたまう。
そしてそのまま労働もさせられるのかと思ったが、鬼怒川屋の支店の二階の窓から通りを眺めろと眼之影(めのかげ)に言われた。彼も邪魔一族の鬼で人間態は年齢はある程度行ってそうだが美少年にも見える。
これも眼之影の説明にあったが、青竜地方は木・雷・風を司る忍者たちの地方で、公式な忍び装束の色は青らしい。もちろん人によってどんな青なのかは微妙に違うが。
だが、今の帝釈天になって平和な世が訪れてからは地方同士侵してはならないルールはきっちりと存在するものの、地方の行き来は盛んになり、通りには様々な髪の色、瞳の色、着物の色の武士や商人のような者たちが歩いていた。
以前は表向きの商売がある中、裏では忍び同士が暗躍していたが、今は忍びの力は力屋(ちからや)と言う日本の国で言う電気・水道・ガスなどのインフラ設備へのエネルギー創成事業に使われることが多くなっている。その方が一般に忍びとして働くよりも給料も高いらしい。帝釈天と四天王の配下はまた別だが、この世界は比較的太平の世が訪れていた。
通りを見ながら私は小鬼忍者の一人からキューブの氷入りのコップで渡された
日本のドクターペッパーのような飲み物を飲んでいた。あまりおいしくはないが、青竜地方はポカポカとした温暖な気候らしく実際に寒さとは縁遠い気温だったため、のどを潤す冷たさとしてはちょうど良かった。
それを飲みつつ、日本では令和の今はコカ・コーラかもだが、沢尻エリカがペプシネクスのCMをする前くらい、私が絶望していた当時、ペプシマンが優勢の時代だったことを思い出す。私も成長したら、あんな上半身がバカでかいダサい男になるのかと思うと嫌で嫌で仕方がないが昔から考えないようにしていた。
今思うとそうなったら"ゲイウケ"はするかもしれないのでそこまで悪くもないだろう。ただ私にその感覚や考えは無かった。
当時はセクシャルマイノリティも公にして良い時代でもなかったし、インターネットもまだ発達はしておらずセクマイと出会うのは一般的ではなく、私は学校で体裁上、関わる人は数人いるものの、友達は一切いなかった。
そもそもセクマイの言葉が無くて自分自身もどうなのか、どうしたいのか、どうすべきなのかよくわからなかった。
それに平日夜、テレビで、月曜日は内村プロデュース、火曜日はぷっすま、水曜はシルシルミシルやマシューズベストヒットTV、木曜は銭形金太郎、金曜日はTRICKや時効警察をずっと見ているだけのような生き方では人生は好転しないだろう。令和の今思えばそれはそれで好きなことをしていたのでとても良かったと思えることだが。「とってもおいしいです」のADさんは"今"元気だろうか…。
通りを眺めながらいろいろ考え回顧し、眼之影のこの世界を知るという意図に反して一つの考えが浮かんだ。あいつ(眼之影)の力を借りなくても人一人始末するくらいなら小鬼(コボルト)忍者の数にものを言わせて押し切れば十分簡単にやれるだろう。手柄を独り占めしてやろうと私は眼之影に無断で小鬼忍者を秘密裏に引き連れ、鬼怒川屋の支店を出た。
偵察に行っていた仲良くなった小鬼(コボルト)忍者の女性(くノ一)カナの話では、この世の王 帝釈天(たいしゃくてん)黄河大地(こうが・だいち)とその妻子は直に、天界・高天原(たかまがはら)から天の浮き橋(あまのうきはし)を通じてこの下界・葦原の中つ国(あしはらのなかつくに)の東の地方(青竜地方)の蒼雷山(そうらいざん)に降り立つらしい。
山のふもとで待ち受けることにした。青い稲光が頻繁に轟いているが天候が悪い訳ではない。
私は忍びの者だと怪しまれないよう結った髪の毛のまま鬼嫁様からいただいた青地に白い雪の結晶柄の着物を着て、急な体調不良という設定で顔を伏せ、その場にうずくまる。これも小鬼(コボルト)忍者から聞いた話だが、帝釈天はかなりの女好きらしい。さすがに妻子を持ち、即位して国全体を支配するようになってからはその欲望はなりをひそめているようだが、人間早々中身は変わるものではない。
ちょうど女性の体を活かすチャンスだ。別にちょっと相手に隙を作らせるだけだ。売春する訳ではない。男を誘惑するという個人的な願望を叶えるチャンスでもある。
小鬼忍者たちを近くの陰に控えさせ、全員が配置に着いた。
私が山のふもとでうずくまっていると予想通り帝釈天は妻子から離れ、小走りをしつつ紳士な口調と表情で私に近づいて来た。
「まんまと引っかかったな!」
私は美しい女声で言いながら懐から短刀を取り出し、帝釈天に斬りかかる。だが、避けられた。
それらとほぼ同時に帝釈天の後方にいた奴の妻子を黒い全身タイツのようなでもオシャレな忍び装束を着た小鬼(コボルト)忍者たちが取り囲む。
「武器を捨てろ!」
私は帝釈天に短刀の切っ先を突きつける。だが奴はすばやく刀を抜いて私に斬りかかって来た。
かなり強い力だった。私は短刀で受けるのが精一杯だった。帝釈天はこの世の王。命を狙う刺客にひるむどころか驚いた表情一つしておらず慣れている感じだった。
「妻子の命は無いぞ!」
帝釈天に焦りも混じりつつ強い意気込みで言うが、小鬼忍者たちも虹を模した杖で応戦する帝釈天の妻、黄河空(こうが・そら)と子供用の刀を抜いた息子の陸(りく)に手間取っていた。
クソ。だが、私も帝釈天の相手で一杯一杯だ。
グサッ グサッ グサッ
さらに悪いことにどこからか炎をまとったクナイ(火炎クナイ)が飛来し、小鬼(コボルト)忍者たちが負傷する。
そして現れたのはカッコイイ赤い忍び装束のくノ一だった。一瞬、"由美かおる"かと思った。見とれ感心している場合ではない。
あとで聞いた話だが、そのくノ一は炎の朱雀忍法(すざくにんぽう)を司る南の四天王の一番の配下、紅蓮のお緋代(ぐれんのおひよ)だった。
自身の地方とは違う地方で公に動くのはご法度だが東の四天王芽樹丸(がじゅまる)と南の四天王の妃陽影紅(ひようえいこう)が帝釈天のために暗に示し合わせたのだろうとのこと。(後に眼之影 談)
私はニ対一。帝釈天と紅蓮のお緋代の後方には負傷した小鬼(コボルト)忍者たちとそれなりにまだ戦える帝釈天の妻子二人。分が悪い。
退くにも相手側に隙が無い。
だがその時、私と帝釈天たち、小鬼(コボルト)忍者と妻子を引き離すかのようにそれぞれの間に視界をふさぐ爆発が起こった。
私にとっては気に入らないが、駆けつけた眼之影が煙玉を放ってくれたのだった。
「撤退だ!」
深い白い煙が立ち込める中、すぐさま小鬼(コボルト)忍者たちを指揮し、総員戦線離脱する。
幸い、紅蓮のお緋代や帝釈天たちは深追いして来なかった。
その後、アジトである青竜地方のアイテム問屋鬼怒川屋の支店に私たちは逃げ帰った。負傷した小鬼(コボルト)忍者たちの手当てをする。と言っても私はそういう技術的なことが苦手で手傷を負っていないもしくは出撃していなかった小鬼忍者任せだが。
ちくしょう。帝釈天のやつ、余裕があった。殺そうと思えば、紅蓮のお緋代が来る前に私を殺せたはずだ。遊ばれていたかと思うと、関係は良好と思っていた恋愛で急に相手にポイッと捨てられた時よりもムカつく。
それから私は眼之影に厳しく注意された。本来だったらこっぴどく叱られる場面だろうが、知り合って間もないため、やんわりとした厳重注意だった。しかし、それで私は気づいた。戦闘員である小鬼(コボルト)忍者たちは無尽蔵ではない。ニチアサ(日曜日朝)の戦隊物だとわりと戦闘員という輩は限りなく出て来る感じだが、現実はそうではない。悪の資源にも限りがある。(別にこちらはこちらの正義があるのだが。)遊びではない。指揮官としてもう少し、コスト意識と長期的展望、全体に対する配慮の意識を持とうと思った。
女の容姿を半永久的に維持したいなら帝釈天を殺さねばならない。
しかし、眼之影や小鬼(コボルト)忍者たちの話では、鬼嫁様に女性体にしてもらっただけでなく、同時に鬼女となったことで各能力が著しく上がった今でさえ、かつての鬼の頭領「阿修羅(あしゅら)」を倒した帝釈天に勝てるとは限らないらしい。
それは単なる勝ち負けの問題ではない。
生死の問題、逆に殺されるリスクがあるということだ。
女の容姿を永続できないならば死んだ方がマシみたいな意見も心女体男の性同一性障害MTFのオカマ思考的にはあったりするが、実際に死ぬのは気持ち的につらいし、何よりすごく痛いのは女でないよりつらいだろう。
女の容姿でなくなるのも嫌だが、死ぬのも絶対に避けたい。
だったら、誇り・メンツ・手柄など、どうでもいい。
打算的な結論の出し方でよろしくないかもしれないが、今の仲間たちと協力し合って帝釈天抹殺に挑むのが望ましいと思った。その方が眼之影や小鬼(コボルト)忍者たちにとっても良い結果になるだろう。
WIN-WIN。もとい皆が幸せになるように動こうと思った。戦略を踏まえた上で、ここまで他者との関係性と気持ちにまで考えることができるのは女になって落ち着いて目の前の関係性を大事に生きようと思えるからだと思うのだ。
私はただ女になりたかった訳じゃない。女になって目の前のものに本気でぶつかって生きたかったのだ。その意味でも女になった意味はあると思う。
私は改めて小鬼(コボルト)忍者たちと眼之影(めのかげ)に謝罪を述べ、必ずなんとしてでもこの世の王・帝釈天(たいしゃくてん)黄河大地(こうが・だいち)を殺すことを彼らに誓った。
つづく
西の白虎(びゃっこ)地方のアイテム問屋(どんや)鬼怒川屋(きぬがわや)本店から転送装置テレポーターを使い、東の青竜(せいりゅう)地方の鬼怒川屋の支店に移動すると、性同一性障害で心が女で体が男ゆえ女になりたい私を人間の女性にもなれる鬼女に変え、その女性の姿を生涯維持したくば、この世の王(帝釈天[たいしゃくてん])黄河大地(こうが・だいち)を殺せと命じた鬼嫁様の配下の忍び「眼之影(めのかげ)」が待っていた。
私の秘書兼ボディガードになってくれるとのことだ。
その者によると私の鬼としての名前は「般若の導師(はんにゃのどうし)」と言うらしい。昔プレイした聖剣伝説3と言うスーパーファミコンのゲームに役職が本名みたいな敵キャラクターがいたなと思い出す。(その私の名に近い名前も…。)しかし、ふだんは人間態で過ごすため、般若の若を取って「お若(わか)」と呼ばれる。まぁ、体が完全に女になった今、呼び名などはどうでも良い。名前がなんであろうと私はもう私だ。
(私の本名の下の名前は、明らかな完全にダサい男性名の名前ではないが、ちょっとだけダサい微妙な名前だった。性同一性障害で女になりたい人は自身の男性名に悩むと言うが、私はその微妙なダサさの下の名前がまた一般の性同一性障害と違って特殊な状況を引き起こし、より問題を複雑にしている感じがしてつらかった。)
その後、鬼怒川屋の下働きで人間に変装(変化=へんげ)している戦闘員も兼ねる下忍(げにん)の小鬼(コボルト)忍者たちと引き合わされた。彼彼女らは私を「お若(わか)さま」と呼ぶ。
私は鬼たちに期待されているらしい。小鬼(コボルト)忍者たちは「お若さまは私たち邪魔(じゃま)一族の希望」とのたまう。
そしてそのまま労働もさせられるのかと思ったが、鬼怒川屋の支店の二階の窓から通りを眺めろと眼之影(めのかげ)に言われた。彼も邪魔一族の鬼で人間態は年齢はある程度行ってそうだが美少年にも見える。
これも眼之影の説明にあったが、青竜地方は木・雷・風を司る忍者たちの地方で、公式な忍び装束の色は青らしい。もちろん人によってどんな青なのかは微妙に違うが。
だが、今の帝釈天になって平和な世が訪れてからは地方同士侵してはならないルールはきっちりと存在するものの、地方の行き来は盛んになり、通りには様々な髪の色、瞳の色、着物の色の武士や商人のような者たちが歩いていた。
以前は表向きの商売がある中、裏では忍び同士が暗躍していたが、今は忍びの力は力屋(ちからや)と言う日本の国で言う電気・水道・ガスなどのインフラ設備へのエネルギー創成事業に使われることが多くなっている。その方が一般に忍びとして働くよりも給料も高いらしい。帝釈天と四天王の配下はまた別だが、この世界は比較的太平の世が訪れていた。
通りを見ながら私は小鬼忍者の一人からキューブの氷入りのコップで渡された
日本のドクターペッパーのような飲み物を飲んでいた。あまりおいしくはないが、青竜地方はポカポカとした温暖な気候らしく実際に寒さとは縁遠い気温だったため、のどを潤す冷たさとしてはちょうど良かった。
それを飲みつつ、日本では令和の今はコカ・コーラかもだが、沢尻エリカがペプシネクスのCMをする前くらい、私が絶望していた当時、ペプシマンが優勢の時代だったことを思い出す。私も成長したら、あんな上半身がバカでかいダサい男になるのかと思うと嫌で嫌で仕方がないが昔から考えないようにしていた。
今思うとそうなったら"ゲイウケ"はするかもしれないのでそこまで悪くもないだろう。ただ私にその感覚や考えは無かった。
当時はセクシャルマイノリティも公にして良い時代でもなかったし、インターネットもまだ発達はしておらずセクマイと出会うのは一般的ではなく、私は学校で体裁上、関わる人は数人いるものの、友達は一切いなかった。
そもそもセクマイの言葉が無くて自分自身もどうなのか、どうしたいのか、どうすべきなのかよくわからなかった。
それに平日夜、テレビで、月曜日は内村プロデュース、火曜日はぷっすま、水曜はシルシルミシルやマシューズベストヒットTV、木曜は銭形金太郎、金曜日はTRICKや時効警察をずっと見ているだけのような生き方では人生は好転しないだろう。令和の今思えばそれはそれで好きなことをしていたのでとても良かったと思えることだが。「とってもおいしいです」のADさんは"今"元気だろうか…。
通りを眺めながらいろいろ考え回顧し、眼之影のこの世界を知るという意図に反して一つの考えが浮かんだ。あいつ(眼之影)の力を借りなくても人一人始末するくらいなら小鬼(コボルト)忍者の数にものを言わせて押し切れば十分簡単にやれるだろう。手柄を独り占めしてやろうと私は眼之影に無断で小鬼忍者を秘密裏に引き連れ、鬼怒川屋の支店を出た。
偵察に行っていた仲良くなった小鬼(コボルト)忍者の女性(くノ一)カナの話では、この世の王 帝釈天(たいしゃくてん)黄河大地(こうが・だいち)とその妻子は直に、天界・高天原(たかまがはら)から天の浮き橋(あまのうきはし)を通じてこの下界・葦原の中つ国(あしはらのなかつくに)の東の地方(青竜地方)の蒼雷山(そうらいざん)に降り立つらしい。
山のふもとで待ち受けることにした。青い稲光が頻繁に轟いているが天候が悪い訳ではない。
私は忍びの者だと怪しまれないよう結った髪の毛のまま鬼嫁様からいただいた青地に白い雪の結晶柄の着物を着て、急な体調不良という設定で顔を伏せ、その場にうずくまる。これも小鬼(コボルト)忍者から聞いた話だが、帝釈天はかなりの女好きらしい。さすがに妻子を持ち、即位して国全体を支配するようになってからはその欲望はなりをひそめているようだが、人間早々中身は変わるものではない。
ちょうど女性の体を活かすチャンスだ。別にちょっと相手に隙を作らせるだけだ。売春する訳ではない。男を誘惑するという個人的な願望を叶えるチャンスでもある。
小鬼忍者たちを近くの陰に控えさせ、全員が配置に着いた。
私が山のふもとでうずくまっていると予想通り帝釈天は妻子から離れ、小走りをしつつ紳士な口調と表情で私に近づいて来た。
「まんまと引っかかったな!」
私は美しい女声で言いながら懐から短刀を取り出し、帝釈天に斬りかかる。だが、避けられた。
それらとほぼ同時に帝釈天の後方にいた奴の妻子を黒い全身タイツのようなでもオシャレな忍び装束を着た小鬼(コボルト)忍者たちが取り囲む。
「武器を捨てろ!」
私は帝釈天に短刀の切っ先を突きつける。だが奴はすばやく刀を抜いて私に斬りかかって来た。
かなり強い力だった。私は短刀で受けるのが精一杯だった。帝釈天はこの世の王。命を狙う刺客にひるむどころか驚いた表情一つしておらず慣れている感じだった。
「妻子の命は無いぞ!」
帝釈天に焦りも混じりつつ強い意気込みで言うが、小鬼忍者たちも虹を模した杖で応戦する帝釈天の妻、黄河空(こうが・そら)と子供用の刀を抜いた息子の陸(りく)に手間取っていた。
クソ。だが、私も帝釈天の相手で一杯一杯だ。
グサッ グサッ グサッ
さらに悪いことにどこからか炎をまとったクナイ(火炎クナイ)が飛来し、小鬼(コボルト)忍者たちが負傷する。
そして現れたのはカッコイイ赤い忍び装束のくノ一だった。一瞬、"由美かおる"かと思った。見とれ感心している場合ではない。
あとで聞いた話だが、そのくノ一は炎の朱雀忍法(すざくにんぽう)を司る南の四天王の一番の配下、紅蓮のお緋代(ぐれんのおひよ)だった。
自身の地方とは違う地方で公に動くのはご法度だが東の四天王芽樹丸(がじゅまる)と南の四天王の妃陽影紅(ひようえいこう)が帝釈天のために暗に示し合わせたのだろうとのこと。(後に眼之影 談)
私はニ対一。帝釈天と紅蓮のお緋代の後方には負傷した小鬼(コボルト)忍者たちとそれなりにまだ戦える帝釈天の妻子二人。分が悪い。
退くにも相手側に隙が無い。
だがその時、私と帝釈天たち、小鬼(コボルト)忍者と妻子を引き離すかのようにそれぞれの間に視界をふさぐ爆発が起こった。
私にとっては気に入らないが、駆けつけた眼之影が煙玉を放ってくれたのだった。
「撤退だ!」
深い白い煙が立ち込める中、すぐさま小鬼(コボルト)忍者たちを指揮し、総員戦線離脱する。
幸い、紅蓮のお緋代や帝釈天たちは深追いして来なかった。
その後、アジトである青竜地方のアイテム問屋鬼怒川屋の支店に私たちは逃げ帰った。負傷した小鬼(コボルト)忍者たちの手当てをする。と言っても私はそういう技術的なことが苦手で手傷を負っていないもしくは出撃していなかった小鬼忍者任せだが。
ちくしょう。帝釈天のやつ、余裕があった。殺そうと思えば、紅蓮のお緋代が来る前に私を殺せたはずだ。遊ばれていたかと思うと、関係は良好と思っていた恋愛で急に相手にポイッと捨てられた時よりもムカつく。
それから私は眼之影に厳しく注意された。本来だったらこっぴどく叱られる場面だろうが、知り合って間もないため、やんわりとした厳重注意だった。しかし、それで私は気づいた。戦闘員である小鬼(コボルト)忍者たちは無尽蔵ではない。ニチアサ(日曜日朝)の戦隊物だとわりと戦闘員という輩は限りなく出て来る感じだが、現実はそうではない。悪の資源にも限りがある。(別にこちらはこちらの正義があるのだが。)遊びではない。指揮官としてもう少し、コスト意識と長期的展望、全体に対する配慮の意識を持とうと思った。
女の容姿を半永久的に維持したいなら帝釈天を殺さねばならない。
しかし、眼之影や小鬼(コボルト)忍者たちの話では、鬼嫁様に女性体にしてもらっただけでなく、同時に鬼女となったことで各能力が著しく上がった今でさえ、かつての鬼の頭領「阿修羅(あしゅら)」を倒した帝釈天に勝てるとは限らないらしい。
それは単なる勝ち負けの問題ではない。
生死の問題、逆に殺されるリスクがあるということだ。
女の容姿を永続できないならば死んだ方がマシみたいな意見も心女体男の性同一性障害MTFのオカマ思考的にはあったりするが、実際に死ぬのは気持ち的につらいし、何よりすごく痛いのは女でないよりつらいだろう。
女の容姿でなくなるのも嫌だが、死ぬのも絶対に避けたい。
だったら、誇り・メンツ・手柄など、どうでもいい。
打算的な結論の出し方でよろしくないかもしれないが、今の仲間たちと協力し合って帝釈天抹殺に挑むのが望ましいと思った。その方が眼之影や小鬼(コボルト)忍者たちにとっても良い結果になるだろう。
WIN-WIN。もとい皆が幸せになるように動こうと思った。戦略を踏まえた上で、ここまで他者との関係性と気持ちにまで考えることができるのは女になって落ち着いて目の前の関係性を大事に生きようと思えるからだと思うのだ。
私はただ女になりたかった訳じゃない。女になって目の前のものに本気でぶつかって生きたかったのだ。その意味でも女になった意味はあると思う。
私は改めて小鬼(コボルト)忍者たちと眼之影(めのかげ)に謝罪を述べ、必ずなんとしてでもこの世の王・帝釈天(たいしゃくてん)黄河大地(こうが・だいち)を殺すことを彼らに誓った。
つづく
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