クライン工房へようこそ!【第15部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第13部

第三章 神は願う①

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 ――小生は、様々なものを見てきたのである。

 白と黒の混沌とした世界。
 天地を切り裂く大剣。
 永遠を望む怪物。
 塔の上を目指す翼人達。
 深淵を覗いた魔術師。
 千の刃を身に受けた聖女。
 星々を渡る船。
 黒き炎の円環を背負う男。
 荒れ狂う災厄の魔竜。
 黄金の槍を携えた戦女神。

 そんな、様々なものである。

 ――なに? 最後の三つ以外は分からないであるか?

 うむ。それは仕方がないことである。
 我が愛しき金糸雀カナリア・シーラよ。
 小生が見初めて、育て上げた我が愛し子よ。
 小生が見てきたものの大半は、異なる世界のものである。
 そなたが知らないのは当然である。
 小生は気が遠くなるような刻と、那由多の世界を越えてきたであるゆえに。

 ――世界を渡り続けた目的であるか?

 目的ならあるのである。
 我が種を残すためである。小生は小生の種の最後の一柱ひとりであるゆえに。
 要は花嫁を探しているのである。
 それならば自分が? うむ。嬉しいことを言ってくれるのである。
 しかし、シーラよ。そなたでは我が子は宿せぬ。
 そなたの献身と愛を疑ってなどおらぬ。
 されど、いかに尊き愛があっても、そなたでは小生の子を宿せぬのだ。
 こればかりは、どうしようもならないのである。
《星神》であるそなたであっても、なお因子が弱いのだ。
 限りなく神に近い因子を持つ者でなければ、小生の子は宿せないのである。
 異界においては、小生も神だったゆえに。

 ――ゆえに候補はただ一人。
 しかし、彼女はまだ幼い。小生の精を受けきるにはあまりに未成熟なのである。
 拾った当時のそなたのようにな。
 幼き身で我が精を受けることが、いかに負担であることは、他ならぬそなたがよく知っていよう。
 再び捨てられるかもしれないという、そなたの焦燥に気付けなかった小生を許して欲しいのである。あの時はまだ十四だったそなたを本当に追い込んでしまったのである。今も反省しているのである。

 謝らずともよいのである。悪いのは小生なのである。
 ともあれ、もうしばし成熟の刻を待たねばならないのである。
 せめて、あの娘が十六……いや、十八になるまでは。

 ――ああ、シーラ。悲しまないで欲しいのである。
 我が愛しき金糸雀・シーラよ。
 小生の子を宿せずとも、小生はそなたを愛しているのである。
 それは他の金糸雀達も変わらぬ。
 小生が新たな異界に渡らないのも、そなたらがいるからだ。
 この世界こそ、小生の終の居場所なのである。

 ――さあ、シーラ。
 その無粋な衣類を脱ぐのである。
 今宵もそなたの美しい姿を見せて欲しいのである。

 いや、今宵呼ぶのはそなただけである。
 悲しませてしまった償いをさせて欲しいのである。
 今宵はそなただけを、存分に愛でさせて欲しいのである。

 ――さあ、シーラよ。
 小生の腕の中へ――……。




「〈……我が金糸雀達は誰もが愛しいのである〉」

 ポツリ、とオルドスは呟く。
 そこは、とても高い外壁の上だった。
 たまたま繋がった《道》の先がここだったのだ。
 かなり高い位置に居るため、風が強い。
 オルドスは、シルクハットを片手で押さえた。

「〈だが、許して欲しいのである。種を残すのは小生の使命なのである〉」

 そう呟くオルドスの背後には草原と、遠くに森の影が見えた。
 そして前方には、農耕地が広がり、その奥に大きな街が見える。
 高台には、白亜の王城も確認できた。情報通りの景観である。
 久方ぶりの遠距離転移で少し不安だったが、どうやら無事目的地に到着したようだ。

「〈さてさて〉」

 シルクハットを強く被り直して、オルドスが呟く。
 オルドスが、わざわざこの地にやって来たのは、彼の花嫁を迎えるためだ。
 我が子を産んでくれる女性を迎えに来たのである。
 金糸雀達は嘆くかもしれないが、こればかりは成し遂げなければならなかった。
 出なければ、永きに渡る旅が無駄になってしまう。

「〈ようやくである〉」

 オルドスは、バサアっと背中の黒い翼を広げた。
 すると小さかった翼は、みるみるうちに大きくなっていく。
 オルドスは翼で空気を強く叩いた。

「〈我が花嫁よ。いざ迎えにいくのである〉」

 そう宣言して、異形の《妖星》は羽ばたくのであった。


 一方、その頃――。

「……おい。オルドス」

 オルドスが羽ばたいて行った、その直下。
 外壁のすぐ傍に並んで立つ大きな木の枝の一つに、《九妖星》の主であるゴドーは埋もれていた。どうもオルドスと転移先が少しずれてしまったようで、転移した直後、いきなり外壁から落下したのである。普通ならば、為す術もなくトマトになるところだが、それでも死なないのは、流石は《九妖星》の主か。
 ゴドーは、運よく木の枝に受け止められる形で難を逃れていた。

「あいつ、完全に俺のことを忘れているな」

 ゴドーはカウボーイハットに手を置いて嘆息する。

 ――《冥妖星》オルドス=ゾーグ。
 あの異界の魔神は、基本的に自分の女以外には興味を持たない。
 一応、ある程度の社交性も持っているようだが、真に大切にしているのは、自分自身と自分の女達だけだ。言うまでもなく、ゴドーに対しての忠誠心は欠片もない。
 ゴドーの悲願である異界渡りについて何度も聞こうとしているのだが、「〈小生にはもう必要のない能力ゆえに〉」と言って、耳も傾けてくれない。

 加え、あんな容姿であるため、本部長としての業務もこなせないのが実情だった。
 そもそも、働くということ自体にも興味がないのだろう。
 やっていることと言えば、本部長室に籠って、金糸雀と称する嫁達といちゃついていることぐらいだ。まあ、それに関しては一定の成果も上げているから文句もないが。
 そんな風にずっと引きこもってばかりかと思いきや、時折、ゴドーも知らない間にどこかに徘徊するなどしており、他の行動は大体気まぐれだった。
 いつぞやは、どこぞの戦地から、薄汚れた幼女を拾ってきたこともある。

 ゴドーにとっても、他の二人の本部長にとっても、何とも扱いが難しい男だった。

「自由奔放なことを責めはしないが、それでも、もう少しぐらいは俺を気遣ってくれてもいいんじゃないか? 一応雇用主なんだぞ」

 ゴドーは再び嘆息した。
 同じ異界の者でも、ランドネフィアの方がよほど気遣いに長けている。
 これが世界文化の違いという奴なのだろうか。

「まあ、別に構わんが」

 ――欲望に素直であること。
 オルドスもまた、その点においては《九妖星》に相応しい。
 何より今回、オルドスが持ってきた予見はゴドーにとって値千金の情報だった。少々雑に扱われることぐらい許せるというものだ。

 ゴドーは、するすると木の幹を滑るように降りた。
 パンパンと膝の埃を払う。
 それから顔を上げた。目の前に映るのは懐かしき街の光景だった。
 ゴドーにとっては、故郷と呼んでもいい場所だ。

「それにしてもこうも早く、この国に戻ってくることになるとはな」

 ゴドーは、ニンマリと笑った。
 しばし、思い出を懐かしむように顎髭を撫で続けていた。
 ――が、不意に目を細めて。

「さて。では、俺は俺で目的を果たすとするか」

 そう言って、《九妖星》の主も動き出すのだった。
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