クライン工房へようこそ!【第15部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第13部

第七章 二人は再び出逢う②

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(……そろそろ再会した頃か)

 クライン工房の作業場前。
 オトハは、空を見上げて物思いに耽っていた。
 クライン工房の作業場は、閉められている。
 シャッターには『本日、臨時休業』の壁紙が貼られていた。
 今朝がた、アッシュ自身が貼ったものだ。

 現在、クライン工房は、オトハ以外は全員不在だった。
 アッシュは静かな表情で「そんじゃあ行ってくる」と告げて出かけて行った。
 ユーリィと九号はそれを見届けてから、「……私は王城に行ってくる」と言って、出て行った。このことをルカ達に連絡するつもりなのだろう。

 オトハは一人残された。
 今日は、彼女も臨時講師の職が休暇だったので、やることがなかった。
 そのため、何となく外に出たのだ。

(……サクヤ=コノハナか)

 アッシュの幼馴染で婚約者だった少女。
 不遇の死を遂げ、今もなおアッシュに愛されている女性。
 オトハは、実際に彼女と出会ったことはなかった。
 ――一体、どんな女性なのか。
 当然ながら、気にはなる。
 なにせ、自分は今のアッシュの恋人なのだから。

「………」

 無言のまま、胸元を片手で押さえる。
 彼女と再会し、アッシュがどんな結論を出すかは分からない。

 サクヤを選び、オトハに別れを告げるのか。
 オトハを選び、サクヤに別れを告げるのか。

 それとも二人とも――。

(いや、そこまではまだ下地不足だな)

 オトハは嘆息した。
 顔が少し赤い。
 いずれにせよ、これは大きな変革期となる。
 それは、オトハのみならず、ユーリィ達もそう感じ取っていることだろう。
 皆、各自に出来ることで備えている。
 そしてオトハもまた、自分に出来ることをするだけだ。

(そうだな……)

 胸を支えるように腕を組む。
 これから、戦場は激化を辿ることだろう。
 今のところ、サクヤを除けば、オトハは最も優位な立場にいる。
 圧倒的に優勢と言ってもいい。
 しかし、それに甘えていられない状況に陥るはずだ。何故なら、オトハの知る彼女達はタイプこそ違うが、それぞれ凄まじいポテンシャルを持つ者ばかりだからだ。
 同じ場所ステージに立てば、容易く覆されてしまうかもしれない。
 ならば、ここは自分も戦力UPを図るべきだろう。

 ちらり、と自分の姿に目をやった。
 プロポーションを強調するような黒い革服。いつも同じ姿だ。

 サーシャ達も、いつもは制服姿が多いが、それはあくまで学生だからだ。
 当たり前だが、可愛らしい私服も持っている。
 しかし、自分はどんな時でも同じ格好だ。

(これはまずいのか……?)

 よく分からないが、オトハは眉根を寄せた。
 アッシュにも、前に別の服を持っていないのかと問われたことがある。
 その時は気にもしなかったのだが……。

(ううむ……)

 オトハは、くるりと踊るように全身に目をやった。

(この服は頑丈で動きやすいからいいのだが……)

 とはいえ、いつも同じ服では飽きられてしまうのも事実だ。
 アッシュだって、たまには違う姿の恋人オトハを見たいだろう。
 オトハは考えた。

(……よし)

 そして決意する。

(この前、街で見かけた寝間着ネグリジェを買おう)

 ……何故そこで下着インナーに飛ぶのか。
 オトハのオトハたるところなのだが、ともあれ、彼女は満足げに頷いた。
 街の店舗で見かけた寝間着ネグリジェは結構大胆なものだった。
 ――肌が透けるような黒の寝間着ネグリジェ
 オトハとしては、赤面することが確実な一品だが、あれならば、きっとアッシュも喜ぶこと請け合いだろう。これもすべて戦力UPのためだ。

「早速出かけるか」

 オトハは頷くと、クライン工房横に造った馬舎に向かった。
 そこには、アッシュのララザと共に、オトハの愛馬もいるからだ。
 オトハは、少し上機嫌な様子で歩を進める。が、

「………」

 不意に足を止めた。
 瞳を鋭く細める。
 背筋辺りに、強い悪寒を感じたのだ。
 オトハは、首筋を片手で押さえて振り向いた。

「……招かざる客が来たか」

 ポツリ、と呟いた。
 鋭い眼光で、その男を見据える。

「招かざる客とは悲しいぞ」

 男は肩を竦めた。

「俺は一日千秋の想いでここに来たというのに」

「ふん。そうか」

 オトハは、腰の小太刀の柄に手をやった。

「ならば、私も嬉しいと言っておこう」

 足を開き、重心を落とす。

「斬り損ねたお前を斬る機会を、こうして与えられたのだからな」

「フハハ、相変わらずオトハは気が強いな」

 男は陽気に笑う。
 次いで、カウボーイハットのつばに手をやり、臨戦態勢のオトハを見つめた。

「だが、そこがいい。実にいいぞ。お前のその気丈な仮面は俺がゆっくりと外していってやろう。勿論、俺の腕の中でな」

 そう言って、その男――ゴドーは両手を広げた。

「さあ、オトハよ。再会の時は今だ」

 そしてゴドーは宣言する。

「ようやく、お前を俺の女にする時が来たのだ」
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