252 / 499
第8部
第八章 偽りの《悪竜》④
しおりを挟む
「……兄上」
シャールズは淡々と語り出した。
「私はずっと貴方を羨んでいた。気付いていましたか?」
「…………」
ザインは何も答えない。
静かに両腕を組み、弟の言葉に耳を傾ける。
ザインの近くに立つガダルもまた、兄弟の確執に他人が口を挟むべきではないと判断して沈黙を見せていた。
シャールズは語り続ける。
「幼き日より私はずっと貴方と比較され続けてきた。そしてずっと『劣る弟』として評価されてきた。その心労がどれほどのモノか。貴方に分かりますか?」
弟の淡々とした声に、兄はまだ何も答えない。
シャールズは小さく嘆息した。
「先程、どうしてベスニア殿の計画に乗ったのか。そう尋ねられましたね。その答えは簡単です。ただ、私の心が限界だったからです」
そこで痩身の青年はガダルを一瞥した。
「ベスニア殿の計画も、ウォルター=ロッセンとの邂逅も切っ掛けに過ぎない。私の心に積りに積もった激情が限界に至った。それだけです」
「………ふん」
ザインは鼻を鳴らした。
「そんで俺の暗殺かよ。随分と憎まれちまったようだな」
と、わずかに哀愁を宿した声で呟く。
すると、シャールズはかぶりを振った。
「憎んでなどいませんよ。むしろ今でも貴方を尊敬しています」
「……なに?」ザインは眉根を寄せた。
「お前は俺が疎ましいから俺を殺そうとしたんだろ?」
と、尋ねるザインに、シャールズは再びかぶりを振った。
「怒りや不満を抱いたことは数知れずあります。ですが、憎しみを抱いたことだけは一度もない。貴方は私が目指す目標でもありましたから」
そこでシャールズは力なく嘆息した。
「ただ、私にとって貴方の存在は大きすぎた。貴方の影で私という存在がすべて呑み込まれてしまうほどに貴方は巨大すぎた」
乗り越えるべき大きな壁。
しかし限りの見えない状況に、シャールズは絶望した。
もはや乗り越えることなど不可能なぐらい果てしない絶壁。
だからこそ思ったのだ。
今より前に進むには、この壁を壊す以外に方法はない、と。
「私は永遠に貴方には届かない。兄弟だからこそ、それを悟ってしまった。だから私は貴方を殺すことにしたのです」
「……馬鹿なことを」
その時、沈黙していたガダルが哀しげに片眉を上げた。
「ザイン殿はお前のたった一人の家族ではないか。仮にザイン殿を殺してガロンワーズの当主になってもお前の心は決して晴れはしないぞ。むしろ、もはや超えることも立ち向かうことも出来なくなったザイン殿の幻影に苛まれるだけだ」
「……確かにそうかもしれませんね」
ガダルの指摘に、シャールズはわずかに肩を落とした。
「たとえ兄を殺しても、兄が生きた軌跡が消える訳ではない。今度はずっと兄の幻影を追うことになるでしょうね」
ガダルが眉間にしわを刻む。
「それが分かっていて、何故ザイン殿を殺そうとする?」
「それでも……もう限界なんですよ。兄の影の中で生き続けるのは……」
シャールズは絶望さえ混じった息を零す。
一方その傍らで、当事者であるザインはやれやれと嘆息していた。
「いや、あのなシャールズよ」
ザインは弟に話しかける。
「お前は随分と俺を買ってくれるが、俺はそんな凄い人間じゃないぞ。息抜きと評して闘技場で遊び、夜は気の合うダチと酒場で駄弁る。好きな女の子には正面きって告白も出来ねえから政略結婚の体で近付く。どっちかつうとダメ人間の分類だ」
言っていて自分でも情けなくなってきたのか、ザインは深々と溜息をついた。
「お前は昔から色々と気にし過ぎなんだよ。俺がお前より勝っているものなんて、それこそお気楽さぐらいだ」
「…………」
今度はシャールズが無言になった。
静かな眼差しを兄に向けている。
「なあ、シャールズ」
ザインは優しい声で弟に語りかける。
「お前の気持ちはよく分かったよ。生真面目すぎるお前のことだ。きっと本気で悩み続けてきたんだろうな」
そう言って、弟にゆっくりと歩み寄る。
シャールズは何もせずその場に佇んでいた。
「けど、こうやってようやく本音を語ったんだ。本気でぶつかり合ったんだ。俺達はまだやり直せる。そう思わねえか。シャールズ」
ザインは歩み続ける。
そしてシャールズの前で立ち止まるとすっと右手を差し出した。
「シャールズ。今なら間に合う。どうか矛を収めてくんねえか」
ザインの表情は真剣そのものだった。
何も弟と対立したい訳でない。和解できるのならばそれに越した事はなかった。
恐らくは、最後のチャンスであろう和解交渉に、シャールズは兄の右手を見据えたまま沈黙し、ガダルは成り行きを見守った。
そうして数十秒の時間が経過し……。
「……兄上」
シャールズはポツリと呟き、右腕を動かした。青年の穏やかな表情に、ガダルがホッと胸を撫で下ろし、ザインがふっと笑った時、
――パァンッ!
夜の大通りに火薬の弾ける音が響いた。
同時にザインの大柄な身体が宙に跳び、背中から地面に倒れ込んだ。
ガダルは唖然としながら、シャールズの手元を見た。
そこには、白煙の昇る小さな筒が握られている。
それは見覚えのある道具だった。
少量の火薬を用いて球体状の鉄塊――弾丸を撃ち出す武器。『短銃』とも呼ばれ、単発ではあるが強力な対人用の武器であり、貴族御用達の護身具でもあった。
シャールズはそれを使ってザインを撃ったのだ。
「き、貴様!」
ガダルがザインの傍らに走り寄ると片膝をついた。
そして顔色一つ変えずに兄を見下ろすシャールズを睨みつける。
「――兄を! 実の兄を殺すとは!」
「ベスニア殿。何をそんなに激昂しているのです?」
シャールズの声には感情はなかった。
「私は兄を殺すと宣言していたはずです。それを実行しただけですよ」
「……貴様は……」
ガダルは鬼の形相で歯を軋ませた。
「ザイン殿はお前に立ち止まる機会を与えたのだぞ! その想いを踏みにじるとは!」
激情を露わにするガダル。
「私にとって、それは余計なお世話にすぎませんよ」
しかし、対するシャールズは冷淡そのものだ。
「――そう。何の覚悟もなく、私はこの場にいる訳ではありません」
そして横たわる兄を一瞥して皮肉気に笑う。
「どうやって兄を出し抜こうかと思っていましたが、まさか情に絆され、こうも無防備に近付いてくるとはね」
その言い草に、ガダルは激怒した。
「貴様……家族を何だと思っている!」
続けてシャールズを殴るために立ち上がろうとする――が、
「いや、そこまで無防備だったつもりはねえよ」
唐突に。
むくりと上半身を上げて、ガダルの代わりにザインが立ち上がった。
シャールズは大きく目を見開いた。ガダルも呆気に取られる。
「ば、馬鹿な……」
ごくりと喉を鳴らすシャールズ。
「どうして生きている! 弾丸を受け止めたとでも言うのですか!」
続けてそう叫ぶ弟に、ザインは呆れるような表情でかぶりを振った。
「そんなこと出来るかよ、アホか。まあ、師匠なら平然とやってのけそうだが、少なくとも俺にはそんな真似はできねえよ。ただ、お前の動きが少し怪しかったからな。咄嗟に心臓の上付近に左腕を構えただけだ」
「なん、ですって……」
愕然とした顔でシャールズは呻く。
「お前が何か仕込んでいるのは分かっていたよ」
対し、ザインの方は嘆息しつつ語り始めた。
「仕込みナイフか、その類のもの。それを不意打ちで俺の眉間か心臓にぶち込む。そう睨んでいたが正解だったようだな」
「……く」シャールズは歯を軋ませた。
「二分の一の確率。貴方はそれに勝ったという訳か」
もしも額を狙っていれば、この結果は変わっていたはずだ。
忌々しい。運さえも兄の味方をするということか。
「……くそ!」
あまりの不条理に、シャールズはより強く歯を軋ませる。が、
「二分の一じゃねえよ。お前が狙うとしたら絶対に心臓だと思っていた」
不意にザインが、そんなことを語り出した。
「さっき、俺を殺そうとした時、お前は背を向けたな。あれは勝利を確信したから背中を向けた。けど、俺の最期に興味を失くした訳じゃねえ」
弾丸の盾にしたため、血のにじむ左腕を一瞥してザインは言う。
「お前はただ俺の死に顔を見たくなかっただけだ。だから目をそむけたんだろ。なら嫌でも死に顔を見る事になる眉間はないと思ったよ」
兄の指摘にシャールズは、呆然と双眸を見開いた。
「……はは」
思わず笑いがこみ上げる。
「結局、私の浅い考えなど、貴方は全部お見通しだった訳か」
「……シャールズ」
ザインは静かな声で弟の名を呼んだ。同時に、ゴキンと右の拳を鳴らす。
「お前は踏み越えちゃあなんねえラインを踏み越えちまった。ガロンワーズ家の当主としてもう見過ごせねえ」
そう告げて、ザインは拳を固めて大きく踏み込んだ。
シャールズは何も答えない。
もう何をしても無駄だと悟っていた。
「シャールズ。馬鹿な弟よ。今、目を覚まさせてやるよ」
そうして鍛え抜かれた拳が風を切る!
その直後、ズドンッと重い音を上げてシャールズは仰け反った。
続けて両足が宙に浮き、何度も石畳の上でバウンドしてようやく止まる。
シャールズは、ピクリとも動かず倒れ伏した。
「す、凄まじい鉄拳だな」
人間離れした破壊力にガダルは頬を引きつらせる。
一方、ザインは弟の顔面を射抜いた拳を見据えて嘆息した。
そして大の字になって横たわる弟の元に歩み寄り――。
「アホが。呑気な顔でのびてんじゃねえよ」
苦虫を噛み潰したような口調で呟き、口角を崩した。
それから右腕を腰に置き、偽りの夜空を見上げて呟く。
「ともあれ、俺の方はこれで終わりだ。後は頼んだぜ。師匠」
シャールズは淡々と語り出した。
「私はずっと貴方を羨んでいた。気付いていましたか?」
「…………」
ザインは何も答えない。
静かに両腕を組み、弟の言葉に耳を傾ける。
ザインの近くに立つガダルもまた、兄弟の確執に他人が口を挟むべきではないと判断して沈黙を見せていた。
シャールズは語り続ける。
「幼き日より私はずっと貴方と比較され続けてきた。そしてずっと『劣る弟』として評価されてきた。その心労がどれほどのモノか。貴方に分かりますか?」
弟の淡々とした声に、兄はまだ何も答えない。
シャールズは小さく嘆息した。
「先程、どうしてベスニア殿の計画に乗ったのか。そう尋ねられましたね。その答えは簡単です。ただ、私の心が限界だったからです」
そこで痩身の青年はガダルを一瞥した。
「ベスニア殿の計画も、ウォルター=ロッセンとの邂逅も切っ掛けに過ぎない。私の心に積りに積もった激情が限界に至った。それだけです」
「………ふん」
ザインは鼻を鳴らした。
「そんで俺の暗殺かよ。随分と憎まれちまったようだな」
と、わずかに哀愁を宿した声で呟く。
すると、シャールズはかぶりを振った。
「憎んでなどいませんよ。むしろ今でも貴方を尊敬しています」
「……なに?」ザインは眉根を寄せた。
「お前は俺が疎ましいから俺を殺そうとしたんだろ?」
と、尋ねるザインに、シャールズは再びかぶりを振った。
「怒りや不満を抱いたことは数知れずあります。ですが、憎しみを抱いたことだけは一度もない。貴方は私が目指す目標でもありましたから」
そこでシャールズは力なく嘆息した。
「ただ、私にとって貴方の存在は大きすぎた。貴方の影で私という存在がすべて呑み込まれてしまうほどに貴方は巨大すぎた」
乗り越えるべき大きな壁。
しかし限りの見えない状況に、シャールズは絶望した。
もはや乗り越えることなど不可能なぐらい果てしない絶壁。
だからこそ思ったのだ。
今より前に進むには、この壁を壊す以外に方法はない、と。
「私は永遠に貴方には届かない。兄弟だからこそ、それを悟ってしまった。だから私は貴方を殺すことにしたのです」
「……馬鹿なことを」
その時、沈黙していたガダルが哀しげに片眉を上げた。
「ザイン殿はお前のたった一人の家族ではないか。仮にザイン殿を殺してガロンワーズの当主になってもお前の心は決して晴れはしないぞ。むしろ、もはや超えることも立ち向かうことも出来なくなったザイン殿の幻影に苛まれるだけだ」
「……確かにそうかもしれませんね」
ガダルの指摘に、シャールズはわずかに肩を落とした。
「たとえ兄を殺しても、兄が生きた軌跡が消える訳ではない。今度はずっと兄の幻影を追うことになるでしょうね」
ガダルが眉間にしわを刻む。
「それが分かっていて、何故ザイン殿を殺そうとする?」
「それでも……もう限界なんですよ。兄の影の中で生き続けるのは……」
シャールズは絶望さえ混じった息を零す。
一方その傍らで、当事者であるザインはやれやれと嘆息していた。
「いや、あのなシャールズよ」
ザインは弟に話しかける。
「お前は随分と俺を買ってくれるが、俺はそんな凄い人間じゃないぞ。息抜きと評して闘技場で遊び、夜は気の合うダチと酒場で駄弁る。好きな女の子には正面きって告白も出来ねえから政略結婚の体で近付く。どっちかつうとダメ人間の分類だ」
言っていて自分でも情けなくなってきたのか、ザインは深々と溜息をついた。
「お前は昔から色々と気にし過ぎなんだよ。俺がお前より勝っているものなんて、それこそお気楽さぐらいだ」
「…………」
今度はシャールズが無言になった。
静かな眼差しを兄に向けている。
「なあ、シャールズ」
ザインは優しい声で弟に語りかける。
「お前の気持ちはよく分かったよ。生真面目すぎるお前のことだ。きっと本気で悩み続けてきたんだろうな」
そう言って、弟にゆっくりと歩み寄る。
シャールズは何もせずその場に佇んでいた。
「けど、こうやってようやく本音を語ったんだ。本気でぶつかり合ったんだ。俺達はまだやり直せる。そう思わねえか。シャールズ」
ザインは歩み続ける。
そしてシャールズの前で立ち止まるとすっと右手を差し出した。
「シャールズ。今なら間に合う。どうか矛を収めてくんねえか」
ザインの表情は真剣そのものだった。
何も弟と対立したい訳でない。和解できるのならばそれに越した事はなかった。
恐らくは、最後のチャンスであろう和解交渉に、シャールズは兄の右手を見据えたまま沈黙し、ガダルは成り行きを見守った。
そうして数十秒の時間が経過し……。
「……兄上」
シャールズはポツリと呟き、右腕を動かした。青年の穏やかな表情に、ガダルがホッと胸を撫で下ろし、ザインがふっと笑った時、
――パァンッ!
夜の大通りに火薬の弾ける音が響いた。
同時にザインの大柄な身体が宙に跳び、背中から地面に倒れ込んだ。
ガダルは唖然としながら、シャールズの手元を見た。
そこには、白煙の昇る小さな筒が握られている。
それは見覚えのある道具だった。
少量の火薬を用いて球体状の鉄塊――弾丸を撃ち出す武器。『短銃』とも呼ばれ、単発ではあるが強力な対人用の武器であり、貴族御用達の護身具でもあった。
シャールズはそれを使ってザインを撃ったのだ。
「き、貴様!」
ガダルがザインの傍らに走り寄ると片膝をついた。
そして顔色一つ変えずに兄を見下ろすシャールズを睨みつける。
「――兄を! 実の兄を殺すとは!」
「ベスニア殿。何をそんなに激昂しているのです?」
シャールズの声には感情はなかった。
「私は兄を殺すと宣言していたはずです。それを実行しただけですよ」
「……貴様は……」
ガダルは鬼の形相で歯を軋ませた。
「ザイン殿はお前に立ち止まる機会を与えたのだぞ! その想いを踏みにじるとは!」
激情を露わにするガダル。
「私にとって、それは余計なお世話にすぎませんよ」
しかし、対するシャールズは冷淡そのものだ。
「――そう。何の覚悟もなく、私はこの場にいる訳ではありません」
そして横たわる兄を一瞥して皮肉気に笑う。
「どうやって兄を出し抜こうかと思っていましたが、まさか情に絆され、こうも無防備に近付いてくるとはね」
その言い草に、ガダルは激怒した。
「貴様……家族を何だと思っている!」
続けてシャールズを殴るために立ち上がろうとする――が、
「いや、そこまで無防備だったつもりはねえよ」
唐突に。
むくりと上半身を上げて、ガダルの代わりにザインが立ち上がった。
シャールズは大きく目を見開いた。ガダルも呆気に取られる。
「ば、馬鹿な……」
ごくりと喉を鳴らすシャールズ。
「どうして生きている! 弾丸を受け止めたとでも言うのですか!」
続けてそう叫ぶ弟に、ザインは呆れるような表情でかぶりを振った。
「そんなこと出来るかよ、アホか。まあ、師匠なら平然とやってのけそうだが、少なくとも俺にはそんな真似はできねえよ。ただ、お前の動きが少し怪しかったからな。咄嗟に心臓の上付近に左腕を構えただけだ」
「なん、ですって……」
愕然とした顔でシャールズは呻く。
「お前が何か仕込んでいるのは分かっていたよ」
対し、ザインの方は嘆息しつつ語り始めた。
「仕込みナイフか、その類のもの。それを不意打ちで俺の眉間か心臓にぶち込む。そう睨んでいたが正解だったようだな」
「……く」シャールズは歯を軋ませた。
「二分の一の確率。貴方はそれに勝ったという訳か」
もしも額を狙っていれば、この結果は変わっていたはずだ。
忌々しい。運さえも兄の味方をするということか。
「……くそ!」
あまりの不条理に、シャールズはより強く歯を軋ませる。が、
「二分の一じゃねえよ。お前が狙うとしたら絶対に心臓だと思っていた」
不意にザインが、そんなことを語り出した。
「さっき、俺を殺そうとした時、お前は背を向けたな。あれは勝利を確信したから背中を向けた。けど、俺の最期に興味を失くした訳じゃねえ」
弾丸の盾にしたため、血のにじむ左腕を一瞥してザインは言う。
「お前はただ俺の死に顔を見たくなかっただけだ。だから目をそむけたんだろ。なら嫌でも死に顔を見る事になる眉間はないと思ったよ」
兄の指摘にシャールズは、呆然と双眸を見開いた。
「……はは」
思わず笑いがこみ上げる。
「結局、私の浅い考えなど、貴方は全部お見通しだった訳か」
「……シャールズ」
ザインは静かな声で弟の名を呼んだ。同時に、ゴキンと右の拳を鳴らす。
「お前は踏み越えちゃあなんねえラインを踏み越えちまった。ガロンワーズ家の当主としてもう見過ごせねえ」
そう告げて、ザインは拳を固めて大きく踏み込んだ。
シャールズは何も答えない。
もう何をしても無駄だと悟っていた。
「シャールズ。馬鹿な弟よ。今、目を覚まさせてやるよ」
そうして鍛え抜かれた拳が風を切る!
その直後、ズドンッと重い音を上げてシャールズは仰け反った。
続けて両足が宙に浮き、何度も石畳の上でバウンドしてようやく止まる。
シャールズは、ピクリとも動かず倒れ伏した。
「す、凄まじい鉄拳だな」
人間離れした破壊力にガダルは頬を引きつらせる。
一方、ザインは弟の顔面を射抜いた拳を見据えて嘆息した。
そして大の字になって横たわる弟の元に歩み寄り――。
「アホが。呑気な顔でのびてんじゃねえよ」
苦虫を噛み潰したような口調で呟き、口角を崩した。
それから右腕を腰に置き、偽りの夜空を見上げて呟く。
「ともあれ、俺の方はこれで終わりだ。後は頼んだぜ。師匠」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる