骸鬼王と、幸福の花嫁たち【第5部まで公開】

雨宮ソウスケ

文字の大きさ
54 / 205
第2部

第五章 参妃、推参!②

しおりを挟む
 ……沈む。
 とても、とても深く沈んでいく。
 ここは一体どこなのだろうか……?
 ぼんやりした思考で、御影刀歌は考えた。
 うっすらと瞳を開く。
 上空には、明るい光が見えた。
 周囲は暗くはない。どこまでも澄んでいた。
 
 ……ここは、湖の中?
 ゆっくり、と。
 刀歌は、湖の中に沈んでいった。
 呼吸は苦しくない。
 それどころか、心地よいぐらいだ。
 彼女は、再び瞳を閉じた。

 しゅるり、と。
 彼女の長い髪を結んでいた白いリボンが解けた。
 ふわりと彼女の髪が広がる。
 リボンは刀歌から離れて水面へと向かい、途中で光となって消えた。
 続けて、彼女が身に纏っていた制服も解けていく。次々と光となっていく。
 いつしか、刀歌は一糸纏わぬ姿となっていた。
 羞恥はない。ただ、圧倒的な心地良さだけがあった。

 ――と、その時。
 沈んでいく刀歌の体が、不意に止まった。
 誰かに受け止められたように、その場に留まる。

(――ぁ……)

 刀歌は、自分の頭に誰かの手が触れるのを感じた。
 大きな手。恐らく男性の手だ。
 普段の刀歌ならば、不快に思うはずだった。
 だけど、その人の手には、どうしてか嫌な感じがしなかった。
 まるで曽祖父の手のような、とても暖かい手だった。

 ――大丈夫。大丈夫だ。

 が、そう言ってくれているのを感じだ。
 刀歌は凄く安心した。は、ずっと刀歌の頭を撫で続けてくれた。
 ――が、不意に。

(……うぐッ!)

 強い痛みを感じた。下腹部辺りだ。
 ズキン、スキンッと痛む。
 激痛だ。

(あ、ぐう……っ)

 刀歌は、大きく仰け反った。
 下腹部の痛みは消えない。刀歌の目尻に涙が滲んできた。
 ――御影!
 その時、彼女の体が、力強い腕で抱き上げられた。

(ぐ、ぐうッ!)

 痛みは一向に収まらない。

 ――鎮痛効果がもう切れたのか。御影。ゆっくり呼吸をしろ。

 の声が耳元に届く。とても近くからだ。
 指示通りに呼吸をしようとするが、想像を絶する痛みから上手く出来なかった。
 両手で、喉元を強く押さえる。
 激痛と息苦しさに、意識が消えてしまいそうになる。と、

 ――やむを得んな……。

 そんな声が聞こえた。
 そのすぐのことだった。
 唇に柔らかな感触が伝わる。次いで、肺に酸素が入ってきた。

(う、ン……)

 刀歌は体を大きく震わせた後、硬直した。
 唇から感触が消える。が、すぐにもう一度、酸素が肺に注がれた。
 ようやく、少し呼吸が落ち着いてきた。
 刀歌は、自力で息を整えていく。

 ――そう。それでいい。ゆっくり呼吸せよ。

 刀歌は、こくんと頷いた。ふらふらと手を伸ばすとの肩に触れた。
 ギュッとの首にしがみつく。と、は、刀歌の髪を優しく撫でてくれた。
 それだけで、不安が消えていく。
 しばらくすると、痛みも少し治まってきた。

 ――繋がったな。よし。そろそろ行くぞ。御影。

 はそう告げた。刀歌はよく分からなかったが、再びこくんと頷いた。
 その数秒後だった。

(……え……)

 突如、圧倒的な心地よさが、彼女の全身を満たしていった。
 ゾクゾクと背筋が震えてくる。

(あ、あ、あっ……)

 刀歌の呼吸が、再び荒くなる。
 まるで荒波に呑み込まれるような感覚が、何度も何度も襲い掛かってくる。
 かつて覚えたこともない感覚だった。

(え、や、あ……)

 怖い、怖い。
 途轍もなく怖かった。
 感情の渦に、自分の人格さえも消えてしまいそうだった。
 目尻からは、次々と涙の雫が零れ落ちていった。
 ずっと小刻みに体が震えている。
 彼女は、必死の想いでにしがみついた。
 すると、

 ――大丈夫だ。受け入れろ。じきに終わる。

 がそう言ってくれた。そして彼女の腰を、背中を強く抱き直してくれた。
 決して離さないと、態度で示してくれた。
 刀歌はの言葉を信じて、コクコクと頷いた。
 絶え間なく襲い来る感情の怒涛。
 それに合わせて、全身の震えが激しくなっていく。
 気を抜くと、今にも自我が消えてしまいそうな中で――。
 それでも、刀歌は、のことを信じた。
 そうして――。

(―――――ふあっ!? あああッッ!?)

 これまでにない、大きな波が押し寄せる。

(――熱い、熱い!)

 まるで火でも点いたように、下腹部辺りが熱くなった。
 自分の最も深い所に、何かが大量に注ぎ込まれるのを感じ取った。
 体の芯までが大きく震える。
 刀歌の頭の中は真っ白になり、大きく仰け反った。
 今までとはまるで違う。
 あまりの衝撃に、呼吸も出来ない。
 ぐらりと後ろに倒れ込んでいく――が、
 ――グッ、と。
 彼女の背中が受け止められる。の力強い腕だ。
 は崩れ落ちそうになった刀歌を、抱きとめてくれた。
 そうして、

 ――よく頑張った。辛かっただろう。もう終わったぞ。

 そう告げると、は放心した刀歌を持ち上げて、しっかりと抱き直した。荒い呼吸を繰り返す彼女が再び呼吸困難に陥っていると思ったのか、また唇が重なった。酸素が注がれる。

(………ん、ン……)

 刀歌は朦朧とした意識で、の首元にぎゅうっと抱き着いた。
 刀歌は、心から安堵していた。
 長い旅路の果てに。
 ようやく、安息の地でも見つけたかのように。
 彼女は自らも望んで唇を重ね続け、その心地よさに身も心も委ねた。
 いつまでも。いつまでも。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

転職したら陰陽師になりました。〜チートな私は最強の式神を手に入れる!〜

万実
キャラ文芸
う、嘘でしょ。 こんな生き物が、こんな街の真ん中に居ていいの?! 私の目の前に現れたのは二本の角を持つ鬼だった。 バイトを首になった私、雪村深月は新たに見つけた職場『赤星探偵事務所』で面接の約束を取り付ける。 その帰り道に、とんでもない事件に巻き込まれた。 鬼が現れ戦う羽目に。 事務所の職員の拓斗に助けられ、鬼を倒したものの、この人なんであんな怖いのと普通に戦ってんの? この事務所、表向きは『赤星探偵事務所』で、その実態は『赤星陰陽師事務所』だったことが判明し、私は慄いた。 鬼と戦うなんて絶対にイヤ!怖くて死んじゃいます! 一度は辞めようと思ったその仕事だけど、超絶イケメンの所長が現れ、ミーハーな私は彼につられて働くことに。 はじめは石を投げることしかできなかった私だけど、式神を手に入れ、徐々に陰陽師としての才能が開花していく。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...