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第2部
第八章 怪物たちは躍る④
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一方、刀歌は焦っていた。
それも当然だ。主君でもある愛する人と、氷壁で分断されたのだから。
「――くそッ!」
――ゴウッ!
刀歌は、再び熱閃の刃で氷壁を斬りつける!
――が、
「――くうッ!」
ギリ、と歯を鳴らす。
巨大な氷壁は、やはりビクともしない。
まるで巨峰を彷彿させるような壁だった。
だが、ここで手をこまねいている訳にはいかない。
刀歌は直感で悟っていた。
恐らく、ここが分水嶺なのだ。
これからも、あの人の傍に居られるかどうかの。
ここで、彼の元に駆けつけられるかによって、岐路が決まる。
そう感じ取っていた。
「…………」
刀歌は左手を地に添え、右手の熱閃を天にかざした。
熱閃がさらに噴き出し、赤い火の粉を散らした。
自分の中の『獣』も、獰猛に牙を剥き出しにする。
自分に宿る魂力を、すべて熱閃の刃に込めた。
すると、
(……え?)
刀歌は目を見開いた。
普段以上の魂力を自分の中に感じたのだ。
それも生半可な量ではない。恐らく普段の一・五倍ものの量だ。
今の自分の魂力は、300さえ超えているのを感じた。
「こ、これは……?」
困惑を声に出すと、
『ああ~、それは真刃さまの魂力だね!』
リボンに宿る蝶花が告げた。
『今の刀歌ちゃん、多分、エルナちゃんや、かなたちゃんもそうだと思うけど、望めばいつでも真刃さまから魂力を借りることが出来るんだよ』
「……は?」
刀歌は熱閃を構えたまま、目を丸くした。
『《魂結び》は相互のためのものだって真刃さまから聞いたでしょう? 真刃さまはいつでも貴女たちが魂力を強化できるように許可しているの。紫子ちゃんの時もそうだったらしいよ!』
「い、いや待て!」
刀歌は、激しく動揺した。
「紫子って誰だ! 四人目……肆妃がすでにいるのか――いや、それよりも!」
険しい声で、リボンに問い質す。
「私は今、100以上の魂力を主君から奪い取っているのか! こんな馬鹿げた世界を生み出すような敵を前にして!」
流石に焦りを隠せなかった。
主君を助けに行くために、主君を弱体化させるなど愚の骨頂だ。
『ああ~、大丈夫だよ』
しかし、蝶花は陽気な声で答える。
『真刃さまにとって100ぐらい負担にもならないし。それに刀歌ちゃんたちの方が、ずっと大事ってことだよ。けど、どうしても気になるのなら――』
そこで、白いリボンは氷壁を指 (?)差した。
『とっととこの氷壁を切り裂くこと! 真刃さまの所に行きたいんでしょう!』
そう指摘されて、刀歌は大きく目を見開いた。
――そうだ。今の自分ならば、この氷壁でも……。
「……そうだな」
刀歌は、思考を切り替える。
今は、主君の元に駆けつけること。
それのみに意識を向ける。
一瞬の静寂。熱閃がさらに大きく、煌煌と輝いた。
そして――。
「――はあっ!」
――ザンッ!
刀歌は、渾身の刃を振り抜いた。
――しかし。
「……くッ」
舌打ちする。
極大化させた熱閃の刃であっても、氷壁を切り裂くまでにはいかなかった。
微かに刀傷はあるが、精々表層を傷つけただけだ。
「……これでもまだ届かないのか」
刀歌は、下唇を噛んだ。
考えてみれば当然の結果だった。あの少年の魂力は1080という話だ。
300であってもまるで足りない。魂力の量が、あまりにも違うすぎるのである。
だが、それでも――。
「まだだ!」
刀歌は再び身構える。
再度、渾身の魂力を装填する。炎の刃が赤く輝いた。
何度でも、何度でも切り裂いてやる!
己が獣性をも解放にして、刀歌が氷壁に挑もうとした――その時だった。
――そうではない。
不意に、その声を聞いた。
(……え?)
刀歌は、目を瞬かせる。
すると、右手に暖かい温もりを感じた。
――魂力が乱れておる。放つのではない。集めるのだ。
それは幼き日に体に刻まれた、曽祖父の教えだった。
刀歌は、自分の熱閃の刃に目をやった。
確かに、かつてない勢いで噴き出している。
しかし、それは、あまりにも荒々しい刃だった。
(……私は)
曽祖父の教えを、改めて思い出す。
刀歌は生まれながら魂力がとても高い。
それゆえに、過剰なほどの力を注ぐ悪癖があった。
曽祖父は、いつもそれを指摘していた。
(何をしているんだ)
すっと目を細める。
次いで、大きく息を吐きだした。
イメージする。鋭い刀身を。鍛え抜かれた鋼の刃を。
(細く、細く。炎を一筋の光に……)
刀歌は瞑目した。
すると、炎の勢いが形を変えた。
荒々しい噴出が収束されて、炎よりも光に近くなる。
そして刃は色までも変えた。真紅から、純白へと変わったのだ。
『……刀歌ちゃん?』
蝶花が、困惑の声を上げた。
その直後である。
「――はあっ!」
刀歌は、白き熱閃を振るった!
しかも、獣性の嗅覚を以て、一度刻んだ刀傷に寸分違わず斬り込んだ。
下から斜め上方へ。十数メートルにまで伸びた光の白刃は一筋の軌跡を描いた。
刀歌は、振り抜いたまま静止した。
長大な白刃はゆっくりと縮小していき、赤い炎の刃に戻った。
数秒、十数秒の時間が経過する。
そして――。
――ビシリッッ!
突如、氷壁に巨大な亀裂が奔った。
刀歌は後方へと、数度跳躍した。
その間にも、亀裂はどんどん広がっていき、遂には――。
――ズズウゥゥン……。
氷壁は斜めにずれて、崩れ落ちた。
粉塵が巻き上がり、幾つもの氷塊が撒き散らされていく。
刀歌は、烈風に身構えた。
十数秒後、地響きは収まった。
視界が晴れた時、そびえ立っていた氷壁は、見事に残骸と化していた。
『凄いっ! やった! やったよ! 刀歌ちゃん!』
リボンを器用に動かして、蝶花が拍手をする。
しかし、刀歌は聞いていない。
彼女の眼差しは、氷壁の残骸の先へと向いていた。
刀歌は跳躍して、氷塊の上に立つ。
そして叫んだ!
「――主君! 真刃さま!」
愛しい人の名前を。
それも当然だ。主君でもある愛する人と、氷壁で分断されたのだから。
「――くそッ!」
――ゴウッ!
刀歌は、再び熱閃の刃で氷壁を斬りつける!
――が、
「――くうッ!」
ギリ、と歯を鳴らす。
巨大な氷壁は、やはりビクともしない。
まるで巨峰を彷彿させるような壁だった。
だが、ここで手をこまねいている訳にはいかない。
刀歌は直感で悟っていた。
恐らく、ここが分水嶺なのだ。
これからも、あの人の傍に居られるかどうかの。
ここで、彼の元に駆けつけられるかによって、岐路が決まる。
そう感じ取っていた。
「…………」
刀歌は左手を地に添え、右手の熱閃を天にかざした。
熱閃がさらに噴き出し、赤い火の粉を散らした。
自分の中の『獣』も、獰猛に牙を剥き出しにする。
自分に宿る魂力を、すべて熱閃の刃に込めた。
すると、
(……え?)
刀歌は目を見開いた。
普段以上の魂力を自分の中に感じたのだ。
それも生半可な量ではない。恐らく普段の一・五倍ものの量だ。
今の自分の魂力は、300さえ超えているのを感じた。
「こ、これは……?」
困惑を声に出すと、
『ああ~、それは真刃さまの魂力だね!』
リボンに宿る蝶花が告げた。
『今の刀歌ちゃん、多分、エルナちゃんや、かなたちゃんもそうだと思うけど、望めばいつでも真刃さまから魂力を借りることが出来るんだよ』
「……は?」
刀歌は熱閃を構えたまま、目を丸くした。
『《魂結び》は相互のためのものだって真刃さまから聞いたでしょう? 真刃さまはいつでも貴女たちが魂力を強化できるように許可しているの。紫子ちゃんの時もそうだったらしいよ!』
「い、いや待て!」
刀歌は、激しく動揺した。
「紫子って誰だ! 四人目……肆妃がすでにいるのか――いや、それよりも!」
険しい声で、リボンに問い質す。
「私は今、100以上の魂力を主君から奪い取っているのか! こんな馬鹿げた世界を生み出すような敵を前にして!」
流石に焦りを隠せなかった。
主君を助けに行くために、主君を弱体化させるなど愚の骨頂だ。
『ああ~、大丈夫だよ』
しかし、蝶花は陽気な声で答える。
『真刃さまにとって100ぐらい負担にもならないし。それに刀歌ちゃんたちの方が、ずっと大事ってことだよ。けど、どうしても気になるのなら――』
そこで、白いリボンは氷壁を指 (?)差した。
『とっととこの氷壁を切り裂くこと! 真刃さまの所に行きたいんでしょう!』
そう指摘されて、刀歌は大きく目を見開いた。
――そうだ。今の自分ならば、この氷壁でも……。
「……そうだな」
刀歌は、思考を切り替える。
今は、主君の元に駆けつけること。
それのみに意識を向ける。
一瞬の静寂。熱閃がさらに大きく、煌煌と輝いた。
そして――。
「――はあっ!」
――ザンッ!
刀歌は、渾身の刃を振り抜いた。
――しかし。
「……くッ」
舌打ちする。
極大化させた熱閃の刃であっても、氷壁を切り裂くまでにはいかなかった。
微かに刀傷はあるが、精々表層を傷つけただけだ。
「……これでもまだ届かないのか」
刀歌は、下唇を噛んだ。
考えてみれば当然の結果だった。あの少年の魂力は1080という話だ。
300であってもまるで足りない。魂力の量が、あまりにも違うすぎるのである。
だが、それでも――。
「まだだ!」
刀歌は再び身構える。
再度、渾身の魂力を装填する。炎の刃が赤く輝いた。
何度でも、何度でも切り裂いてやる!
己が獣性をも解放にして、刀歌が氷壁に挑もうとした――その時だった。
――そうではない。
不意に、その声を聞いた。
(……え?)
刀歌は、目を瞬かせる。
すると、右手に暖かい温もりを感じた。
――魂力が乱れておる。放つのではない。集めるのだ。
それは幼き日に体に刻まれた、曽祖父の教えだった。
刀歌は、自分の熱閃の刃に目をやった。
確かに、かつてない勢いで噴き出している。
しかし、それは、あまりにも荒々しい刃だった。
(……私は)
曽祖父の教えを、改めて思い出す。
刀歌は生まれながら魂力がとても高い。
それゆえに、過剰なほどの力を注ぐ悪癖があった。
曽祖父は、いつもそれを指摘していた。
(何をしているんだ)
すっと目を細める。
次いで、大きく息を吐きだした。
イメージする。鋭い刀身を。鍛え抜かれた鋼の刃を。
(細く、細く。炎を一筋の光に……)
刀歌は瞑目した。
すると、炎の勢いが形を変えた。
荒々しい噴出が収束されて、炎よりも光に近くなる。
そして刃は色までも変えた。真紅から、純白へと変わったのだ。
『……刀歌ちゃん?』
蝶花が、困惑の声を上げた。
その直後である。
「――はあっ!」
刀歌は、白き熱閃を振るった!
しかも、獣性の嗅覚を以て、一度刻んだ刀傷に寸分違わず斬り込んだ。
下から斜め上方へ。十数メートルにまで伸びた光の白刃は一筋の軌跡を描いた。
刀歌は、振り抜いたまま静止した。
長大な白刃はゆっくりと縮小していき、赤い炎の刃に戻った。
数秒、十数秒の時間が経過する。
そして――。
――ビシリッッ!
突如、氷壁に巨大な亀裂が奔った。
刀歌は後方へと、数度跳躍した。
その間にも、亀裂はどんどん広がっていき、遂には――。
――ズズウゥゥン……。
氷壁は斜めにずれて、崩れ落ちた。
粉塵が巻き上がり、幾つもの氷塊が撒き散らされていく。
刀歌は、烈風に身構えた。
十数秒後、地響きは収まった。
視界が晴れた時、そびえ立っていた氷壁は、見事に残骸と化していた。
『凄いっ! やった! やったよ! 刀歌ちゃん!』
リボンを器用に動かして、蝶花が拍手をする。
しかし、刀歌は聞いていない。
彼女の眼差しは、氷壁の残骸の先へと向いていた。
刀歌は跳躍して、氷塊の上に立つ。
そして叫んだ!
「――主君! 真刃さま!」
愛しい人の名前を。
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