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第2部
第八章 怪物たちは躍る③
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「……貴様は」
真刃は氷壁を一瞥してから、八夜に視線を向けた。
少年は、グイグイと腕を解しながら、こちらへと歩いてきた。
「随分と刹那的に動くのだな。何が狙いだ?」
「いや、狙いも何も」
八夜は、ニコニコと笑った。
「宣言通りだよ。お兄さんとお姉さんに死んで欲しんだ」
「阿呆が。死ねと頼まれて死ぬ奴もいないだろう」
真刃は、呆れた口調で吐き捨てる。
「己は、貴様の父と話しに来ただけだぞ」
「う~ん、それが一番まずいんだよ」
八夜は肩を竦めて、かぶりを振った。
「お父さんは、きっとお兄さんを気に入るはずだ。もう大喜びするよ。だからまずいんだ」
そこで、真刃を見捨てて告げる。
「ボクはね。七奈ちゃんは、ボクが幸せにするって決めているんだ。それには、お兄さんがいると、とても困るんだよ」
「……七奈?」
真刃は眉根を寄せる。人の名前のようだが、聞き覚えはない。
「誰だ? それは?」
「世界一可愛いボクのお嫁さんだよ」
「……そうか」
会話が全く成り立っていない。真刃は渋面を浮かべた。
ただ、少し驚きもあった。
目の前に立つ、自分によく似た少年。
この怪物のような少年にも、幸せにしたいと願う誰かがいるようだ。
(……とはいえ、だ)
真刃は、右手を八夜にかざした。
「貴様の事情はよく分からんが、いずれにせよ、貴様を放置すると、刀歌に危害を加えることだけは確実のようだな」
それを許容するつもりはない。
「猿忌よ」
従霊の長の名を呼んだ。
すると、ボボボと鬼火が現れ、それは大地へと吸い込まれた。
一瞬後には、地面から炎を噴き出す岩の熊が現れ出た。
大地を依り代にした時の猿忌の姿だ。
「己に牙を」
『御意』
猿忌は応える。途端、岩の巨熊はガラガラと崩れ、岩塊が真刃の右腕へと収束される。
数秒後には、真刃の右腕は炎を噴き出す、岩の巨腕を化していた。
その姿に八夜は「わあっ!」と声を上げた。
「改めて見ると本当に凄いね! お兄さん! その姿、本当にお父さんの言っていた『久遠真刃』みたいだ!」
「…………」
真刃は無言だ。こればかりは何と返せばいいのか分からない。
代わりに、巨腕の拳を固めた。
一方、八夜は満面の笑みを浮かべていた。
「それが『従霊』か。転生を待つ死者の魂を精霊化させた存在。お父さんは『久遠真刃』の独界だって言ってたけど、系譜術みたいに受け継ぐことも出来たんだね」
「……独界?」
真刃は反芻した。またしても聞いたことのない名称だ。
すると、八夜は笑いながら答えた。
「うちの造語だよ。独自の世界って意味だよ。例えばさ」
八夜は手をかざした。直後、右腕を覆って氷の刃が生み出される。
「ボクのこれも独界。系譜術じゃないよ。世界にだって干渉できる、魂に刻まれた根源の力。ボクは『凍結』の根源を持っているんだ」
「……また大層な話だな」
真刃が呟く。
「魂の根源だと? どうしてそんなものが世界に干渉できる?」
「う~ん、詳しいことは、ボクにもよく分からないけどさ」
八夜は、左手で頬をかいた。
「研究所の人の話だと、魂力って人間だけのものじゃないんだって。微少だけど動物にも、物質にさえも宿っているんだって。『万象とは魂力という泥で創られた造形物なのだ』とか、所長さんは決め顔でいつも語ってたなあ」
「………」
真刃は眉をひそめる。それは初めて聞く内容だった。
「世界は魂力で出来ているから、莫大な魂力を使えば世界の形は上書きできるんだ。封宮や事象操作、上級我霊の結界領域もその一種だって。そして独界はその上位能力ってこと」
八夜は、さらに話を続ける。
「君のご先祖さまである『久遠真刃』も独界の持ち主だった。前にお父さんが言ってたよ。『久遠真刃』が独界の最大顕現を行う時、そこには強大な『象徴』が現れていたって」
一拍おいて、
「別名、『象徴化身』とも呼ばれる怪物。《千怪万妖骸鬼ノ王》。大昔、帝都っていう街を壊滅にまで追い込んだ巨大な怪物こそが、彼の『象徴』だった」
「………」
その台詞にも、真刃は無言だった。
(……あれが、己の世界の象徴だと?)
内心で眉根を寄せるが、同時に腑にも落ちる。
久遠家に伝わる本来の系譜術は、符を用いた式神だ。
従霊はそれに似ているので、系譜術が変質して継承されたのだろうと、勝手に思い込んでいたのだが、真実は違っていたのかもしれない。
しかし、そうだとしたら、自分の象徴が示す根源とは一体……。
『……主よ』
その時、岩の右腕――猿忌が語りかけてきた。
『気を取られるのは分かるが、今は眼前の敵に注意せよ』
「……分かっておる」
真刃は、小さな声で応えた。
改めて岩の巨拳を強く固まると、
「まあ、ボクの話は又聞きだし、詳しくは、ちんぷんかんぷんだけどね!」
片手を氷剣にした少年は、にぱっと笑った。
本当によく笑う少年だった。
少年は、トントンとステップを踏み始めた。
「もちろん、ボクも象徴を持っているよ。多分、お兄さんもだよね」
「……さあな」
「ふふ、隠さなくてもいいよ。じゃないと『真刃』の名前は継げないだろうしね。けど、いきなり象徴同士でぶつかり合うのも大味すぎるかな。うん。お兄さん」
少年は双眸を細めた。
初めて、彼の表情から笑顔が消える。
「まずは、軽くウォーミングアップでもしようよ」
そう告げた直後、少年の姿が消えた。
地を蹴り、跳躍したのだ。次の瞬間には真刃の目の前にいる。間合いを詰めた少年は、氷剣を振り下ろした!
――ガギンッッ!
真刃は、岩の巨腕で氷の刃を受け止めた。
刃と岩は拮抗するが、真刃は強く地面に踏み込んで、巨腕を振り抜いた。
体重の軽い少年は吹き飛ばされる。が、クルクルと猫のように地面に着地した。
「やっぱり凄いね。お兄さん」
八夜は、楽しそうに目を細める。
「鋼鉄よりも硬いボクの氷剣を、正面から受け止めて弾くなんてね」
「……やれやれだな」
一方、真刃は、小さく嘆息して呟いた。
「全く面倒な相手を用意してくれたものだ。総隊長殿は」
双眸を細める。
「どうやら、あの男に問い質さなければならんことが増えたようだな」
真刃は氷壁を一瞥してから、八夜に視線を向けた。
少年は、グイグイと腕を解しながら、こちらへと歩いてきた。
「随分と刹那的に動くのだな。何が狙いだ?」
「いや、狙いも何も」
八夜は、ニコニコと笑った。
「宣言通りだよ。お兄さんとお姉さんに死んで欲しんだ」
「阿呆が。死ねと頼まれて死ぬ奴もいないだろう」
真刃は、呆れた口調で吐き捨てる。
「己は、貴様の父と話しに来ただけだぞ」
「う~ん、それが一番まずいんだよ」
八夜は肩を竦めて、かぶりを振った。
「お父さんは、きっとお兄さんを気に入るはずだ。もう大喜びするよ。だからまずいんだ」
そこで、真刃を見捨てて告げる。
「ボクはね。七奈ちゃんは、ボクが幸せにするって決めているんだ。それには、お兄さんがいると、とても困るんだよ」
「……七奈?」
真刃は眉根を寄せる。人の名前のようだが、聞き覚えはない。
「誰だ? それは?」
「世界一可愛いボクのお嫁さんだよ」
「……そうか」
会話が全く成り立っていない。真刃は渋面を浮かべた。
ただ、少し驚きもあった。
目の前に立つ、自分によく似た少年。
この怪物のような少年にも、幸せにしたいと願う誰かがいるようだ。
(……とはいえ、だ)
真刃は、右手を八夜にかざした。
「貴様の事情はよく分からんが、いずれにせよ、貴様を放置すると、刀歌に危害を加えることだけは確実のようだな」
それを許容するつもりはない。
「猿忌よ」
従霊の長の名を呼んだ。
すると、ボボボと鬼火が現れ、それは大地へと吸い込まれた。
一瞬後には、地面から炎を噴き出す岩の熊が現れ出た。
大地を依り代にした時の猿忌の姿だ。
「己に牙を」
『御意』
猿忌は応える。途端、岩の巨熊はガラガラと崩れ、岩塊が真刃の右腕へと収束される。
数秒後には、真刃の右腕は炎を噴き出す、岩の巨腕を化していた。
その姿に八夜は「わあっ!」と声を上げた。
「改めて見ると本当に凄いね! お兄さん! その姿、本当にお父さんの言っていた『久遠真刃』みたいだ!」
「…………」
真刃は無言だ。こればかりは何と返せばいいのか分からない。
代わりに、巨腕の拳を固めた。
一方、八夜は満面の笑みを浮かべていた。
「それが『従霊』か。転生を待つ死者の魂を精霊化させた存在。お父さんは『久遠真刃』の独界だって言ってたけど、系譜術みたいに受け継ぐことも出来たんだね」
「……独界?」
真刃は反芻した。またしても聞いたことのない名称だ。
すると、八夜は笑いながら答えた。
「うちの造語だよ。独自の世界って意味だよ。例えばさ」
八夜は手をかざした。直後、右腕を覆って氷の刃が生み出される。
「ボクのこれも独界。系譜術じゃないよ。世界にだって干渉できる、魂に刻まれた根源の力。ボクは『凍結』の根源を持っているんだ」
「……また大層な話だな」
真刃が呟く。
「魂の根源だと? どうしてそんなものが世界に干渉できる?」
「う~ん、詳しいことは、ボクにもよく分からないけどさ」
八夜は、左手で頬をかいた。
「研究所の人の話だと、魂力って人間だけのものじゃないんだって。微少だけど動物にも、物質にさえも宿っているんだって。『万象とは魂力という泥で創られた造形物なのだ』とか、所長さんは決め顔でいつも語ってたなあ」
「………」
真刃は眉をひそめる。それは初めて聞く内容だった。
「世界は魂力で出来ているから、莫大な魂力を使えば世界の形は上書きできるんだ。封宮や事象操作、上級我霊の結界領域もその一種だって。そして独界はその上位能力ってこと」
八夜は、さらに話を続ける。
「君のご先祖さまである『久遠真刃』も独界の持ち主だった。前にお父さんが言ってたよ。『久遠真刃』が独界の最大顕現を行う時、そこには強大な『象徴』が現れていたって」
一拍おいて、
「別名、『象徴化身』とも呼ばれる怪物。《千怪万妖骸鬼ノ王》。大昔、帝都っていう街を壊滅にまで追い込んだ巨大な怪物こそが、彼の『象徴』だった」
「………」
その台詞にも、真刃は無言だった。
(……あれが、己の世界の象徴だと?)
内心で眉根を寄せるが、同時に腑にも落ちる。
久遠家に伝わる本来の系譜術は、符を用いた式神だ。
従霊はそれに似ているので、系譜術が変質して継承されたのだろうと、勝手に思い込んでいたのだが、真実は違っていたのかもしれない。
しかし、そうだとしたら、自分の象徴が示す根源とは一体……。
『……主よ』
その時、岩の右腕――猿忌が語りかけてきた。
『気を取られるのは分かるが、今は眼前の敵に注意せよ』
「……分かっておる」
真刃は、小さな声で応えた。
改めて岩の巨拳を強く固まると、
「まあ、ボクの話は又聞きだし、詳しくは、ちんぷんかんぷんだけどね!」
片手を氷剣にした少年は、にぱっと笑った。
本当によく笑う少年だった。
少年は、トントンとステップを踏み始めた。
「もちろん、ボクも象徴を持っているよ。多分、お兄さんもだよね」
「……さあな」
「ふふ、隠さなくてもいいよ。じゃないと『真刃』の名前は継げないだろうしね。けど、いきなり象徴同士でぶつかり合うのも大味すぎるかな。うん。お兄さん」
少年は双眸を細めた。
初めて、彼の表情から笑顔が消える。
「まずは、軽くウォーミングアップでもしようよ」
そう告げた直後、少年の姿が消えた。
地を蹴り、跳躍したのだ。次の瞬間には真刃の目の前にいる。間合いを詰めた少年は、氷剣を振り下ろした!
――ガギンッッ!
真刃は、岩の巨腕で氷の刃を受け止めた。
刃と岩は拮抗するが、真刃は強く地面に踏み込んで、巨腕を振り抜いた。
体重の軽い少年は吹き飛ばされる。が、クルクルと猫のように地面に着地した。
「やっぱり凄いね。お兄さん」
八夜は、楽しそうに目を細める。
「鋼鉄よりも硬いボクの氷剣を、正面から受け止めて弾くなんてね」
「……やれやれだな」
一方、真刃は、小さく嘆息して呟いた。
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