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第2部
第八章 怪物たちは躍る⑥
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「――顕現せよ」
厳かな声で、真刃は命じる。
すると、三十近い鬼火が、ボボボと現れた。
猿忌と同じ従霊たちだ。
全力戦闘を予め予想して、今回は全員が真刃の傍らにいたのだ。
しかし、今回はこの数でも足りないだろう。
この数では、恐らく部位顕現までが限界である。
だからこそ、
「世界にたゆたいし魂よ。己の声が聞こえるか?」
真刃は、世界に呼びかけた。
その直後、宙空にて、百にも近い灯火が浮かび上がった。
従霊たちの灯火と合わせて、百三十もの輝きが周囲を満たす。
「うわあ……」
刀歌が、まるで精霊の園のような輝きに目を奪われる。
「呼びかけに応えてくれて感謝する。お前たちには後に名を与えよう」
真刃がそう告げると、百の灯火が喜びを示して輝きを増した。
そして古参の従霊たちと共に、真刃に魂力を注いでいく。
「すべての従霊に告ぐ」
真刃は、命じた。
「己に器を与えよ」
その命に、従霊たちは迅速に応えた。
従霊たちは、すっと大地に沈みこんだ。そして次の瞬間には大地が鳴動し、大量の土砂が地面から噴き出し、真刃と刀歌を呑み込んだ。
土砂は二人を呑み込んだ後も、噴出の勢いを止めない。
それどころか、鳴動する大地からは、溶岩流まで噴き出してきた。
天にも届く土砂と溶岩は、徐々に形を創り出していった。
地につきそうなほどに長く、巨大な両腕。ひしゃげた足に、異様に大きい上半身と肩回り。背中一面と、肩から二の腕にかけては、燃え盛る赤い巨刃が乱立していた。
爪状に割れた胸部内には大きな空洞があり、火口のごとく溶岩の海が見えている。牡牛のような巨大な角を持つ、羆に似た頭部には、鋭い牙も見えている。
全身に溶岩流を樹木の根のように這わせた体は、氷の怪猫よりもさらに巨大だ。恐らく、三十メートルにも至るだろう。
それは、まさに灼岩の巨獣だった。
――《千怪万妖骸鬼ノ王》。
天堂院八夜の言葉を借りるのならば、久遠真刃の象徴である。
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――ッ!』
灼岩の巨獣が、咆哮を上げた。
その直後、氷河の世界が、溶岩流と灼刀が乱立する世界に移り変わっていく――が、
――ジャラララララッ!
突如、無数の黒い鎖――実体なき、魂を拘束する鎖が巨獣の全身から飛び出し、虚空へと、大地へと繋がっていく。
氷河の世界への浸食は止まった。
『……凄いや』
灼岩の巨獣と対峙する怪猫が言う。
『うん。それが、お兄さんの象徴化身なんだね。だけど』
巨大な単眼が、黒い鎖を一瞥する。
『それって《制約》の鎖だよね? お兄さん、何か《制約》があるの?』
『……タイシタ、コトデハ、ナイ』
歪な声で巨獣が語る。
『イササカ、カラダガ、オモクナルダケダ』
『ふ~ん。けど、ちょっと不満だな』
怪猫が、少し拗ねたような声で告げる。
『それって、お兄さんが全力を出せないってことなんでしょう?』
『……フン』
それに対し、灼岩の巨獣は鼻を鳴らした。
『ソレモ、タイシタ、モンダイデハ、ナイ』
言って、岩のアギトを開いた。
『――ッ!』
その時、怪猫と化した八夜は、悪寒を感じた。
自分の象徴を跳躍させた――その直後のことだった。
――ゴウッッ!
岩のアギトから、膨大な熱線が放出されたのである。
赫光は直前に跳躍した怪猫のいた場所に直撃すると、そのまま直線状に突き進んだ。
そして断裂した大地から、数十メートルにも至る溶岩流が噴き出した。
――ズズンッと。
怪猫が着地し、荒れ狂う溶岩流に覆われた大地を見やる。
『……なるほどね』
流石に、声にも神妙さが宿った。
『《制約》があろうと、お兄さんの強さには関係ないってことだね』
『……オマエノ、マエニ、タツノハ、サイヤクノ、カイブツダ』
灼岩の怪物は、視線を怪猫に向けて告げる。
まるで鯨を思わせる巨大な右腕を、悠然と突き出した。
巨拳を、ギシリと固める。
『……ソウ。オレノ、コンゲントハ「サイヤク」ナノダロウ。ヤイバハ、「ジンサイ」ヲ。シャクガンハ「テンサイ」ヲ。ソレラヲ、シメシテイルノダロウナ』
その声は、どこか皮肉さを宿していた。
『「サイヤク」ニ、セイヤクナド、キタイ、シナイコトダナ』
『うん。そうするよ』
少年は素直にそう返した。
『お兄さんは間違いなく怪物だ。ボクも全力で挑ませてもらうよ』
そう告げると、怪猫は重心を沈めて身構えた。
三本の尾と、背中の蛇腹剣が蠢きだす。周囲の吹雪も強さを一気に増した。
『……にゃあ』
怪猫――八夜は笑う。
そして、
『じゃあ、遊ぼうか。お兄さん』
怪猫は、その巨体を跳躍させた。
灼岩の巨獣は、拳を固めて迎え撃つ。
かくして、巨大な怪物たちは、ぶつかり合った。
溶岩流の世界と、氷河の世界が正面から衝突する。
『――ヤハハハハハハハッ!』
場違いな、無邪気な少年の哄笑を響かせて――。
厳かな声で、真刃は命じる。
すると、三十近い鬼火が、ボボボと現れた。
猿忌と同じ従霊たちだ。
全力戦闘を予め予想して、今回は全員が真刃の傍らにいたのだ。
しかし、今回はこの数でも足りないだろう。
この数では、恐らく部位顕現までが限界である。
だからこそ、
「世界にたゆたいし魂よ。己の声が聞こえるか?」
真刃は、世界に呼びかけた。
その直後、宙空にて、百にも近い灯火が浮かび上がった。
従霊たちの灯火と合わせて、百三十もの輝きが周囲を満たす。
「うわあ……」
刀歌が、まるで精霊の園のような輝きに目を奪われる。
「呼びかけに応えてくれて感謝する。お前たちには後に名を与えよう」
真刃がそう告げると、百の灯火が喜びを示して輝きを増した。
そして古参の従霊たちと共に、真刃に魂力を注いでいく。
「すべての従霊に告ぐ」
真刃は、命じた。
「己に器を与えよ」
その命に、従霊たちは迅速に応えた。
従霊たちは、すっと大地に沈みこんだ。そして次の瞬間には大地が鳴動し、大量の土砂が地面から噴き出し、真刃と刀歌を呑み込んだ。
土砂は二人を呑み込んだ後も、噴出の勢いを止めない。
それどころか、鳴動する大地からは、溶岩流まで噴き出してきた。
天にも届く土砂と溶岩は、徐々に形を創り出していった。
地につきそうなほどに長く、巨大な両腕。ひしゃげた足に、異様に大きい上半身と肩回り。背中一面と、肩から二の腕にかけては、燃え盛る赤い巨刃が乱立していた。
爪状に割れた胸部内には大きな空洞があり、火口のごとく溶岩の海が見えている。牡牛のような巨大な角を持つ、羆に似た頭部には、鋭い牙も見えている。
全身に溶岩流を樹木の根のように這わせた体は、氷の怪猫よりもさらに巨大だ。恐らく、三十メートルにも至るだろう。
それは、まさに灼岩の巨獣だった。
――《千怪万妖骸鬼ノ王》。
天堂院八夜の言葉を借りるのならば、久遠真刃の象徴である。
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――ッ!』
灼岩の巨獣が、咆哮を上げた。
その直後、氷河の世界が、溶岩流と灼刀が乱立する世界に移り変わっていく――が、
――ジャラララララッ!
突如、無数の黒い鎖――実体なき、魂を拘束する鎖が巨獣の全身から飛び出し、虚空へと、大地へと繋がっていく。
氷河の世界への浸食は止まった。
『……凄いや』
灼岩の巨獣と対峙する怪猫が言う。
『うん。それが、お兄さんの象徴化身なんだね。だけど』
巨大な単眼が、黒い鎖を一瞥する。
『それって《制約》の鎖だよね? お兄さん、何か《制約》があるの?』
『……タイシタ、コトデハ、ナイ』
歪な声で巨獣が語る。
『イササカ、カラダガ、オモクナルダケダ』
『ふ~ん。けど、ちょっと不満だな』
怪猫が、少し拗ねたような声で告げる。
『それって、お兄さんが全力を出せないってことなんでしょう?』
『……フン』
それに対し、灼岩の巨獣は鼻を鳴らした。
『ソレモ、タイシタ、モンダイデハ、ナイ』
言って、岩のアギトを開いた。
『――ッ!』
その時、怪猫と化した八夜は、悪寒を感じた。
自分の象徴を跳躍させた――その直後のことだった。
――ゴウッッ!
岩のアギトから、膨大な熱線が放出されたのである。
赫光は直前に跳躍した怪猫のいた場所に直撃すると、そのまま直線状に突き進んだ。
そして断裂した大地から、数十メートルにも至る溶岩流が噴き出した。
――ズズンッと。
怪猫が着地し、荒れ狂う溶岩流に覆われた大地を見やる。
『……なるほどね』
流石に、声にも神妙さが宿った。
『《制約》があろうと、お兄さんの強さには関係ないってことだね』
『……オマエノ、マエニ、タツノハ、サイヤクノ、カイブツダ』
灼岩の怪物は、視線を怪猫に向けて告げる。
まるで鯨を思わせる巨大な右腕を、悠然と突き出した。
巨拳を、ギシリと固める。
『……ソウ。オレノ、コンゲントハ「サイヤク」ナノダロウ。ヤイバハ、「ジンサイ」ヲ。シャクガンハ「テンサイ」ヲ。ソレラヲ、シメシテイルノダロウナ』
その声は、どこか皮肉さを宿していた。
『「サイヤク」ニ、セイヤクナド、キタイ、シナイコトダナ』
『うん。そうするよ』
少年は素直にそう返した。
『お兄さんは間違いなく怪物だ。ボクも全力で挑ませてもらうよ』
そう告げると、怪猫は重心を沈めて身構えた。
三本の尾と、背中の蛇腹剣が蠢きだす。周囲の吹雪も強さを一気に増した。
『……にゃあ』
怪猫――八夜は笑う。
そして、
『じゃあ、遊ぼうか。お兄さん』
怪猫は、その巨体を跳躍させた。
灼岩の巨獣は、拳を固めて迎え撃つ。
かくして、巨大な怪物たちは、ぶつかり合った。
溶岩流の世界と、氷河の世界が正面から衝突する。
『――ヤハハハハハハハッ!』
場違いな、無邪気な少年の哄笑を響かせて――。
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