骸鬼王と、幸福の花嫁たち【第5部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第3部

第四章 懐かしき、初対面➂

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 ……十五分後。
 真刃は、猿忌を引き連れて路地裏を歩いていた。
 大通りへと続く、暗い路地裏である。
 人通りも全くない。
 そこを一人、黙々と歩いていた。
 と、その時。

『……縁があればか』

 ポツリ、と猿忌が呟いた。
 真刃は無言だった。

『やはり、あの娘は「あの女」の直系なのだろうな』

「……………」

 真刃は、未だ言葉を発さない。
 猿忌は嘆息した。

『まさか、「あの女」の残影と出会うことになるとはな』

「……大門の子孫がいるのだ」

 真刃は足を止めて、ようやく口を開いた。

「杠葉の子孫がいても不思議ではなかろう。そもそも、あの総隊長殿に至っては、まだしぶとく生きているのだぞ」

『確かにな』

 猿忌は苦笑いを浮かべた。

『しかし、どうする。主よ』

「……どうする、だと?」

 真刃は眉をひそめて、猿忌を見据えた。

「どういう意味だ?」

『……正直、我は「あの女」に良い感情は持っておらぬ。それは、我と記憶を共有する他の従霊たちも同じだろう』

『……うっス。そうっスね』

 猿忌の呟きに、真刃が持つスマホに宿る金羊が同意する。
 あれだけの雷光に晒されていたというのに、壊れていない精密機器《スマホ》。
 これは商品の頑丈さよりも、雷の属性を持つ金羊の加護のおかげだった。

『確かに紫子ちゃんに比べると、「彼女」の方は嫌われてる印象っスね』

「…………」

 真刃は再び無言になった。

『だが、主が「あの女」を、今でも大切に想っていることも知っている。それに、あの燦という娘に罪がある訳でもない』

 猿忌は『う~む……』と唸って言葉を続けた。

魂力オドの量。容姿……まあ、この場合は将来性だが、あの娘は充分合格だ。主が望むのならば肆妃の候補として挙げるが……』

「おい。待て」

 真刃は青筋を立てた。

「あの娘は杠葉の子孫だぞ。そもそも、あの娘が幾つだと思っておる」

『あくまで候補だ』

 猿忌は、淡々と答える。

『確かにあの娘はまだ幼い。《魂結び》においても、第一段階でもまだ二年は待つ必要が……いや、300越えならば、今でも受け入れられるかもしれんか? いずれにせよ、あの娘は誰よりも「あの女」に近い。主が望むなら――』

「……黙れ。猿忌」

 流石に、真刃は表情を変えた。

「……オレは、誰かを杠葉の代わりにするつもりはない」

『……すまぬ。失言だったか』

 猿忌は、真刃を見据えて告げる。

『「あの女」の代わりにせよなど言うつもりはない』

「……分かったのならばよい」

『うむ。あの娘は、あの娘として愛してやるといい』

「……おい。本当に分かっておるのか?」

『いやいや。なにせ、魂力の量が、333っスからね』

 と、金羊も会話に加わった。
 真刃のポケットに入れたスマホが、ブルブル震える。

『凄いっスよねぇ。ご主人や天堂院家の金髪坊ちゃんを除けば、天然であそこまで高い子は初めて出会ったっス』

『うむ。まごう事なき麒麟児ではあるな』

 猿忌は腕を組んで頷いた。

『結局のところ、我にとっては「あの女」に似ていることや、血縁者であることは減点でしかないのだ。あの娘を推す理由はその魂力の量だけだ』

「……それはそれで酷い話だな」

 真刃は嘆息した。

「ともあれ、あの娘が肆妃という話はなしだ。真面目に答えるのならば、エルナたちの担任教師でもある大門はともかく、火緋神の本家とあまり深い関係は築きたくない。何より、あの娘は幼すぎるからな」

『幼いと言っても、エルナたちと三歳ほどしか変わらんのだがな』

『その点は、むしろエルナちゃんたちが成長過多すぎじゃないっスかね?』

「………お前たちは」

 真刃は片手を額に当てて、かぶりを振った。

「とにかく改めて条件を出すぞ。肆妃は二十歳……いや、せめて二十二歳以上だ」

『――うええッ!?』

 金羊が悲鳴じみた声を上げた。
 スマホの画面でも、ダラダラと汗をかいている。

『JKダメなんスか!? エルナちゃんたちよりは年上っスよ!』

「J……ああ、女子高生か。やれやれ。今代の者は本当に言葉造りが好きだな」

 真刃は、肩を竦めた。

「それこそ、エルナたちと三歳ほどしか変わらんだろう。却下だ」

『えええッ! そんな! 折角調べたのにッ!』

 金羊は、スマホの画面に『ガーン』という文字をポップアップさせた。
 ……まあ、誰も見ていないのだが。

『別によかろう。近隣には該当する娘はいなかったのだろう?』

 と、告げる従霊の長に、金羊は『ううゥ』と呻いた。

『確かにそうっスけど、結構しんどかったんスよ。そもそも二十二歳以上となると、大学の子も半分ぐらいは全滅っスよ』

 まさに、藪を突いて蛇が出てしまった。
 迂闊に燦を薦めてしまったせいで、今までの苦労が泡と消えた金羊だった。

「ともあれだ」

 真刃は、暗い路地裏を再び歩き出しながら告げる。

「あの娘の話は終わりだ。縁があればとは言ったが、もう会う機会もなかろう。そう考えて名乗らなかったのだからな」

『ああ~、やっぱりそういうつもりだったんスか~』

 金羊が嘆息する。

『まあ、あの子はJSっスからね。もう会う機会もないっスよね~』

『……火緋神と関わらないのなら、むしろ避けるべきだな』

 惜しくはあるがな、と続けつつ、猿忌は真刃の後に続いた。
 一人と一体は路地裏を進む。
 そうして、すぐに大通りに出た。
 繁華街を通る人の流れが、目に飛び込んでくる。
 真刃は微かに目を細めた。
 そして、

(……ただ)

 心の中でこう思った。

(……杠葉の末を。あいつは幸せになれたのか。それだけは聞きたかったな)
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