骸鬼王と、幸福の花嫁たち【第5部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第4部

第六章 刃の王は、高らかに告げる④

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(噂通りの化け物だな……)

 襲い来る無数の刃を凌ぎつつ。
 鬼の仮面の下で、真刃は冷たい汗を流してた。
 この国における七つの邪悪の一つ。
 それが放つ猛威は、真刃の想定さえも大きく超えていた。

「フハハ! 凄い! 凄いな、君は!」

 餓者髑髏は楽し気に笑う。
 その都度、刀身の塊と化した右腕がしなり、真刃を襲う!
 ――ギャリンッ!
 右腕の装甲で刃を防ぐ。
 しかし、質量までは抑えきれず、真刃は大きく吹き飛ばされた。
 餓者髑髏は未だ、旅館の屋根の上だ。
 そこから、一方的に、街道にいる真刃に猛攻を加えてくるのである。
 嵐のような刃の余波に巻き込まれて、もはや街道は原型を留めていない。

(これが千年我霊か。総隊長殿が恐れるだけのことはある)

 真刃は眉を強くしかめた。いくら《制約》があるとしても、爪牙まで使用しているというのに、ここまで圧されるとは――。

(まずいな。これはどうすべきか)

 再び撃ち出された刀身の豪雨を跳躍してかわしつつ、真刃は思考を巡らせる。

 ――『爪牙』。
 それは、片腕のみを従霊の装甲で覆う『牙』に対し、全身を余すことなく覆う完全な戦闘形態のことだ。その戦闘力は、牙の時の比ではない。
 全従霊の力を結集させる『器』を除けば、事実上、真刃の最強の姿である。
 しかし、その姿を以てしても――。

「フハハハハッ!」

 餓者髑髏の哄笑と共に、刃の鉄槌と化した右腕が振り下ろされる!
 真刃は直前で後方に跳んだが、刃の鉄槌は大地を穿ち、大量の土砂を巻き上げた。

(これ以上の攻撃は、猿忌の装甲でも持たんな)

 猿忌の装甲もすでに傷だらけだ。
 猿忌は常時、装甲を修復させているが、損傷の数に追いつかない状況だった。

(長期戦は出来ん)

 真刃は考える。そして、

『猿忌よ』

 従霊の長に尋ねた。

『この周辺に、人の姿はあるか?』

 黒鉄の鎧――猿忌は、即座に答えた。

『一里 (およそ4キロメートル)四方には確認しておらぬ』

『……それは僥倖だな』

 真刃は、皮肉気に笑った。

『長期戦では敗北は必至だ。一気に決着をつけるぞ』

『――御意。しかし、主よ。どうするのだ?』

 猿忌がそう尋ねると、真刃は簡潔に策を伝えた。

『現状でこれ以外の手はない』

『……確かにな』

 猿忌が呟く。

『委細、承知した。我らも全力を尽くそう』

『ああ。では頼むぞ。お前たち・・

 真刃はそう告げて、


『――地より出ずる灼熱よ』


 厳かな声で、力を宿す言葉を紡ぎつつ、地面を片足で踏み抜いた。
 街道が割れ、瓦礫が噴き上がる。
 同時に真刃は大きく屈伸、天高く飛翔した。

「――ほう」

 餓者髑髏が、顔を上げて目を瞠る。
 赤い月を背に、真刃は背中から莫大な炎を噴きだした。
 足刀を前にして、地上へと加速する!


『其は、怒りなり。
 天の理に縛られし、人の子の怒りなり』


 流星のごとく飛翔しながら、真刃は言霊を紡ぐ。

面白いわんだふる!」

 餓者髑髏は瞳を輝かせながら、右腕を振るった。
 刃の鉄槌は空中でさらに増殖。
 まるで鋼の壁のようになって、真刃の蹴撃を阻むが、
 ――ガゴンッ!
 真刃の蹴りは、その壁を容易く貫いた!

「おお! 凄いなぐれいと!」

 餓者髑髏は目を見開く。
 真刃の勢いは止まらない。


『其は、悪鬼に非ず。
 其は、天魔に非ず。
 其は、人界の憤怒なり』


 真刃は詠唱を続ける。
 対し、餓者髑髏は、

「フハハハッ! ならばこれならどうかね!」

 そう叫んで、さらに刀身を増殖させる。
 今度は壁どころではない。立ちはだかる無数の刃。これはもはや砦だった。
 だが、それにも真刃は怯まない。


『刮目せよ。歓喜せよ。
 時は来たれり。
 今こそ、火と大地の王が、天上へと攻め入らん』


 詠唱を続けつつ、全身から炎をさらに噴き出して加速。刃の砦へと飛び込んだ。
 無数の刃が装甲を削る。それも厭わず刃を砕き続ける。
 そして――。

「……おお!」

 餓者髑髏は、思わず感嘆の声を上げた。
 炎を纏う蹴撃が、遂に刃の砦さえも撃ち抜いたのである。

素晴らしいえくせれんと! よもや、吾輩に両腕まで使わせようとは!」

 そう叫んで、餓者髑髏が左腕を振りかぶった。
 肉から幾つもの刀身が飛び出る。それは右腕同様に増殖。巨大な腕と化した。

「だが、ここまでだよ!」

 餓者髑髏は、ふふっと笑い、左腕で真刃を叩き落とそうとした、その時だった。


『――災いよ。在れ』


 真刃は、そう呟いた。
 そして、

「――――な」

 餓者髑髏は、初めて驚愕の表情を浮かべた。
 左腕で捕えようとした敵の姿が、いきなり消失したのである。
 これには流石に唖然とする。と、次の瞬間。
 ――ゴキンッッ!
 餓者髑髏の首が、大きく曲がった。

 全くあらぬ方向から。
 灼熱の蹴撃が、餓者髑髏の首を射抜いたのである。

 その衝撃は、凄まじい。
 直撃の瞬間には大気を弾き、旅館の屋根が打ち砕かれる。
 粉砕という規模ではない。巨大すぎる大太刀で両断したかのような破壊だ。
 餓者髑髏は、為す術なく大地に叩きつけられた。
 さらに真刃の蹴撃は街道を陥没させ、餓者髑髏を地中深くへと落とす。

 まさしく、星堕とし。
 さしもの怪物も、苦痛で表情を歪めた、その刹那。


『――《災禍崩天さいかほうてん》』


 ――世界は、紅蓮に包まれた。
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