骸鬼王と、幸福の花嫁たち【第5部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第5部

第四章 想い、数多①

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 星那せいなクレストフォルス校の校門を越えて。
 放課後。エルナは、久しぶりに友人である片桐あずさと下校していた。

「やあ~」

 温和な顔立ちのあずさが笑う。

「エルナと一緒に帰るのも久しぶりだね」

「……うん。そだね」

 楽し気なあずさとは対照的に、エルナは気が重そうだった。
 あずさは、少しムッとした。

「ちょっと。エルナ」

 あずさはエルナの前に回り込むと、その頬を両手で押さえた。

「最近付き合い悪いのに、折角一緒に帰る日までそんな顔しないでよ」

「ふぉ、ふぉめんしゃい……」

 頬を押さえられたまま、エルナが謝る。
 最近のエルナは、かなたか刀歌、または三人で帰ることが多かった。
 同じ妃同士。さらには、同居もしているのだから当然とも言えるのだが、結果、あずさと帰る機会はかなり減っていた。
 ただ、今日は、かなたは料理当番のため、先に帰宅。
 刀歌も用があるらしく、すでに下校していた。
 そこで、久しぶりにあずさと帰ることになったのだが、こんな顔をされては、不機嫌になるのも当然だろう。

「ごめん。最近ちょっと悩み事があって」

 あずさの手をやんわり外して、エルナが言う。
 あずさは「そうなの?」と小首を傾げた。

「杜ノ宮さんや、御影さんと上手くいってないの?」

 あずさは、二人がエルナと同じ隷主オーナーを持つ隷者ドナーであると知っていた。
 彼女とて引導師ボーダーの家系の少女だ。
 異性との《魂結びソウルスナッチ》がどういうことなのかぐらいは、当然ながら理解している。
 エルナにとって、あの二人は、言わば未来の家族なのだ。
 だからこそ、少し寂しいなと思いつつ、三人が一緒に下校する機会を作っていたのである。

「ううん」エルナはかぶりを振った。「かなたとも刀歌とも仲はいいわ」

「あ、そうなんだ」

 少しホッとした様子で呟くあずさ。
 エルナは「うん」と頷いた。

「けど、最近、別の問題が起きたの」

「別の問題って?」

 あずさが再び首を傾げた。

「最近、新しい隷者ドナーが同居することになったの」

「え? マジ?」

 あずさは目を剥いた。
 エルナは、こくんと頷いた。

「それも一気に二人もね。ねえ、あずさ。火緋神の双姫って知っている?」

「へ? 双姫って……」

 あごに指先を当てる。

「確か瑠璃城学園の子だよね。有名だよ。驚異の300超えの子たちだし……」

 と、呟いたところで、あずさはハッとする。

「もしかして、新しい子たちって……」

「……うん。そうなの」

「えええッ!?」

 あずさは、ギョッとした。思わず歩いていた足も止める。

「うわあ、無茶くちゃ有名人……って言うか、あの子たちってまだ小学生だったよね?」

 あずさは、青ざめた顔で尋ねる。

「マジで? エルナたちの隷主オーナーの人って歳いくつだっけ?」

「戸籍上は二十七だよ」

「マジで!? 思ったよりもおっさんだった!?」

「おっさん言うな」

 今度はエルナが青筋を立てて、あずさの両頬を抑える。

「そう呼ばれると、真刃さん、何気に傷つくのよ。顔には出さないけど。それに二十七ってあくまで戸籍上のことであって、猿忌の話だと、本当はもう少し若いそうだし」

 言って、あずさの頬を一度強く引っ張ってから、手を離す。

「……それでも、二十代半ばぐらいなんでしょ?」

「うん。多分」エルナが頷く。あずさは渋面を浮かべた。

魂力オドの平均も凄いけど、隷者ドナーの年齢の平均が低すぎるよ……。まるで意図的にそういった子を選んでいる――」

 そう呟きかけたところで、エルナを見やる。
 豊かな胸、引き締まった腰、黒いストッキングで覆われた美脚を持つ友人。
 自分とは比較にならないプロポーションである。次いで、かなたと刀歌のことも思い出す。刀歌はエルナにも匹敵するし、かなたもそう大きくは劣らない。
 三人とも、美貌、スタイル共に、十七、八と言われても信じてしまう容姿だった。
 自分の同年代の平均さえも下回る胸元に目を落として、むむっと唸る。

「……あなたたちを見る限り、その人って幼い子が好きって訳じゃないよね?」

「当然よ。失礼ね」

 エルナは、ブスッと告げる。

「燦と月子ちゃん……双姫の名前だけど、あの子たちはまだ第一段階でさえないわ。実際のところは、色々な事情から、真刃さんが預かっている子たちなの。隷者ドナーっていうのもただの偽装。だから、真刃さんのあの子たちの扱いも完全に子供に対するものよ。最近の真刃さん、日に日に保父さんみたいになってきてるし」

「あ、そうなんだ」

 あずさは、少しホッとした。
 しかし、エルナは未だ渋面のままだ。

「真刃さんの方はいいのよ。問題はあの子たちの方よ」

 エルナは嘆息した。

「あの子たちの方は本気なのよ。本気で真刃さんの隷者ドナーになる気。真刃さんに甘えているふりをして時折見せるあの子たちの表情と来たら……」

「……うわあ」

「だから、今は偽装でも、いずれは正式になる。それが私とかなたたちの見解よ。それはもう仕方がない。問題なのは――」

 エルナは「……むむむ」と唸った。

「あの子たちが強いってことよ! あの子たちだけじゃないわ! かなたにしたって、刀歌にしたって、私よりも強いのよ!」

 エルナは頭を抱えて、その場に座り込んだ、

「私、壱妃なのに! それに、私たちの中で最初に第一段階になったのって刀歌なのよ! その上、初めての第二段階エッチまで、このままだとかなたからになりそうだし!」

「え? なんで?」

 あずさは目を瞬かせた。

「杜ノ宮さんってその人のオキニなの? 最初に愛されるのが確定しているぐらいに?」

 というより、あなたたちってまだだったんだ……。
 と、小さな声で呟く。

「それにも色々と事情があるの!」

 再び立ち上がって、エルナは叫ぶ。

「確かに第二段階エッチはまだだけど、私とかなたと刀歌はもう確定だし! ただ、そうなってくると順番が納得いかないの! 年功序列反対っ!」

「……いや、何それ? 年功序列が何か関係するの?」

 あずさとしては、疑問符だけが浮かぶ。
 しかし、エルナには答える気はないようだ。

「とにかく、一番弱くて第一段階も第二段階も二番手なんて、もう壱妃の貫録もないわ」

「なかなか追い込まれてるわね。エルナ」

「だけど!」

 エルナは拳を固めた。

「このまま負けるつもりはないわ! 壱妃の座は絶対に死守する! 私は壱妃! 真刃さんに最も愛される妃なのよ!」

「おお~」

 パチパチと拍手するあずさ。

「けど、具体的にどうする気なの?」

「今週末、ちょっとした機会チャンスがあるのよ」

 エルナは言う。

「最近は同居人が増えたせいで、以前みたいに二人っきりになる機会がないんだけど、今週末を上手く利用すれば、その機会もあると思うの」

 グッと両の拳を胸の前で固めて。

「そうよ。一年も待つ必要なんてない。前倒しを期待するだけもダメ。前倒ししたいのなら自分から動かないと!」

 そして壱妃さまは、決意を口にする。

「私は壱妃だから! 誰よりも早く大人の階段を昇るのよ!」
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