骸鬼王と、幸福の花嫁たち【第5部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第5部

第四章 想い、数多➂

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 同時刻。
 参妃・御影刀歌は、とある店舗に訪れていた。
 ショッピングモールにて展開する、フォーマルなドレスから、最新のコーディネートに至るまでを網羅した有名なアパレルショップである。

『それじゃあ行こうか。刀歌ちゃん』

「う、うん。行くか」

 髪に結いだ白いリボンに宿る蝶花に促されて、刀歌は緊張した面持ちで店内に入った。

(うわあ)

 入店するなり、刀歌は息を呑んだ。
 室内には、様々な衣服が展示されていた。
 基本的に女性専用の店舗のため、マネキンが着る服は女性の物ばかりだ。
 無機質なマネキンではあるが、それを補うほどに綺麗な服が展示されている。
 刀歌は、目を瞬かせた。

「は、初めて来たが、本格的な衣服店とは、このようなモノなんだな」

『いや。刀歌ちゃんの歳で初めて来るってどうなの?』

 と、白いリボンが、小声でツッコミを入れる。

「し、仕方がないじゃないか」

 刀歌は、顔を赤くして言う。

「これまで私は服に興味がなかったんだ。適当に母が買ってきた物を着ていた。そもそも一日の半分は制服だし、家では道着を着ることが多かったし……」

『その上、刀歌ちゃん、部屋ではジャージだしね』

「……うう」

 刀歌は呻く。
 実は五人の妃たちの中でジャージ派はもう一人いた。かなたである。
 しかし、かなたは、エルナの根気ある教育で、今や脱ジャージ派となっていた。
 刀歌は、最後のジャージ派なのである。
 そして、今回、刀歌はドーンワールドに遊びに行くことになった。
 しかも、初日の夜は、ドレスコードのあるレストランで食事をするらしい。
 そのため、刀歌は急ぎフォーマルドレスを購入しに来たのである。

 遊びに行く服は、母が買ってくれた物から適当に見繕えばいい。
 しかし、彼女のフォーマルな服と言えば、今着ている制服しかないのだ。

「と、とにかく、とっとと決めてしまうぞ」

 どうにも場違いな感じがして、刀歌は早足で店内を進んだ。
 とりあえず、大人びた服が並ぶコーナーへと移動する。
 ゆったりとしたドレスから、かなり際どい物まで取り揃えたコーナーだ。
 が、そこで刀歌は固まってしまう。

「ど、どれを選べばいいんだろ?」

『あはは。分からないよね』

 蝶花が笑う。
 普段着さえ母任せだった刀歌だ。フォーマルなドレスなど判断が出来る訳もなかった。
 刀歌は、本当に困り果てた顔をした。

『私が選ぼうか?』

 と、蝶花が救いの手を差し伸べようとした時だった。

「お客さま。お洋服をお探しですか?」

 硬直する刀歌を見つけた女性店員が、声を掛けてきたのだ。
 二十代前半ほどの若い店員である。

「あ、はい。フォーマルな服を……」

 刀歌は、反射的に答える。

「フォーマルですか?」

 店員は反芻する。
 それから、失礼に当たらない程度の目配せで刀歌を見やる。

(うわあ、この子ってば凄い逸材だわ)

 キラリと眼差しを輝かせる。

(白い制服によく映える艶やかな黒髪。肌もきめ細かい。多分、スポーツもしているわね。引き締まった腰、お尻、美脚。この大きさで張りを維持するおっぱいも素晴らしいわ。読モレベルなんかじゃない。ガチモデルでも、ここまでの子はそうはいないんじゃないかしら?)

 脳内でそこまで瞬時に判断してから、

「もしかして、年上の彼氏とのデート用ですか?」

 と、鉄壁の営業スマイル。刀歌は顔を赤くした。

(ビンゴ。この制服、確かクレストフォルス校のよね。大人びた顔立ちとスタイルからして高等部の三年生。相手は大学生……いえ、社会人かしら?)

 フォーマルドレスを必要とするようなデートは、大学生の身では考えにくい。
 相手は、若くて二十代後半か。

(パパ活……じゃないわね。凄く真面目そうな子だし、デートを指摘されたぐらいで赤くなるような子だしね。そもそもフォーマルな服が必要なパパ活って何よ)

 と、自分の考えにツッコミを入れる店員。

「お食事のためでしょうか?」

 店員は、さらに探りを入れた。
 それに対し、刀歌は、

「は、はい」

 緊張した面持ちで頷いた。

「その、今週末、婚約者と、ドーンタワーで食事の予定です」

(――ドーンタワーですって!)

 店員は心の中で、クワッと目を見開いた。

(ドーンワールドにあるあの恋人の聖地で! しかも今時JKで婚約者ですって!)

 彼女は笑みだけは崩さず、思考を加速させる。

(これは冗談なんかじゃないわよね。この乙女の顔を見る限りは。相手はガチの婚約者か。親の都合なのか、それとも恋愛なのかまでは分からないけど、この子の想いはきっと本物だわ。しかも、この子ったら……)

 ――クワッッ!
 女性店員は、心の中で再び瞠目した。

(間違いなくまだ初めてね! ゆえに望みしは決戦兵装と見た!)

 そこまでの判断を一秒にも満たない時間で行う。

(乙女の決戦! これは手を貸さずにはいられないわ!)

 そんな思考はおくびにも出さず、店員は手を向けた。

「では、あちらへどうぞ。お客さまによく似合うドレスをご用意させていただきます」

「え? あ、はい」

 服に関してはド素人の刀歌は、促されるまま、コクコクと頷いた。
 そうして刀歌は、様々なドレスを勧められた。
 色や素材も多種多様であったが、基本的には露出の多いドレスだった。肩や胸元、または背中など。それらが大きく開けたドレスが多かった。
 普段ここまで露出のすることない刀歌は、どの服でも顔を真っ赤にした。

 が、途中から路線が、どんどんおかしな方向へと進んでいく。
 三十分後、何故か刀歌はゴシックロリータのドレスを着込んでいた。

「え、えっと、店員さん?」

 流石に、刀歌も顔を引きつらせると、

「あ。申し訳ありません。少し私の趣味が入ってしまいました」

 深々と頭を下げる女性店員。
 いささか、彼女も暴走してしまったようだ。

「あまりこういった服は……それに肩とか背中が露出するのも……」

「……そうですか。でしたら、こういった品はいかがでしょう」

 そう告げて、店員は店の奥から、とある一品を持ってきた。
 雪のように真っ白な服である。襟元や袖には金の縁取り。生地には、同じく金糸で何かの刺繍も施されている。手に取っただけで上質なのが分かる服だ。
 しかし、これは――。

「え? これってフォーマルな服になるのか?」

「充分になります」

 女性店員は、そう言い切った。
 刀歌は、服を両手で掴んだまま、目を瞬かせる。

「け、けど、公の場でこの服を着ている人は、SNSやテレビでもあまり見ないのだが? むしろ、これは別のイベントで……」

「フォーマルと言ったら、フォーマルなのです」

 女性店員は揺るがない。

「と言うよりも、ドレスコードがあるといっても、ドーンタワーの敷居は、相当に緩いですから。それでも充分ですよ」

「そ、そうなのか?」

「はい」

 女性店員は、ニコリと笑った。

「それに、その服は意外と需要が高いのです」

「需要が高い?」

 刀歌は眉をひそめた。
 すると、女性店員は「少々失礼します」と告げて、刀歌の耳元に顔を近づけた。

「男性の需要が高いのよ」

 小声でそう告げる。

「え?」

「ダメよ」女性店員は悪戯っぽく笑う。

「食事にだけかまけてちゃダメ。ちゃんとその後のことも考えなきゃ」

「…………え?」

 刀歌は目を瞠って、女性店員を見やる。
 数秒後、ボンと顔を赤くした。

「今ならお安くしておきます。まずはご試着されてはいかかでしょうか?」

 顔を離して、女性店員がそう尋ねる。
 刀歌は、唇をパクパクと動かした。
 そのまま、ふらふらと更衣室へと入った。
 そうして十分後。

「こ、購入、お願いします」

 刀歌は、決戦兵装を入手した。
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