骸鬼王と、幸福の花嫁たち【第5部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第5部

第五章 暁の世界①

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 ――『暁の世界ドーンワールド』。
 それは、人工島を丸ごと利用した、国内最大とも呼ばれる大レジャーランドだ。

 浮島のように海に囲まれた中央にそびえ立つ『暁の塔ドーンタワー』。
 そこから扇状に広がる三つの『王国キングダム』。
 最も広く、様々な屋外アトラクションや、個性的で愉快なキャラクターたちの大行進イベントや、彼らとの交流を売りにした『太陽の国サンシャイン』。
 経営時間を夜に限定し、ホラー系のアトラクションやイベントを主力にしつつ、国内外でも最大級の大観覧車や、星が瞬くような夜景の美しさが際立つ『夜の国ミッドナイト』。
 そして、広大な人工島の一角を、巨大なドームで覆って建設された屋外プールや温泉スパを用いた大規模なウォータースライダーなどの施設が充実した『海の国アクアブルー』。

 ドーンタワー及び、各王国にはブリッジのみで行き交うことが可能だった。
 各王国は、それぞれが大規模のため、一国でも一日で回り切るのは難しいと言われている。
 それが、ドーンワールドの全容だった。
 その暁の世界に今、長大なブリッジを渡って一台のリムジンが入ろうとしてた――。



「皆さま。もうじき、ドーンタワーに到着いたします」

 リムジンを運転する山岡がそう告げる。
 全員の視線が、運転席に集まった。
 この豪勢なリムジンは、火緋神家の所有物だった。
 今回のために、山岡が用意したのである。
 箱型に設置されたソファのようなシートには、六人の人物が座っている。
 右側にエルナ、かなた、刀歌。左側に燦と月子。
 そして後方側に、真刃と、宙に浮かぶ猿忌の姿があった。
 席取りからして、相も変わらず対立しているエルナたちだが、今は近くの車窓に目をやり、瞳を輝かせている。かなたでさえ興味深そうな眼差しを見せていた。

(……ふむ)

 真刃も、車窓へと目をやった。
 この道はドーンタワーへと繋がるブリッジだ。そのため、角度的にドーンタワー自体は視界に入らないが、海を挟んで、各王国の光景は確認できた。

(あれが、レジャーランドというものか)

 双眸を細める。
 遠目に見えるのは、巨大な大観覧車だった。
 その姿は、まるで天地に出現した真紅の大車輪。
 真刃が生まれた時代では、考えられない規模の建造物である。
 しかも、あれほどの建造物の目的が、ただの娯楽のためだという。

「……凄いものだな」

 思わず感嘆の声が零れ落ちた。
 改めて、人の技術の進化と、時代の流れを強く感じた。

『うむ。確かにそうだな』

 同じ時代を過ごした猿忌も同意する。
 と、その時だった。

「おっじさん!」

 遊ぶ気満々のホットパンツ姿の燦が、真刃の膝の上に飛び込んできた。
 次いで、キラキラした眼差しで真刃の顔を見上げた。

「ねえ! 今日はどこに行くの!」

「どこへ? ああ、そうか」

 燦の問いかけに、真刃は双眸を細めた。

「三つの国のことか。どれに行くかという話だな」

 ドーンワールドにある、三つの王国。
 一つだけでも一日では回り切れない規模だと聞く。
 そして、今回滞在するのは、今日と明日の二日だけである。
 ならば、どれか一つを選択しなければならない。

「……どさくさに紛れて、真刃さんに飛びつかないの」

 そう言って、燦の頭を両手で抱えて引き剥がしたのは、エルナだった。
 燦は「離せ! おばさん!」と叫んでいた。
 ふと、真刃は気付く。
 どうも最近、エルナは自分のことを「お師さま」と呼ばなくなった。
 戦闘中や訓練中に、たまに呼ぶ程度である。 
 ……これは、やはり隷者れいじゃにしたことが影響しているのだろうか。
 そんなことを考えながら、真刃は嘆息し、

「お前たちで決めればよい」

 そう告げる。
 エルナと燦のみならず、かなたたちも真刃に目を向けた。

「今回はお前たちの親睦会だ。オレはお前たちの望みに従おう」

「……えっと」

 月子が、運転席に目をやった。

「山岡さんも、それでいいんですか?」

「月子君。私に気遣いは不要ですよ」

 月子の養父でもある山岡が言う。

「久遠さまも仰られる通り、今回はおひいさまがたが主役なのです。私も、久遠さまよりおいとまを頂いております。この二日はドーンタワーにて過ごす予定です」

 一拍おいて、

「私のことはお気になさらずに。皆さまは存分にお楽しみください」

 そう告げられ、燦たちは顔を見合わせた。
 三つの王国。
 時刻はまだ朝の八時過ぎだ。夜間営業が基本である夜の国ミッドナイトは除外される。
 そのため、選択肢としては二つだ。太陽の国サンシャインか、海の国アクアブルーである。
 お妃たちは、互いに目配せした。
 特に言葉は発さない。
 ただ、それでも、互いにすべてを承知したかのように頷いた。
 エルナ、かなた、刀歌の三人はもちろん、おずおずとだが、月子も頷いていた。

 そんな中、燦だけが青ざめていた。
 刹那の意志の共有に一人だけ取り残された訳ではない。
 状況をきちんと理解した上で青ざめたのだ。

「――太陽のサンシャ……」

「「「「海の国アクアブルーで」」」」

 先手を打とうとした燦の声を、全員が押し潰した。
 燦は「むぐうッ!」と唸った。

「つ、月子ォ……」

「ご、ごめん。燦ちゃん……」

 親友にまで裏切られて、燦は涙目だ。
 太陽の国サンシャインと、海の国アクアブルー
 どちらも人気のある施設だが、その二つには大きな違いがあった。
 太陽の国サンシャインは、印象としては王道スタイルの大規模遊園地だ。親子連れも多い。
 対する海の国アクアブルー。このエリアは、ドーム内にある温水プールをメインにしたアトラクションがほとんどだ。簡単に言えば、屋内型のウォーターランドといった趣である。
 そして、ここで着目すべき相違点は、その特色ゆえに、海の国アクアブルーの来客のほとんどは水着・・でいることが多いということだった。

(……むむむっ!)

 内心で呻く燦。
 別に、彼女が水着を持ってきていない訳ではない。
 当然、このケースも想定している。可愛い物を用意してきた。
 ただ、あのエリアは、圧倒的に不利なのである。とんでもなく敵地アウェイなのだ。
 ――そう。親友も含めて、このメンバーの中に混じるということは……。

「決まったみたいね」「はい」「うん。そうだな」

 と、頷くエルナたち三人。

「燦ちゃん、ごめん、ごめェん……」

 月子が、両手を重ねて謝っていた。
 自分たちの武器の真価を、正確に把握するお妃さまたちだった。
 四対一。さしもの燦にも勝ち目はなかった。

「うえええんっ! おじさああんっ!」

 それでも、嘆くどさくさに紛れて、真刃の膝の上で馬乗りになる燦。

「おばさんたちと、月子がいじわるだ!」

「……いや。言っている意味が分からんのだが?」

 困惑しつつも、真刃は、くしゃりと燦の前髪を優しく撫でた。

「えへへ」

 燦は嬉しそうに笑うと、真刃の首筋に両腕を回した。
 額に青筋を浮かべるエルナたち。
 すると、燦は顔だけを向けて「べえ」と小さく舌を出した。
 転んでもただでは起きないらしい。

 ともあれ。
 目的地は、海の国アクアブルーに決まったのであった。

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