180 / 205
第5部
第五章 暁の世界②
しおりを挟む
「よっしゃあ! 来たぜ! ドーンワールド!」
場所は変わって、セントラルホテル・『ドーンタワー』。
その九階にある一室で、金堂剛人は吠えた。
「う~ん。確かに来れたけど……」
同行者である御影刀真は、自分の荷物を二つあるベッドの一つに置いた。
「よく、ドーンワールドのチケットなんか取れたよね」
ドーンワールドは、超人気スポットだ。
ましてや週末の三連休。刀真もネットで調べてみたが、ドーンタワーの予約はおろか、入場のチケットさえ完売状態だった。
「まあ、ちょいと叔父貴の力を借りてさ」
剛人は言う。
彼の叔父……血縁的にはもう少し離れているのだが、かの黒鉄グループの重役だった。
その伝手を使えば、チケットの入手は、さほど難しくはなかった。
『惚れた女のためなんだろ? いいぜ。おいちゃんに任せときな』
剛人の叔父はそう言って、協力してくれた。
チケットはおろか、ドーンタワーの宿泊予約まで手を回してくれたのである。
「叔父貴には世話になってばかりだ」
剛人は叔父に心から感謝する。
「それで刀真」
剛人も、自分の荷物をベッドの上に置いて尋ねる。
「刀歌の状況はどうだ? どの国に行くつもりなのかって分かるか?」
「あ、うん。待って」
刀真は、スマホを取り出して姉にチャットを送る。
返信はすぐに来た。
「……海の国だって」
「……やっぱ、そうかよ」
神妙な顔で、剛人は自分のあごに手をやった。
「剛人兄さん?」
刀真は、不思議そうに目を瞬かせた。
「やっぱりって、姉さまがどの国に行くかって分かってたの?」
「……ああ。簡単な推測さ」
剛人は語る。
「マジで簡単な推測だぜ。考えてもみろ。相手は、JCと決闘して隷者にするようなオッサンだぞ。間違いなくスケベなゲス野郎だ。そして海の国」
ググっと拳を固める。
「ほぼ、すべての人間が水着になるあのエリア。あのスケベ野郎は、水着姿の刀歌を侍らせて悦に入る気なんだよ」
「……無茶くちゃ悪意っていうか敵意があるよね。剛人兄さん」
「――当然だろッ!」
剛人は、右腕を薙いだ。
「あの野郎は他にも二人、刀歌の同級生を隷者にしてるそうじゃねえか!」
「う、うん。姉さまはそう言ってたけど……」
「JCを三人も隷者にするようなオッサンだぞ! 社会的に抹殺すべき野郎だッ!」
と、宣告する。
鼻息もかなり荒かった。
(……剛人兄さん……)
刀真は、何とも言えない顔をした。
まあ、兄貴分の気持ちも分からなくもない。
しかし、一般社会ならば、確かに抹殺すべき案件ではあるが、引導師の世界では、十五、六でも隷主や隷者になっている者も少なからずいるのだ。
その世代が通う各校自体が《魂結び》を推奨しているのだから必然だろう。
それは、まだ八歳である刀真でさえ知っている事実だった。
(……兄さんの気持ちも分かるけど……)
こればかりは、難しい問題だと思う。
なにせ、隷者の数は、生存率にも直結する話なのである。
本人同士が互いに承知しているのならば、引導師の世界では、これぐらいの年齢差は黙認されているのが現状だった。
(……抹殺はきっと無理だよ。だけど)
刀真は、眉をひそめた。
(あの姉さまが、他の隷者まで認めているなんて……)
この事実には、刀真も相当に驚いていた。
あの真っ向から《魂結び》を全否定していた姉が一転、そこまで認めるとは……。
(一体、何があったの? 姉さま)
刀真は、小さな拳を固めた。
兄貴分ほどではないが、刀真にも思うところがあった。
(……もしかしたら、あの動画も……)
ここ二ヶ月ほどの姉とのやり取りも、すべて演技だったのではないのだろうか?
本当は、姉の心はこの事態に納得していない。
敗北した事実と、《制約》によって、ただただ服従させられている。
あの動画も、男性の命令で姉が演じているだけなのでは――。
その考えが、どうしても頭の隅にあった。
(それを確認しないと)
そのために、刀真もこの場所に来たのだ。
「とにかくだ!」
剛人が叫ぶ。
「俺たちも海の国に行くぞ!」
「うん」
刀真は頷く。
「分かった。すぐに準備するね」
「おう! あのオッサンの化けの皮を剥がしてやるぜ! そんで!」
一拍おいて、拳を突き上げる。
「刀歌の水着姿を! この網膜に焼き付ける! もちろん映像にもな!」
ギランッと眼光を輝かせる剛人。
刀真は、ジト目になって「……いや、剛人兄さん」と呟いた。
こうして。
少年二人も、戦場に到着したのであった。
そして――……。
ほぼ同時刻。
ドーンタワーの一階。エントランスホールにて。
「やあやあ、みんな」
サングラスをかけた篠宮瑞希が、気安げに声を掛けた。
トランスケースを片手に持った、どこから見ても女子大生の趣だ。
そのグループは、彼女に視線を向けた。
人数は、瑞希を除いて八人。
男性が五人。女性が三人である。若いメンバーだ。
一見だけならば、大学の友人同士か、それともサークルメンバーか。
服装からして、そういった雰囲気のグループである。
だが、その中には、扇蒼火や宝条志乃の姿もあった。
「遅くなっちゃったかな?」
サングラスをずらして、瑞希が言う。
蒼火は「ふん」と、鼻を鳴らした。
「お前が遅刻の常習犯なのは今更だ」
「あはは。ごめんって」
瑞希が、両手を重ねて謝る。
「けど、僕も含めて九人か。この数のチケットをよく集められたね」
「蛇の道は蛇だ」
蒼火は言う。
「いささか強引な手も使わせてもらった」
「おお~、怖いねえ」
瑞希が笑う。
が、すぐに目を細めて。
「けど、ありがたいよ。人手は出来るだけ欲しいしね。さて」
瑞希は告げた。
「早速、作戦会議と行こうか」
場所は変わって、セントラルホテル・『ドーンタワー』。
その九階にある一室で、金堂剛人は吠えた。
「う~ん。確かに来れたけど……」
同行者である御影刀真は、自分の荷物を二つあるベッドの一つに置いた。
「よく、ドーンワールドのチケットなんか取れたよね」
ドーンワールドは、超人気スポットだ。
ましてや週末の三連休。刀真もネットで調べてみたが、ドーンタワーの予約はおろか、入場のチケットさえ完売状態だった。
「まあ、ちょいと叔父貴の力を借りてさ」
剛人は言う。
彼の叔父……血縁的にはもう少し離れているのだが、かの黒鉄グループの重役だった。
その伝手を使えば、チケットの入手は、さほど難しくはなかった。
『惚れた女のためなんだろ? いいぜ。おいちゃんに任せときな』
剛人の叔父はそう言って、協力してくれた。
チケットはおろか、ドーンタワーの宿泊予約まで手を回してくれたのである。
「叔父貴には世話になってばかりだ」
剛人は叔父に心から感謝する。
「それで刀真」
剛人も、自分の荷物をベッドの上に置いて尋ねる。
「刀歌の状況はどうだ? どの国に行くつもりなのかって分かるか?」
「あ、うん。待って」
刀真は、スマホを取り出して姉にチャットを送る。
返信はすぐに来た。
「……海の国だって」
「……やっぱ、そうかよ」
神妙な顔で、剛人は自分のあごに手をやった。
「剛人兄さん?」
刀真は、不思議そうに目を瞬かせた。
「やっぱりって、姉さまがどの国に行くかって分かってたの?」
「……ああ。簡単な推測さ」
剛人は語る。
「マジで簡単な推測だぜ。考えてもみろ。相手は、JCと決闘して隷者にするようなオッサンだぞ。間違いなくスケベなゲス野郎だ。そして海の国」
ググっと拳を固める。
「ほぼ、すべての人間が水着になるあのエリア。あのスケベ野郎は、水着姿の刀歌を侍らせて悦に入る気なんだよ」
「……無茶くちゃ悪意っていうか敵意があるよね。剛人兄さん」
「――当然だろッ!」
剛人は、右腕を薙いだ。
「あの野郎は他にも二人、刀歌の同級生を隷者にしてるそうじゃねえか!」
「う、うん。姉さまはそう言ってたけど……」
「JCを三人も隷者にするようなオッサンだぞ! 社会的に抹殺すべき野郎だッ!」
と、宣告する。
鼻息もかなり荒かった。
(……剛人兄さん……)
刀真は、何とも言えない顔をした。
まあ、兄貴分の気持ちも分からなくもない。
しかし、一般社会ならば、確かに抹殺すべき案件ではあるが、引導師の世界では、十五、六でも隷主や隷者になっている者も少なからずいるのだ。
その世代が通う各校自体が《魂結び》を推奨しているのだから必然だろう。
それは、まだ八歳である刀真でさえ知っている事実だった。
(……兄さんの気持ちも分かるけど……)
こればかりは、難しい問題だと思う。
なにせ、隷者の数は、生存率にも直結する話なのである。
本人同士が互いに承知しているのならば、引導師の世界では、これぐらいの年齢差は黙認されているのが現状だった。
(……抹殺はきっと無理だよ。だけど)
刀真は、眉をひそめた。
(あの姉さまが、他の隷者まで認めているなんて……)
この事実には、刀真も相当に驚いていた。
あの真っ向から《魂結び》を全否定していた姉が一転、そこまで認めるとは……。
(一体、何があったの? 姉さま)
刀真は、小さな拳を固めた。
兄貴分ほどではないが、刀真にも思うところがあった。
(……もしかしたら、あの動画も……)
ここ二ヶ月ほどの姉とのやり取りも、すべて演技だったのではないのだろうか?
本当は、姉の心はこの事態に納得していない。
敗北した事実と、《制約》によって、ただただ服従させられている。
あの動画も、男性の命令で姉が演じているだけなのでは――。
その考えが、どうしても頭の隅にあった。
(それを確認しないと)
そのために、刀真もこの場所に来たのだ。
「とにかくだ!」
剛人が叫ぶ。
「俺たちも海の国に行くぞ!」
「うん」
刀真は頷く。
「分かった。すぐに準備するね」
「おう! あのオッサンの化けの皮を剥がしてやるぜ! そんで!」
一拍おいて、拳を突き上げる。
「刀歌の水着姿を! この網膜に焼き付ける! もちろん映像にもな!」
ギランッと眼光を輝かせる剛人。
刀真は、ジト目になって「……いや、剛人兄さん」と呟いた。
こうして。
少年二人も、戦場に到着したのであった。
そして――……。
ほぼ同時刻。
ドーンタワーの一階。エントランスホールにて。
「やあやあ、みんな」
サングラスをかけた篠宮瑞希が、気安げに声を掛けた。
トランスケースを片手に持った、どこから見ても女子大生の趣だ。
そのグループは、彼女に視線を向けた。
人数は、瑞希を除いて八人。
男性が五人。女性が三人である。若いメンバーだ。
一見だけならば、大学の友人同士か、それともサークルメンバーか。
服装からして、そういった雰囲気のグループである。
だが、その中には、扇蒼火や宝条志乃の姿もあった。
「遅くなっちゃったかな?」
サングラスをずらして、瑞希が言う。
蒼火は「ふん」と、鼻を鳴らした。
「お前が遅刻の常習犯なのは今更だ」
「あはは。ごめんって」
瑞希が、両手を重ねて謝る。
「けど、僕も含めて九人か。この数のチケットをよく集められたね」
「蛇の道は蛇だ」
蒼火は言う。
「いささか強引な手も使わせてもらった」
「おお~、怖いねえ」
瑞希が笑う。
が、すぐに目を細めて。
「けど、ありがたいよ。人手は出来るだけ欲しいしね。さて」
瑞希は告げた。
「早速、作戦会議と行こうか」
0
あなたにおすすめの小説
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
転職したら陰陽師になりました。〜チートな私は最強の式神を手に入れる!〜
万実
キャラ文芸
う、嘘でしょ。
こんな生き物が、こんな街の真ん中に居ていいの?!
私の目の前に現れたのは二本の角を持つ鬼だった。
バイトを首になった私、雪村深月は新たに見つけた職場『赤星探偵事務所』で面接の約束を取り付ける。
その帰り道に、とんでもない事件に巻き込まれた。
鬼が現れ戦う羽目に。
事務所の職員の拓斗に助けられ、鬼を倒したものの、この人なんであんな怖いのと普通に戦ってんの?
この事務所、表向きは『赤星探偵事務所』で、その実態は『赤星陰陽師事務所』だったことが判明し、私は慄いた。
鬼と戦うなんて絶対にイヤ!怖くて死んじゃいます!
一度は辞めようと思ったその仕事だけど、超絶イケメンの所長が現れ、ミーハーな私は彼につられて働くことに。
はじめは石を投げることしかできなかった私だけど、式神を手に入れ、徐々に陰陽師としての才能が開花していく。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる