悪竜の騎士とゴーレム姫【第12部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第9部

第一章 こっそり隠れてネコを飼う③

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(リノ、大人しくしてくれてるかな?)


 コウタは急いでいた。
 手には、パン等を入れたバスケットを手にしている。
 リノのための朝食だ。
 厨房に寄って、メイドさんに用意して貰ったのである。
 そのため、予定よりかなり遅れてしまった。
 飽きっぽい彼女が、いつまでも部屋にいてくれる保証などない。

 コウタは、さらに急いだ。
 ただ、この時間差のおかげで、リノとコウタの両方が部屋に不在だった時間が生まれ、部屋に訪れたメルティア達の調査を一旦回避できたのだが、それは、コウタには知る由もないことだった。
 ともあれ、コウタは部屋に到着した。
 周囲に目をやって人がいないことが確認してから、ノックする。


「ボクだよ。リノ」


 そう声をかけると、「うむ。入ってよいぞ」と声が返ってきた。
 リノの声だ。
 居てくれた事にホッとしつつ、コウタはドアを開いた。
 続けて、中に入る。
 部屋の様子は出た時と、ほとんど変わっていない。出かけた時は比較的に上機嫌だったリノが、今は不機嫌そうに、ソファーに座っていること以外は。


「ごめん。やっぱり待たせた?」


 待ちくたびれて不機嫌になった。
 コウタはそう思ったが、リノは「いや」とかぶりを振った。


「そのことでは怒っておらん」


 そう言って、リノはソファーの上で足を組んだ。
 やはり、仕草一つ取って妖艶さがある。
 コウタとて男などで一瞬ドキッとするが、美貌においては彼の幼馴染も負けていない。メルティアで散々耐性をつけたコウタは、すぐに平常心を取り戻す。


「何かあったの?」


 彼女の傍に近づきつつ、首を傾げて尋ねると、


「……コウタよ」


 リノは、渋面を浮かべて問うた。


「わらわは、おっさんに見えるのかの?」

「……へ?」


 ソファーの傍のテーブルにバスケットを置き、コウタはキョトンした顔をした。


「え? 何の話?」

「いや、うむう」


 リノは、言葉に迷っているようだ。
 コウタは再び首を傾げた。


「よく分からないけど、リノがおじさんに見える訳ないじゃないか」

「……うむ。そうじゃな」


 意外と気にしているリノだった。
 しかし、少し暗かった表情もそこまでた。
 コウタの言葉に、ぱあっと笑顔を輝かせる。


「それよりも腹が減ったぞ! コウタ!」

「うん。食事にしよう」


 コウタは頷くと、リノの隣に座った。
 そして、バスケットの中の物を取り出す。
 焼きたてのパンに、紅茶の入った魔法瓶だ。
 ティーカップのセットもある。
 コウタは、リノのために紅茶をティーカップに注いだ。
 リノは注がれた紅茶を手に取り、香りを堪能する。


「ふむ。良い香りじゃ」


 笑みを零す。


「上質な逸品じゃな。流石は王城の茶といったところかの」

「はは。そうだね」


 コウタは、苦笑いする。
 コウタには、紅茶の香りの味の違いはそこまで分からない。


「ともあれ、召し上がれ」


 コウタはそう告げた。
 対し、リノは「うむ! そうじゃな!」と笑顔を見せる。
 そして紅茶をテーブルに置くと、


「それでは食べさせてくれ」


 言って、小さな口をコウタに向けて開けた。


「……え」


 コウタの目が点になる。


「何だかんだで待ったからの。この程度の我儘はよかろう」

「え? リ、リノ?」


 コウタは困惑するが、リノは、それ以上は喋らない。
 ただ、口を開けてコウタの動きを待っている。


(う、う~ん)


 コウタは少し迷ったが、リノを待たせたのは確かな事実であり、こういった事は幼馴染でなれている。


「分かったよ」


 そう言ってパンを千切り、彼女の口に持っていった。
 リノはモグモグと口を動かして咀嚼する。
 そして、すぐに口を開いた。
 コウタは再びパンを彼女に食べさせる。それを繰り返した。
 何というか、まるで子猫に餌を上げている気分だ。


(こういうところも、リノってメルに似ているんだよな)


 ついリノに甘くなるのも、それが多少なりとも影響しているのかもしれない。
 ともあれ、十分もしない内に食事は終えた。
 リノは満足げに笑うと、紅茶で喉を潤していた。
 コウタは、しばし彼女の横顔を見ていたが、


「ところでさ。リノ」


 コウタは話題を切り出した。
 ある意味、昨日から聞こうと思っていた本題だ。


「どうしてリノがこの国にいるの?」


 再会できたことは嬉しい。
 しかし、どうして彼女がこの国にいるのか分からない。
 すると、リノは、にぱっと笑って。


「そんなもの、コウタがここにおるからに決まっておろう」

「う、うん。まあ、そうなんだろうけど……」


 アティス王国は小国だ。
 しかも、セラ大陸から遠い異国である。
 わざわざ《黒陽社》の大幹部が、足を運ぶ地とは思えない。


「まあ、実際のところ、今のわらわは休暇中での。コウタがこの国にいると聞いて来たという訳じゃな」

「そ、そうなんだ」


 コウタは生返事をする。
 犯罪組織と言っても一応は企業ということか。休暇は存在するらしい。


「それに、この国にはもう一つ来なければならない理由があったからの」

「え? もう一つの理由」


 コウタが眉根を寄せる。と、


「わらわがこの国に来たもう一つの理由は」


 一拍おいて、彼女は満面の笑みと共に宣言した。


「コウタの兄上にお会いするためなのじゃ!」


 一拍の間。


「…………え」


 コウタは、茫然とした。
 対し、リノは妖艶に笑う。


「《双金葬守》アッシュ=クライン。かの最強の《七星》の名を、わらわが知らぬとでも思っておるのか?」

「え、いや」


 コウタは、言葉を詰まらせる。
 確かに、兄は《七星》の一人だ。彼らに相対すると言われる《九妖星》の一人であるリノなら、当然、その名前は知っているだろうが……。


「けど、ちょっと待って! じゃあ、リノって兄さんに会いに来たの!?」

「うむ! その通りじゃ!」


 そして、リノは当然のように告げるのであった。


「わらわはコウタの正妻じゃからな、義兄上にご挨拶するのは当然であろう!」
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