悪竜の騎士とゴーレム姫【第12部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第11部

第一章 交流会、来たる②

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「いよいよ、交流会がやってきたな」

 放課後。教室にて。
 そう告げたのは大柄な少年、ジェイク=オルバンだった。

「うん。そうだね」

 席に座ったまま、コウタが頷く。
 今、そこには、ジェイクとリーゼの姿があった。
 他にも数人、クラスメートたちが集まって談笑に興じている。
 話の内容は、やはり交流会に関してだった。
 特にやって来るのが、皇国の貴族――ご令嬢ということで、男子生徒たちの興奮は相当なものだった。何気にこのクラスは深窓のご令嬢に憧れている少年が多いのだ。
 なにせ、彼らは騎士を目指す少年たち。
 本能的に、守ってあげたくなるようなご令嬢やお姫さまが好みなのである。

「皇国のご令嬢たちだぜ! どんな娘たちなのかな!」

「やっぱ、お淑やかなんだろうなあ……」

 と、妄想を膨らませている。
 そんな彼らに、リーゼは嘆息した。

「相手は皇国の貴族の子弟。紳士淑女であるのは確かでしょうが、彼らも騎士学校に通う者たちですのよ。当然、武芸にも精通していると思うのですが……」

「まあ、そうだろうな」

 リーゼの指摘に、ジェイクは苦笑を浮かべた。
 それから、盛り上がるクラスメートたちを一瞥し、

「けど、あいつらは、深窓のご令嬢ってやつに夢見てんだよ。なにせ、このクラスのご令嬢たちと言えば……」

 大仰に肩を竦める。

「普通に強いもんな。性格もノリはいいけど、どちらかといえば勝気な奴が多いし。守って上げたくなるタイプなんて一人もいねえ。あえて挙げるならお嬢だが……」

 ジェイクは再び苦笑を浮かべて、リーゼを見据えた。
 清楚な仕草に、華奢な肢体。気品に溢れるオーラ。
 今も、ただ立っているだけで、とても画になっている。
 ご令嬢と言えば、まさに彼女こそがそうだった。
 しかし、

「お嬢に至っては、女子たちの中で最強だしな。つうか、全学年の男子も含めて、コウタ以外じゃあ誰も勝てねえし」

「当然ですわ」

 リーゼは自分の胸に手を添えて、誇らしげに告げる。

「わたくしはレイハート家の者。淑女としての教養はもちろん、武芸においても幼少時より鍛え上げております」

「あはは、リーゼは本当に強いからね」

 コウタが朗らかに笑った。

「ボクが知る女の子の中だと、『彼女』の次に強いよ」

「……ム」

 リーゼは少し頬を膨らませた。

「お待ちくださいませ。それは、たとえコウタさまのお言葉であっても聞き捨てなりませんわ。『彼女』が強いことは承知していますが、そもそも、わたくしは一度も『彼女』と仕合っていません。勝負は分からないはずですわ」

「いやいや、お嬢」

 リーゼの言葉に、ジェイクはパタパタと手を振った。

「コウタの言う『彼女』って、あの《妖星》の嬢ちゃんのことだろ? あの牛野郎と同格なんだぜ。流石に勝つのは無理だろ」

「……ムムム」

 リーゼは、ますます頬を膨らませた。

「まあ、『彼女』はちょっと特殊だからね。けど、あくまで力量だけの話だし、状況次第なら、まるっきりリーゼが勝てないってことじゃないとは思うけど……」

 と、コウタがフォローを入れつつ、室内を見渡した。

「行くぜ! 今度こそ!」

「おう! お近づきなるぜ!」

「ご令嬢! ご令嬢! ご令嬢!」

 クラスメート――特に男子たちは、相当に白熱しているようだ。
 コウタは首を傾げた。

「なんか、みんな興奮しすぎな気がしない?」

「そりゃあそうだろう」

 ジェイクが、ポリポリと頬をかいて告げる。

「あいつらには、トラウマがあるからな。病弱な深窓のご令嬢と期待していたところに、あの『剛令嬢』の登場っていうトラウマがな」

 それは、初めてコウタの幼馴染――アシュレイ公爵家のご令嬢、メルティア=アシュレイが登校してきた日のことだ。
 登場した全身鎧の巨人のようなご令嬢に、男子たちは愕然としたものだ。
 それは、豪胆で知られるジェイクも例外ではなかった。

「いやいや。何さ、それ」

 しかし、それに対し、コウタは納得いかない。
 ムッとした表情を見せた。

「メルは病弱じゃないけど、間違いなく深窓のご令嬢だよ。運動神経はいいけど、喧嘩なんかは苦手だし、臆病で凄く守って上げたくなる子なんだよ」

 と、少し惚気ているような台詞を返す。
 隣で、リーゼが「むむ」と、唸っていることには気付いていない。
 そんな二人に、ジェイクは苦笑いを浮かべつつ、

「そりゃあ、コウタは、メル嬢の本当の姿を知っているから言える台詞だろ。校内でのメル嬢は、オレっちよりもガタイのいいご令嬢なんだぜ。流石に『深窓』なんて言葉は出てこねえよ。まあ、本来のメル嬢を言い表すなら――」

 ジェイクは、あごに手をやって呟く。

「深い層って書いて……『深層』のご令嬢ってとこか」

「あら。お上手なことを仰いますわね」

 リーゼが少し感心するように、ポンと手を叩いた。
 対し、コウタは何とも言えない渋面を浮かべた。

「……確かに上手いや」

 と、認めつつ、コウタは席から立ち上がった。
 次いで、机の中から必要な物を取り出して、腰の白布に収納する。

「あら。コウタさま。もう帰り支度ですの?」

 リーゼが残念そうにそう告げると、

「うん。ごめん。ちょっと彼女のことが心配になってきて」

 コウタは、すまなさそうにそう告げた。

「おう。そっか」

 ジェイクが教室の後ろにある巨大な机と椅子に目をやった。

「確かに今日も来なかったしな」

「うん。また少しぶり返しちゃってさ」

 コウタは小さく嘆息した。
 彼の愛しいお姫さまは、今日もあの館で引き籠り中だった。
 一度、引き籠りがぶり返すと、彼女は中々出てきてくれないのだ。
 それが、すでに三日も続いている。

「ご当主さまも心配されているし、交流会も近いし、そろそろ復帰させないと。交流会にはアルフも来るだろうし」

 そうして、コウタは自嘲気味な笑みで答えるのだった。

「ちょっと、『深層』にまで行ってくるよ」
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