悪竜の騎士とゴーレム姫【第12部まで公開】

雨宮ソウスケ

文字の大きさ
367 / 399
第12部

プロローグ

しおりを挟む
 その日。
 アルフレッド=ハウルは、帰宅が少し遅かった。
 いささか、騎士団の会議が長引いたのだ。

 ハウル邸のエントランス。黒い騎士服を着たアルフレッドは、《七星》の紋章が描かれたサーコートを出迎えた執事に渡した。

「お爺さまは?」

「今夜は会談にお出かけになられております」

 アルフレッドの問いかけに、執事が恭しく答える。
 アルフレッドは「そうか」と呟いて、自室に行こうとする。と、

「アルフレッドさま」

 執事に呼び止められた。
 アルフレッドは振り向いた。

「? どうかした?」

「は。実はお客さまが来ておられます」

「客? お爺さまの?」

「いえ。アルフレッドさまのご友人です」

「僕の?」

 目を瞬かせるアルフレッド。
 それは非常に珍しい。
 こういっては悲しくなるが、アルフレッドに友人は少ない。
 学生時代には少しいたが、騎士となってからは彼らとも交流はほとんどない。

「同僚じゃなくて、友人なのか?」

 自分でも悲しくなる確認をする。
 執事は「はい」と頷いた。

「応接室にて、お待ちしておられます」

「ふ~ん……」

 ……一体誰だろうか?
 即座に、まったく思いつかないことにもまた悲しみを抱きつつ、アルフレッドは応接室に行くことにした。
 コツコツと足音を立てて、長い廊下を歩く。
 執事も、その後に追従した。

「誰が来ているんだい?」

 率直に聞くと、執事は「お嬢さまが三名です」と答えた。

「……お嬢さま?」

 アルフレッドは眉をひそめた。
 男友達が少ないアルフレッドだが、女性の友人はさらに少ない。

「えっと、誰なの?」

 と、尋ねるが、執事が回答する前に応接室に到着した。
 ここまで来ると尋ねるよりも確認した方が早い。
 アルフレッドはコンコンとノックして、「失礼する」と声を掛けた。
 そのまま扉を開いた。
 そして、室内を見て――。

(…………え?)

 思わず目を丸くした。
 そこには、見知った少女が目の前にいたのだ。
 どうやら扉を開けようとしてくれていたようだ。
 彼女も目を瞬かせていた。

 年の頃は、アルフレッドと同い年。
 ピン、と一本だけ飛び出した癖毛が印象的な明るい赤髪。瞳の色も同色だ。
 勝気さが強く前面に出る美しい顔立ちに、抜群のプロポーション。
 その誰をも魅了する肢体の上には、白い上着ブレザー、黒いスカートを履いている。
 アノースログ学園の制服である。

「え? アンジュ?」

 そこいたのは、アンジェリカ=コースウッド。
 アルフレッドの幼馴染だった。

「ア、アルく……ひ、久しぶりね。アルフレッド」

 アンジェリカはそう告げる。

「え? なんでアンジュが?」

 アルフレッドは困惑した。
 彼女が、ハウル邸に訪れるなど何年目のことだろうか?
 アルフレッドの困惑は当然のことだったが……。

「……何よ。私が来たら悪いの?」

 アンジェリカは半眼を見せて、露骨に不機嫌になった。
 アルフレッドの胃が警告を鳴らす。

 ――おい! 張り裂けてしまうぞ、お前!
 キリキリと痛む胃が、必死にそう訴えかけている。

「い、いや、大歓迎だよ。アンジュ……あれ?」

 そこでアルフレッドは気付く。
 応接室のソファ。そこにさらに二人の人物がいることに。
 そういえば、客人は三人だと執事が言っていた。

「……ソルバさん?」

 ソファに座る一人は、知り合いだった。
 温和な微笑みを浮かべる綺麗な女性。年齢はアルフレッドやアンジェリカと同い年のはずだが、女性としては高身長であり、大人びたスタイルと、柔らかな佇まいから少し年上に見える。大腿部辺りまで伸ばした水色のとても長い髪が印象的な女性だ。

 フラン=ソルバ。ソルバ伯爵家の令嬢である。
 彼女もまた、アノースログ学園の制服を着ていた。

「お久しぶりです。ハウルさま」

 フランは立ち上がり、淑やかに挨拶をしてきた。

「ええ。お久しぶりです。ソルバさん」

 アルフレッドも挨拶を返す。
 それから最後の一人に目をやった。
 彼女は知らない女性だった。

(……誰だろ?)

 年齢はアンジェリカたちと同じぐらいか。
 黒い瞳を持ち、サラリとした黒髪で顔の左半分を隠した少女だ。顔立ちはミステリアスな趣を感じるほどに美しい。何というか大人の色気のようなものを感じる。

(……凄く綺麗な子だ)

 素直にそう思う。
 身長はかなり低いのだが、スタイルは見事なモノだった。
 小柄だというのに、アンジェリカ相手でも、そう見劣りはしないレベルだ。
 首元を見ると黒いインナースーツが見えるが、彼女もアノースログ学園の制服を着ているので生徒であることは分かる。

(う~ん、だけど……)

 アルフレッドは内心で眉をひそめた。
 ……はて。こんな目立つ子が学園にいただろうか?

(アンジュの新しい友達なのかな?)

 そう思っていると、

「……お久しぶりなのです。ハウルさま」

「えっ、久しぶり――えええッ!?」

 アルフレッドは目を剥いた。
 今の声に聞き覚えがあったのだ。
 ――いや、雰囲気があまりに変わっていたために気付けなかったが、改めて見れば、彼女の顔にも見覚えがある。

「シ、シキモリさん?」 

 アヤメ=シキモリ。
 アンジェリカの友人の一人だ。
 ただ、アルフレッドの知る彼女は、もっと幼くて……。

「ほ、本当にシキモリさん?」

 思わず、そう尋ねてしまった。
 最後に見た彼女と、あまりにもスタイルが違いすぎるのだ。
 すると、アンジェリカとフランが苦笑を浮かべた。

「驚いたでしょう。けど、間違いなくアヤメ本人よ」

 アンジェリカが肩を竦めてそう告げる。
 アルフレッドは、口をパクパクと動かした。

「いきなり成長したんですよ。この子」

 と、フランも言う。
 要は、急激な成長期――いや、この場合、第二次性徴期だろうか――を迎えたということらしい。それにしても劇的過ぎる変化だが。

「そ、そうなのか。驚いたな。けど……」

 アルフレッドは、アンジェリカに視線を向けた。

「今日はどうしたの? アンジュがうちにやって来るなんて本当に久しぶりだし、学校とか大丈夫なの?」

「学校からは外出の許可は取っているわ。まあ、ここに来る時は確かに躊躇したわね。私もあのお爺さまと出くわすのは嫌だったし……」

 そう告げて、アンジェリカが苦笑を浮かべる。
 あの男尊女卑な偏屈老人がいなければ、もっと頻繁にアルフレッドに会いに来れるのにと内心で思いつつ、

「今日はね。どうしてもアルフレッドに頼みたいことがあったの」

「僕に頼みたいこと?」

 アルフレッドは眉をひそめた。

「……どうしたの? 何か困ったことが起きたの?」

 アンジェリカの両肩を強く掴んだ。

(うわっ、うわっ、うわああ……)

 アルフレッドは本気で心配してくれている。
 それをはっきりと感じて、アンジェリカは幸せ一杯の気持ちになった。

(大丈夫だよ。アル君。心配しないで)

 そう言って、ぎゅううっと抱き着きたくなる。
 全身で彼の腕の中に飛び込むのだ。
 偉大なる我が師マイマスターも仰っていた。おっぱいを活用せよと。
 しかし、それが出来ないのが、アンジェリカだった。

「私に困り事なんてある訳ないじゃない」

 実に不愉快そうに、アルフレッドの腕を払う。
 アルフレッドは「あ、うん……」と委縮していた。

(ごめええん! アル君、ごめえええんっ!)

 内心では泣き出しそうなぐらい謝罪しつつ、

「まあ、座りなさいよ」

 言って、ソファに腰を降ろした。
 まるでこの館が自分の家のような態度だ。
 これが、アンジェリカの平常運転なのである。
 親友であり、アンジェリカの本当の気持ちも知るフランが、深々と嘆息した。
 一方、アルフレッドは「う、うん」と頷いて、ソファに座った。

「それで、何があったの?」

 アルフレッドが本題を尋ねる。と、

「それは……」

「うん……」

 アンジェリカとフランは互いの顔を見合わせた。
 それから、二人揃ってアヤメへと視線を移す。
 アルフレッドも彼女の方に目をやった。
 劇的なまでに美しくなった少女は、アルフレッドの目を合わせた。
 そして、彼女は唇を動かした。

「不躾ながら、お願いがあるのです。ハウルさま」

「お願い? シキモリさんが僕に?」

 アルフレッドは困惑した。
 彼女とはそこまで接点はない。
 そんな彼女が自分にお願いとは……。
 すると、アヤメは、

「はい。ハウルさまは、と友人であると聞いているのです。だから」

 真っ直ぐな眼差しを向けて、こう告げるのだった。

「どうか、私にコウタ君と会う機会を設けてもらえないでしょうか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

暁天一縷 To keep calling your name.

真道 乃ベイ
ファンタジー
   命日の夏に、私たちは出会った。  妖魔・怨霊の大災害「災禍」を引き起す日本国。  政府は霊力を生業とする者を集め陰陽寮を設立するが、事態は混沌を極め大戦の時代を迎える。  災禍に傷付き、息絶える者は止まない絶望の最中。  ひとりの陰陽師が、永きに渡る大戦を終結させた。  名を、斉天大聖。  非業の死を成し遂げた聖人として扱われ、日本国は復興の兆しを歩んでいく。  それから、12年の歳月が過ぎ。  人々の平和と妖魔たちの非日常。  互いの世界が干渉しないよう、境界に線を入れる青年がいた。  職業、結界整備師。  名は、桜下。    過去の聖人に関心を持てず、今日も仕事をこなす多忙な日々を送る。  そんな、とある猛暑の日。  斉天大聖の命日である斉天祭で、彼らは巡り会う。  青い目の検非違使と、緋色の髪の舞師。  そして黒瑪瑙の陰陽師。  彼らの運命が交差し、明けない夜空に一縷の光を灯す。 ※毎月16日更新中

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

処理中です...