悪竜の騎士とゴーレム姫【第12部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第12部

第八章 御子の使命⑥

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 夜深く、謁見後。
 コウタは一人、焔魔堂の里の中を進んでいた。
 向かう先はムラサメ邸である。
 長老たちには護衛をつけさせて欲しいと言われたが、それは断った。
 少し一人で歩きたかったのだ。

「結局、何も改善しなかったよ……」

 和式の街並みを歩きつつ、コウタは深々と嘆息した。
 この里は、街規模の場所だ。
 そのため、一定間隔で提灯と呼ばれる街灯が設置されており、夜遅くとも、街並みはそこまで暗くはない。
 ただ、人の姿はほとんど見かけなかった。

「この時間帯だと、アイリはもう寝ているかな?」

 そう呟く。
 今日の内容は、明日伝えよう。
 アイリには、きっと呆れられるかもしれないが。

(それにしても『御方おんかたさま』か……)

 わざわざ自分を指名してくれた謎の存在。
 このステラクラウンには、人外の存在がいる。
 その中は、異界からの来訪者もいると聞いている。
 そのことは、コウタは疑っていない。
 リノの話だと《九妖星》の中には、そういった者もいるそうだからだ。
 しかし、信じてはいても、どうして見知らぬ人外に、いきなり名指しされるようなことになってしまったのか……。

(いや。もしかしてどこかで会ってるのか?)

 コウタは眉をひそめた。
 少なくとも『御方おんかたさま』はコウタのことを知っているのだ。
 だったら、実は面識があってもおかしくはない。

(別に人外だからって、人の姿をしていない訳でもないだろうし)

 いずれにせよ、今の事態を打開するのは、『御方おんかたさま』に会うしかない。
 コウタは嘆息しつつ、歩き続ける。
 そうして、十数分後、ムラサメ邸に到着した。

「お帰りなさいませ。御子さま」

 そう言って、出迎えてくれたのはフウカだった。
 その傍らには、サザンXの姿があった。

「アイリとアヤちゃんは?」

 コウタがそう尋ねると、

「……フクチョウハ、モウネテル。アヤメハ……」

 サザンXは、フウカの方に目をやった。
 フウカは、コウタに頭を上げる。

「申し訳ありません。御子さま」

 そう切り出して、

「アヤメにはいささか覚悟……コホン。準備がございましてお迎えに上がれませんでした。何卒ご容赦を――いえ」

 そこで、ふと意地悪そうな笑みを見せた。

「御子さまのお心のままに、お叱りくださいませ」

「え? いえ。別に怒るようなことじゃあ?」

 キョトンとするコウタ。

「ふふ。そうですね。お叱りするのも、はたまた甘やかすのも、そこは御子さまのご意志にお任せいたします」

 フウカは、口元を片手で抑えて、意味深な笑みを零した。

「……コウタ」

 その時、サザンⅩがコウタの裾を引っ張った。

「……カイダンハ、ウマクイッタノカ?」

「……う」

 コウタは声を詰まらせる。
 それだけで、サザンⅩは察した。

「……ソウカ」

「うう。ま、まあ、詳細は、明日、アイリが起きてから話すよ」

 コウタは深々と溜息をついて、肩を落とした。

「お疲れのようですね」

 フウカが言う。

「浴場をご用意しております。今日はお休みください」

「あ、はい。ありがとうございます」

 コウタは、フウカに頭を下げた。
 それから浴場に向かい、疲れを癒してから自室に戻った。
 部屋の灯は消されているが、襖から差し込む月明かりだけで結構明るい。室内を確認するのに特に問題はなかった。
 広い和室には、一枚だけ布団が敷かれていた。
 アイリの姿はない。彼女は別の客室で寝ていた。
 サザンⅩも、コウタの願いもあって、アイリを守るために、彼女の部屋の方で待機している。この部屋にいるのはコウタだけだった。

「今日は本当に疲れたな」

 言って、コウタは布団の中に入った。
 色々と考えるべきことはある。
 けれど、今はゆっくりと休みたかった。
 コウタは、すぐに寝息を立てた。
 しばらくは静寂が続く。
 そうして、

(……ん?)

 コウタは、おもむろに瞳を開けた。
 不意に人の気配を感じたのだ。
 どれほど疲れていても、今は油断できない時だ。
 コウタは、すぐに意識を覚醒させた。
 次いで、襖の方に目をやった。
 そこには、襖越しに人影が見えた。
 小柄な女性らしき影だ。

「……アヤちゃん?」

 コウタは、その人影が誰なのかすぐに分かった。

『……コウタ君』

 襖の向こうから、想像通りの声が返ってくる。

『お休みだったのです?』

「あ、うん。けど、今起きたから」

 コウタは上半身を上げて答える。

『少し入ってもいいのです?』

「うん。いいよ」

 コウタは、ニコッと笑ってそう告げた。
 それから十数秒間、何故か沈黙があった。
 が、ややあって、

『し、失礼、するのです……』

 どこか緊張した声と共に、襖が開かれた。
 月明かりを背に廊下に立つアヤメは、白装束の和装だった。

 ――穢れなき、純白の乙女。
 そう呼ぶに相応しき姿で、アヤメは現れた。

 コウタは、数瞬ほど彼女の艶姿に見惚れていたが、

「……あ」

 不意に、ハッとする。

「ア、アヤちゃん。ど、どうかしたの?」

 少しどもりながらも、彼女に尋ねる。
 すると、アヤメは胸元に片手を当てて、大きく息を吐き出した。
 次いでゆっくりと入室してくる。
 彼女の表情は、真剣そのものだった。
 これは、只事ではない。
 そう感じ取ったコウタは慌てて布団から飛びだした。
 布団を整えて、その上に正座をする。
 一方、アヤメもコウタの前まで来ると、その場にて正座した。
 二人は見つめ合った。

「ど、どうしたの? アヤちゃん。心配事?」

「…………」

 コウタがそう尋ねるが、アヤメは無言だ。
 ふと気付く。
 アヤメの細い肩が、少しだけ震えていることに。
 コウタは、ますます心配そうに眉をひそめた。
 互いに正座して沈黙が続いた。
 が、それも終わりが来た。
 ようやく、アヤメが、わずかに紅を引いた唇を動かしたのだ。

 そうして――。

「……夜伽に参りました」

 アヤメは、告げるのであった。

「どうか、今宵、アヤメを可愛がってくださいのです」
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