嘘つきは私かもしれない

koyumi

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第2話

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「い、いいなずけ?け、結婚?今すぐ?1秒でも早く?」

 恐々としながら外に出て、実家にたどり着いた私は、両親から信じられない言葉をかけられた。

「もう随分前に約束していたんだ。詩豆と慶大けいだい君は7歳の時から許嫁の契りを交わした仲なんだよ。それで今、切羽詰まった只ならぬ事態になってしまい、急遽結婚を成立させることになった。入籍日は今日。あとは詩豆がサインするだけだ。」

「はぁ?なんのことだかサッパリなんだけど。今日?今日私は結婚するの?しかも見たことも聞いたこともない男と!?」

「すまない。どうしようもないんだ。もう、これしか手がない。先方は既に了承済みだ。今入籍しなければ、詩豆も母さんも闇の世界に強制連行されてしまうんだ。」

「闇の世界?な、なんで?何なの?全然っわからない!!」

 父親もパニックだったのだろう。
 きちんと理由の説明もないまま、ただただ入籍しろと言われ、私は反感しか持てずにいた。
 だがそこで、唯一冷静な弟が理由を説明してくれて、私はペンを動かした。

《妻になる人  名波詩豆》

と。


 うちの両親は昔から人が良い。
 ニコニコニコニコ笑っていて、家族が明るくて平和なのは幸せだった。
 だけど、その分騙されやすくもあり、度々父親は他人の尻拭いをしていた。
 そして今回もまた友人の保証人とやらになった父親は、数千万の借金を背負うことになってしまったのだ。
 その友人とやらは夜逃げしてしまい、居場所が不明となっていた。その為、しびれを切らした金融業の怖ヅラの方々が、ここ数日実家を荒らしにきていたらしい。
 私は社会人7年目を迎えた良い年齢で、3年前から一人暮らしを始めていた為、実家の緊急事態を知らなかった。
 そして、ついに私の居場所を掴んだ怖ヅラの方々が、私と母親を借金のかたとしてネオン街に引き入れる為に動き出したという経緯だ。

「まあ、もっと若けりゃ大金になると言っていたが。」

「いや、余計な情報でしょ?それいる?」

 とにかく『その借金を肩代わりするので結婚してほしい』と、許嫁の親が手を差し伸べてくれて、それに応える結果となったわけだ。

「……なんか……変よね……」

「……まあ、勘ぐるな。とにかくお前も良い年だ。本当は25歳で嫁にやりたかったが、先方の都合で29歳になってしまった。経緯は複雑極まりないが、約束は果たせたし、これで家を荒らされずに済む。」

 25歳で……?

 一体何のつもりなんだ?この親は。

 ああ、だからか、だから25の時に、『あと一年待って何もなければ家を出てもいい』と言っていたのか……!

 一人暮らしを願望していた私に、両親はなかなか首を縦に振らなかった。それは、25歳で嫁がせる気満々だったからだ。

「でも、もし私が他の人と結婚したいって言ったらどうしてたのよ?」

「大丈夫だ。その心配は皆無だから。」

「……なんて親だ……」

 事実、私は付き合いを長く続けられない女だった。
 最高でも3ヶ月。
 1ヶ月経つと、大概の男性が逃げていく。だから私はもう結婚など諦めてさえいた。


 本音は嫌だ。
 見たこともない男と結婚するなど、身売りをするようなもんじゃないか?
 しかも数千万の借金を肩代わりしてくれるなど、怪しいにも程がある。

 ああ、もしかしたら相手は既にお爺ちゃんとか??
 それともヲタヲタの二次元ワールドの住人とか??
 もしくはバツが何個もついていて前科もバッチリあるような輩とか??

 借金の事情を聞いた時は、母親が傷つけられるなら……と、身を切るような思いで婚姻届に焦ってサインしたけれど、少し冷静になると、とんでもない未来が待っているような気がしてきた。

 ブルブルッ

 わかりやすく身震いしたが、

「ああ、お相手の慶大君は29歳で初婚だし、エリートでイケメンだぞ。詩豆も運がいいな。彼みたいな人間と夫婦になれるなんて。」

 ふ、夫婦!?

 やだやだ、めちゃくちゃイヤらしい響きだ。
 エリートでイケメンなんて、今までできるだけ避けてきた分野だし。
 そんな人と並んだら、私のブサイクさが引き立ってしまう。

「イケメンと美女でお似合いだぞ?結婚式、楽しみだなぁ。」
「そおねぇ。詩豆は日本人形みたいだから着物がいいわねぇ。大振袖でお淑やかに。」

 いやいや、馬子にも衣装的な発想でしょ?それって。

「はぁーーー」

 朝起きてから緊張しっぱなしだった私は、両親の楽観的価値観に肩の力がガクッと抜け、テーブルに突っ伏した。

 ちなみに婚姻届は先ほど先方の執事さんとやらがやって来て役所に持って行ったらしい。本人、行かなくていいのかなって思ったら
「坊っちゃまが行かれますから大丈夫です。」
と言われてしまった。

 なんだ、慶大君とやらは意外と好意的に思ってくれているんじゃないか。

 そう思うと、案外うまく行くような気もしてきた。

 だがそれは、ただの”気”だった。
 そう、ただの空気のような気だ。
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