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第4話
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念じていても車は動く。
「さあ、着きましたよ。」
そう言われ、外を見たが、家らしい建物など見当たらない。なんというか、”森”だ。
『あー、こちら陣内、ゲート通過します。』
目を凝らして我が家を探していると、運転手さんがいきなりトランシーバーのようなもので誰かに向けて喋った。
「わっ、びっくりしたっ!」
その声が、先ほどまで私に話しかけていた声色と全く違っていたので、ギョッとしてしまった。
「申し訳ありません、若奥様。先程の場所は敷地の境界線にあたりまして、ここを通過する際は必ず本部に連絡することになっております。いささか面倒ですが、これもまた皆様の安全のためでございます。」
「はぁ……なる、ほど……。ちょっとびっくりしただけです。そうですね、なんだか広そうですもんね。こちらは……」
敷地内に入ってから、何メートルか走ったのに、まだ建物が見えていない。
うちの実家が何個入るのだろう。
「さあ、見えてまいりました。あちらが本館でございます。若奥様の御住居となる別館は、本館の裏手にございますが、日当たりはすこぶるいいですよ。」
本館……、別館……、デパートかっ!
「本館は旦那様と奥様、そしてご夫婦のお部屋、坊っちゃまのお部屋がございます。別館は坊っちゃまご夫婦、若奥様のお部屋がございます。」
「えっ?でしたら坊っちゃまはどちらで暮らしているのですか?」
”でしたら坊っちゃまは”なんて……運転手さんの口調がうつってきている。
「それは別館で、というのが下々の願いでございますが、まあ、それは御気分次第というところでしょうか。
さあ、車を止めますよ。長旅お疲れ様でございます。」
気分次第……どんな気分なんだろう。
車が止まったので、後部座席のドアに手をかけると、
「お待ちください!それだけはご勘弁を!下々の仕事でございますので!」
と、運転手さんに強く訴えられ、私はまた驚いてサッと手を引いた。
そして数秒もしないうちに、外側からドアが開かれ、
「お足元にお気をつけくださいませ、若奥様。」
と、声をかけられた。
「すみません、ありがとうございます……」
と、恐る恐る足を出し、嫁ぎ先の敷地内に踏み入れた。
そして無事、両足をつけて立ち上がったその視界に見えた光景に、私は一歩後退した。
白亜の豪邸……まさにそれだ。
宮殿のような円柱でできた柱が何本も見える。格子窓で構成され、確かに日当たりは抜群だが、深い軒のおかげで室内は快適そうだ。ざっと見るだけでも、6部屋くらいはありそうだ。
そして入り口に、およそ20人程の制服を着た男女が、私に貼り付けたような笑顔を向けている。
そして、一番年上と思われる初老の男性が、
「初めまして若奥様。我々は、この屋敷に仕える従者でございます。御用、御心配などございましたら、何なりとお申し付けくださいませ。」
と、言うと、
「何なりとお申し付けくださいませ!!」
と、その他の皆さんが一斉に口を開いた。シュプレヒコールみたいだ。
「あ、ありがとうございます。あの、えーと、名波……いや、もう違うな、えーと……」
あ、やばい。
私、夫の苗字を知らない。婚姻届には書いてあったが、そこを見る余裕がなくて、チェックしていなかった。
「遠藤でございます……」
あ、すみません、運転手さん……
「遠藤詩豆と申します。これから末長く、よろしくお願い致します。」
ああ、足が震えてきた。
「さあ、着きましたよ。」
そう言われ、外を見たが、家らしい建物など見当たらない。なんというか、”森”だ。
『あー、こちら陣内、ゲート通過します。』
目を凝らして我が家を探していると、運転手さんがいきなりトランシーバーのようなもので誰かに向けて喋った。
「わっ、びっくりしたっ!」
その声が、先ほどまで私に話しかけていた声色と全く違っていたので、ギョッとしてしまった。
「申し訳ありません、若奥様。先程の場所は敷地の境界線にあたりまして、ここを通過する際は必ず本部に連絡することになっております。いささか面倒ですが、これもまた皆様の安全のためでございます。」
「はぁ……なる、ほど……。ちょっとびっくりしただけです。そうですね、なんだか広そうですもんね。こちらは……」
敷地内に入ってから、何メートルか走ったのに、まだ建物が見えていない。
うちの実家が何個入るのだろう。
「さあ、見えてまいりました。あちらが本館でございます。若奥様の御住居となる別館は、本館の裏手にございますが、日当たりはすこぶるいいですよ。」
本館……、別館……、デパートかっ!
「本館は旦那様と奥様、そしてご夫婦のお部屋、坊っちゃまのお部屋がございます。別館は坊っちゃまご夫婦、若奥様のお部屋がございます。」
「えっ?でしたら坊っちゃまはどちらで暮らしているのですか?」
”でしたら坊っちゃまは”なんて……運転手さんの口調がうつってきている。
「それは別館で、というのが下々の願いでございますが、まあ、それは御気分次第というところでしょうか。
さあ、車を止めますよ。長旅お疲れ様でございます。」
気分次第……どんな気分なんだろう。
車が止まったので、後部座席のドアに手をかけると、
「お待ちください!それだけはご勘弁を!下々の仕事でございますので!」
と、運転手さんに強く訴えられ、私はまた驚いてサッと手を引いた。
そして数秒もしないうちに、外側からドアが開かれ、
「お足元にお気をつけくださいませ、若奥様。」
と、声をかけられた。
「すみません、ありがとうございます……」
と、恐る恐る足を出し、嫁ぎ先の敷地内に踏み入れた。
そして無事、両足をつけて立ち上がったその視界に見えた光景に、私は一歩後退した。
白亜の豪邸……まさにそれだ。
宮殿のような円柱でできた柱が何本も見える。格子窓で構成され、確かに日当たりは抜群だが、深い軒のおかげで室内は快適そうだ。ざっと見るだけでも、6部屋くらいはありそうだ。
そして入り口に、およそ20人程の制服を着た男女が、私に貼り付けたような笑顔を向けている。
そして、一番年上と思われる初老の男性が、
「初めまして若奥様。我々は、この屋敷に仕える従者でございます。御用、御心配などございましたら、何なりとお申し付けくださいませ。」
と、言うと、
「何なりとお申し付けくださいませ!!」
と、その他の皆さんが一斉に口を開いた。シュプレヒコールみたいだ。
「あ、ありがとうございます。あの、えーと、名波……いや、もう違うな、えーと……」
あ、やばい。
私、夫の苗字を知らない。婚姻届には書いてあったが、そこを見る余裕がなくて、チェックしていなかった。
「遠藤でございます……」
あ、すみません、運転手さん……
「遠藤詩豆と申します。これから末長く、よろしくお願い致します。」
ああ、足が震えてきた。
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